あやかし達の僅かな休憩時間
あやかしの国に居る宝龍の耳には勿論
御剣部隊と陰陽師の合同訓練は届いて居た。
「錫音ぇ〜、御剣部隊と陰陽師がさぁ」
「聞いたよ、合同訓練なんて初めてだね」
炬燵に入りながらだらしなく机に机に突っ伏し
隣に居る錫音に声を掛ける。
「清美ちゃんと総一郎君の怪我も治って良かったよ
はい、宝龍、あーん」
「あーん、ムグムグ」
白い筋を丁寧に向いたみかんを錫音は宝龍に差し出す。
宝龍も突っ伏したままに口を空け、差し出された
みかんを食べた。
このだらけ切った宝龍の姿を
何も知らない者が見れば驚愕するだろう。
普段の幼いながらも威圧感に溢れていた宝龍が
錫音と2人きりの間だけ、見た目よりもダラダラとしているとは。
まるで姉妹の様である。
「本当、宝龍は私と2人の時はだらけるね」
「仕方ないじゃないか、お前の前位なんだよ
私が本当の私で居られるのは。
私はなぁ、本当は面倒臭がりなんだ。
空間術もな、楽したいから開発してな」
「知ってるよ、ふふ、清流も本当はそんな感じ?」
「清流様も結構面倒臭がりだったな。
よく、鈴亭と紀美野江に怒られていた
まぁ、私も良く紀美野江に怒られていたが」
紀美野江は清流が使役していた12の式神の1人。
中でもリーダー格であり、封印術を得意としていた。
清流が扱う12の式神は攻撃と支援に分かれており
紀美野江は攻撃に所属する式神のリーダー
宝龍は支援に所属する式神のリーダーであり
宝龍にとっては唯一の同格であった。
「確か紀美野江は宝龍と唯一の同格だよね」
「あぁ、私はあいつが長だと思ってたが」
「紀美野江は宝龍が長だと思ってたんだよね」
「そうだ、だから長としてーとか、よく言われたよ」
だが、紀美野江は崎神族には居ない。
彼女は珠緒の前に勝つ為に、その身全てを触媒にし
珠緒の前を大幅に弱体化させ、
人類に勝利をもたらした。
「だが過去の事、今は長として頑張ってるんたが
まぁ、友人である君の前位は
本来の自分で居たいんだよ」
「嬉しいけど、みかんを食べさせてーは
何か違うんじゃないかなぁ?」
「錫音に頼んだら、
みかんの白い筋を丁寧に取ってくれるし……」
「一応、あそこは栄養あるんだよ? 美味しいし」
「うー、でもなぁ、私は苦手なんだよなぁ」
「後、炬燵はいつまで出してるのさ」
「龍風が環境を暖かくするまで〜」
「龍風曰く、既に春の気候だよ」
「なら、龍風に言って冬の気候にさせる〜」
「作物大打撃だよ、全くもう
私には片付けろとか言うのに」
昔、クロエ達が居ない時の錫音の屋敷は
まさにゴミ屋敷と言う感じに物で溢れていた。
流石の宝龍も苦言を呈すほどだ。
「いや、あれは片付けた方が良かったから
ゴミ屋敷みたいになってたじゃないか」
「ゴミじゃないから! 人間達に貰った
私の大事な思い出だから!」
「しかしな? 猫やら犬やらが100匹超えで
鶏やら牛やらが溢れかえり
丁寧に飾られてたが、着物や振袖が
部屋の至る所に置いてあるのは中々だぞ?
床は綺麗で台所も綺麗なのに部屋は着物だらけ
宝石や宝やらの箱も置いてあって
いや、丁寧に扱ってるのはわかるんだが
たまにドングリから虫があふれ出したりな?」
「でも、私の為に用意してくれた訳だし」
昔の部屋を思い出しながら錫音は答える。
「まぁ、クロエ達に感謝するしかないな。
私もそんな子が欲しいな」
「タマノちゃん居るじゃん」
「タマノの前でダラダラ出来ないし……
あいつ、私の事をキラキラした目で見てるんだぞ?
無理だって、ダラダラ出来ないって」
「いっその事、曝け出せば良いのに。
多分、クロエが私を叱ってたりする理由はほら
私のだらしない所を知ってるからだし」
「いやなぁ、長としてなぁ、こんな姿はなぁ
誰かに見られたくないっていうかなぁ」
「私には簡単に打ち明けたのにねぇ」
「友人だしな、部下でも無いし、何ていうかな?
こう、姉? 姉みたいな?」
「宝龍の方が年上だよね?」
「いやほら、年とか関係ないだろ?
こう、雰囲気がな?」
「後、私は妖狐族全体で見てもかなり妹だよ?
お姉様沢山いるし」
かなりお姉さんな雰囲気を持つ錫音ではあるが
妖狐族全体で見ればかなり下の方である。
雰囲気からはとても想像出来ないが。
「いやほら、違うって言うかな?
てか、何故錫音が七女なのか分からん。
何故? いやな、栗牧とか甘露とかもな?
普通逆じゃないか? 甘露が末っ子じゃないか?」
「容姿とは違うんだよね、漠然と自分はここ
みたいなのを感じるっていうかね。
ある意味、本能なのかなー」
「明確な理由は無いんだなぁ、錫音、みかんくれー」
「はいはい、ほら、あーん」
「あーん、ムグムグ」
宝龍に軽く文句を言いながらも
錫音は宝龍を甘やかしてみかんを差し出した。
自分は白い筋を取らずに普通に口に運び
宝龍に食べさせるみかんは丁寧に白い筋を取る。
「因みに栗牧の監視は今は良いのかな?」
「あやかしの国に居るのは見てるし
今はアキエに睨まれてるんだろう?」
「あはは、接近戦じゃ、
栗牧は絶対にアキエには勝てないしね」
「全く、アキエは何なんだか、本当に元犬か?
ポチノと同じ元犬なのか?」
「まぁ、アキエ達は私の妖力と霊力で変化して
ポチノちゃんとタマノちゃんは野生でしょ?」
「一応、私の霊力で変化した筈なんだがなぁ」
「なら、宝龍が霊力でしか基本戦わないからだね
アキエは私が刀で戦うのを見て刀出の戦いに
強い興味を抱いたみたいだしね」
「あー、空間術教えた方がいいのかなぁ
だがなぁ、錫音しか覚えてくれないしなぁ」
「うーん、やっぱり大変なのかなぁ」
空間を簡単に歪め、錫音はそこからクシを出した。
そのまま、宝龍の後ろに回った。
「ん? どうした錫音」
「そろそろ休憩終わりでしょ?」
「言わないでくれ、このままだらけたい」
「だーめ、皆、困るでしょ?
だから、髪の毛とかしてあげるね」
「うー、やっぱり上手いな、錫音。
私には角があるのによく出来るなぁ」
「慣れてるからね、それに、私にも皆にも
耳があるからね、若干似てるよ」
「耳と角はかけ離れてる気もするがなぁ〜」
宝龍はされるがままに錫音に身を預けている。
まるで本物の姉妹の様に。
「はい、出来た」
「ありがとうな、錫音」
「それじゃ、仕事を頑張ろうね。
確か、御剣部隊と陰陽師の合同訓練に参加するかと
あの河童の長をどうするかだね」
「そうだな、色々と考えなければ」
いま、あやかしの国では柳をどうするかで悩んでる。
現在、敵対的ではない彼女をどうするかだ。
「とりあえず、合同訓練にはポチノを行かせよう。
後は錫音のアキエとかも連れて行っても?」
「うん、かまわないよ、アキエもいい経験になるし」
「後何人か、程々に出来る子を連れて行きたいが」
「留守番を基本的に任せてる子にお願いする?
そうだなぁ、距離的にハクとワンダはどうかな?」
「程々なんだな、彼女達は」
「ハクには刀を渡してるから
西の屋敷で1番だけど、馬から変化したあやかしの脚力がどんな感じかが分かりやすいしね」
「成る程……うーむ、相談なんだが、西の屋敷にいる子を全員連れて行くのは大丈夫か?」
「1日だけなら大丈夫だよ、今は西は平和だしね。
河童の長を捕まえたからか、西は落ち着いてるし」
西の屋敷付近でよく発生していた悪鬼は河童である。
だが、現在は長が捕まった事で落ち着いている。
「ありがとう、そう言えば音寧は動くか?」
「音寧は結構好奇心旺盛だから行きそうだなぁ」
「大丈夫そうか?」
「1日だけなら大丈夫だよ、シロナとチカと牛蜜に
お願いして待機してく貰うよ」
「なら大丈夫か」
都で行われる訓練にあやかしが参加する。
これは今まで無かった大きな変化であった。
宝龍はこれを機にあやかしと人間を
より近付けようとしている。
「清美ちゃん、成長出来れば良いね」
「あぁ、その為に私も全力を出すよ」
だが、真の目的は清美の成長であった。
宝龍は望んでいる、稀代の天才が真に成長する事を。
新たな才能の原石達が真に宝石へと変わる事を。
親友が何の憂いもなく平和に過ごせる様に。




