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守護狐の千年物語  作者: オリオン
第4章、あやかしの国で
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恐怖

完全に心をへし折られた柳は床にへたり込み

何を思ったのか、自分が濡らした床を掃除する。

2人に言われた訳でも無く、自主的に。

その姿を見た栗牧は完全に柳を見下した目で見る。

錫音は少しだけ憐れみの目を見せる。


「あっと、それは私が後でするから…」

「いえ、私がやります、私が悪いんです。

 カスである私が悪いんです」

「錫音お姉様は甘いですねぇ、

 このままやらせればいいんですよ。

 自分でしたのですからね?」

「原因は栗牧じゃないかな?」

「原因はこいつですよ、栗牧の逆鱗に触れた。

 当然の報いですよ。

 多分ですが、例え相手がなんであれ

 栗牧はあの言葉を聞けば、

 それを言った相手に挑みます。

 例え勝てないとしても、絶対に」


妖狐達は異質な程に仲が良い。

特に錫音と他の姉妹たちの関係はかなり特殊だ。

全ての妖狐達は錫音が侮辱されれば本気で怒る。

全ての妖狐達は錫音を本気で尊敬していた。


「栗牧は錫音お姉様を本気で尊敬してます。

 本能に抗い続けるその精神力を本気で。

 栗牧には絶対に出来ません。

 ご馳走を眼前にして飢餓の苦しみに抗い続ける等

 栗牧達は絶対に出来ないと断言出来ます。

 それだけでなく、霊力と言う足枷に繋がれても

 努力のみで人々を守る為に強くなり

 妖狐で1番強くなった、その姿を見て来たのですから」


だからこそ、妖狐達は理解出来ていた。

もし、自分達が約束を違えば、錫音と決別すると。

最愛の家族に嫌われたくないから我慢した。


「そ、掃除、お、終わりました」

「早いですねぇ、しっかりと見ましたか?」

「は、はい!」

「なら、ここは? 濡れてませんかねぇ?」

「す、すみませんすみません!

 すぐに掃除します!」

「栗牧、もう良いって」

「栗牧は汚れを指摘しただけですよ?」


やはり、あまりに怯えながら掃除をする姿を見ると

錫音は守護欲が働いてしまう。

とは言え、相手は人間達を苦しめた悪鬼。

当然の報いと言えばそうだとは感じる。


「錫音お姉様は甘々なんですから

 相手は悪鬼ですよ? 栗牧達とは違って

 明確に人を殺していた悪鬼ですよ?」

「そうだけど……」

「こ、今度こそ掃除が終わりました」


再び掃除を終わらせ、柳が正座で錫音達の方に向く。

冷や汗を流しながら、彼女は床を見ていた。


「それじゃあ、質問するんだけど」

「はい、答えます、何でも答えます」

「なら、あなたはどうやって妖力を隠してたの?」

「は、はい、私は定期的に記憶が無くなって

 その間は肌の色が人間と同じになるんです。

 その間は妖力がかなり抑えられて

 殆ど人間と同じになります、はい」

「記憶を失うと、それは何故?」

「わ、分かりません」

「どうなったら記憶が無くなるの?」

「お、お腹が一杯になったらです」

「今、記憶がある理由は?」

「河童に戻ったら全部の記憶が戻るからです、はい」

「証拠は流石に無いよね?」

「すみません、無いです、でも本当です!」


妖怪の記憶が無くなる事例など聞いたことが無かった。

対話が出来る河童にも遭遇した報告も無かった。

今回の柳が初の遭遇である。


「なら、あなたの他に対話が出来る河童は?」

「その様な河童は大体人間に味方してるので

 その、発見次第排除してました」

「だから遭遇報告が無かった訳だね。

 なら、何故あなた達はそれが分かるの?」

「感覚です、対話出来る河童は知能が高いからか

 他の河童より妖力が多くて、鮮明に分かります」

「河童には河童同士探知する力があると」

「はい、鮮明では無く薄っすらとですが」

「それは何故?」

「わ、分かりません、えっと、予想ですけど

 同じ種族の妖怪だから、妖力の性質が近いとか

 妖力や霊力を固める時に妖力を変質させると言う

 変わった使い方をするからとかかと思います」

「よくは分かって無いと、だけど感じる訳だね

 河童達があなたに集まる理由は?」

「ほ、本能かなと、河童は集団行動が好きなので

 私の気配が分かりやすくなってくるから

 集まって来るのかなって、私が起きてる間は

 あいつら、勝手に集まってくるので」


柳は長としての自覚はあまり無い。

一応は長だが、周りを纏め上げるつもりは無かった。

ただ好きな様に動き、好きな様に人間を襲い

いつの間にか記憶を失う。

だが、それは彼女だけではなかった。

殆どの悪鬼がそうである。

組織を纏め上げるつもりの長など殆ど居ない。

全員が好きに行動し、周りが勝手に集まるだけだ。

人間に食料以上の興味を持つ悪鬼だけが

まともな組織を築き上げている。


「組織の長である自覚はあまり無いと?」

「はい、勝手に集まるだけです」

「……なら、長として河童を抑えられる自信は?」

「へ?」

「河童が人間を襲うのを抑えられる?」

「えっと」

「せめて、殺すなと教育できる?」

「む、無理だと思います、だってそれって

 ご飯を食べるなって事ですよね?

 そんなの、死んじゃう」

「なら殺しちゃいましょう、錫音お姉様」


柳の言葉を聞いて栗牧は元気よく錫音に意見する。

同時に柳は冷や汗を流した。


「やります! や、やりますから!」


出来ないと考えていても、

生き残りが掛かってるならと柳は答えた。

錫音は両手を組んで悩み出す。


「本当に出来るの?」

「や、やります! そ、その、せ、せめてその

 こ、殺すなって! 殺すなって教えます!」

「出来るんですか? あなた如きに。

 栗牧達はご馳走を前にお預けの辛さが分かります。

 滅茶苦茶辛いですよ? 出来るんですかぁ?」

「やります! 出来ない奴は殺します!

 私の言う事を聞かずに人間を殺す河童は

 全て殺します! だから!」

「仲間は殺しても、自分は死にたくないと?」

「し、死にたくない、死にたくないです!」

「情けないですねぇ」

「栗牧、まだかなり怒ってるね」

「勿論ですよ、錫音お姉様に免じて生かしてますが

 本当なら今すぐに始末したいんですから」

「お願いします、やりますから!

 河童達を教育しますから!

 だから、殺さないで!」

「……わかった、なら、河童を押さえて。

 もし出来なかったら」

「やります! やります!」

「なら、霧華きりか

「はい」


その言葉の後、白い和装の女性が部屋に入って来た。

腰まで伸びる真っ白い髪の毛、真っ白い瞳。

彼女はその見た目通り、雪女である。


「私は宝龍達に彼女をどうする事にしたか伝えに行くから、それまで見張りをお願いね」

「分かりました、錫音さん」

「ごめんね、春先でしんどいのに」

「大丈夫です、アキエちゃんも居ませんし

 霊力が少しでもあったら危ないですしね」

「だね、それじゃあお願いね」

「はい」


彼女に柳の見張りを代わってもらい

錫音達は宝龍達の元へ向かった。

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