35話
空に、
「もう人口呼吸器の準備進めた方がいいよ…」そう言われた。
僕は輝にもうこれ以上辛い思いをさせたくなかったから、
「分かった」そう言って輝の病室に向かった。
輝は相変わらず具合が悪そうで、早く楽にしてあげたかった…
「なぁ輝、もうあんな苦しい思いしたくないだろ?だから呼吸器つけようか…」僕の声は震えていたと思う。
あんなに輝に生きて欲しいって願ったのに、いざつけようってなったら、やっぱり躊躇してしまう。
だってつけたら輝から何もかも奪ってしまうんだよ?
話すこと、食べること、笑うこと…
何より、輝のプライドを…
でも、輝は必死に瞬きを繰り返して、僕に
「生きたい。だからつけて!ごめん…」そう言った。
「輝…大好き。これから何があっても、この気持ちは決して変わらないから」僕はそう言って、輝を抱きしめた。
何分この状態で居ただろうか…
空からの着信に気づかなくて、空がやって来た。
「灯、メール見てないの?」
「えっ?ごめん…」
「まーいいや。ごめんね、輝くん。ちょっと兄貴借りる」そう言いながら空は僕を病室の外に出した。
「空、どうしたの?輝のこと?」
「うん…ここじゃあれだな。食堂行こうか」そう言って空は食堂に向かった。
食堂はガラガラで、医者は僕らだけしか居なかった。
「空、何?」
「輝くんのことだけど、出来れば今週中にも呼吸器つけたほうが…」
「あぁ、そのつもり。輝もそれを望んでるから…」
「じゃあさ、灯。輝くんと話ししたくない?」
「えっ?…」何言ってるの?輝は…
「一時的だけどさ、筋肉を緩めてくれる薬あるんだ。本来こんな目的で使わないけど…」
「輝と話せるの?」
「うん。副作用酷いけど、1回ならそんなにおきないと思うからさ…」
「うん…でも」少しでも、輝を傷つけるようなことはしたくない…
だけど。だけど…
輝の声が聴きたい。
わがままだって分かってるけど、僕は輝の声が聴きたい…
「空、僕わがままになっても良いのかな?」
「灯…?」
「輝の声が聴きたい。少しでもいいから輝と話したい」
「分かった。準備するから病室で待ってな」
「うん。ありがとう…」
「輝、ただいまっ」僕がそう言いながら輝の頭をなでると、輝は
「……ん…」辛そうに目を開けた。
「ごめん、寝てた?」
「……」輝からは、当然のように返事はない。
「あのね、今週中には輝に呼吸器つけるんだ。だからさ、その前に少しお話ししない?」
僕がそう言うと、輝は潤んだ目を僕に向けた。
「一時的だけど、僕と話しが出来るって!」
「灯~輝くん。準備出来たよ」そう言って空が病室に入ってきた。
「本当に話せるの?」
「そうだよ。輝くん!でも…注射していい?」
「うん…」そう言って、輝は、目を閉じた。
そして、涙が輝の目から溢れた。
「ごめんね、一回で成功させるから」そう言って空は泣いている輝の腕を取って、針を刺した。
輝の腕はかなり細くて、一回で成功させることは難しいだろう…
だけど、空は約束した通り、一回で成功させた。
「空、ありがとう」
「本当は注射以外でしたかったんだけど無くてさ…輝くんごめんね」
「……」
「30分くらいしたら効果出てくると思うから」
「うん分かった」
30分たった。
「ひ~か、手動かせるようになったら、僕の手を握ってね」僕はそう言って輝の手をとった。
でも、その確認の必要は無かった。
輝が、にっこりと天使の笑顔を見せてくれたからだ…
「兄貴!僕…」そう言って輝は泣いた。
「輝…泣くなよ。せっかくきれいな顔なのに」そう言いながら僕も涙を流した。
空は、
「何かあったら呼べよ」そう言って病室を出て行った。
輝の話はゆっくりだった。
でも、しっかり僕に伝わった。
輝の笑顔は可愛かった。
僕を幸せにしてくれる。
だから、この世界に輝の全てを留めておきたかった…
無くなるなんて嫌だった…




