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第5話 後始末

この程度の文章量が一番楽かもしれません。

「な、何がおきたんだ・・・・・・」

呆然とした表情を浮かべ、燃え上がるTSPを見つめる戸上。

として、背後では衝撃波でややふらつきつつも起き上がってきたエミリアとクリーガーがいた。

「二人とも無事か!」

二人に駆け寄る戸上。

「あ、ああ・・・・・・なんとかな」

愛用のライフルを杖代わりに立ち上がるクリーガー。

「イタタタタッ!な、何が起きたんですか?」

「とにかく、まずは無理して起き上がるな。状態を確認する」

そういって、背嚢からいくつかの医薬品を取り出し二人の体調を確認する。

幸い、二人には軽い擦り傷や擦過傷があるだけで、骨折などの重大な負傷はなかった。

しかし、感染症などを警戒して傷の手当は迅速に行う。

「相変わらず、手際がいいですねアキオ」

「ま、一応、これが本業だからなぁ。それに戦場での怪我は軽視すると後で取り返しのつかないことになるからな」

苦笑しつつ、治療に使用した道具をしまう。

「しかし、なんで急に爆発なんか。もしかして、俺の攻撃が原因か?」

「いや、それはないはずだ。TSPには、あそこまで原型を破壊するだけの火器は搭載されていない。それに、ナパームなどの重火器の弾薬はもう使い切っている」

戸上の疑問を否定するクリーガー。

「じゃあ、燃料が爆発した可能性はないのですか」

別の疑問を言葉に乗せるエミリア。

「それもないな。あれは電力で動くやつだ。開発初期段階では、液体燃料を搭載したのもあったようだが、重量がかさんで動きに支障が出たためバッテリー式に切り替わった」

「じゃあ、爆発するような燃料は搭載されてないと」

「そういうこったエミリア嬢ちゃん。せいぜい、燃焼するのはジョイント部分に使われている潤滑用のオイルぐらいだが、それだって量はたかがしれている。あんな爆発はありえない」

(液体燃料などは搭載されてない。あっても潤滑油程度しかない。では、なぜ爆発した。漏電か?いや、電源ケーブルは切断したが、漏電による爆発はありえない。そもそも、爆発物がない以上は爆発はできない。残った弾薬の火薬量ではあの爆発はありえない規模だ)

クリーガーの説明をきいて、腑に落ちない点を感じる戸上。

爆発した原因が判明しないからである。

「とにかく、ボネ達と合流しよう。あと、バリスも探さないとな」

「あ、あの・・・・・・」

バリスの名前が出たとたん、急に暗い表情になるエミリア。

「うん、どうしたんだ?」

エミリアの表情を見て、不思議に思うクリーガー。

「そ、その、こっちに来る途中にこんなものを・・・・・・」

そういって、黒焦げたドックタグ(認識票)を見せる。

「お、おいおいおいおい・・・・・・。何かの冗談かよエミリアちゃん」

「黒焦げになってますが、バリスさんの名前が微かに読めます・・・・・・」

「どこで拾った」

「すぐそこの窪地です。あと、バラバラになったライフルの残骸もありました」

「・・・・・・アキオ、すまない。ボネ達のところへはお前達だけで行ってくれ。俺は、バリスのところにいってくる」

「ああ。ボネさんたちには俺から話しておく」

「すまんな」

そしてドックタグを受け取り、バリスがいたと思われる場所に向かうクリーガー。

戸上もエミリアを連れて、一度ハンヴィーに戻り医薬品の入ったファーストエイドキッドを持ってボネ達のところに向かった。



ボネ達がいた場所は、歩いてほんの10分程度の距離であった。

だが、随処に戦闘の跡があり、草原にはうっすらとだが硝煙の匂いが漂っていた。

そして、ボネ達は各坐したハンヴィーの近くに座りこんでいた。

「よう、大丈夫か?」

「アキオか!そっちも無事のようだな」

「ああ・・・・・・と、言いたいが・・・・・・」

「どうした、何かあったのか?」

「バリスさんが戦死した。エミリアがドックタグを見つけたよ」

「・・・・・・そうか」

悲痛な表情を浮かべるボネ。

「ところで、負傷者はいるか?」

「3人いる。一応、見てやってくれ」

「わかった。エミリア、お前はトラックの直衛をしている連中のほうにいって怪我をしてないか確認してきてくれ。軽傷なら、お前さんが手当てしてやれ」

「えっ、でもここはいいのですか」

「向こうも確認しておく必要がある。それに、お前さんにも応急処置の経験を積ませたからな」

「わかりました。では、車列のほうをみてきます」

そういって、医薬品の入った鞄を片手に車列のほうに向かう。

「いいのか」

「たぶん、まだあいつにはこの後のことはキツイからな。俺がやるよ」

そういって、各坐したハンヴィーを背に地面に座り込んでいる傭兵達の前にかがむ戸上。

そして、瞬時に状況を把握した。

三人の表情は青く、全身に弾痕が刻まれていた。

二人の傭兵は、腹部から出血しておりその血の色は黒ずんでいた。

そのため、三人の傭兵が来ているモスグリーンの迷彩服は、血が滲み赤黒く変色していた。

瞬時に、内臓が完全にやられていることを把握する戸上。

「よ、よう、ルーキー。無事だったか」

比較的傷の浅い(といっても腹部から出血している傭兵に比較してだが)が、戸上に弱々しくもはっきりと話しかけてきた。

「ああ。俺と相棒は無事だ。クリーガーさんもな」

そこで言葉を止める戸上。

「バ、バリスの奴は死んだか・・・・・・。けっ、あの野郎には酒の貸しがあるってのによ・・・・・・。勝手に死にやがって・・・・・・」

「とりあえず、三人とも手当てを」

「止せよ。もう無駄だよ。見りゃあわかるだろう」

「・・・・・・ああ」

「なら、楽にしてくれ・・・・・もう息もするのもきついんだよ」

そう言って、軽く咳をする傭兵。

咳をするたびに、口元から血が漏れ出していた。

「ボネさん・・・・・・」

「アキオ、何か楽にできるものがあればやってくれ。お前さんなら何かあるのだろう」

「ああ、ひとつある」

そして、医薬品の入った鞄から注射器と透明な薬品が入ったアンプルを取り出す。

「こいつは、強烈な鎮痛剤だ。少量なら死ぬ心配はないが、多量に使えば痛みを取り除くと共に死に至る。ただ、苦痛はない」

戸上が傭兵の仕事をすると決めた後、とある薬品を扱う店で見つけた薬である。

万が一、自決をしなければならない場合に備えて用意したものである。

「そ、そうか。そいつは助かるよ・・・・・・」

うっすらと、笑みを浮かべ返事をする傭兵。

ほかの二人も、声にこそ出さないが戸上に感謝していた。

「いいのか本当に」

「愚問だぜ。それに、お前も傭兵なら・・・・・・兵士ならわかるだろう。ら、楽にしてくれ」

「わかった」

そう言って、三人に致死量分の鎮痛剤を注射する。

「・・・・・・ああ、痛みが引いていく。ありがとうよルーキー。しみったれた傭兵の最後にしては上出来だ・・・・・・。ボネ、悪いが休ませてもらうぜ」

「ああ、ゆっくり休め。団長には、俺から話しておく」

だが、ボネの問いかけに傭兵が答えることはなかった。

そして、戸上が三人の首筋に手を当て臨終したことを確認した。

「終わったよボネさん」

「ああ。感謝するよ」

「なぁボネさん、ひとつ聞いてもいいか?」

「なんだ」

「TSPって、傭兵団とかでも買えるのか」

「いや、基本は無理だ。あれは、国軍が開発依頼した兵器だ。払い下げ品でさえ、国有企業とかでないと購入できない。それに、ここリューベック自由貿易連合ではあんな重装備の軍隊は存在しない」

「一応、国家なのに重装備の部隊は存在しないのか?」

「商人ギルドが母体の国家だからな。それに、ここを攻めようとする国はないよ。リューベックに本社がある企業の資本が各国には存在しているからな。資本を引き上げられると、自分の国の経済が立ち行かなくなる」

「富は権力なりか。しかし、そうなるとTSPは管理がうるさいものになる。じゃあ、なんで野盗があんなものを」

「さあな。どこからから盗まれたものなのかもしれんがな」

「正直、盗んで使えるものなのか?」

「初期型のTSPだろう。あれは、最新型と違いセキュリティもザルだ。少しソフトウェアに詳しいやつがいれば、セキュリティコードの解除なんかは容易にできる。どこからか、盗んでこれば使うことは可能だ」

「厄介な話だな」

「まあ、俺達傭兵がTSPとやりあうなんぞ、そうめったにないことだ。むしろ、野盗の群れのほうが厄介だぞ」

「そうだな。それより、彼らはどうする?搬送するのか?」

「いや、ここに埋葬していく。俺達の本拠地は、ここじゃなく別の国だ。できれば、遺体を故郷に送りたいがそれもできないからな」

「わかった。じゃあ、ここに埋葬しよう」

そう言って、ハンヴィーのトランクに積まれているシャベルを持ち出し、地面に埋葬用の穴を掘り出す二人であった。



戸上達が戦闘後の後始末をしているころ。

その死角になる、小高い丘の上で数人の黒ずくめの集団が戸上達を監視していた。

「あちゃ~、野盗は全滅か~。ま、あんな旧式TSPもろくにつかいこなせないとはねぇ」

やや、小柄の黒ずくめの人物が双眼鏡を片手にそう呟いた。

「やはり、傭兵が勝ちましたか」

「まあね~。君の言ったとおり、随伴歩兵をつけないTSPは脆いね」

「ええ。経験がありますから」

答えたのは、黒ずくめの服装の上からでもわかる筋肉質の人物であった。

「しかし、よろしいのですか。せっかく開発した、新型戦闘OSを搭載したTSPをあっさりと自爆させて」

「ああ、問題ないよ。というか、むしろクライアントからは回収不可能の場合は自爆させるようにと言われているからね。それに、野盗が生き残ってもTSPは自爆させる予定だったしね」

「残骸から、こちらの素性がばれる心配はないのですか?」

「大丈夫。あれに、『コード』は入ってないから。まあ、不正TSPとそのパーツとしか傭兵ギルドも認識しないさ」

「用意周到ですな」

「ま、そうしないとね。さて、この近くだっけ連中のアジトは」

「はい。ですが、何をなさるのですか?」

「うん?そりゃもちろん、痕跡を消すためさ。連中が、我々と接触した証拠を残していないとは限らないからね。念には念をさ」

「了解しました。おい、装備を確認の上、現地点を離脱する。2名、後方警戒態勢を維持。準備急げ!」

すぐさま、部下に命令を下す大柄の黒ずくめ。

直後、統制の取れた集団はすばやく移動準備を完了させ、その場にいた痕跡をすばやく消しその場から立ち去っていった。



戸上とボネは、仲間の傭兵達を埋葬したあとエミリアのいる輸送トラックの車列に移動していた。

既に、野盗の襲撃もないため、トラック警備に残っていた傭兵達も腰を下ろし楽な姿勢をとっていた。

もっとも、車列に残っていた傭兵達は前の戦闘で負傷しており、今回の戦闘ではそれほど戦闘に参加していたわけではなかった。

「皆さん、怪我とかはないですか。怪我をした人がいたら教えてください」

負傷者がいないか、全員を見て回るエミリア。

「ああ、大丈夫だ。やつらこっちにはほとんどこなかったからな。ま、ちょいとけん制にきたやつがいたが俺達で蜂の巣にしてやったさ」

それほど、怪我のひどくない傭兵がエミリアに話しかけてきた。

「あははは・・・・・・」

「で、嬢ちゃんは大丈夫なのか?」

「ええ、私は大丈夫です。これでも、獣人ですから。それも銀猫族ですから」

「銀猫族の面目躍如ってやつか」

「それより、傷口が開いた人とかいませんか」

「まあ、大丈夫だと思うが。おい、みんな一応自分の怪我を確認しろ。悪化していたらすぐに言え」

すぐさま、動ける者は自分の傷の状態を確認する。

既に重傷で、傷の状態を確認できない者はエミリアが確認した。

結果、悪化していたり、早急の手当てが必要な対象者はいなかった。

そこへ、戸上とボネが近づいてきた。

「エミリア、そっちの様子はどうだ?」

「あっ、アキオ。重傷者や、新たな負傷者はいません。傭兵さんも、ドライバーさんもみんな無事です」

「そうか、ご苦労さん。こっちのほうは被害がなくてよかったな」

「ようルーキー、無事だったか」

戸上に話しかけてきたのは、エミリアに状況を説明していた傭兵であった。

「ああ、なんとかな」

「バリス、お前さんのチームはどうした?ほかの奴は?」

「生きているのは俺だけだ」

「なっ!?」

「ほかの奴は、戦闘が終わるまで生きていたが、みな戦闘中に致命傷を負っていた。それでも戦い抜いていたよあいつらは」

「・・・・・・そうか。わからんもんだな、負傷している俺達が戦場では戦死しやすいのに、無傷のあいつらがいっちまうとはな」

目をつぶり、戦友の死に対して黙祷する。

「ところで、ルーキー、ああすまん名前はトガミだったかな。クリーガーとボネの奴はどうしたんだ」

「クリーガーさんは、まだTSPとの戦闘があった場所にいる。その、バリスさんの遺品を捜していると思う」

「バリスも死んだのか!くそっ、あいつも死ぬとはな」

「とにかく、今は依頼を達成することを考えよう。それが、あいつらにとっての最大の慰めだ」

そう言って、仲間の傭兵の方を叩くボネ。

そして、この場所から移動するための準備にかかり始める各人。

戸上とエミリアは、奇跡的に無傷だったハンヴィーの動作チェックと重機関銃の銃座への再装填。

ボネは、負傷の度合いの低い仲間と共に周囲警戒を行っていた。

そこへ、足取りの重いクリーガーがやってきた。

「クリーガー!」

最初に気がついたのはボネであった。

「ようボネ。しぶとく生きていたか」

「お前もな。バリスはやはり・・・・・・」

「ああ、残念だが・・・・・・。これが見つかったよ」

そう言って、ひしゃげたジッポライターを懐から取り出す。

「これはあいつの」

「ああ。親父さんの形見らしい。こいつだけでも回収できたのが不幸中の幸いかもな」

「遺体はなかったのか?」

「ああ。それよりも、急いでここを離れよう。ほかの野盗集団に襲われたらかなわん。トガミとエミリアさんは?」

「お前さんたちが乗ってきたハンヴィーの状態を確認している」

そのとき、ハンヴィーの状態確認を終えた戸上がクリーガーのいるところにやってきた。

「クリーガー、ハンヴィーは無事だ。いま、エミリアが銃座に重機関銃を再装填して動作確認をしている」

「車輪周りとかは大丈夫なのか?」

「問題ない。エンジンも無事にかかった」

「よし。では、急いでウィンヒトラに移動するぞ。仮に野盗の襲撃があってもかまわず強行突破する。急げ!」

そして、一行は戦闘の疲れをその場で癒すことも無く目的地に向けて移動を開始した。



一方、戸上達のいた場所からやや離れた山間部には襲撃に失敗した野盗の生き残りが身を潜めていた。

皆、疲労感と徒労感に包まれ表情も沈んでいた。

「おい、頭はどうなった・・・・・・」

「わからん。さっきから連絡がつかない。TSPの反応もねぇ」

通信機と、短距離だが周囲の敵味方識別ができるレーダーを操作しながら答える野盗の一人。

「とりあえず、これからどうするよ。さっきの襲撃で、武器弾薬も結構つかっちまったし。ジープなどの車両の燃料やバッテリーももうやばいぞ」

「それだけじゃねぇ。交換部品ももう底をついた。このままじゃ・・・・・・」

口々に不安を述べる野盗達。

元々、この連中は戦死した野盗の頭が取りまとめており、頭を支える右腕となるような部下はいなかった。

そのため、誰が今後を率いるのか、目的はどうするのかといった具体案をだす奴は一人としてでてこなかった。

「うん?まて、お前ら。レーダーに反応だ。誰かくる」

「傭兵共の追撃か!」

「いや、それにしてはおかしい。人数が少ない。反応している数は4人だ」

「じゃあ別口か?」

「何のためにここに?鉱山でもあるわけでもないこんな場所になんでくる?」

「わかった。近くの農村のやつが、山菜でも取りにきたんだ!よし、そいつらを襲って奴隷として売り払おう。金になるぞ!」

「いいな、それ。できれば若い女だといいぜ。げへへ」

「お前も好きだな」

そういって、数人の野盗が銃を担ぎその場所に向かおうとした。

だが、彼らがそこに向かうことは無かった。

『ヒュン!』

空気を切り裂く音とともに、一人の野盗が突然ひざをついて倒れた。

「お、おい、どうし・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁ!」

倒れた仲間をみて悲鳴を上げる野盗。

そこには、頭部に大きな穴が開き、脳髄を垂れ流す仲間の死体があった。

「な、なんだよこれ!何が起き・・・・・・」

そこまで言って、急に全身を痙攣させそのまま動かなくなる野盗。

よく見ると、胸部に数発の弾痕が刻まれていた。

「ち、ちくしょう!ど、どこから攻撃してきてやがる!おい、やつらはどっから攻撃しているんだ!お前、そのレーダーで見つけろ!」

「だ、ダメだ。ジャミングがかかっている。さっきから、反応がない!」

「な、なんだと。一体、誰がそん・・・グハッ!?」

何が起きたのかわからず、突然口から吐血する野盗。

そして、自分の体をみるといつの間にか大振りのコンバットナイフが下腹部に一本刺さっていた。

「な、なんで・・・・・・」

絶望した表情を浮かべ、そのまま地面に倒れ事切れる。

「ひ、ひぃぃぃぃ・・・・・・。な、なんだよ、何がおきているんだよ!」

最後に生き残った、レーダーと通信機器を操作していた野盗が恐怖のあまり腰をぬかしていた。

「だ、誰だ!どこにいやがるんだ!」

ライフル銃を構え、四方八方に向けて乱射する。

だが、木の枝を折り、幹に弾丸が当たるだけであった。

『カチッ、カチッ!』

しばらくすると、弾倉が空になりただ引き金を引く音だけが周囲にこだまするだけであった。

「やれやれ、所詮は野盗だねぇ」

突然、誰かの声が響いてきた。

「だ、誰だ!どこにいる!」

「どこって、すぐ目の前だよ」

そして、野盗の目の前に突然、人がひとり出現した。

「う、うわぁぁぁぁ!」

あまりのことに、手に持っていたライフルを投げつける。

しかし、投げつけられた側は冷静にそれを回避した。

「やれやれ、あなたの悪戯ぐせには困りますね。怪我をされると、私が上から文句をいわれるんですよ」

何の前触れもなく、もう一人の人物が野盗の前に現れた。

「お、お前ら人間なのか!ま、まるで幽霊か何かじゃないか!」

「ふむ、幽霊か。いいね、『これ』のネーミングの参考にさせてもらうよ。それはそうと、あのTSPを使っての戦闘ご苦労さん。おかげで課題点が見つかったよ。いや本当に感謝するよ」

「はっ、何をいって?」

「というわけで、君達はお払い箱なわけなんだ。じゃ、後は頼むよ」

「了解しました」

そういって、後から現れた人物が懐からハンドガンを取り出し、何事も無かったかのように野盗に向けて発砲した。

数発の弾丸が、頭部や胸部を貫きそのまま絶命する。

「これで全員ですね。あとはここを爆破すれば終了です」

「うんうん。ま、あの程度の連中が我々の情報をどっかにプールしているとは思えないけどね。一応、連中の痕跡は消しておこう。ああ、ここの爆破にはアレを使うといいよ」

「アレですか。しかし、アレはまだテスト段階では?」

「だからこそ、実地試験が必要だろう。ちょうどいいじゃん。ここにはおあつらえ向きのものがいくつかあるし」

「なるほど。では早速」

しばらくして、山間部に轟音と数条の黒煙が立ち上った。



「ふう、無事につきましたね」

停車したハンヴィーから下車し、体を伸ばし緊張を開放するエミリア。

「ああ、長い一日だったぜ」

やや、つかれきった表情で答える戸上。

あの後、一行はほかの野盗に襲われることも無く目的地である鉱山都市ウィンヒトラに到着することができた。

「アキオ、エミリアさん。今回は助かった。そしてすまなかったよ」

ハンヴィーから降りるなり、戸上とエミリアに頭を下げるクリーガー。

「よせよ。あの状況じゃ仕方ないだろう」

「だが・・・・・・」

「俺達は傭兵だ。それも望んでやっている。だからお前が俺達に謝罪するのは俺達への冒涜だ。俺達は強制されて戦ったわけじゃない」

穏やか、だが力強くそう語る戸上。

「そうですよクリーガーさん。私もアキオも、強制されたわけじゃない。望んでこの仕事に参加したんです」

「・・・・・・そうか、そうだよな。だが、やはり礼は言わせてくれ。感謝する!」

「ああ」

「それはそうと。このまま、傭兵ギルドに向かってくれないか。報酬の分け前のほかに報告をせんといかん」

「報告?依頼者にではなくか?」

「ああ。そっちのほうはボネが引き受けてくれている。俺達はTSPの件で、ギルドに報告をしないといけない」

「なんでまた。たしかに野盗の装備にしてはふさわしくないが。どうしてギルドに」

「知っての通りだが、TSPは基本、国軍しか所有してない装備だ。例外は、旧式の払い下げ品だが、それも再武装できないように処理がされている。まあ、強引に再武装させることも可能だが、コスト面でまず無理だ。だが、あれは再武装できない処理が施されてない。つまり、軍用品がそのまま流失していることになる」

「なるほど。つまり、どっかの国の管理責任者が、ヘマしたのかそれとも意図的に流したのか。その辺を追跡せんといかんわけか」

「そういうことだ。ギルドとしても、国が絡む事案を報告しなかったといわれるのは問題だしな。下手をするとどっかの国と揉める事になる」

「わかったよ。じゃ、ギルドに向かうとするか」

そして、三人は疲れた体を引きずってギルドに足取りを向けた。



三人が傭兵ギルドについたときは、夕食の時間帯を過ぎたあたりであった。

そのため、酒場を併設しているギルド内部には酒精に酔いしれた傭兵達が陽気に騒いでいる喧騒が響いていた。

そんななか、三人はやや疲れた体を引きずりつつも受付に足を向けていた。

「すまない、ギルド長に面会を申し込みたい。緊急案件だ」

受付にいる壮年の事務員に話しかけるクリーガー。

「どういったご用件でしょうか?」

「『赤い騎士が街道に出た』そう伝えてくれ」

「!?わ、わかりました。お手数ですが、2階の控え室までお願いします」

そういって、壮年の事務員は同僚に何かを話すとすぐさま事務室のほうに駆け込んでいった。

「じゃ、上にいくか」

「ああ。で、今のはなんだ?」

クリーガーのやり取りに対し、疑問を投げかける戸上。

「そいつに関しては、上の控え室で話す。ここじゃまずい」

そして、そのまま2階に通じる階段に向かう。

2階は、仕切りドアをくぐると1階の喧騒とは異なり静寂に包まれていた。

「ここは?」

「まあ、ある程度の実績のある傭兵団と依頼主が直接交渉するスペースだな。案件によっては、口外できないものもある。時には政府がらみの案件もある。もちろん、防音や防諜対策も施されたエリアだ。各ルームは、完全に隔離された構造になっている」

「ほほぅ。そいつはすごいな」

「ま、今回の場合もそうだな。さて、あそこが控え室だ。あそこだけ、例外的にオープンスペースになっている」

やや、開放的なスペースに、いくつかの椅子とテーブルが置かれた空間がそこにあった。

「とりあえず、ここで待つとしよう。ああ、飲み物なんかは適当に飲んでいいぜ。特に請求されることもない」

「そうか。エミリアは何か飲むか?」

「そうですね。とりあえず、ハーブティーでも貰います。ジャスミンなんかあればいいですね」

「それなら、そこのドリンクサーバの隣にティーパックがあるはずだ。お湯はドリンクサーバからだせるぜ」

「あっ、ありました。じゃ、私はこれで」

「俺はあのコーヒーもどきにするか。しかし、なんで色がニンジンジュースなんだ」

「うん、何をいっているアキオ。コーヒーの色はそれが常識だろう」

「ああ、そうか。ここではそうなのか。それより、さっきの『赤い騎士が街道に出た』ってのはなんだ?」

「あれか。ギルドの隠語で、不正使用されたTSPに関する貼付さ。一応、ここいは一般人も出入りするので無用の混乱を避けるためにもな」

「なるほどね」

その後、三人は飲み物を飲みながらほんの少しだけ緊張から開放される。

しばらくして、先ほどの壮年の事務員が三人のところにやってきた。

「お待たせしました。ギルド長がお会いになるそうです」

そして、三人はギルド長の待つ部屋に案内された。



三人が案内された部屋は、ギルド長の部屋ではなく小会議室に似た部屋であった。

既に部屋の中には、ギルド長である白虎族のハーディガーが席にすわっていた。

「ふむ、まさかルーキーの君に日をそう置かずにあうとはな」

戸上をみるなり、やや驚いた表情を見せる。

「俺もだよ。ギルド長にあうのはしばらく後かとおもっていたよ」

「さて、状況を説明してもらおうか」

「それについては自分から離します」

そういって、席に座るクリーガー。

「まず、自分達の傭兵団『シュタイルランツ』とトガミ・アキオ、エミリア・シュミットとの接触から説明します。我々の傭兵団は、ここのギルドで物資護衛任務中に野盗の襲撃を受けこれに応戦。その最中、彼等が偶然にも戦域に侵入。我々に協力してくれた次第です。その後、目的地が同じことがわかり、目的地まで同行。その後、現地の工場関係者からウィンヒトラに向けて物資輸送の護衛任務を緊急受諾。この際、当方側の戦力低下のため現地徴用で両名に緊急依頼をした次第であります」

「うむ」

「移動開始後、しばらくして野盗の襲撃を受け当方側はこれに対し迎撃を開始。その際、野党側の武装に3機のTSPがあることを確認。これを、現地徴用した両名が撃破し戦闘は終結となりました」

「なるほどな。アキオ君、間違いはないかね」

「ああ。間違いない。付け加えるなら、こっちの依頼は無事に完遂している」

「それは依頼主から報告を得ている。問題は、別にある」

戸上に視線を向けるハーディガー。

「まず、この近辺の野盗はそれほど装備が充実しているわけではない。はっきりいうと、周辺の村落にいる自警団でも十二分に撃退できる錬度だ。まあ、数がそろえば話は違うがな。だが、TSPは火力もそうだが、その維持コストは通常の兵器とは桁が違う。野盗レベルでもてるものではない」

「つまり、何者かもしくは組織レベルで連中に手を貸しているのがいると?」

「目的は不明だが、まあ確実にそれなりの規模の組織が動いているだろうな。クリーガー君、撃破したTSPはどうしたのかね」

「残念だが、こちらでの回収は不可能と判断してその場に遺棄してきた。こちらの依頼は、輸送トラックの護衛だしな。TSPの回収は含まれてない」

「ま、それが当然か。すまんが、早急に位置だけ教えていただこう。ギルト管理下にある傭兵団に回収を指示するからな」

「了解した」

そして、クリーガーは自分のTAを操作し、すぐさま戦闘のあった地点座標を転送した。

「ふむ、ここか。そう遠くはないな」

そういって、ハーディガーも自分のTAを操作した。

「とりあえず、いま動けるギルド管理下の傭兵団が回収に向かった。機体を調べれば、何か分かるかもしれん。さて、次の問題だが・・・・・・」

再び、戸上とエミリアに視線を向けるハーディガー。

「おいおい、ギルド長さんよ。俺達にまだ何かあるのか」

「話を総合すると、TSPを3機撃破したのはお前さんたちということになるな」

「まあ、そうだな」

「やれやれ、厄介なことになるな」

「というと?」

「TSPを撃破したのが、『シュタイルランツ』のメンバーであれば問題ないのだが、お前さんのようなルーキーが撃破したとなれば色々問題があるんだよ。まず、お前さんの実力に嫉妬する三流の傭兵が、変にちょっかいをだしてくること。次に、お前さんの実力が傭兵団の戦力アップになると見込んでスカウト合戦になること。前者は、まあ傭兵同士の揉め事なので、基本ギルドは関与しないが後者はまずい。最悪、傭兵団同士の戦闘に発展しかねん」

「つまり悪目立ちしているってことか」

「おまけに、そのTSPを撃破したのが銀猫族ならなおのことだ。嫉妬だけでなく、怨嗟まで来る可能性もある」

「怨嗟までかよ、やってられないな」

「そこで提案だ。今回のTSP撃破の功績は、『シュタイルランツ』にあるということで公表する。さらに、お前達は帰りに偶然、『シュタイルランツ』の車列に遭遇し同乗したということにする」

「で、それに対する見返りはあるのか?」

「クリーガーから連絡は受けているが、昇格の件については君達はブロンズクラスに昇格を認めよう。ただし、今日明日というわけにはいかん。昇格は確定だが、表向きはルーキークラスの依頼を規定の数だけこなしてくれ」

「すまんが、メリットがあるようには思えんが」

「ああ、言葉足らずだったな。ルーキー依頼10件完了後、数日の間をおいてアイアンクラスに昇格させておく。ブロンズからアイアンの昇格は正直あんまり目立たないので、こっちで操作しても特に注目される心配はない」

「なるほど。ルーキーでなくなれば、活躍しても特にその辺を疑問に思われないわけか」

「そういうことだ。あと、今回の件でギルド側から君らには特別報酬がでる。盗難の疑いがあるTSPを撃破した功績に対するな。これは、ギルドと傭兵個人の間で行われるのでほかの傭兵にバレる心配はない」

「了解した」

「では、クリーガー君もご苦労だった」

そして、三人はギルド長に一礼をしてその場を後にした。



「やれやれ、無事に終わったというところかな」

うんざりした表情を浮かべながら、ビールの注がれたジョッキを煽るクリーガー。

ギルド長への報告を終えた三人は、やや遅めの夕食をギルド近くのレストランでとっていた。

あえて場所を変えたのは、ギルド内の喧騒に三人がうんざりしたためであった

「こっちはもっとTSPの件でつっこまれるかと思ったがな」

クリーガーと同じく、ビールの注がれたジョッキを煽る戸上。

最も、正確には戸上の飲んでいるものは、彼が知るビールとは少しだけ異なっていた。

色は少し赤みががっており、苦味も戸上がこれまで飲んできたビールより少し強めであった。

だが、不思議と味わいはよく料理にも合う酒であった。

「私もそう思いました。もっと、しつこく質問攻めにされるのかと」

「ギルドがらみの重要案件ならいざしらず、泡沫のごとくある輸送護衛依頼のアクシデントにそうしつこく質問はしないさ。まあ、TSPがらみはめったにないが、一般の戦闘車両とかなら書類を出して終わりだぜ」

「深刻なのかいい加減なのかわからんな」

「ま、ギルドとしても体裁は整えるが、それ以上の厄介ごとは御免こうむるってのが本音だろう。一応は、TSPは国有財産だし、その管理責任は政府にある。だが、こと野盗絡みとなると対処を傭兵ギルドに依頼してくる可能性もある。そして、ギルド側としてはその依頼を拒絶出来ない」

「だが、最終的には引き受けた傭兵もしくは傭兵団の責任だろう。ギルド側に何か責任は発生するのか?」

「ギルドは依頼の仲介者だから、本来は責任ってのは発生しない。だが、政府が出す案件はややこしくてな。国家の面子や、官僚機構の体裁といったどうでもいいことが絡む。正直、受ける奴は少ないよ」

「随分と面倒な話だな」

あきれつつも、ビールを煽る戸上。

「ま、国の名誉だ面子だで飯を食っている連中だからな。それに俺達も、そういった連中の活動のおかげで食えるのも事実だ」

「国ですか・・・・・・。私達は、その国すら当てにできないのですけど」

やや憮然とした表情で語るエミリア。

「おい、エミリア!」

「あっ、すいません。なんか、場をしらけさせる様なことを言って」

「いや、気にしてないさ。それに、俺達傭兵も銀猫族と同じく、国とか政府は当てにできない部類さ。なんせ、仕事の中には戦争に絡む案件もあるからな。のわりには、不利になれば真っ先に切られる存在だ」

そういって、半分まで減ったビールを一気に飲み干すクリーガー。

「ああ、そうだ。酔って前後不覚になる前に、今回の報酬を払っておく。まあ、ざっくりとした計算だが、依頼への助力と弾代ほか危険手当も含めて一人当たり1万ゲルトを支払おう」

「えっ、い、一万ゲルトですか!そ、そんな大金を・・・・・・」

金額に驚くエミリア。

「ま、今回は依頼主に対しても相当ふっかけている。ここだけの話だが、傭兵は戦闘中の負傷に関しては自弁なんだが、今回に限り治療費も向こう持ちだ」

「おいおい、そんな破格な契約聞いたことないぞ。なぁ、あの工場はそこまでしてまで荷をここに送りたかったのか」

「らしいな。ま、ここに送った後はまた別に輸送するそうだが、それに関しては俺達の責任じゃないしな」

「ふむ・・・・・・」

考え込む表情を見せる戸上。

「どうしたんですかアキオ。そんな考え込んで。あっ、依頼料の使い道でも考えているんですか?ダメですよ、散財しちゃあ」

「ははは。お前さん、いい嫁さんをもらったな。エミリアちゃん、しっかりとこいつの財布を管理してやれよ」

「了解ですクリーガー隊長殿!」

無意味に敬礼をして返事をするエミリア。

「お前らなぁ・・・・・・」

二人の掛け合いに苦笑しつつ、ジョッキのビールで喉を潤す。

「で、お前らはこれからどうするんだ」

運ばれてきた料理を、口に運びつつ戸上達の今後の予定を尋ねるクリーガー。

「とりあえず、昇格のために依頼をこなすよ」

「ならウィンヒトラ内部での、警備や工場警護の依頼をやるといい。正直、日銭にしかならんが確実にやれる。それに、当分は金の心配はないだろう」

「でかい出費は、ヘッジマスターM2の修理ぐらいかな」

「ああ、あれか。あれはちょいと時間がかかるぞ。一応、量産されたライフル銃だが、いかんせん生産数がそれほど多くない。修理部品は取り寄せの可能性もあるから。サブアーム(予備武装)として、何かひとつ別のを買ったほうがいいぞ」

「そうか。よし、明日は装備の買出しだエミリア」

「わかりました」

「で、あんた達はどうするんだ?」

「二日ほど、この街で休養かな。なんせ、うちの部隊は負傷者と戦死者が続出だ。とてもだが、依頼なんぞこなせないし。即、移動ってわけにもいかん。とはいえ、長滞在もできないからな。休養明けには、本拠地に戻ることにするよ」

「そうか。まあ、気をつけてな」

「そっちもな。さて、辛気臭い話はここまでだ。今日は飲んで食って、それで疲れを癒そうぜ」

「そうですよアキオ。お仕事おわったんですし、後はたのしみましょう」

そういって、エミリアも注文していたビールを一気に飲み干した。

「ぷはぁ~!冷えたビールは最高!」

「お前、なんかおっさんっぽいぞ」

「ヒドイ!」

そして三人は、戦闘のことを忘れるべく酒と食事を満喫することにした。


次回から新しい話の展開です。

にしても、戦闘シーンもそうだが対話シーンの描写を書くのって難しい。

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