大きくなる訓練
都、長の待機部屋で不機嫌な雰囲気を出しながら
清美は手元の資料に目を通した。
「全く、色々と大規模になり過ぎでしょ。
ただの合同訓練だったのに」
あやかし、更に半妖の白爪部隊までが
この合同訓練に興味を示し、参加をする。
その報告を受けた清美はかなり呆れていた。
彼女からすれば、本来するつもりもなかった訓練。
それが、ここまで大規模になるとは思わなかった。
「ったく、宝龍の奴まで興味を持つとはね」
「それだけ、今回の合同訓練は大きな変化だったのかもしれないな」
「あんたは狙ってた訳?」
「まさか、想定外だ。俺としても結構な決断だったが
宝龍様が興味を持つ程とはな」
「錫音様も来たりするのかな?」
「錫音様は来ない様だ。
どうやら、あの河童の長に対応するらしい」
「結構間があったのにゆっくり過ぎでしょ」
「錫音様は負傷もあったしな、
更には大軒の監視もあったのだろう」
あの時みた錫音の姿を思い出し
怒りを覚えて文句を呟こうとする清美だが
目の前に居る親友を見て、それを飲み込んだ。
何と無くではあるが、もしそれを口に出せば
親友との関係が途切れてしまうのではと感じた。
「まぁ、私の強さを宝龍に知らしめる
いい機会になるでしょうね」
「まだそんな事を言ってるのか」
「あんたも見せりゃ良いでしょ?」
「実力を知らしめる事に興味はないが
俺の剣技が何処まであやかしに通じるのか
それを知る良い機会にはなるとは思うな」
「私はあやかしの刀に興味があるなー
確か錫音様と共に居るあやかしって
刀使うって聞いたし、見てみたい」
それぞれ、理由は違うにせよ
あやかしとの合同訓練には興味を抱いた。
そして、当日が来る。
「よし、今日から白爪部隊が交流するわ
半妖との訓練ってのも中々いい経験でしょう」
「ただの合同訓練が大規模になって来たな」
部下達もかなり困惑気味にどよめいている。
仕方が無いことだ、これ程の規模になるとは
誰も想定していなかった事だ。
清美も総一郎も、本来は陰陽師と御剣部隊のみで
行う予定でしかなかった。
それが、霊具神姫、白爪部隊、更にはあやかし。
これから大規模な異変でも起こるのかと疑う程だ。
「一応、今日1日だけ、あやかしも来るわ。
確か錫音が指揮する、確か西の屋敷に居る
あやかしと、あやかしの国の本邸にいる
あやかしが1人来るらしいわ。
まぁ、そこそこ強いんじゃない?」
「本邸のあやかしは噂でしか聞いたことが無いが
実力はかなりの物らしい、よい訓練になるだろう」
本邸に居るあやかしは噂程度でしか知られてない。
本邸のあやかしが出動する程の悪鬼等そう居ない。
特に都の陰陽師達が彼女達の姿を見ること等
ほぼ無いことだ。
「こんにちは、お待たせしました。
白爪部隊合流でーす」
「遅いわよ、奏」
「ごめんごめん、清美さん、不意の事でさ
白爪部隊を集合させるの手間取ってさ」
白爪部隊。半妖のみで構成された特殊な部隊。
天狗、鬼、河童、化け猫、犬神等、多種多様な妖怪の半妖達が集まっている特殊な部隊である。
過去、鵺の襲来時、霊力による攻撃が全て効かず
錫音の助けが無ければ手も足も出なずに
潰されていたであろう事から、その状態を危惧した
当日の帝の指示により結成された部隊であった。
長の奏は犬神の半妖であり、特徴的な耳が生えてる。
彼女の右耳は特に特徴は無いのだが
左耳は少し欠けており、右頬には十字に傷がある。
毛色は黒色である。服装は皆同じであり
巫女装束に近いが白と黒を基調にした制服だ。
これは、錫音の服装を元にしてるのが大きい。
「えーっと、白爪部隊はここで良い?
露骨に空いてるし」
「そこよ、あんたはこっち」
「はいはい、ここだねー」
奏は部下を案内した後、清美の近くへ移動した。
「で、清美ちゃんが進行役なんだね、意外だなぁ」
「総一郎のアホに押し付けられたわ
言い出したのあいつなのに」
「押し付けただと? 俺が進行してたら
お前が勝手に前に出て進行しだしたんだろうが」
「あんたは長ったるいのよ、いちいち細かくさ。
訓練なんて訓練しかやる事無いんだから
無駄に細かく説明しても時間の無駄」
「じゃあ、この口喧嘩も時間の無駄だねぇ〜」
「あんた、たまに毒舌よね、遅れて来たクセに」
かなり言いたい事があったが
ひとまずは押し殺して進行する事を選んだ。
「あやかし達は10時頃に来るから
それまでは白爪部隊を含めた合同訓練を行うわ」
「あー、白爪部隊は妖術を使って行こうね
それと、種族特性を最大に使って訓練しようね」
「はい!」
あやかし達が来るまでの訓練が始まった。
白爪部隊の参加により、訓練に色が増えたと言える。
何の半妖かで戦い方が大きく変わる。
鬼の半妖であれば、力による制圧が凶悪であり
普通の人間が力比べ等自殺行為西等しい。
「やっぱり鬼の半妖は凄まじいわね」
「力が強いからね」
「てか、何であんたが長なわけ?
犬神の半妖でしょ? あんた、弱くない?」
「犬神を馬鹿にしちゃ駄目だよ清美ちゃん。
犬神は勘が鋭いんだから。
後は出来る幅が広いんだよ?
犬神は霊力と妖力両方使えるんだから。
まぁ、両方使えるから成長しにくいけど」
「どう言う事?」
「妖力と霊力は基本的に両方持ったら駄目なんだ。
お互いがお互いの足を引っ張りまくるせいで
成長するのが凄く遅くなるんだ。
霊力のみと妖力のみと比べた場合
成長率は1000分の1くらいになる見たい」
白爪部隊ではその知識が代々引き継がれていた。
霊力と妖力を同時に持ちやすい半妖の部隊である為
当然、そう言った例は後世に語り継がれてきた。
特に半妖は比較的長寿が多く、歴史はより正確だ。
「はぁ? 嘘でしょ」
「嘘じゃないよ、だから私は成長が遅くてね
折れそうになったけど頑張ったんだ。
それでも、霊力は陰陽師に劣るし
妖力は悪鬼に劣る。
これでも100年は鍛えたんだけど
霊力は一般の陰陽師にも勝てないよ。
特に半妖だから、霊力の成長より遅いし」
「嘘よ、だって錫音は」
「正直言うよ、錫音様は異常だ。
霊力と妖力の両方を持って生まれていて
あそこまで鍛え抜いてるのは明らかに異常。
生まれて今まで、努力を妥協してないんだと思う
私だったら折れるよ、間違いなくね。
更に錫音様は半妖の私と違って純粋な妖怪。
霊力の成長性は私よりも遥かに劣るはず。
それなのに陰陽師よりも遥かに霊力が多い
初めて見た時は異質過ぎてゾッとしたよ」
錫音の霊力は自分を遥かに凌いでたのが分かっていた
霊力を正確に感知できる彼女にはそれが分かった。
まさか、あれ程の霊力を持つ存在が、
実は足枷を付けてあの強さだと理解したく無かった。
「……」
「清美、これが現実らしい。
やはり俺達は所詮人間の中で優れてるだけだ」
清美は悔しさのあまり拳を強く握り締める。
それこそ、掌から血が滴り落ちるほどに強く。
「清美ちゃん! 手から血が!」
「え!? あ、マジだ……クソ」
「悔しかったのか知らないが
無意識に自傷するな、無意味に怪我をしても
何も良いことなど無いぞ」
「あんたに何がわかるのよ!」
「分かるさ、俺も負けて悔しかった」
総一郎が懐から清潔な布を取り出した。
そのまま清美に近付く。
「なにする気よ!」
「怪我の手当だが? その状態では刀も握れない」
「誰があんたなんかに!」
「よろしくないですなぁ、総一郎殿ー
美少女の手を握り傷の手当てとはー
清美殿が恥ずかしがってしまいますぞー」
「美少女? こいつが?」
「そこに疑問抱くな! 美少女でしょうが!」
「おやおや意外ですなぁ、
自分の美貌に自覚があるとは
そのあたり無沈着なのか、はぇ? お札?」
「爆ぜろ!」
「あばー!」
「これは奏殿が悪い」
「奏さん、相手をからかいすぎ」
「本当にな、では、亜希子殿、これを」
呆れながら、総一郎は亜希子に自身が取り出した
清潔な布を手渡した。亜希子も少し不思議そうに
その清潔な布を受け取る。
「え? どうして私に?」
「清美は恥ずかしがってるからな。
実際、異性に両手を預けるのは抵抗があるだろう
だが、友人である亜希子殿相手なら
清美も抵抗は無いだろうしな」
「そうですね、それじゃ清美ちゃん
手当てするね」
「大丈夫よ、自分でするわ」
「両手から血が出てるのに自力は無理でしょ」
「……ごめん」
「大丈夫だよ、慣れてるからね」
慣れた手付きで亜希子は清美の怪我を止血した。
清美は自分がした馬鹿な行動を少し悔やみながら
手当てをされた両手を見る。
「あのー、私も手当てしてくださいませんか」
「奏殿は自分でしてください」
「はい……」
相手をからかうせいで年上の威厳がいまいちないなと、少し呆れながら総一郎は思った。




