新しい事への挑戦
「御剣部隊と陰陽師の共同訓練かぁ」
部下からの報告を聞いた亜希子が小さく呟く。
丁寧に鍛え上げた自身の刀を見ながら溜息をついた。
「はぁ、やっぱり上手くいかないなぁ」
「亜希子様?」
「いや、気にしないで。ありがとうね。
それじゃ、まつりさんは子供達の指導をお願い」
「分かりました、失礼します」
部下が部屋から離れたのを見届けた後
亜希子はだらしなく寝転がり、天井を見あげた。
彼女が部下には決して見せない砕けた部分。
彼女が実はだらしないのを知ってるのは清美だけ。
「……清美ちゃんが落ち込んでる時
私は清美ちゃんを支える事が出来なかったな……
清美ちゃんを変えたのも私じゃない……」
唯一、自分を曝け出せる親友が苦悩していたのに
自分は何も出来なかった。
親友が成長するきっかけにもなれなかった。
そんな後悔を不意に彼女は思い出す。
「……」
少し悩み、彼女は部屋に飾ってある宝刀に目を向けた
自分がどれだけ努力しようとも辿り着けない極致。
霊具神姫、最高の一振り。雪妻家、最大の至宝。
歴代の姫長が挑み、夢破れた最大の宝
「夢月雪華、
由紀恵様、由紀子様、咲紀子様が打たれた宝刀」
初代姫長、雪妻由紀子がその命を燃やして打った刀。
錫音に渡すために、自分の全てを対価に打った刀だ。
だが、その刀は由紀子だけで打った訳ではない。
親子3代で打った至高の一振りであった。
「霊具神姫の歴史その物、由紀子様が生涯最後に打ち、咲紀子様が初めて打った刀でもある。
私達の目標……まぁ、吹雪さんの心を折っちゃったけど。
私、吹雪さん凄い才能があると思ったんだけどな。
幼心に生涯切磋琢磨する相手だって思ったのに」
亜希子は決して周囲にはその弱さを見せなかった。
自らがスランプ気味だとは誰にも悟らせない。
「清美ちゃんの為に亜麟錫華史を打ってから
全く納得出来る刀が打てない……
私は姫長なのに、時雨の名を刻む刀を打てない」
憧れの錫音に贈る為に努力は妥協しなかった。
色々と学んだ、あらゆる技術を学んだはずだった。
だが、どれだけ刀を打とうとも、彼女は未だに
亜麟錫華史を超える何処ろか、並ぶ刀も打てない。
常に明るく振る舞う彼女からは想像出来ないが
彼女も常に悩みの中にあった。
「はぁ」
自身の書斎から夢月雪花の資料を取り出す。
資料には、夢月雪花が錫音が打ったとされる
唯一の技術、霊具神姫が使う霊力を刀に込める技術、名を魂宿り。これを応用し、霊力では無く妖力を込めて打たれた、唯一の妖刀、月華を元に打たれた事が記載されていた。
月華を元に、老いていた由紀恵を由紀子が支えて
刀を打ち、咲紀子がその2人の様子を見て
並々ならぬ覇気に感化され、興味を持たなかった
刀鍛冶に興味を抱き、2人に協力して才能を発揮。
3人がかりでこの夢月雪花を作り上げた。
その後、夢月雪花を作り上げた翌日に
初代姫長、雪妻由紀恵は生涯に幕を閉じた。
この刀を錫音様に届けて欲しいと言い残して。
「錫音様は都には来れなかった。
理由は分かる。子供達を守る為」
鵺の襲来以降、錫音は天穿を受け取てからは
都に足を運ぶ事は無かった。
これにより、長い月日を積み重ねていき
いつしか、夢月雪花は霊具神姫の宝となった。
「この刀と共に錫音様に自身の刀を渡す。
そう考えると、緊張が止まらない。
この刀に勝るとも劣らない刀を打たないと」
そんな事を呟いた瞬間
彼女の脳裏に友人の言葉が蘇った。
(勝るとも劣らないって妥協でしょ
あんたならこの刀より凄い刀を打てるって
昔の奴なんかに気圧される事無いでしょ?)
非常に軽く、当たり前に言われた言葉だった。
それこそ、軽食を取りながら言われた言葉だ。
友人の口元に付いていたご飯粒を見て
少しだけ笑みが溢れたのも思い出す。
「はは、あの時は私、
清美ちゃんに気取られないように
食事しながら夢月雪花見せちゃったな。
大して感動して無かったし……興味なかった?
いや、違うよね、亜麟錫華史を渡した時は
刀身を見て、滅茶苦茶喜んでくれたし。
多分、清美ちゃんは本気でそう思ってるんだ」
自分の中で清美の存在が大きくなったのは
おそらくその時だと彼女は考えた。
そして、このままだと駄目だという思いも。
「よし、霊具神姫の皆で合同訓練を見に行こう。
きっと、自分達が打った刀が誰に渡るか
それが分かればやる気も上がる。
それに、清美ちゃんが頑張ってる姿を見たいし」
思い立ったが吉日が信条の彼女は
即座に霊具神姫全員にこの事を伝えた。
そして、霊具神姫の全員は亜希子の提案を受け入れ
翌日すぐに陰陽師と御剣部隊の元へ足を運んだ。
「合同訓練が1週間あって良かったぁ」
「その情報知らないのに全員動かしたの?」
「し、知ってたよ!? ……部下が」
「……まぁ、うん、なら良いけど」
珍しくもない亜希子のドジを見て
清美も少しだけ呆れながら答える。
思い立ったが吉日は聞こえは良いが
情報が無ければ無駄になる。
そんな事を何度か思い、自分を変えようとするが
根本は変わらない。あまり部下には知られたくないと
そう考えると亜希子だが、割と部下は知って居る。
「じゃ、合同訓練を開始ね」
「うん、しっかり見るね」
「因みにいつまで参加する予定?」
「最後までだよ、自分達が打った刀が
誰にどう使われてるのか、それを見れたら
皆、より本気で努力出来るはずだから」
「悪鬼を倒してる訳じゃないから
正規な使い方では無いけどね」
霊具神姫、陰陽師、御剣部隊。
都の大きな組織が集まり訓練を行うのは
今回が初めての事となるだろう。




