頑張る理由
清美とアキエの戦いは圧倒的だった。
部下達は誰もその攻防に付いては来れず
半妖達でも付いてこれない程だ。
唯一状況を把握できたのは同じ天才と評された
総一郎のみであった。
「凄いなぁ、宝龍様の言う通りだ」
ポチノはあの戦いを鑑賞し、小さく感想が漏れた。
彼女は宝龍より、今代の長達は天才揃いと聞いた。
更に錫音派閥のあやかしは圧倒的に強いと。
事実、錫音派閥最強であるあやかしの戦いを見て
自分は付いて行けなかったが
一緒に来た他のあやかし達はその戦いをしっかりと
追えていた様に見えた。
「アキエ様、見事な腕前ですね」
「ありがとう!」
褒めてきた総一郎に対し、彼女は笑顔で答えた。
実力では圧倒的に上だと感じた相手が
自分の称賛の言葉でここまで喜ぶとは思わず
総一郎は少しだけ困惑してしまう。
「かなり元気が良いわね、そんなに嬉しいの?」
「褒められたら嬉しいよ、その為に頑張ってるんだから」
「褒められる為にですか? 使命の為ではなく?」
「うーん、使命なんて気にした事無いかな。
私は錫音様が喜んで欲しいし、錫音様に褒めて欲しいの
その為に頑張ってるんだ」
「その程度の事で何でそんなに強くなれるのよ!
おかしいじゃない!」
敗北して漏れ出した悔しさを清美は1度抑えた。
だが、彼女の理由を聞いて怒りを覚えたのだ。
自分には戦いしか無い、だから鍛えていた。
妖怪を倒す事しか知らなかったから。
幼い時から陰陽師の使命とやらの為に努力して
他に並ぶ者がない程に強くなった。
両親が語る使命の為に、それが彼女の原点だ。
もはや、そんな原点等、彼女の記憶には無いのだが
無意識の中に眠る思いである。
集団への反発はこの思いが原因かも知れない。
「私達にとって、錫音様は憧れで、大事な人なの。
その人に喜んで貰いたい。
次いでで良いから褒めて貰いたい。
だから私達は頑張るんだよ」
「理由になって無い! 何でそんな程度で
あんたみたいに強くなれるのよ!
何でそんな程度の理由で努力出来るのよ!」
「うーん、程度って思ってないからかな。
頑張って錫音様が喜んでくれたら私も嬉しい
褒めて貰ったらもっと嬉しい。
私はその嬉しいの為に頑張るんだよ」
そんな下らない事でと、彼女は怒鳴りそうになる。
だが、幸子を育てて居るからなのか
彼女の脳裏に僅かな昔の思い出が蘇る。
(清美、お前は凄いな、お父様の自慢だ)
(清美、本当にあなたは凄いわね
きっと、私達より凄い陰陽師になれるわ)
そんな、遥か昔にあった、淡い思い出。
いつか思い出す事をしなくなった過去の思い出。
そして、再び脳裏に蘇るつい最近の思い出
(清美、今日も頑張るんだぞ)
(清美、あなたならもっと成長出来るわ)
忘れていた、誰かに褒められるという思い出。
天才と語られる様になってから
何故か忘れていた自分の原点。
(きっと凄い陰陽師になる!
お父様達に恩返ししたい!)
そんな、幼い時の思い出を不意に想起し
彼女は顔を真っ赤にした。
「ふん、良いわね、褒めて貰いたい相手が居て」
「あなたには居ないの?」
「居ない、私以下の雑魚に褒められても嬉しくない」
「なら、錫音様に褒めてもらえば良いよ」
「顔しか知らない相手に褒められても無意味よ」
親友の前ではあまり錫音を馬鹿には出来ない。
かなり粗暴に振る舞おうともそこは理解していた。
アキエもそんな彼女の様子を見て
これ以上言っても今は無意味だと感じた。
「……で、あんたは錫音に剣技を教わったのよね。
それはあなただけ? 他のあやかしは?」
「錫音様に剣技を教わる事が出来る機会は少ないだー
最近、転移の鏡が完成したお陰で
錫音様が屋敷に来てくれる様になったんだけど
それまでは殆ど来れなかったみたいなんだ」
「たまに来てくれても丁度私達が子供達の保護をしてる時だったりするからね。
機会があって、教えてってお願いしたら
教えてくれるんだけどね」
「あなた達は刀を持ってないのに?」
「錫音様から刀を貰えるのは
その屋敷で1番強いあやかしだけなの。
だから、錫音様から刀を貰える様に頑張ってるんだ」
「つまり、その刀は錫音様が厳選した刀って事!?」
この話を聞いて、霊具神姫の長である亜希子が
興味を持たないはずがなかった。
ただでさえ、あやかしの刀に興味があったのに
その刀が憧れの錫音が厳選した刀だと分かれば
当然食いつくだろう。
「この刀は錫音様が打ってくれた刀だよ」
「み、見せて貰っても!?」
「勿論ですわ!」
錫音から渡されている刀を自慢したいあやかしは多い。
錫音派閥のあやかし達からすれば刀は誇りに近い。
自らの努力の証なのだから。
「これが、西の屋敷で1番強いあやかしに
錫音様が授けて下さった刀ですわ!」
最初の落ち着いた雰囲気から一変
ハクはかなり上機嫌に刀を抜いて見せた。
かなりの業物だと分かる。
「銘は波時雨ですわ!」
「波時雨! やっぱり錫音様も時雨の銘を!」
「元は四季の名を冠した刀を東西南北の屋敷に
渡したいと、ふと思ったそうなんですが
名前を簡単に変えるのはと考えて
諦めたらしいです」
「どう言う、あ、まさか、秋時雨!」
「はい、アキエ」
「分かったよ! 音寧様!」
音寧の合図を聞いて、アキエも刀を抜いた。
「な、凄い……」
波時雨の時も凄い業物だと感じていた。
だが、秋時雨を見た瞬間、亜希子は魅入られる。
凄まじい業物、自身の最高傑作以上の業物だ。
「これが秋時雨! 錫音様が打った刀の中で
月華と並ぶ最高の逸品って錫音様は言ってた!」
「知っての通り、秋時雨は月華と同時期に打たれた
姉妹刀と言えます。初代姫長である
由紀恵様に教わりながら、霊具神姫の技術を会得し
初めて出来た傑作が秋時雨。
その技術を応用して出来た傑作が月華です。
つまり、秋時雨は月華の姉と言えますね」
「秋時雨は東西南北と本邸全てを統一して
1番強いあやかしに贈られる刀です。
私達の最終目的ですが、本邸のあやかしは別格。
その中でもアキエさんは強すぎますわ」
「渡す気は無いよ? 秋時雨は私の刀だもんね!」
「いつか越えてみせますわ!」
ある種の種族特性なのか、馬のあやかしたるハクは
非常に負けず嫌いで、アキエに勝つ事を諦めない。
実力差を理解しても挑む姿勢は高く評価されてる。
しかし、そんな彼女でも、本邸最弱のあやかしであるチカにも勝てない程に本邸のあやかしは格が違う。
色濃く錫音の霊力と妖力を受け継いだのが
本邸のあやかしなのだから、当然かも知れない。
「ふーん」
長達はアキエとハクの刀にかなり目を惹かれてる。
だが、清美だけは大して興味を引かれなかった。
彼女の中では変わらず、亜麟錫華史の方が凄いと
そう考えて居るからである。
清美は打った本人よりも亜麟錫華史を信じていた。
「私、もっと頑張らないと」
焦りに近い感情を抱きながら亜希子も小さく呟く。
彼女はきっと、姫長と言う重圧を前に
自身の力を正確に測れてないのだろう。
少なくとも最高傑作を渡された清美からすれば
亜麟錫華史は最高の逸品であると言うのに。




