あやかしの強さ
僅かな不安を抱きながらも清美はアキエに相対する。
アキエの表情はあまり変わらず、
小さく微笑んだままだ。
「清美、ハッキリ言うぞ、お前じゃ彼女に勝てない」
「はぁ!? んな訳ないけど!? たかだか犬程度」
「実力差を見抜けないのか?
彼女はあの河童の長より強いぞ
妖術を含めた場合は分からないが
純粋な剣技は間違いなく強い」
「はん、あんな奴!」
「……はぁ、まあ良い、訓練だしな。
命を落とす訳では無いんだ、いい経験か」
何故か清美は焦りを見せていた。
あの河童の時以上の焦りを。
負ける訳には行かない。
友人、部下、妹の様な教え子が見てる前で。
彼女は虚勢を張り、自身を激励する。
「清美さん、何か焦ってるね。
無理しなくても良いんだよ?」
「無理なんかしてないし焦って無いわ!
私は最強の陰陽師なんだから!」
「うーん、何だろう、違和感があるんだよね」
「覚悟なさい!」
不安を振り払うように清美はアキエに斬りかかる。
アキエは顎に手を当て、何かを考えたままだ。
そして、清美の木刀がアキエに当たる直前。
「ッ!?」
当たる直前だ、直前にアキエは木刀を動かし
清美の一撃を受け止めた。
反応出来なかった、あまりに素早い太刀筋。
「うん、やっぱり刀の振りが遅いかもね」
「この!」
すぐに胴を狙うが、それも防がれてしまう。
アキエは微笑みは崩さない。
そのまま清美は何度もアキエに仕掛けるが
全て防がれてしまう。
「速い……やはり、あの河童以上だ」
「み、見えないんだけど……どっちが優勢?」
「うーむ、攻撃してるし清美ちゃんかな?」
「いや、アキエ様が圧倒的に優勢だ。
清美は全ての攻撃を完璧に防がれてる」
自身の攻撃が完璧に防がれている。
あの河童とは違い、当たる気すらしない。
河童の長は自身の攻撃に反応はしていたが
何度か隙を突き攻撃ができていた。
だが、妖力の盾で防がれ、致命打に届かなかった。
しかし、彼女には有効な攻撃すら出来てない。
感じた、彼女は総一郎より遥に強いと
理解したくないが、理解出来てしまう。
彼女は自分よりも遥に強いと。
「この!」
このままだと負ける。清美は急いで距離を取り
懐から霊針を取り出そうとした。
だが、その瞬間に強い風を清美は感じた。
「隙ありだよ」
自身が反応出来ない速度でアキエが近付いていた。
既に彼女が振るった木刀は清美の胴に届いていた……筈だった。
「な!? え?」
「凄いや、無意識かな?」
だが、その一撃をいつの間にか展開していた結界が防ぐ。
清美はこの結界を展開した記憶が無い。
完全にいつの間にか展開されていた結界。
いつか河童の長と戦った時も同じ事があった。
だが、あの時は自身が意識して張った結界だと思っていた。
だが、今回は明確に反応出来なかった筈だった。
それなのに発動した結界。
「結界術が得意なんだね、清美さん」
「あぶな!?」
だが、アキエは防がれても大して動じずに
即座に清美の頭を狙い木刀を振るう。
これを清美はギリギリ反応、結界で防ぐ。
同時にひらめいた、この状況で勝つ秘策。
「お?」
アキエの一撃を防いだ結界を変化させ
アキエの木刀を結界で包み込み押さえつけた。
結界を自在に操れると河童の長と戦って知った。
更にアキエは手加減をしていた為に
結界で木刀を包み込みむだけの余裕がある。
この間に懐から霊針を取り出す。
「ここだ!」
木刀を結界で包み込まれ、動かせないアキエに
清美の霊針が飛んでくる。
だが、アキエは冷静だった。
「よっと、ほい!」
清美の霊針を全てキャッチ、更に清美が反応するより速く霊針を投げ返した。
「マジ!?」
まさか投げ返されるとは思ってなかったのだろう。
清美は激しく動揺して結界で霊針を防ぐ。
だがそれは、意識が大きく逸れたに等しい。
「驚いたんだね、だから結界が崩れる」
「しまった!」
意識が大きく逸れた事で
アキエの木刀を包んでいた結界の形が崩れた事で
木刀を引き抜き、清美に接近出来た。
結果、アキエの攻撃を防げずに
清美はアキエの一撃を胴に食らってしまった。
「……痛くない」
「本気で殴ったら痛いからね」
アキエが最後に告げた言葉を聞いて清美は悟る。
完全に敗北したのだと。人生で2度目の敗北。
1度目と違うのは、完全な実力で負けた事だ。
大軒には完全に相性で負けた。
負けて当然の戦いであり、本来であれば
負けて恥じる戦いでは無かった。
だが、今回は違う。相手はあやかし。
特別な妖術を使う訳でも無い
ただ剣技のみで戦うあやかし。
相性で言えば、色々と出来る自分の方が有利だった。
だが、敗北したのだ、それも完全に。
「……何で、勝てないのよ……何で!」
「清美さんは十分強いですよ。
先程もアキエの攻撃を無意識に結界で防いだ。
あなたが自身の力に常に向き合ってた証拠です。
ですが、それだけでは、長い時を生きる妖怪には
どうしても劣ってしまいます。
妖怪はあなた達よりも長い時を生きて
あなた達よりも長い時間、
自分の力を鍛える事が出来るのですから。
ですが、あなた達人間は新しい発想で
その力の差を乗り越えていく」
「うん、結界を変化させて私の動きを封じた。
これは驚いたよ、錫音様でもやらないと思うな」
「でも、勝てなかった」
「式神を上手に使えば隙も補助してくれたと思う。
だからさ、式神を上手く使うべきだよ」
「……」
清美は自身の掌を再び見て、悔しそうに拳を握った。
今までの清美であれば、再び癇癪を起こし
罵詈雑言を吐き捨てただろう。
だが、人生で2度目の敗北を喫した為か
清美は逃げず、その現実を受け入れた。
「……分かった」
悔しそうに顔を隠し、小さく答えた。
その様子を見た長達は清美に確かな成長を感じた。




