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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
第八章
207/209

方程式

 反応の鈍い疑似魔人。

 魂の入っていないその体は、動きが読めないという爆弾のような怖さがあった。

 これにより、俺たちは未だにまともなダメージを与えられずに、時間だけを浪費していた。


 時間が経てばいずれ魔人は意思を持ち始める可能性もあるが、気の短い我ら混成チームは当然のように短期決戦を望み、最大火力での攻勢に挑むことになった。


「ふぅ~……」


 作戦は至って単純。俺たちの中で最もパワーのあるカンパネラの姉さんが先陣を切り、その後に残りのメンバーが追撃するだけ。

 

 瘴気を逃さないようにバリアを張るチンパン、ゼロワン。そしてクレアや苦労たちを守るために動けないファウナは、攻撃には参加できない。

 間違いなく俺たちの中では最も攻撃力があるファウナが追撃できないのはかなり痛いが、今与えられた条件の中で何とかして魔人を倒すしかない。


 魔人が受けたダメージを記憶し進化してくる以上、最初ではあるが最後とも言って良い程、一か八かの大勝負だった。


 皆が高めた聖刻は、コロッセオに荒々しい圧力をもたらす。しかし張り詰める空気はとても静かで、肌に感じる感覚と音のズレは、まるで音を小さくして戦争映画を見ているような不思議な世界を作り出していた。


 その静かさを打ち破るかのように、姉さんは走り出した。それを切っ掛けに、フォイちゃん、ルーベルト、ブラックチョコレートも一斉に動き出す。


 魔人を四方からとり囲むように飛び込む四人。最初に飛び出した姉さんがあっという間に魔人に詰め寄る。しかしそれ以上に言葉も無く、息を合わせたかのような動きをする三人に目を奪われた。


 最も速度で劣るルーベルトは、そのまま魔人へ直行。姉さんよりも速度のあるフォイちゃんは先に到達する事を避けるためか、一気に空へ向かって上昇。ブラックチョコレートは直進してすぐ円を描くかのように回り込み、ルーベルトの後を追うような軌道を取った。


 あんな打ち合わせは一切していない。それがまるで訓練されたかのような動き。

 それは生まれ持った本能なのか、センスなのかは分からないが、あの四人を見ていると、自分がどれほど場違いな立場にいるのだと痛感させられた。


 しかし今は落ち込んでいる暇は無い。もう既に姉さんは拳を魔人の腹に打ち込んでいるのだから。


 姉さんの渾身の右フックは、魔人の左わき腹にヒット。その威力は半端じゃなく、物凄い衝撃波を広げるほど。しかし魔人は銃弾に対応するために進化しており、その異常なまでの耐久力で原型を崩さない。

 そんでもやっぱり姉さんがこれで終わるはずもなく、打ち込んだパンチの衝撃で魔人が吹き飛ぶのを左腕を掴んで止め、そのままルーベルトの方へと振り回すようにして放り投げた。


 その魔人をルーベルトは回転切りを使い切り裂く。


 二回転から三回転。飛んでいく魔人も速いが、それを駆け抜けるように切り裂くルーベルトの回転は竜巻のようで、下手をすれば聖陽君相手に見せたよりも速い回転には、正確に回転数を見極める事も出来なかった。


 これだけでも十分物凄い連携だが、もう彼らは俺が全く知らない領域にいるようで、驚く暇もなく切り裂かれた魔人をフォイちゃんが撃ち抜く。


 正に閃光。白く輝くような神聖な光を纏ったフォイちゃんは、ルーベルトに切り裂かれた魔人に対して、容赦なく後ろから首を貫く。

 その速さは残光くらいしか見えず、レーザービームのようだった。


 これだけでも十分なオーバーキル。だけどまだまだ終わらないようで、今度はそこへゾイドみたいなアーマーを着たブラックチョコレートが飛び込んで来る。


 機械的な漆黒のアーマーを纏ったブラックチョコレートは、巨大な爪で魔人を地面に叩きつけ、まるで犬のようにこれまた巨大な牙で噛み付き、首を振り回し、また放り投げる。


 その姿は完全な猛獣で、軽々と魔人を高く投げ飛ばす筋力は象クラス。ブラックチョコレートが何なのかは不明だが、魔獣か聖獣か黄泉返りかのどれかで間違いなかった。


 そんで今度は上空へぶっ飛ばされた魔人はマジで徹底的にやられるようで、先ずフォイちゃんが上から撃ち抜き、その後に飛び上がっていた姉さんに殴られ、そのまま地面に叩きつけられた。


 多分死んだ。それくらいのオーバーキルダメージ。チャンスがあれば俺も攻撃に参加しようと思っていたけど、途中からやり過ぎじゃない? とちょっと引くくらいの連続攻撃は、俺だったら死んでいたくらいだから、多分魔人は死んだ。


「やっ……やったのか……?」

「いや、まだだ」

「え?」

「かなりのダメージは入ったはずだが、瘴気は消えていない」


 カンパネラの姉さんが俺の横に来た時には、そのセクシーな姿に見惚れるほど油断していた。しかし姉さんの言う通り瘴気はいまだ健在で、まだまだハッピーエンドという訳には行かなそうだった。


「どうするモチロン・マックス。下手をすれば今の攻撃で私たちの力は覚えられた。もう物理的な攻撃は望めない」


 魔人の適応能力が確かなら、間違いなく今の攻撃は二度と通用しない。だけど、今の姉さんたちの攻撃が決して無駄だったわけじゃなかった。

 

「ファウナが言っていた意味が大体分かりました。まだそれだけで何とかなる訳じゃないですが、もしかしたらもう少し何とかなるかもしれません」

「そうか。ならば私たちはどうすれば良い?」


 姉さんは魔人についてやっぱり勉強していた。そして今の攻撃で確信を得た。だからこの状況で俺に訊いた。

 やっぱ姉さんは凄かった。


「おいカスケード!」

「何だ大将?」

「オメェよ! 俺を倒すならどうする?」


 この問いに、カスケードはいやらしい笑みを見せた。


「俺たちにとっちゃ大将が一番の強敵だ。十分準備は出来てる」


 やっぱりこいつらは最初から俺を裏切るつもりでいたらしい。直ぐに俺が言いたいことを理解したようで、アサルトライフルのマガジンを入れ替えた。それを受けて、フォイちゃんが不思議そうに尋ねる。


“どういう事、隊長?”

“魔人はアズ様と同じような力を持ってる。だからいくらダメージを受けても再生できる。条件はあるけど”

“条件?”

“回復するために魂と言うか、命って言うか、俺と同じように力が必要なんだ”

“つまり、アズ神様……隊長と同じって事?”

“そういう事”


 魔人は今、かなり遅いが受けたダメージを回復している。それも生き返るくらいの傷を。それを証明するように瘴気をまるでアメーバのように広げ、魂をかき集めている。

 

 魔人がアズ様の聖刻だけに反応し狙う理由。ファウナが魔人とアズ様の聖刻は相性が悪いと言った理由。

 限られた中で同じリソースを扱う者同士。魂は俺たちにとってはどんな願いでも叶う魔法のお金。魔人にとっても俺にとっても互いが足を引っ張り合う。


 魔人がアズ様の聖刻ばかりを狙う理由は、とても貪欲で利己的な単純な物だった。


「ようよう! お前らよ! いつも俺に文句あるみてぇだけど、今は俺を倒す練習が出来る絶好のチャンスだぞ! こいつはアズ様の聖刻と同じように魂を集めて生き返って来る! だけど今はチンパンとゼロワンのバリアの中だ! 魂の数は限られてる! ガンガンダメージ与えて瘴気を使わせろ!」


 ミカエル様のバリアは魂すら通れない。つまり資源は今この中にあるだけ。それが無くなれば魔人はもう回復は出来ない。

 同じ特性を持つからこそ見えた弱点。意外と勝利の方程式は簡単だった。


 だけどやっぱり方程式っていうのは訳が分からないようで、折角勝機が見えたと思ったのにやっぱり駄目だった。


「なるほどな。意外と単純なカラクリか。しかし奴は攻撃を受けるたびに対応してくるぞ、モチロン・マックス?」

「えっ⁉」


 奴は回復できないくらい魂が減れば倒せる。だけど奴は攻撃を受けるたびに効かなくなる。つまり…………毎回新しい攻撃方法でダメージを与えるしかなかった。


「姉さん。ピストルと剣と拳以外で、他にダメージを与えられる方法は知っていますか?」

「……誰か魔法を扱える者はいるのか?」


 カスケードは無理。フォイちゃんも無理。チンパンとゼロワンは手が離せないから無理。ブラックチョコレートは……多分無理。ファウナは……多分手伝ってくれない。クレアは勿論無理。姉さんも……無理。ルー……


「ルーベルト!」

「私は人を殺せるほどの魔法は扱えません」


 ルーベルトは無理。


「くっ……」


 苦労たちは、出来るだろうけど殺されちゃう可能性があるから無理……!


「カマボコ!」

「俺は、殺傷系はほとんど使えない」

「…………くそっ!」


 これだけ聖刻者がいて誰一人魔法が使えないなんて、このチームは一体何なのか魔人以上に不思議だった。

 って言うか、再生もするし、進化もするし、耐性も持つし、聖刻も吸収するしで、中学生が考えた僕の最強ボスみたいな魔人はチート過ぎる! きちんとテストして調整していないようなスペックはゲームバランスを崩すだけで、魔人を造った神様のプログラミングセンスは悪いけど全くダメだと思った。


 しかしどんなに文句を言っても、開発者の前ではユーザーなど辞めるか課金に頼るしかなく、もうこの世界は終わりだった。


 そんな世界でも、唯一チート能力を持つ聖刻者はいた。


“落ち着け大将。俺たちなら何とか出来る”


 ここで登場チームカスケード。


“何とかって、物理攻撃も、もう効かなくなるぞ?”


 既に魔人は銃弾に対する耐久力を手に入れている。それに、より破壊力のあるミサイルでも既にカンパネラの姉さんのパンチで覚えられている。天井知らずに火力を上げていくだけでは話にならなかった。


“地球で加工できない物質はほとんど無い。あの固いダイヤモンドですら宝石になってるくらいだ。何も衝撃だけが破壊じゃないのさ”

“確かに……”

“まぁ、ここは俺たちに任せてくれ”

“……分かった”


 多分もう俺たちではあの魔人を削り切るのは不可能。もし俺たちでアレを倒すとするなら、火山の噴火を利用して宇宙の遥か彼方へぶっ飛ばす以外ない。

 そのくらいの相手を何とか出来るとカスケードは言う。


“大将たちは魔人が動くまではそのまま待機していてくれ”

“分かった”


 カスケードとカマボコがどんな作戦を考えているのかは分からない。だけど本当に何かあるようで、二人はガシャっと装填すると銃口を魔人に向けた。


 姉さんたちのあれだけの連撃にさえ耐える魔人。果たしてカスケードたちがどこまで通用するのかは分からない。それでも今はその力に頼るしかなく、ここからはウリエル様の聖刻者対魔人を見守るしかなかった。


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