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「私が寝込んでいた時にそんな事件があったとは」
夏風邪から復活した由美は、私の部屋でそう言った。
現在、私達は夏休みの宿題を片付けてる真っ最中だ。由美は勉強が苦手らしく、何度も私に聞いてくる。私は前世の記憶があるのでこれくらいの問題は苦ではない。
「アダムくん、舞は大丈夫かもしれないけどアタシとか他の女子にまた心閉ざしたりしないかな? あれ? 答えが合わない」
「ここが割り算じゃなくて掛け算。多分大丈夫だと思うよ。」
私は、由美の疑問に算数の間違いを指摘しながら答えた。あの時、部屋から出てきたアダムくんの瞳に恐怖は無かった。しっかりと私を見つめる事が出来たのだ。大丈夫だろう。
「こいつは腰抜けだが、他人の気持ちを考える事は出来る。これからも仲良くしてやってくれ」
アダムくんのおばあさんは、帰る時そう言った。結構辛口の人だが、アダムくんを思っている事は分かる。そして、ポチも尻尾をフリフリしながら純真な瞳で見送ってくれた。そしてアダムくんも見送ってくれた…
「水谷、またな」
そう言ってくれた。
そんな事を思い出しながら鉛筆を動かしていると、いつのまにか宿題を全て終わらせてしまっていた。
「終わった」
「えっ! 早すぎ! ちょっと待って〜」
由美は焦り始めた。焦ると間違いやすくなるのでやめておいた方がいいと思うのだが。
「あー! 答えが変! 」
やっぱり。
数分後、何とか宿題を終わらせた由美は大の字で床に転がった。
「何とか全てを終わらす事が出来た。もう思い残す事は無い。ガクッ」
「死ぬな〜生きろ〜」
死んだフリをする由美に私は気の抜けたエールを送った。そして、先程お父さんが用意してくれたお菓子を食べる。由美は匂いにつられたのかムクリと起き上がった。
「そうだ、まだ心残りがあった。水羊羹を食べるまで死ねない」
由美はそう言って水羊羹を食べ始めた。この水羊羹、あんこだけでなく抹茶の味もあり、私は抹茶味が好きだ。なので今食べているのも抹茶味なのだが、つるりとした飲み心地が何とも良い。抹茶の苦味も少しあってそれもまた良い。
「舞、私はこんな物を入手してしまったんだよ」
水羊羹を食べ終わった後する事も無いのでボーとしていると、由美はそんな事を言ってある物を出した。それはコンビニの端にある雑誌。子供は絶対に買えない雑誌。
エロ本
私は顔が熱くなるのを感じた。
「な、ななな、なんなんてもももものを持ってきたんだい? 由美さん! 」
テンパりすぎて呂律が回らず、口調が可笑しくなった。
「ふ、ふ、ふー。これは成人した姉を持つSさんが姉からゆづり受けた物の一つらしく、他にも沢山あるからと貰ったのだよー」
由美はそう言った。いやいやいや貰ったのだよーじゃないよ。私達小6よ。まだそういうのを読むのは早いと思うのよ。
「私は読まない! 読むんだったら一人で読んで! 」
「あっそ! じゃあ一人で読むしー! 後から読みたいって言っても知らないから! 」
そう言って由美はエロ本を開こうと構えた。しかし、いつまでたってもそれは開かれない。由美の手は力が入っているのか震えている。ブルブルブルブル。
「ダメ! 開けない! お願い一緒に見て! 」
由美はエロ本を持って迫ってきた。
「嫌だよ!何で私が! 」
「家でも開こうとしたんだよ! でも開けなかった! なんか怖いんだよ! 大人の階段登るの怖いんだよ! 舞と一緒なら登れるかもしれない! だから一緒に読もう! 」
もうめちゃくちゃだ。意味が分からない。怖いなら読まなければ良いじゃ無いか。そう言いたかったけれど由美の目が血走っていて怖く、言えなかった。
「イーヤーダー! 手を離せー! 」
「一緒に読んでー‼︎ 」
由美は私にエロ本を近づけた。私は掴まれている手を思いっきり振り払った。その結果、エロ本は宙を舞った。
エロ本のページがバラバラとめくれて、中身が見えた。裸の男の人が沢山いた。
ボトッという音で我に返った。エロ本が落ちたようだ。とても刺激的な物を見たのに、私は興奮していなかった。むしろアダムくんの食事シーンを思い出す方が色々とヤバイ。私はアダムくんに対してしか興奮できないのだろうか?
「由美? 」
さっきから何も言わない由美に違和感を覚え、彼女の方を見た。由美は立ったまま、鼻血を出して気絶していた。
「はっ⁉︎ 」
由美が目覚めた。自分の状況に戸惑っているようだ。
「いったい何があったの⁉︎水羊羹を食べた所までは覚えてるんだけど⁉︎ 」
エロ本のくだりは綺麗さっぱり忘れたようだ。
「……Sさん」
「は?誰それ? 」
ショックでエロ本の存在も忘れたようだ。
「何でもない。きっと暑すぎたから倒れたんだよ」
「え、そうかな〜? この部屋冷房効いてるけど…」
「鼻血も止まったようだし、もう遅いから帰った方が良いと思うよ。今日は由美のお父さんとお母さん早く帰ってくるんでしょ」
「そうだった! 舞ありがとう! じゃーねーお邪魔しましたー! 」
由美はそう言って帰っていった。今日は本当に疲れた。早く寝よ。
お読み頂きありがとうございました。
エロ本は舞の部屋に置かれたまま……




