第12話「蝕まれた村の叫び」
聖山の麓にある小さな村、青水村に辿り着いたとき、一行を待ち受けていたのは、重苦しい静寂だった。
かつては豊かな湧き水と美しい緑で知られた村だったが、今や池は泥のように濁り、家々の窓は固く閉ざされている。
道端に生えている草はしおれ、不吉な黒い斑点が浮かび上がっていた。
龍帝が輿から降りると、村の長らしき老人が、やっとのことで足を引きずりながら現れ、その場にひざまずいた。
「皇帝陛下、よくぞ……よくぞお越しくださいました。この村はもう、長くはもちませぬ……」
老人の顔は土色に変色し、目には生気がなかった。
玲玉は龍帝の隣に並び、その光景に胸を痛めた。
自分が地下室で孤独に耐えていたとき、外の世界ではこのような苦しみがあったのだ。
「何があった。詳しい話をせよ」
龍帝の重厚な声が響く。
老人の話によれば、一月ほど前から山の奥で奇妙な地鳴りが響き始め、それと同時に水源が濁り出したと言う。
水を飲んだ者は次々と高熱にうなされ、体中に黒い紋様が浮かび上がって命を落とす。
今では村の半分以上の者が伏せっている状態だった。
玲玉はたまらず、老人のもとへ駆け寄った。
「白様、危ない! 下がっておれ! 」
侍従たちが制止するが、玲玉はそれを無視して、老人の枯れ枝のような手を両手で包み込んだ。
「大丈夫ですよ。今、楽にしてあげますから」
玲玉が目を閉じ、深く呼吸を整える。
すると、彼の掌から淡い真珠色の光が溢れ出し、老人の体を優しく包み込んだ。
「……あ、ああ……」
老人の漏らした声は、驚きに満ちていた。
体の中に溜まっていたどろどろとした熱が、玲玉の温もりによって外へと押し出されていく。
顔に浮き出ていた不気味な黒い紋様が、光に焼かれるようにして消えていった。
「なんと……。痛みが、消えた。呼吸が楽に……! 」
老人はとめどなく涙をこぼし、震える体で玲玉に向かって何度も深く頭を下げた。
その奇跡のような光景を見ていた村人たちが、おそるおそる、一人、また一人と家の中から顔を出し始めた。
彼らの瞳には、絶望ではなく、かすかな希望の光が宿っていた。
玲玉は立ち上がり、背後に立つ龍帝を見た。
「陛下。山へ行きましょう。元を断たなければ、この村の人たちは救えません」
龍帝は、無茶をした玲玉に嫌な顔をするどころか、その凛とした横顔に、改めて惚れ直したような表情を見せた。
「分かった。だが、決して朕の側を離れるな。……これ以上、お前の気を消耗させるわけにはいかぬ」
龍帝は玲玉の腰を引き寄せ、守るように抱いた。
◆ ◆ ◆
一行は山道へと入っていった。
標高が上がるにつれ、空気の重圧は増していく。
まるで山全体が、外敵を拒んでいるかのように、禍々しいオーラを放っている。
玲玉は足元の石に躓きそうになったが、龍帝が即座にその腕を支えた。
「無理をするな。朕の背に乗るか? 」
「いいえ、自分の足で歩きたいのです。この土地の痛みを感じなければ、本当の浄化はできないと思うから」
玲玉の言葉は力強かった。
自分を無価値だと思い込んでいた少年は、もうどこにもいなかった。
◆ ◆ ◆
山の深奥へ進むと、そこには異様な光景が広がっていた。
本来であれば清らかな水が湧き出すはずの泉が、どす黒い沼のようになり、そこから不気味な、虫けらのような形をした影がいくつも這い出していたのだ。
「……あれが、瘴気の正体か」
龍帝が腰の剣を抜いた。
彼の放つ金の魔力が、周囲の木々を激しく揺らす。
「玲玉、朕が道を切り開く。お前は泉の中心を、その光で射抜け! 」
「はい! 」
二人の力が、初めて一つの目的のために重なり合おうとしていた。




