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守護狐の千年物語  作者: オリオン
第4章、あやかしの国で
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妖狐達の逆鱗

陰陽師達が合同訓練をしている間

錫音はあやかしの国で拘束した柳の前に居た。

拘束と言っても雁字搦めに拘束してるのではなく

妖力を抑える特性の札を貼られて居るだけだ。


「力が入らない……」

「特性の札だからね、ちょっと妖力がある程度なら

 力は入らないし、自力で札を取ることも出来ない」

「触っても良い?」

「良いけど、どうして隠れて触らなかったの?」

「脱走の意志があるって思われたら殺されるかなって」

「なら、何故触ろうとするの?」

「興味があるから、あなたの前で触るなら

 脱走の意志がない事を証明しながら興味も満たせるし」

「好奇心かぁ、かなり痛い思いするけど

 興味があるならどうぞ」


錫音から許可を貰い、小さく息を呑んだ後に

柳は自分に貼られて居る札に手を伸ばす。


「ひぎぁ!」


剥がそうとすると同時に心臓を握り潰されそうな痛みが走り、本能的に札から手を離した。

息を荒くしながら胸を押さえて痛みに震える。

同時に自身の手に視線が向いた事で

触れていた手が軽く焦げているのに気付いた。


「この札はね、正しい方法で剥がさなければ

 対象に霊力を流し込んで激痛を与えるの。

 宝龍曰く封印術に近い札だよ。

 かなり貴重でね、封印術はかなり衰退してるから

 その力が宿った札は貴重なんだよ」

「は、剥がそうとしなかったら?」

「発動はしない、でも、私か崎神族の霊力以外に触れた場合、即座に発動する。

 そうなれば、悪鬼を容赦無く消滅させる。

 私達が合図を送っても同じだけどね?

 更に力の弱い式神にすら、今のあなたは殺される

 あなたが見下していた人間にも

 あなたは触られただけで殺される。

 今のあなたは人間以下なんだよ。

 いや、触られただけで死ぬんだし、虫以下かな?」


その言葉を聞いて、柳は全身から冷や汗を流す。

要は自身は今、人間以下の雑魚同然だと言う事で

更にあやかし達に命を握られてる。

彼女達が自身を殺そうとすれば即座に殺される。

このちっぽけな人間にすら殺されてしまう。

人間を見下していた彼女には屈辱的な状態だろう。


「さて、これであなたの拘束は完全だと分かった?

 あなたはこの札を自力では剥がせない。

 たとえ皮膚を裂こうとも意味はない。

 既に試した悪鬼は居たけど、その子は消滅した。

 警告したんだけどね

 拘束してる間に試して死んじゃったんだ。

 まぁ、自業自得だね、警告を無視したんだから」

「……う、噂じゃ、お狐様は優しいって」

「人間の子供達を殺す悪鬼に優しくはしたくない。

 でも、あなたには比較的優しい対応だよ。

 あなたのやった事に対してかなり優しめにしてる。

 本来なら、あなたは既に死んでる。

 一撃耐えた程度で命を助けた事はあまり無いよ。

 あの時は大軒姉様への怒りが強かったしね」


錫音の優しい声色の中に確かな怒りを感じた。

これにより、彼女の言葉が本気なのも分かる。

言葉が出なかった。実力差が明確な格上が

優しい声色と怒りの感情を織り交ぜ

明確な殺気を放っているのだ。

柳の目から自然と涙があふれてきた。

彼女が中途半端に強くなければこんな恐怖は抱かなかっただろう。

殺気に気付けない弱い悪鬼ならば怯えなかった。


「それに、あなたには色々と聞きたいことがある。

 それを聞くために今はあなたを生かしている」

「喋ります! し、知ってる事は全部!

 だから、殺さないで!」


長としての面目など、彼女は考えずに

ひたすらに涙を流し、必死に命乞いをする。

そんな、情けない姿を前に錫音は溜息を漏らした。


「意地とか無いの?」

「そんなのどうでも良い! 私は死にたくない!」

「あなたが殺そうとした総一郎君は

 死を覚悟しても、命乞いをしなかった。

 鈴亭の話では、誇りを捨ててでも

 清美ちゃんを守った、でもあなたは嘲笑った。

 でも、あなたは情けなく命乞いをするんだね」

「ごめんなさいごめんなさい」


ただ謝罪をするしか無かった。

優しい筈の声色にひたすらに恐怖を抱いた。

ただただ涙を流し、謝罪しか出来ない。


「あ、あのー、錫音お姉様?

 そこまで怒らなくても」


一緒に来ていた栗牧もその異常に恐ろしい錫音を前に

恐怖しながらも、流石に可哀想だと感じたのか

少しだけ錫音に苦言を呈した。

柳はその光景に少しだけ希望をみた。


「ん?」

「に、人間を殺したクソ悪鬼ですしね!?」


だが、錫音が栗牧の方を向いた瞬間に

栗牧は冷や汗を滝のように流して掌を返す。

その光景を見た柳は理不尽を感じた。

明らかに自分よりも遥に妖力が多い悪鬼がいて

何故自分だけこんな目にあうのかと。


「何で私ばかり! お、おかしいよ!

 隣の妖狐の方が妖力多いじゃん!

 私よりも絶対に人間殺してる!

 なのに何で私ばかり! 理不尽よ!

 そもそもあんただって妖力の塊!

 あんただって人間殺して! いぎ!」


柳の両手が紫色の炎に包まれた。

妖狐が扱う狐火である。

この逆ギレに妖狐が怒りを覚えた証拠だ。

今までの会話を聞いていれば、怒りを覚えたのは

錫音だと思うのが自然だろう。

事実、柳も一緒は錫音の攻撃だと誤解した。

だが、それは違うと即座に思い知らされる。


「今、侮辱しましたね? 錫音お姉様を」

「あ、が」


栗牧が怒りの表情を浮かべながら柳の首を絞める。

柳が逆ギレで放った言葉には栗牧のみならず

錫音以外の妖狐達にとって、逆鱗となる言葉があった。


「錫音お姉様が、人間を殺す? ふざけた事を

 それだけはあり得ない」

「い、ぐぁ、じ、じんじゃ、いぎ」


普段の栗牧は幼い容姿も相まって

非常にあどけなく、ヘラヘラとした表情が多い。

だが、柳の目の前に広がる栗牧の表情は

明らかな怒りを宿し、鋭く柳の瞳を見ていた。

再び柳の目から涙が零れ落ちる。

死を確信して、自分はこのまま死ぬ、確実に。

このまま絞め殺されると。


「私達は錫音お姉様がどれだけ凄いかを知ってる。

 本能を抑え、人間達を意地でも守り続けてきた。

 そんな錫音お姉様が人間を殺してるだと?

 ふざけるな、私が尊敬する錫音お姉様を

 侮辱するな、このままゆっくりと絞殺して」

「栗牧!」


たが、そんな命の危機を救ったのは

意外な事に錫音だった。

錫音はすぐに栗牧の肩に手を乗せて名を呼ぶ。

その感覚で正気に戻ったのか

栗牧は柳の首から手を離した。


「すみません錫音お姉様、栗牧冷静さを欠いちゃって

 いけないいけない、殺しちゃう所でしたよ〜」

「全く、そんなに怒る事無いでしょ?」

「いえいえ、あれは栗牧達の逆鱗ですよ?

 錫音お姉様が人間を殺す?

 それは一番の侮辱ですよ、あり得ない」

「あ、ひ、あ……」


柳は恐怖のあまり床を濡らしていた。

もはや、それに対して恥とも感じる余裕が無い。

助かったと言う実感よりも、恐怖の方が勝って居た。


「おやおや、情けない姿ですねぇ、

 河童の長ともあろう方が、栗牧如きに凄まれて

 粗相を働くとは、なんて情けない姿でしょうか。

 そんな体たらくで、よく長など出来ましたね?

 いや、河童が下賤なクソ妖怪共だから

 あなた程度のカスでも長になれたのですかねぇ?」

「はい、その通りです。

 私達河童は下賤なクソ妖怪です。

 だから、私の様なクズが長になれました……」


柳の瞳からは完全に光が失われていた。

もはや、自身の尊厳も部下達の尊厳もどうでもいい。

ただ死にたくない、逆らったら殺される。

柳の心は完膚なきまでに折れてしまった。


「はぁ、私も悪鬼は大嫌いなんだけど

 流石にここまで折るつもりは無かったのになぁ。

 これじゃ、あまり話を聞けないかも」

「これはこの悪鬼が悪いのですよ

 栗牧の前で錫音お姉様を侮辱したのですから」

「まぁ、栗牧以外が聞いてたら不味かったね」

「そうですね、河童と言う種族を根絶やしですね。

 でも、それは錫音お姉様的には悪くないのでは?」

「河童は嫌いだけど、河童の半妖が居るんだよ?

 なら、河童の中にもあやかしになってくれる

 そんな河童も居るかも知れないんだから。

 それを根絶やしなんて流石にあり得ないよ」

「錫音お姉様は優しすぎるんですよねぇ

 まぁ、錫音お姉様が優しく無かったら

 栗牧も死んじゃってましたし?」

「宝龍達にもよく言われるよ」


人間以外にもその優しさがどうしても向いてしまう。

だが、錫音のその優しさに救われたあやかしは多い。

元は悪鬼でも、あやかしとして人々の為に戦うあやかしも、この国は何人も存在しているのだから。

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