表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Rampage 2021 - Sweet blood death dawn  作者: 冬野 立冬
幕間
29/72

22話 イレギュラーは着々と……(2)


「ハルネが開いたパーティーの会場ってのは……少し歩くな」


 すすきの駅に降りた洞爺(とおや)蒼矢(そうや)は一旦地上に出て、スマホのマップアプリを使って洞爺が行きたいと言うパーティー会場を目指していた。

 招待状は届いていないが、ハルネのパーティーの事はネットの口コミで開催場所が書かれており、実質公開されている様な物だった。

 二人は札幌の春の夜風を浴びながら街を歩いて行く。


「やっぱり北の大地はまだまだ寒いな」


「東京に比べたらそりゃあな。……今思えば洞爺が来る時は大抵夏辺りだったから北海道の寒さは経験していないのか」


 蒼矢が洞爺と出会ったのは北海道では無く、東京である。

 まだ洞爺が初代弥生会のメンバーであった時にたまたま街中で会ったことから二人の仲は深まっていったのだが、それはまた別の話である。

 洞爺が北海道に訪れたのは今の弥生会が出来てから北海道に部下を配置する為、札幌に下見をしに来た時だと蒼矢は思っていたのだが────


「いや、経験してるぞ?」


「……え?」


 洞爺の返答に蒼矢は思わずあっけらかんとした声を上げた。

 そんな蒼矢に対して洞爺はアレ?という不思議そうな顔を浮かべながら質問をする。


「そういえば俺が一時期北海道で育ったって聞いてなかったか?」


「……初耳だが?」


 かれこれ蒼矢と洞爺は八年近い付き合いになる。

 しかしそんな話を聞いたのは今日が初めてであった。

 蒼矢の返答を聞いた洞爺は「何だ知らなかったのか」と言うと、顎に手を当てながら何かを懐かしむ様に語り始める。


「あれは俺が()()()()()()()()()()時……実家に嫌気が差して部下に北海道に息抜きに連れてけと命令して、そのまま逃亡したんだ。そして部下から盗んでおいた金でしばらく逃げた俺は大きな湖のある町に着いてな」


「……本当に初耳なんだが?」


「そうか?誰かに話した記憶があるんだけど……蒼矢じゃ無かったのかもな!まあ、それで一人の(ジジイ)に拾われてな。そいつに今の戦闘技術を仕込まれたって訳だ」


「ジジイ……?」


 蒼矢の興味深げな質問に対して、洞爺はまるで子が親を語る様な輝かしい眼を携えて答えた。


「俺の今の名前……籤骸(くしがら) 洞爺を名付けてくれた人だ。俺に戦闘のノウハウも教えてくれた。だから俺は今この地位に居る。久々に思い出したら会いたくなってきたな」


「そんな人が居たのか……会いにいくなら車は出すぜ」


「いや、会いたいのは山々なんだが『手前(てめぇ)の目的を果たすまで俺の前には顔を出すんじゃねえぞ』って約束してるからな。今はまだ会えない」


「……なんというか、本当の親父より親父してんな」


「ハハッ!違いないな!」


 そんな事を話していると蒼矢と洞爺は目的地であるビルの目前まで足を運んでいた。

 辺りは何やら喧騒に包まれており、一目で何かあったのだとわかる状況になっている。

 スーツやドレスに身を包んだ若干老齢の人間達が(まばら)にビルの入り口を囲んでおり、その半円の中心にはパトカーが数台止まったいた。

 その中には早速情報を聞き付けたテレビ局と思わしき人間達も混ざっており、「まだ新市長の姿は見られず……」と状況説明している声が聞こえた。

 さらにテレビ局の人間達は機材の不具合でもあったのか、何やら忙しない様子が見受けられる。


「……何やら問題ありって感じだな」


 洞爺はそう呟くと(きびす)を返してビルの裏側へ足を進めた。


「何処に行くんだ?」


 突然方向を変えた洞爺に対して慌てて蒼矢はその後ろ姿を追う。


「正面は警察がいるから入れないだろう。なら裏口からだ」


「……裏口に警察が居た場合は?」


「耳を澄ましても裏口側からパトカーの音は聞こえない。きっとまだ裏口の存在に気付いていないんだろう」


「何で洞爺は裏口があると……?」


 蒼矢は洞爺の案に純粋な疑問を投げた。

 洞爺はそんな質問に対し、淡々と説明しながら歩みを進めていく。


「裏口と言うか……まあ勘ではあるんだが、この手のビルの裏には非常通路のドアと輸送品をそのまま下ろせる駐車場、そして従業員用のドアがあるだろ?その中で今一番安全に入れる場所は何処だと思う?」


「場所……何処だ?」


 逆に質問された蒼矢は全く答えがわからずにさらに質問に質問で返してしまう。


「この騒動の原因は恐らく正面の窓をブチ破って入った奴、それと恐らく他の所────即ち裏口から侵入した奴等がいる」


「なんでそれがわかるんだ?」


「簡単だ。ビルの電気が落ちてる。エントランスだけならまだしも五階まで不自然に消えてるのは地下か一階に設備されてるブレーカーか何かを落としたんだろう。正面突破を図る奴がそれを出来るとは考えにくい。なら他に侵入した奴がいると考えるのが妥当だ」


 洞爺はビルの角を曲がり、さらに歩みを進めながら話を続けていく。


「そして最初の質問に戻ろう。一番安全に入れる場所だったな。俺なら地下駐車場を選ぶね。理由は二つある。一つは車で乗り込めるからだ。そうしたら警官に道を塞がれようが頑丈な装甲をしてる車に乗ってれば無理矢理強行突破も出来るしな」


 洞爺は一つ目の理由を語り終えると、淡々とした調子で二つ目の理由も話して行く。


「二つ目は一番目に付きにくい場所だからだ。警官の中にも頭のキレる奴はいるだろうからそろそろ裏口に手配を回すだろう。それでも輸送用の地下駐車場は恐らく最後になる筈だ。わざわざ監視カメラの多い地下駐車場、そして輸送品を運ぶ遠回りのルートを選ぶのは侵入者として得策とは言えない。でも今回はそれが逆に良い判断になってるけどな……とは言えこんな豪華なパーティーに侵入を果たして何かをしようってのが変な話だけどな」


 洞爺の考察に蒼矢は思わず感嘆の声を上げた。と、同時に目の前の男は自分も侵入をしようとしてる人物の一人だと言うのに、相手をディスっている部分には苦笑してしまった。

 それでも時々抜けている時はあれど、洞爺は日本で最も勢力を伸ばしている組織のリーダーなのだなと再認識をさせられた。

 しかし、そんな蒼矢は洞爺の理論に小さな疑問を持った。


「けど、駐車場だろうとなんだろうと監視カメラは付き物だろ?そんな車なんかで来たらナンバーも抑えられるし目立つだろ」


「そうだな。けど今回このビルの騒動に関わってるのは少し面倒な奴らしい。さっきから携帯の連絡が付かないしテレビ局がこんな大騒動だってのにまだカメラを一台しか回せてない。それで少し手間取ってるみたいだしな」


 洞爺の言葉通り、蒼矢は携帯を確認すると画面の左上には圏外と表示されていた。

 いつの間に確かめたのだろうかと聞こうとしたが、洞爺はさらに言葉を続けたので蒼矢はその質問を喉の手前で留めた。


「恐らく電波ジャックでもしてるんだろ。にわかには信じ難いけどな。けど状況が物語ってる。こんな事する奴らなんだから監視カメラなんて屁でもないんじゃないか?まあ、これも予想だけどな」


 そんな事を話していると地下駐車場の入り口と思われる場所へ二人は着いた。


「さあ、ビンゴだ」


 地下駐車場の奥に見える明らかに異質な、黒に塗られた荘厳(そうごん)なトラックとは言えない車を見て洞爺は指を鳴らした。

 その車は『NOT』の物であり、運転席にはメンバーの帰還を待つ隊員が乗っていた。彼は警官が気付くまで、ギリギリ地下駐車場で隊員を待つ様に命じられていたのであった。

 それを知らずに洞爺と蒼矢はその車に近付いていく。

 ある程度近付いたところで、運転席にいた『NOT』の男がバックミラー越しに洞爺達の存在に気付き、慌てて腰のナイフに手を掛けながらドアを開けた。

 服装的に警官では無いがわざわざ輸送のトラック以外がほぼ出入りしない地下駐車場経由に足を運ぶ者に注意を払わない訳にも行かない。

 男は警戒を強めながら言葉を発する。


「止まれ。貴様は何者だ」


 ナイフを向けて脅しをかけた直後────男の視界から黒コートを羽織った片方の男が消えた。


「名乗るのはお前の方だろ?」


 気付けば男のナイフを握っている右手は取り押さえられ、挙句に男の首は背後に回っていた洞爺によって絞められていた。


 ────あの一瞬でどうやって!?


 十メートルは距離があった。しかし男は既に背後に居る。

 明らかに物理法則を無視したとしか思えない速さに男は、すぐに洞爺が只者では無い事を悟った。


「どうした?早く名乗れよ」


 洞爺は呆気に取られている男の首を若干強く絞めると、男は慌ててナイフを握っていない左手を首元に持っていき、抵抗を試みた。

 しかし洞爺の力が弱まる事はなく、男は段々と息が詰まって行く。

 そんなタイミングで洞爺は力を緩め、再度同じ質問をする。


「もう一度聞く。お前は何者だ?」


 男は苦しみから解放された代償として咳をしながらも、洞爺の質問に返答をした。些かそれは洞爺が望む返答とは違ったのだが。


「……答える義理はない」


「そうか、残念だ。じゃあ手荒に行こう」


 洞爺は残念とは口にしているが、その口元には薄笑みを浮かべながら次の手段に移る。

 洞爺は右手に力を入れて相手の右手からナイフを落とす。

 すると洞爺はその右手の人差し指を捕まえ、一気に力を入れる。

 ポキリ、という音が駐車場に虚しく響く────


「ウゥっ────」


「おっと、叫ぶなよ。周りにバレたらどうする」


 洞爺は空いた左手を無理矢理相手の口に詰め込み、叫びを抑えてみせた。

 男は痛みに悶えながら脚をバタつかせたりなど抵抗を試みるが、洞爺には全く動じる気配がない。


「少しうるさいな……」


 ポキリ。

 再び駐車場に響いた虚しい音と共に、男は指を折られた意図を察したのか、痛みを声に変える事を堪えて見せた。


「さあ、早く答えた方が身の為だと思うが?」


「……聞こえなかったか?答える義理は無い」


 男の回答を聞くと洞爺は、男を無理矢理自分の正面に向けさせ、顔面に一際強い衝撃を与えた。

 男は一瞬で気を失いその場に倒れ伏した。


「良かったのか?最後まで聞かなくて」


「指の二本で話さないなら何しても話さないさ。肝の据わった奴だ」


 洞爺は殴った腕をぷらぷらと遊ばせながら先へ進み出す。

 その後ろを蒼矢は慌てて追った。


「テロリスト……なのか?」


「テロリストなら正面から侵入して人質を盾に立て籠るだろう。何が目的なのかイマイチわからんな」


「あの車って事は他にも仲間がいそうだな」


「そうだな……あの車だと三十人は乗れそうだったからな」


「まだ中に同じ格好をした奴がわんさかいるんじゃないか?その場合も蹴散らすのか?」


「うーん……まあ、強行突破で行けるんじゃないか?」


 蒼矢は洞爺の返答を聞くと大きなため息を吐いた。

 ただでさえ、日本で今一番勢力を伸ばしている組のリーダーともあろう人物が警察が包囲しているビルにみすみす突入すると言うのに、もしもの場合は強行策に出るのだと言う。それも、ハルネと話してみたいという理由だけで。

 しかし蒼矢がため息を吐いたのはその部分では無い。

 蒼矢は知っている。洞爺にはそれが可能なのだと。

 だからこそリーダーを止められない自分に対して蒼矢は────大きなため息を吐いたのだった。


 ×                         ×

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ