番外編 第2話「黒鋼将軍の、忘れられない贈り物」
北壁の砦を救った戦いから一年。
帝都にある将軍府に、一人の男が訪れていた。
黒鋼将軍だ。
彼はかつて、玲玉の力を疑い、無礼な言葉を投げかけたことを今でも深く悔いていた。
「……将軍、お加減はいかがですか」
皇后宮の庭園で、玲玉は黒鋼を温かく迎えた。
黒鋼は鎧を脱ぎ、礼服に身を包んでいたが、その立ち姿からは戦人特有の鋭さが消え、どこか穏やかな雰囲気が漂っていた。
「皇后陛下におかれましては、お変わりなく。……本日は、北の民たちから預かった品を届けに参りました」
黒鋼が差し出したのは、荒野に自生する珍しい薬草で作られた、素朴な匂い袋だった。
「あ……、これは。懐かしい香りがしますね」
玲玉がそれを受け取ると、黒鋼は照れくさそうに頭をかいた。
「砦の兵たちも、今ではあなたのことを救世主と仰いでおります。あの日の光がなければ、我らは今頃、雪の下で朽ち果てていたでしょう」
黒鋼は、自分の無骨な手が、玲玉の放つ清らかな気に触れて洗われていくのを感じていた。
「私はただ、自分にできることをしただけです。……でも、皆さんがこうして元気に過ごしていることが、何よりの贈り物ですよ」
玲玉の言葉には、一片の嘘もなかった。
そこへ、龍帝が不機嫌そうな顔をして現れた。
「黒鋼、随分と長居をしているようだな」
「へ、陛下! 失礼いたしました! 」
黒鋼は慌てて姿勢を正した。
龍帝は玲玉の隣に立ち、その肩を抱き寄せた。
「玲玉に贈り物をしたいのなら、朕を通せと言ったはずだ」
「陛下、そんなに怒らないでください。黒鋼将軍は、わざわざ遠くから来てくださったのですから」
玲玉がなだめるように龍帝の腕を撫でると、龍帝は不承不承といった様子でため息をついた。
「……まあいい。黒鋼、今夜の宴にはお前も出席せよ。お前の守る北壁の安定は、帝国の礎だ」
「はっ! ありがたき幸せにございます! 」
黒鋼は龍帝の深い信頼を感じ取り、再び深く頭を下げた。
玲玉は、龍帝と黒鋼の間に流れる、男同士の奇妙な友情のような絆を見て、密かに微笑んだ。
かつては「力」だけで繋がっていた主従が、今は「信頼」と「守るべきもの」によって結ばれている。
それもまた、玲玉がこの国にもたらした、静かな変革の一つだった。
夕暮れ時、庭園には笑い声が響き、帝国の未来を明るく照らしていた。




