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運動会です。
夏休みが終わって二学期が始まった。季節は秋に近づいており、夏の暑さが嘘の様に涼しくなってきた。
「今日は清々しく、実に運動会日和……」
校長先生の長い挨拶にあくびが出そうになる。
そう、今日は運動会だ! これまで沢山の困難(練習)に打ち勝って、やっと形にする事が出来た。本番に間に合って良かった!
「舞、ピラミッドの一番下頑張ってね! 」
雄大がそう言った。私は背の高さ故か、一番下になってしまったのだ。七段ピラミッドなのだが、上六段の体重を背負わされる苦しみには今だに慣れない。
「舞! リレー頑張ろうね! 」
由美はいい笑顔でそう言った。くそっ!あんたのせいで散々な目にあったんだからな! 由美が置いて行ったエロ本をお父さんが見つけてしまい「舞もそういう年頃だよね…」と言われてしまったのだ。凄い恥ずかしい!
「水谷さーん!二人三脚頑張ろうね〜」
……三山はそう言った。私達はペアになったのだ。
時間は遡る。二人三脚のペアをくじ引きで決める事になり、私は一番を引いた。
「あ〜水谷さん一番なの〜? あたしも一番〜よろしく〜」
こうして、私と三山はペアとなったのだ。
これまでの練習で、三山は何もしてこなかったが、こいつは何を考えているのか分からない。三山は今もヘラヘラと笑っていて、内心何を考えているのか分からず怖い。
運動会は恙無く進んでいった。組体操はうまくいき、最後のピラミッドも少し腕が震えたが崩れる事なく成功した。リレーも、上手くいった。私にバトンを渡すのは白田さんなのだが、私達は息があっている様でとても自然にバトンの受け渡しが成功した。そして後ろの子に何とか抜かされずに走る事が出来た。
問題の二人三脚の時間になった。左足を三山の右足に合わせ、足首を紐で結ぶ。その時、ズキリと左足に痛みが走った。リレーの時に少し捻ったのだ。その時はそこまでだったので放っておいたのを、今更ながら後悔した。
私達の番になった。左足はズキズキと痛む。それでも私はピストルの音と共に走った。しかし半分くらいまで走った時だった。左足に力が入らなくなった。転ぶと思った。しかし転ばなかった。三山が支えてくれたのだ。
「無理するからだよ。ばーか」
私にしか聞こえないくらいの声で、三山はそう囁いた。声は真面目だった。三山らしくない。
私は三山に支えられて何とかゴールまで走る事が出来た。
「舞〜!こっちこっち! 」
保健室から戻ってきた私に、由美はそう言った。今は昼休み。例年の通り、由美は私とお父さんと昼ご飯を食べる。しかし、今回は少し人数が増えた。アダムくんと雄大、そして河内さんだ。河内さんのお腹は控えめながら膨らんでいる。赤ちゃんがいるのだ。昨年結婚した河内さんは今年の春、待望の第一子を授かったのだ。
「大丈夫ですか? 産休に入ったと聞きましたが? 」
「大丈夫です。安定期に入りましたから。舞様のご活躍を撮るのは私の楽しみなのです」
そう河内さんは凛々しい顔を少し緩めて言った。
それを黙って聞いていたアダムくんと雄大は、遂に口を開いた。
「すみません。なんか昼ご飯をご馳走になる事になってしまって」
「僕なんて理由も無いのに、すみません」
アダムくんのおばあさんは昨日ぎっくり腰になってしまったらしく、おじいさんはおばあさんの介護で忙しく、今日の昼ご飯を作れないようだった。それを知った私は、よかったら一緒に食べないかと誘ったのだ。毎年お父さんは張り切り過ぎて沢山料理を作ってくる。だから大量に余ってしまうのだ。だから人数が増えると助かると思った私は、ついでに雄大も誘った。雄大はいつも親と食べているから無理かと思ったが大丈夫だったらしい。
「水谷、足大丈夫か? 」
アダムくんはそう聞いてきた。私の足は軽い捻挫だった様で、安静にしていれば大丈夫だそうだ。午後の競技は見学させてもらう。
「今は全然痛く無いし、大丈夫だよ」
私がそう言うと、由美は言った。
「二人三脚、後半殆ど三山さんに支えられて走ってたよね〜」
私は、ウッとなった。由美は私が三山のことを嫌っているのを知っている。何故かは知らない様だが、私が理由も無く人を嫌う事は無いと分かっている。しかし、その嫌ってる人物に助けられていた姿を彼女はからかった様だ。小悪魔め。
三山の「無理するからだ。ばーか」と言う言葉を思い出した。あの時の彼女は笑っていなかった。あれが彼女の素なのだろう。助けてくれた事から、私の中で三山は少し好感度が上がっていた。
午後の部が始まった。
私は足を怪我しているので全て見学した。
運動会最後の種目、借り物競走の時に事件は起きた。この種目は生徒会が作ったもので、一年生から六年生まで誰でも参加して良いというものだった。その種目に三山は出たのだ。
「田中くーん!一緒に来て〜」
なんのお題が出されたのか分からないが、三山はアダムくんを連れて行こうとしたのだ。それだけならまだ良い。三山について行こうと立ち上がった彼の腕を掴んだのだ。運動服は長袖で直に触られたわけでは無いので、アダムくんがパニックになる事はなかったが目に見えて顔色が悪くなっている。それでも三山はアダムくんの腕を掴み続けた。
三山はお題を生徒会長に見せ、合格をもらっていた。一番に来たので、豪華な賞品をもらっている。そしてアダムくんに何かを言った。口の動きから「ありがとう」だと思われる。アダムくんは顔色悪く、苦笑いをしていた。
「何であんな事したんだ⁉︎」
運動会が終わった後三山を捕まえて、人気のないところでそう叫んだ。
「アダムくんが女性に触られるのを苦手にしているのお前も知ってるんだろう⁉︎ 何故彼を選んだんだ⁉︎ 」
「肌が黒いってお題だったから」
「他にもいただろう‼︎ 運動部とか‼︎ 腕を掴む必要も無かっただろう‼︎ 」
三山はめんどくさそうに頭をかいて、ハァと溜息をついた。
「本当にあいつのこと好きなんだね〜」
そう言われると何も言えなかった。
「ハハ!図星〜!舞ちゃん顔真っ赤よ〜」
三山は楽しそうにそう言った。
「あなたの大好きなアダムくんは、どう思うだろうね。あなたが自分の事を友達以上に思ってると知ったら。こいつも襲って来た女と変わらないとか思うじゃないかな〜!そして友達じゃなくなると同時に口さえも聞いてくれなくなるかも……悲しいね〜(涙)」
三山は泣き真似を始めた。
「……何が言いたい」
「いいや何も〜 あーでも舞ちゃんに傷つけられたら全部ポロっと言っちゃうかも〜」
どうやら私を脅している様だ。三山はくるりと背中を向けると「これからもよろしく!まーいちゃん!」と言って歩いて行った。
三山が居なくなっても、私はその場から動けなかった。
「そんなの分かってるよ」
アダムくんは性的な事で沢山怖い思いをしたんだ。女性にそういう意味で好かれるのは嫌だと分かってる。だから今まで煩悩を消そうと奇行に走ったり、性的な物は読まない様にしてきたんだ。アダムくんをそういう目で見つめない様に。
「分かってるんだ」
胸が苦しくなった。分かってるけど言ってほしくない事を三山は的確に突いてきた。
やっぱり三山は嫌な奴だ。
お読み頂きありがとうございました。




