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第4話 輸送護衛任務

前回の更新からえらく時間がかかりました。

遅筆すぎる

ギルドの初依頼を終えた戸上とエミリアは、今は武装が施された戦闘用大型ジープに乗っていた。

「あのアキオ、これって本当に大丈夫なんですか」

不安そうに話しかけるエミリア。

「まあ、クリーガーの話では問題ないらしいしな。それに、こういった臨時収入を逃す手はないぜ」

「は、はぁ・・・・・・」

「最も、問題は別にあると思うがな」



時間は戸上達が依頼を終えたときにさかのぼる。

「現地徴用?」

クリーガーが戸上たちに話したのは、自分達に依頼されている任務への参加であった。

「そうだ。お前さんたちを、一時的にだが我が傭兵団の一員として登用したい」

そういって、これまで工場作業員と話していた内容を話すクリーガー。

要約すると、急にウィンヒトラにある同社の最終加工工場に、この工場で作られた原材料を輸送する必要が発生したとのことであった。

それ自体はよくあることであり、仕事内容もクリーガーたちが先ほど行っていたことと代わりのない護衛任務であった。

ただし、往路とは違い今後の護衛の数は前回の倍となっていた。

当然ながら、戦力が減退した彼らが護衛するには無理がある、クリーガーはそう答えた。

だが、工場側も引き下がらず、先ほどまで押し問答を続けていた。

そこで、クリーガーとしては、引き受ける条件の一つとして戸上達が協力してくれるならと条件を出した。

「要するに助っ人ということか。しかし、俺たちはそっちの傭兵団の団員じゃない。まして、ルーキークラスだ。依頼人は問題ないといっているのか?」

「それについては依頼人に確認を取る。問題がなければこちらとしても不満はない。で、どうだ。引き受けてくれないか?」

「・・・・・・即答はしかねる。エミリアと相談してから決める。それと、受諾する前にいくつか確認したいことがある。場合によっては、相棒が承諾しても俺が拒否する可能性もあるがいいか?」

「かまわんよ。無理を言っているのはこっちだ」

「じゃ、少しだけ時間をくれ」

そういって、エミリアと共にその場から少し離れる。

「どうするんですかアキオ」

「そうだな。受けようかと思う。ただし、クリーガーに依頼内容とこっちの条件と確認したいことを確認してからだ」

「なら、私は特にいうことはありません。アキオの判断に従います」

「おいおい。少しは考えてくれよ」

「考えた上での判断です。少し前まで、畑仕事と狩猟と倉庫作業しかしてない娘が、こういった判断に関する知識なんかないですよ。それこそ、無駄に火傷をするだけです」

「ほぉ」

関心したようにエミリアを見る戸上。

「な、なんですかアキオ」

「いや、やっぱりお前さんは一流の兵士になる素質を持っていると思ってな」

「女の子に兵士に向いているなんて言わないでください。って、これ前もあったような・・・・・・」

憤慨するエミリアを尻目に、クリーガーのところに向かう戸上。

そのクリーガーは、工場作業員と何か話しこんでいた。

「おっ、アキオ。結論はでたのか?」

「ああ。その前に、いくつか質問したいがいいか」

「かまわないぞ」

「まず、依頼というか依頼制度に関することだが、今回の依頼はギルドを通さずに依頼されるものだが問題ないのか?」

「正確には、事後通知ってやつになる。緊急の場合は、傭兵と直接契約した後にギルド側に連絡することになっている。だから特に問題はない」

「なるほど。では、次の質問だ。依頼を受けた傭兵団以外の傭兵が参加しても問題ないのか?」

「それについては、依頼主と傭兵本人の承諾が得られることが条件になる。今回は、先方の承諾は得ているので問題ない」

「わかった。では、最後の質問だ。この依頼を受けたとき、俺たちルーキーのメリットはなんだ?」

「やはりそこか。ま、当然だな。メリットは、まあギルドに確認せんとはっきりとは言えないが、君らの昇格には寄与するはずだ」

「なら、こちら側としては受諾することに問題はない。ああ、追加条件として、弾薬はそっちもちで頼む」

「こっちにある弾薬は、8.77㎜弾と5.87mm弾だが問題ないか?」

「大丈夫だ。こっちの銃と同じ弾種だ」

「なら、弾薬は問題ないな。じゃあ、今後の流れについて少し話したいがいいか」

そして二人は、依頼内容について打ち合わせをその場で行うことにした。



「では、今回の依頼をうけていただけるのですか」

クリーガーから、依頼を受けるとの回答を得てほっとする工場作業員。

「ああ。ただし、いくつか条件がある。それが承諾できないのであれば、こっちとしても無理だ」

「とりあえず、お伺いします。ああ、依頼料は相場の10倍とかは流石に無理ですよ」

「そんなアホな要求はしない。まあ、割り増し料金は当然として・・・・・・。出すのは三つ。一つ目は、この工場警備隊が所有するハンヴィーを重機関銃つきで貸してほしい。もちろん、弾も満載でな。二つ目は、護衛計画に口を挟まないこと。元々も、戦力が最低必要数以下なんだから。三つ目は、傭兵ギルドへの口ぞえだ」

「口ぞえ?最初の二つはわかりますが、最後のは一体・・・・・・」

いまいち要求がつかめない表情になる工場作業員。

「ああ、口ぞえといっても我々じゃない。今回の依頼に関して、現地徴用した傭兵についてだ。彼らは、まだルーキークラスであり、ブロンズクラス昇格のために依頼を受けている最中だ。そんな中、本来であればアイアンクラス以上でなけれは受託できない依頼に引っ張りこむのだ。報酬以外のメリットがないと彼らも引き受けることはできない」

「なるほど。しかし、そこで口ぞえとは?」

「なに、今回の依頼も昇格要件に該当させてほしいといってくれればいい。可能なら2件分ぐらいの評価にしてくれと。それに優秀な新人と繋がりがもてば、今後の輸送任務も楽になるぜ」

「わかりました。ただ、口ぞえの件は私だけの独断はできませんので、上位者の承諾を得てからということでお願いします」

「ああ。だが、どれも必須条件だといっておく。譲歩はないぞ」

「・・・・・・わかりました。早急に対応させていただきます」

そういって、その場を後にする工場作業員。

しばらくして、工場作業員と共にスーツに似た衣類をきた男がやってきた。

「はじめまして、当工場の執行管理責任者です」

軽く一礼をして挨拶をする男。

「話は、この者から聞きました。弊社といたしましては、今後の傭兵ギルドとの関係を熟慮して口ぞえの件は承諾させていただきます。ただ、2件分までは確約いたしかねます。何分、ギルド側の裁量権になりますので」

「ああ、2件分は半ば冗談だ。まあ、昇格要件は外せないが」

「その辺は大丈夫でしょう。ルーキーではありませんが、類似した件が過去にもございますので」

「そうか。じゃ、こいつで問題ないかアキオ」

そういって、近くにいる戸上に話しかけるクリーガー。

「ああ、問題ない」

「それじゃ、そっちは出発準備をしてくれ。あと、会議室を一つ借りたいがいいか?」

「かまいません。おい君、20名規模の会議室にご案内して差し上げなさい。必要なものがあれば、可能な限り用意するように」

一緒にいる、工場作業員に指示をだす男。

「おし、野郎共!仕事だ。とりあえず集まれ」

そして一同は、クリーガーが工場側から借りた会議室に移動した。



「おいおい、クリーガー。仕事ってのはどういうことだ?」

会議室に入るなり、獣人属の傭兵がクリーガーに事情を聞きだした。

「工場側からの緊急依頼だ。もちろん、割り増し料金で引き受ける。そいつで問題ないだろう」

「まあ、金の面はな。問題は中身だ」

厳しい目つきを変えない豹頭の獣人属の傭兵。

ほかの傭兵達も、「ああ、そうだな」「問題は中身だな」と口々に気持ちを述べていた。

「そいつについては、これから俺が話す。まず、護衛だが往路と同じく輸送用トラックだ。ただし、数は10台。しかも、今日の夜までにウィンヒトラにつくことだ」

「なっ!しょ、正気か!」

一人の傭兵が、口にくわえていたタバコを落としかけた。

「ああ。なんでも緊急の輸送らしい」

「いや、緊急はわかるが問題は数だ。いま、俺たちは12名いるが、実際に戦えるのは10名だぞ。しかも、6人は負傷しているから戦力は低下しているんだぞ」

「いや、12名だ。ここにいるルーキー2名が協力してくれる」

そういって、戸上とエミリアを見るクリーガー。

「クリーガー、てめぇ正気か!よりによって、ルーキーを巻き込むとは!」

別の傭兵が立ち上がるなり、クリーガーに詰め寄った。

「落ち着け。彼らの承諾は得ている」

「承諾を得ているとかの話じゃねぇ!そもそも、戦力が低下した上に、セオリー無視の輸送護衛任務にルーキーを巻き込むてめぇの判断を問題視しているんだ」

クリーガーの胸倉を掴む傭兵。

「お前さんにしては、珍しく判断を誤っているな。俺たちを助けたのは一体誰だ。そして、助けた後の動きを忘れたか」

「あっ・・・・・・」

思わぬ指摘をされ、急に冷静になる傭兵。

「だ、だが・・・・・・」

「みんなの気持ちはわかる。だが、こいつは俺たちにとっても、彼らにとってもチャンスだ。困難な依頼をこなせば、その結果はどうなるかわかるだろう」

「・・・・・・何か策はあるのかクリーガー」

「まあ、最上の策じゃないが、現状でできるベストは考えた。こいつを見てくれ」

そういって、会議室にあるホワイトボードに絵を描くクリーガー。

「まず、輸送車列の前後にこの工場の警備隊が有するハンヴィー2台を配置する。そこに、負傷してないメンバーを均等に配置する。次に軽傷したメンバーの中で2名をハンヴィーに、残りは先頭と最後尾のトラックに同乗する。非常時には、運転を代行することもある。最後に重傷のメンバーは、車列中央のトラック2台に分乗して周囲警戒の任に就く。戦闘はできなくとも、監視はできるだろう」

「おいおい。ほかのトラックはドライバーのみかよ。最悪の場合はどうするんだ」

「その場合は、トラックの荷台に爆薬を投げ込んで破壊する。工場側の承諾は得ている」

「随分と思い切ったものだな。となると、何台かは囮か?」

「いや、荷物は全部の車両に積まれている。さて、作戦について話すぞ。まず、基本はさっきいったような編成でいく。何事もなければ、このままの車列でウィンヒトラに向かう。もし、戦闘が発生した場合は、戦闘のハンヴィーとトラックは速度を上げて街を目指す。後方のハンヴィーが、進路変更をして敵勢力に攻撃を仕掛ける。ただし、基本は時間稼ぎのけん制だ」

「まあ、そんなところだなぁ。けどよクリーガー、それ以上の『事態』がおきた場合はどうするんだ?」

「状況によるとしかいえないな。なにせ、こっちは本来の戦力以下で仕事するんだからな」

「それもそうか。で、編成はどうするんだ?」

「前のハンヴィーは俺が、後ろのはボネが指揮をとる。ルーキーは、俺と一緒だな」

「そうかい、じゃあ俺は美人のねぇちゃんと一緒のほうで頼むわ」

『ガハハ』と笑い声を上げながら話す壮年の傭兵。

「んだよ手前。その銀猫族のねぇちゃんを口説くつもりか」

「あたぼうよ!美人がいたら口説く。それは男の務めだぜ」

「やめとけやめとけ。お前と、あっちの一緒にいる兄ちゃんとじゃ、ルックスが違いすぎる」

呆れたようにいう仲間の傭兵。

「なんだ、俺がいい男ってことか」

「あほぅ。あっちの兄ちゃんが、お前より数段いい男だってことだよ。なぁ、銀猫のネエちゃんよ」

「えっ、ええ!?」

うろたえるエミリア。

「おーおー、いいねぇそのしぐさ。なぁ、クリーガー戻ったら団長に今度は、この娘のようなかわいい子を団員に加えるように進言してくれよ」

「おっ、それいいな。それなら戦場での怪我も怖くないぜ。むしろ、怪我したあとのほうがご褒美ってやつか」

そして、『ガハハハハ』と笑い出す傭兵一同。

「ア、アキオ、この人たち大丈夫なんでしょうか?」

「た、多分大丈夫だと思うぞ。多分な」

余りのことに唖然とする二人。

「おい、お前らいい加減にしろ。二人が唖然としているじゃないか」

見かねて、一同をまとめ出すクリーガー。

「で、頭割りはどうするんだ」

とたんに、真剣な表情する傭兵達。

「そうだな。さっきも言ったように、先頭のは俺とルーキーが乗るから、あと1名はこいつだ。残りはボネのチームにする」

「そんなところか。うんじゃ、銀猫のネェちゃんと相乗りできなかった俺らは先にいくぜ。どうせボネのヤツはもう外で準備しているんだろう」

「すまないな。こっちは軽くミーティングしてから向かう」

そして、会議室にはクリーガーが直接指揮をとるメンバーだけが残った。

「さてと、戦闘のハンヴィーに乗るのはこの4人だ。まず、俺の名前はいいな。それじゃ、バリス。自己紹介してくれや」

そういって、隣にいる布で顔を覆っている傭兵に自己紹介するように促す。

傭兵は軽くうなずき、自身の顔を覆っている布を巻き取った。

「はじめまして。バリスといいます。以後よろしく」

布の下からでてきたのは、まさしくフクロウそのものの顔であった。

「梟人族の方ですか?」

「梟人族?」

「すごく数の少ない獣人属の一つです。私も見るのは初めてです」

「そうですな。我々の種族は、基本人前にはまずでませんからね。私が変わり者なだけですよ。しかし、人と銀猫族の組み合わせとは・・・・・・」

関心したように二人を見るバリス。

「なぁエミリア、俺たちってそんなに不思議な組み合わせなのか?」

「銀猫族は、例の一件以来は閉鎖的ですからね。ましてや、種族が完全に異なる人と行動を共にすることはまずないですからね」

「けど、お前さんは違うよな」

「私としては、閉鎖的な行動が逆に銀猫族の首をしめていると思うのです。だから、集落から離れようとおもった次第です」

「お嬢さんは、かなり先進的な考えをお持ちだな。さて、アキオ殿。貴殿は、転移者(ムーバー)だな」

表情を変えず、アキオに話しかけるバリス。

「なぜ、俺が転移者(ムーバー)だと思う」

「失礼ながら、貴殿が余りにもこの世界のことに無知かつ常識外の行動を取られているのでな。普通の人は、銀猫族と関わることを由としないからな」

「さっきの連中はエミリアに対して何もわだかまりはなかったようだが」

「わだかまりがないのは傭兵ぐらいなものだ。種族を気にして、優秀な戦友とつながりを持てぬなど愚の骨頂だしな。それに種族差別は、戦場では無用の敵を作るだけだ。重要なのは、信頼できるかどうかであって種族ではない」

「あんたもかなり先進的な考えだな」

「さて、自己紹介はおわったし。軽くミーティングだ。まず、役割分担はドライバー、ナビゲーター、ガンナー、サーチャーでいく。担当は、ドライバーは俺、ナビはバリス、、ガンナーはアキオ、サーチャーはエミリアさんでいく」

「あの、サーチャーとは?」

自分の役割について質問するエミリア。

「簡単にいうと索敵だな」

「それって重要な役割では。私なんかで大丈夫なんですか?」

「問題ない。というより、むしろ君が一番ふさわしいかもな。エミリアさん、失礼だが銀猫族はほかの獣人属と比較して視力がいいのは間違いないか」

確認するように質問するクリーガー。

「え、ええ、確かに」

「なら、今回の依頼では、君の役割はやはりサーチャーだ。その広い視界で我々の眼になってほしい」

「だ、大丈夫でしょうか・・・・・・」

「そう気構えなさんな。やることは、俺たち以外の車両が近づいたら知らせるだけだ」

「それだけなんですか?」

「基本はな。ただし、今回は非常に面倒な役割でもある。本来、サーチャー役はこういった輸送車列の場合は、各車ごとに1名が割り振られる。それで、間断なく監視の目を置き、全方向警戒を行うものだ。だが今回は前後のハンヴィーと一部の車両に乗った仲間だけで監視を行う。当然、その負担は通常とは異なる」

「やっぱり重要な役割じゃないですか。私のような新人に任せていいんですか?」

「さっきも言ったが、今回は視力がいいやつがやるのが一番いいんだ。ボネの指揮するハンヴィーでも、やはり視力のいい獣人がサーチャーを担当している。一人でやるわけじゃない」

「で、でも・・・・・・」

不安そうな表情を浮かべるエミリア。

そんな時、不意に戸上がエミリアの頭の上に手を置いた。

「安心しろエミリア。お前ならやれる。訓練期間は短いが、お前には俺たち人属以上の能力がある。それに戦場では、自分の能力を信じられないやつは自分だけじゃなく仲間も殺す。お前はそんなことしたいのか」

「そんなわけありません!私もアキオのために戦いたいです!」

「おーおー、見せ付けてくれるねぇ」

「いや、若いということはいいことだ」

ニヤニヤするクリーガーとバルト。

エミリアも自分の言ったことを思い出し、白い肌を真っ赤にしていた。

「ありがとうエミリア。それにあんまり気負うな。今回はチームで動く。お前一人が責任を負うわけじゃない」

「すいませんアキオ、なんか気負いすぎてました」

「全くだ」

「さて、話も済んだことだしそろそろいくか。今頃、ボネのヤツは待ちくたびれているだろう」



そして時間は今に戻る。

「ところでアキオ、問題は別にあるとはどういったことですか?」

戸上とエミリアは、監視のためハンヴィー上部から身をだして周囲を警戒していた。

トラックとの、移動速度をあわせるためハンヴィー自体もスピードは大して出ておらず、体に当たる風も心地よかった。

もっとも、二人にとって其れは瑣末なことであり、エミリアは周囲警戒のため双眼鏡を片手に周囲を見渡し、戸上も襲撃に備えて重機関銃の引き金に手を添えていた。

「ああ、それか。本来、こういった輸送護衛任務っては車両の数に対して護衛の兵士はその3倍は必要なんだよ。理由はわかるか?」

「すいません。さっぱりです」

「ま、そうだろうな。まず、3倍の理由だがドライバーは、まあ依頼元が出したとしよう。で、襲撃を受けて不幸にも死んだとする。当然、誰かが運転を代行せんといかん。となると、それを引き受けるは傭兵だ。だが、同時に護衛も継続しないといけない。となると・・・・・」

「最低、1台につき2名ですね。でも、それだと3倍の理由が?」

「なら聞くが、2名いた傭兵の一人がドライバーになれば、護衛する戦力は一人になる。ひとりだと、どの方向だけ警戒ができる?」

「あっ、そうか・・・・・・。片側だけしか警戒できませんし。反撃も一方向だけですね」

「だから最低3人を護衛につける。少なくとも、ドライバーが死んでも、代わりを引き受けても護衛する上で死角はない。が、今回の場合は」

「根本的に数が足りてない」

「そういうことだ」

「となると、このサーチャーの役割は重大ですね!私、がんばります」

そういって、目を皿のようにして周囲を警戒するエミリア。

「おいおい、あんまり気負うなよ。ま、前向きなのはいいことか」

やや、苦笑しつつもエミリアがやる気を出したことを嬉しく思う戸上。

『歓談中、もうしわけないがいいか?』

そのとき、戸上の耳に装備されらインカムからクリーガーの声がした。

同じ車両だが、道は申し訳程度の舗装しかされておらず、走行音はかなり響くため会話に支障がないように骨伝導型マイクをつかっている。

「うぉ!驚かすなよ」

『ははは、悪い悪い。ところで、周囲警戒について異常はあるか?』

「エミリア、何かこっちに接近するのはあるか?」

「いえ。特にありません。特に接近するものはありません」

「指揮官殿へ。こちらは異常なし」

『了解。引き続き、監視を継続せよ』

そして通信をきるクリーガー。

「さてと、このまますんなりいけばいいがな・・・・・・」

一抹の不安が、戸上の脳裏をよぎった。



一方、戸上達が護衛任務に出発する少し前のこと。

工場からやや離れた、山間部には先ほどクリーガー達を襲撃した野盗の一団が待機していた。

途中まで襲撃は成功していたが、戸上達の介入により思わぬ後退となり逆に被害をだす結果となっていた。

そのため、アジトには戻らず山間部の人目の付かない場所で一度待機し、装備や車両の点検を行っていた。

「どうだジープの調子は?」

車両の下にもぐり、整備を行っている部下に尋ねる野盗の頭。

「へい、こいつはまあなんとかなりやす。ただ、ほかはちょいと厳しいですね。特に、2台はお釈迦ですわ。1台はラジエーターが。もう一台は、エンジンの燃焼室がぶち抜かれてます。共食い整備すれば、1台は使えますがもう一つは放棄ですな」

油まみれになりつつも、整備を必死に行う野盗。

「そうか。チッ、やってくれるぜあの傭兵!」

「で、どうしやす頭」

「忌々しいが、一度アジトに戻るぞ。どっちにしろ、燃料も心ともないし。弾薬だって補給せんといかん」

「けど頭、金も物資もやばいですぜ。今回の襲撃で、あの企業の薬を奪う予定がお釈迦ですから」

「ああ。だが、それでもアジトに戻れば補給はできる。それで、ちょいとショボイがほかのを狙おう。こういうときこそ、博打にでるのは危険だ」

慎重な判断を下す野盗の頭。

だが、そのとき、何者かの気配を感じとった。

「うん?誰だ、誰が俺を見ている!」

「ほう、気が付いたか。ただの野盗にしては腕が立つな」

声のしたほうをみると、黒いフードを目深にかぶった人物がそこにいた。

「こいつ・・・・・・いつの間に。おい、見張りは何をしている」

怒号を出す頭。

「ああ、見張りは叱らないでくれ。なにせ、我々はちょっと特殊なのでな」

「けっ、いけすかねぇな。テメェは何者だ」

「そうだな・・・・・・まあ、君らへの依頼人ということでいいかな?」

「おい、俺たちは傭兵じゃないぞ。傭兵が必要なら傭兵ギルドにいけ!」

「残念ながら、私の希望する依頼は非合法でね。ギルドは相手にしてくれんのだよ」

「そいつはギルドも引き受けねぇな。で、俺たちに何をさせるつもりだ?ボランティアってわけじゃないだろう」

警戒しつつも、話だけは聞こうとする頭。

「簡単な内容だ。まもなく、この近くにあるとある工場から、十数台の車列がでる。それを襲撃してほしい。それだけだ」

「俺たちに襲撃しろか。理由はなんだ?」

「それは聞かないでほしい。まあ、君達にとっても悪い話ではないぞ。報酬も用意している。まず、君たちが襲撃に必要な弾薬はこちらで提供しよう。さらに、武器と燃料も提供しようではないか」

にやりと、笑みを浮かべながら話す黒フードの人物。

「随分と旨い話だな。だか、正直なところ解せない。それだけの武器弾薬があれば、自前で兵力を揃えられるのではないか?」

「君、野盗の割には警戒心が強いね」

「当たり前だ。話がうますぎる。武器弾薬と報酬は別なんだろう。条件が良すぎる」

「なるほどね。ご指摘は最もだ。まあ、理由をいうとこっちとしては、事情があって向うに直接手を下すことはできない。そこで、君らのような氏素性の知れぬ野盗を使いたい。そういったわけだ」

「要するに、足がつかねぇようにか・・・・・・。ふん、気にくわねぇが納得した。よし、依頼を引きうけよう」

「頭、正気ですか?こんな怪しげなやつの依頼をひきうけるなんて!」

驚く配下の野盗。

「俺たちの財政事情は逼迫している。この際、こいつが悪魔でも契約をするさ」

「ふふ、本当に君は面白いね~。個人的には、君のことが気に入ったよ」

「そいつはどうも。で、こっちに提供される武器は依頼終了後はどうすればいい?」

「なに、そのまま使ってくれてかまわんよ。こっちとしても、回収の手間が省ける」

「わかった。では、あとはこっちの仕事だ。野郎共、装備を受け取ったら各自点検を行え。ドライバーは燃料を補給を急げ!」

号令を下す野盗の頭。

そして、山間部に潜む野盗達はあわただしく動き始めた。



『こちらハンヴィーα、現在のところ異常はなし。接近する物体も確認できず』

「了解α。こちらも異常はなし。引き続き、警戒を厳にせよ」

『了解。交信終了』

ボネの指揮するチームとの交信を終え、マイクを置くクリーガー。

クリーガー率いる、護衛の傭兵とトラックの車列は何事もなく草原の道を進んでいた。

「バリス、行程はどうなっている?」

「予定時間を進んでいる。あと3時間もすれば、ウィンヒトラの待ちが見えてくる」

「そうか。このまま何もなければいいがな・・・・・・」

「何か気になるのか?」

「ああ。今日の襲撃を仕掛けてきた連中、これまでの野盗と違っていたと思わないか?」

「確かに、嫌に引き際が良かったな」

「俺の予想だが、あの集団を指揮しているのは元軍人だと思う。撤退の方法が、正規軍のそれとほぼ同じだ」

「なるほどな。流石は・・・・・・いや、これはすまない」

「気にするな。となると、手は打っておくか」

そういって、骨伝導マイクのスイッチを押す。

「アキオ、聞こえるか?」

『感度良好。どうした?』

「まもなく、お客がくると思う。周囲警戒を厳重にしてくれ。特に、傾斜している左側方向は注意だ。来るとしたらそこからだ」

『了解した。エミリア、左側傾斜地を特に注意して見ていてくれ』

『はい。・・・・・あれ、いま何か動いたような・・・・・・。っあ、ジープ数台を確認!真っ直ぐこっちにきます!』

「ちぃ、きやがったか!各車に伝達、敵襲来。ハンヴィーα、進行ルートを確保せよ』

『ハンヴィーα了解』

「トラック各車はそのまま進め。スピードを落とすな。アキオ、接近してくるのに重機関銃をぶち込んでやれ!エミリアさんは、警戒と支援攻撃を頼む。バリス、ナビはもういい。お前も迎撃準備をしろ」

「了解した」

各々、武器を構え敵の来襲に備える。

『きました。距離1200m。ジープの数は6台。武装は・・・・・・ライフルでの武装と、あとなんか長い筒みたいなのを肩に担いでいる人がいます』

状況を報告するエミリア。

だが、後半の報告内容はいまいち理解しがたい内容だった。

『エミリア!双眼鏡をかせ。あと方向はどっちだ。クリーガー、俺が確認を取る』

「頼むアキオ。もっとも、さっきの報告だけでおおよその想像はつくがな」

『ああ俺もだ・・・・・・確認した。チクショウ、やっぱり対戦車ロケット弾だ。見える範囲で3発ある!』

直後、野盗の乗ったジープの一台から目をくらむような閃光がほど走った。

『ズドォォォォォォン!』

「くっ!いきなりかよ。被害はでたか!バリス、各車に確認をとってくれ」

無言でうなずき、急ぎ通信回線をつなぐ作業にかかるバリス。

「各車に伝達。ネガティブリポートを送れ。指定符号は、アインおよびツヴァイだ」

符号とは、クリーガーが出発前にドライバー全員に伝えた暗号通信である。

野盗も、簡単な通信傍受装置を有しており、平文での通信は自分達の状況や手の内を暴露するため、一部の通信内容は暗号化して行っているのである。

アインは車両に異常なしを意味し、ツヴァイは走行不能を意味する。

少しして、各車から『アイン』という回答がきた。

「クリーガー、各車符号は『アイン』だ」

「そうか。なら、各車そのまま目的地に進め!ハンヴィーα、前方進路を確保。アキオ、威嚇でいい重機関銃をぶっ放せ!エミリアさんは、近くに来るヤツに弾をお見舞いしてやれ」

『了解」

『わ、わかりました!』

直後、ハンヴィーの外からけたたましい銃声が響き渡り平原は銃火の饗宴に包まれた。



「頭、側面から攻撃する部隊が戦闘を開始しました」

戸上達から少し離れたところに、野盗の頭と側近数人が身を潜めるように待機していた。

「よし、そのまま連中の動きを鈍らせろ。それと準備はまだか!」

そういって、近くにおいてある巨大な黒いコンテナボックスをみる。

『ドドドドドドドドドドドドッ!』

けたたましいモーター音を響かせるそれは、あきらかに野盗が持つには不釣合いの代物であった。

「もう少し、チャージに時間がかかります」

「そうか、とりあえず8割チャージしたら稼動させろ」

「へい!」

一礼して作業を再開する野盗。

「しかし頭、あいつらはなんでこんな『モノ』まで我々に提供したんですかね?しかも、返還しなくてよいとまで」

「気になるが。そこは詮索しないとの約束だ。それに、こっちも物資はたんまり入った。これで襲撃が成功すれば、当分は仕事をしなくても済む」

「ですが、やはりうますぎますよこの話は」

「だろうな。だが、ものは考えようだ。こっちは、武器と弾薬と燃料に食料まで手に入った。向うは、仕事をする人間を得た。なら、あとは問題ない。どうせ、今回だけの付き合いだ。あまり深く詮索するな」

「へい」

だが、完全に納得したわけではない側近。

「頭!チャージがそろそろ終わります。装備も問題ないです」

「おーし。では、いつも大活躍の傭兵団の皆様をもてなすとするか!。野郎共、準備はいいか!」

『ヘイ!』

「では、メインイベントといくか」

ニヤリと不適な笑みを浮かべ、野盗の頭とその配下は銃火の饗宴に足を向けた。



「・・・・・・おかしい・・・・・・」

ハンヴィーの上で、重機関銃を掃射しつつ戸上は違和感を覚えた。

「アキオ、重機関銃に異常ですか!パーツ交換の時間ぐらいは稼げます」

ヘッジマスターM2で射撃しつつも、アキオを気遣うエミリア。

「いや、違う。エミリア、気が付かないか。敵の動きに」

「敵の動き・・・・・・。そういえば、さっきから銃撃はしてきますがこっちに接近してきませんね。私達の弾幕におびえているとか?」

「なわけあるか。今の時点で、向うのほうが数が多い。錬度を差し引いても、向うが圧倒的に優位だ。なのに、こっちにこない・・・・・・おかしいと思わないか」

「確かに・・・・・・じゃあ、何か罠でもあるのでは?」

「むしろ伏兵だな。チッ、厄介な展開だ。エミリア、しばらくこいつを任せる。中で、クリーガーと話す」

そういって、重機関銃をエミリアに任せ車内に入る戸上。

「うん、アキオ!?どうした、負傷したのか!」

突然のことに驚くクリーガー。

「大丈夫だ。怪我はしてない、上はいまエミリアに任せている。それより、敵の動きが妙だ。数にモノを言わせてこっちに攻めてこない」

「確かに・・・・・・こっちの2倍はいる。包囲するのがセオリーなのだが」

「なあ、この先の地形はどうなっている?」

「ちょっとした窪みになっているはずだ」

「くそっ!やられたぜ!クリーガー、そこに敵がいるはずだ。このままだと、前後から挟まれる」

「それが狙いか!くそっ、頭の切れるのが上にいるか。だが、窪地だが包囲するには広い地形だぞ。数は向うが多いが、突破するなら問題ない」

「どうも嫌な予感がする。単に追い込むだけなら、こんな地形の場所でなくてもいいと思うが」

妙な不安感を感じる戸上。

そして、それは次の瞬間には現実となった。

「クリーガー!正面に敵だ!」

突然、バリスが叫びだした。

「きたか!って、あ、あれは!マズイ、各車緊急停車!」

あわてて、各車に停車指示をだすクリーガー。

突然の指示に、車列を乱しつつも何とか緊急停車する輸送トラックの一団。

「ど、どうして動きを止めるクリーガー!的になるぞ!」

「ダメだ。このまま進んでもやられる。アレをみろ」

そういって、ハンドルに片手を置いたまま正面を指差す。

指差した先には、数人の野盗が武装した状態で道を塞いでいた。

だが、戸上の目に映ったのは唯の野盗ではなかった。

野盗のうち、その三人は明らかにほかのそれとは装備が異なっていた。

全身には、まるで中世の騎士鎧のようなパーツを装着しており、背中には大きめのボックスを背負っていた。

さらに、両腕には生身の人間が片手で持つには無理のある重機関銃を両手に2丁装備していた。

だが、中世に出てくるような騎士鎧と決定的に違うのは全長が3mを超える大きさであった。

「な、なんだあれは?コスプレ・・・・・・なわけないか。ありゃなんだ」

「あいつは・・・・・・戦術戦闘装甲、通称TSP(Taktik Schlacht Panzer)と呼ばれるやつだ。多分、装甲服といえば通じるか?」

「ああ・・・・・・だが、装甲服って。服の範囲を超えているぞ」

「まあ、確かに服には見えんな」

「で、どうするんだよ。このままここにいるわけにはいかないぞ」

「分かっている。だが、このまま進めばあのTSPと仲良くお遊びだぜ」

苦笑しつつも、目は鋭いままのクリーガー。

「なぁ、あいつの戦力はどんなもんなんだ?」

「正直、装備次第でどうとでもなるが標準型の場合だと、歩兵2個小隊分の火力になるな。重装備型なら中隊規模だ」

「マジかよ。デフォで、あれ3体でこっちの3倍かよ。逃げるにしても一苦労だな」

「おまけにこっちは輸送トラックのおまけ付きだ」

「さて・・・・・・どうしたものか・・・・・・」

そのとき、突然外から怒鳴り声に似たものが響いてきた。

『おらぁ~傭兵共~!お前らは完全に包囲された~!おとなしく降伏しろ~!命だけは助けてやる~!ただし、男は奴隷として売り払う。女は犯した後に娼館に売り飛ばしてやるぜ~。ひゃはははははは~』

下卑た笑いを上げつつ、一応は降伏勧告らしいことを口にする野盗。

『しばらく時間をやるぜ~。せいぜい、悩んで考えなぁ~ひゃはははははははは~』

「随分と親切な野盗だな。感謝の気持ちで涙がでるぜ」

「本当だな」

そういいつつも、ライフルの弾倉残弾を確認しつつ戦う準備をする二人。

「で、どうやる?」

「問題なのはあの3体のTSPだ。だが、アレは旧式というか初期型の一番性能の低いタイプだ。ま、チューンされてなければだが。だが、チューニングするにしろ基本的な装甲はそう厚くない。なんせ、ハンヴィーにある重機関銃でもぶち抜けるぐらいだ。だが、問題がある」

「そいつは?」

「確かに装甲は厚くないが、それもで至近弾でないと貫通できない。問題は、重量のある重機関銃を担いで弾幕をくぐりぬけて至近弾を咬ます方法がないってことだ」

「手がないじゃないか」

「あ、あの・・・・・・」

そのとき、いつの間にはハンヴィーの中に戻っていたエミリアが話しかけてきた。

「おっ、どうしたエミリアさん」

「ようは、ハンヴィーに装備されている重機関銃をもって接近して攻撃すればいいんですよね」

「それはそうだが、あいつの重量は25キロはあるんだぞ。しかも、弾薬も含めれば30キロ近くになる。まともな人間が持てる・・・・・・」

そこまでいって、ハッとした表情になるクリーガー。

「ま、まさか、あんたがもっていくのか!」

「この中で、あれをもって走れるのは私だけだと思いますが」

「確かに・・・・・・銀猫族の身体能力を考えれば・・・・・・だが・・・・・・」

そういって、戸上のほうを見て判断を求める。

「エミリアやれるのか?」

「流石に一人で動くのはきついので、アキオが護衛してくれれば問題ありません」

「そうか、俺が護衛すれば問題ないか・・・・・・って、俺もか!」

「だって、重機関銃はもてますが一緒にガンベルトボックスを持つと動きにくいんです」

「給弾役か。まあ、やるしかないか」

話をしつつも、重機関銃用のガンベルトが収納されたボックスを用意する戸上。

「お、おい、お前ら、まさかやるつもりなのか」

「それしかないだろう。幸い、うちの相棒はやる気だしな。エミリア、お前のヘッジマスターM2を貸してくれ。ナハトイェーガーでは近接戦闘には向かん」

「了解です」

そういつつ、淡々と準備を進める二人。

「おいおい、お前ら本当にルーキーなのか?熟練の軍人も真っ青だな」

「だが、やるしかないだろう。作戦は任せる」

「とりあえず、お前さんたちはTSPに接近して攻撃してくれ。重点目標は、背中にある駆動バッテリーだ。装甲や武装は、交換できるが駆動バッテリーを破壊すれば金属の塊だ。武装もほとんどが使えなくなる」

「わかった。問題は、先にこっちに攻撃を仕掛けてきた連中だな。あっちはどうする?」

「ボネたちに牽制させるさ。所詮は野盗だ。熟練の傭兵が本気で足止めすれば問題ない」

「そうか。じゃ、そろそろ向うさんの相手をするか。待たせるのも失礼だ」

そういって、ハンヴィーから出る一同。

『オラァ!クソ傭兵共!命乞いの準備はできたかぁ!』

痺れを切らしたか、イラついた口調で話す野盗。

『今なら、泣いて謝れば少しは待遇を考慮し・・・・・・あぎゃ!?』

突然、蛙を踏みつけたような声を上げ沈黙する野盗。

『このバカ!いい加減にしろ。傭兵団の諸君、すまなかったな。俺は、この集団のリーダーだ。そっちの指揮官と話をしたい』

次に聞こえてきたのは、落ち着いた口調で話をする男の声だった。

「どうするクリーガー」

突然のことに、やや動揺しているバリス。

「・・・・・・マイクを貸せ。やつと話す。聞こえるか、俺が指揮官のクリーガーだ。要件はなんだ?」

『先ほどは、手下が無礼を言った。忘れてくれ。こっちの要求は簡単だ。トラックをすべておいて立ち去れ。ただし、武器は全ておいてゆけ。それでお前達を見逃す』

「話にならん。断る!」

『状況を良く見ろ。お前達は反包囲され、進路上には重装備のTSPが三機いる。勝ち目はないぞ』

「俺たちは傭兵だ。依頼主を放置していくことはない」

『そうか・・・・・・。残念だが、交渉決裂だ。野郎共、やつらを血祭りに上げろ!生け捕りなんぞ考えるな!』

その言葉を合図に、草原に銃声が轟き始めた。



「総員、戦闘準備!ボネのチームは、左側から来る、野盗集団を食い止めろ。とにかく、車列に接近させるな」

交渉決裂が確定するなり、すぐさま仲間に指示を出すクリーガー。

「ボネ、どれだけ足止めできる?」

『こっちは4名に対して、相手の車両は確認できるだけで3台。1台につき、4名でもこっちの3倍だ。15分以上はきついぞ』

すばやく戦力分析をし、見込みを伝えるボネ。

「わかった。なんとか20分は足止めしてくれ」

『了解した。左側から来る敵はかく乱する。そっちはTSPを頼む。だが、やれるのか?』

「助っ人メンバーがどうにかするとよ」

そういって、ボネとの通信を切るクリーガー。

「そんじゃ、こっちもはじめるか。アキオ、俺とバリスでTSPに随伴している野盗を叩く。幸い、見る限りでは5名ぐらいしかいない」

「随伴がそれだけとは、よっぽどTSPの火力に期待しているんだな」

「ああ。だが、随伴の数が少なすぎるな。戦術運用がない証拠だ。そこに付け入る隙がある。あのTSPは、確かに強力な兵器だが欠点がある。そのひとつが、自分で弾薬をリロードできないんだよ。随伴歩兵が、護衛と給弾をしないといけない」

「なるほどね。だが、あの重装備はそれを引いてもまだおつりがくるわけか」

「そういうこった。じゃ、デカ物は任せたぞ」

そういって、バリスと共にハンヴィーの影から飛び出し、走りながら銃撃をする。

突然の銃撃に、野盗達はうろたえ右往左往しだした。

「バ、バカヤロウ!ただの牽制攻撃だ。体を低くして反撃しろ!」

あわてて部下に檄を飛ばす野盗のリーダー。

だが、所詮は錬度の低い野盗集団である。

突発的な攻撃に対応できるわけもなく、無分別に銃撃をはじめだした。

当然、そういった攻撃姿勢は多くの隙を生むことになる。

「グギャ!」

「グハッ!」

前触れもなく、二人の野盗が仰け反るように倒れそのまま動かなくなった。

「クソッ!これ以上やられるとマズイ!おい、お前らはTSPの影に隠れろ。給弾役がこれ以上やられると補給に支障をきたす」

『ヘ、ヘィ!』

あわててTSPの影に隠れる給弾役の野盗。

「おい、お前らこれからこいつで攻撃を開始するぞ。ただし、トラックには当てるな。貴重な獲物だ!」

「了解です頭!」

「ようは、傭兵だけをぶっ殺せばいいんでしょう!」

下卑た笑みを浮かべるTSPに搭乗している野盗達。

「間違ってもトラックには当てるなよ。荷を運ぶのに必要だ。よし、お前ら一気にいくぞ」

そういって、両腕に装備されたガトリング砲を突き出し一斉射撃を開始した。

激しい轟音が草原に響き渡り、大人の腰ほどの大きさの岩や潅木を削り地面を銃弾が抉り出した。

だが、肝心の相手であるクリーガーとバリスは地面の起伏を利用して射線から身を隠していた。

「おーおー、派手に撃ちまくっているな」

「まったくだ。しかし、狙いはまったくの不正確だ。あれでは着弾しないな」

銃撃音にも動じない二人。

「さてと・・・・・・アキオ、聞こえるか?」

骨伝導マイクでアキオと連絡を取るクリーガー。

『ああ、感度良好だ』

「もう少しこっちで引き付ける。後は任せたぞ」

『了解した』

「ほんじゃ、ルーキーのためにベテランさんはがんばりますか」

そういって、コッキングレバーをスライドさせ薬室に弾薬を送る。

「おし、いくぞバリス!」

そして、二人の傭兵は彼らから見れば巨人ともいえるTSP相手に銃撃を再開した。



「ちくしょ~!ちょこまかうごきやがって~。クソが!シネェ!」

苛立ちを見せつつ、両腕に装着された重機関銃を乱射する野盗の一人。

だが、クリーガーとバリスは地面の起伏を利用して動き回りむなしく弾薬を空費するだけであった。

「くぉ~らぁ~、出てきやがれクソ傭兵共~。ぶっ殺してやるぅ~」

「でてこいやぁ~。出てきたら、ご褒美に挽肉にしてやるぜぇ~!」

三流の威嚇文句を言いつつ、無分別に弾薬を撒き散らすTSPに搭乗している野盗二人。

だが、狙いもろくに定めない銃撃はむなしく草原に爆音を響かせるだけだった。

「ちくしょう!やつら、地形を利用してこっちの攻撃を回避してますお頭」

「どうしやすか?」

攻撃の手を止め、しばらく考え込む野盗の頭。

「おし、まずは弾薬補給だ!てめえら、やたらと撃ちまくるんじゃねぇ。弾数を考えろ!。おい、急いで補給しろ。補給が終わったら、お前らはここを守れ」

『へい!』

そして、あわただしく作業にかかる野盗達。

「いいかお前ら。これから、作戦を授ける。おそらく、あの傭兵共は草原の起伏のある場所に隠れている。で、無闇に攻撃してもこっちの弾は当たらない。よって、三方向から方位しつつ接近して叩く」

「なるほど」

「さすがはお頭だ!」

「いいか。やつらが出てきても、一人で戦うな。足止めして、ほかのやつがくるのを待て。なに、所詮は小銃火器しかない傭兵だ。TSPの前には無力だ!よし、補給も終わったな。いくぞ、野郎共!」

そして、散開しつつクリーガー達の潜んでいる起伏に向けて進行を開始した。



「アキオ、連中が動き出しました」

ハンヴィーの中で身を潜め、ペリスコープで外の様子を窺っているエミリア。

「どんな動きだ」

「3体のTSPが、散開しつつクリーガーさんたちが潜んでいる場所に向かっています」

「うまく分散したか。各TSPの距離はどんな感じだ?」

「ええっと、いま計測します・・・・・・。おおむね、200m程度の距離を開けてますね」

「200か。もう少し離れてくれないと危険だな」

「けど、クリーガーさんたちにこれ以上の負担は」

「今、出て行っても、TSPの十字砲火に晒されるだけだ。回避に専念すれば、攻撃をよけることはできるかもしれんが、それじゃTSPを撃破できない。もう少し堪えるんだ」

「わかりました・・・・・・」

そして、攻撃を仕掛けるタイミングを待つ二人。

だが、その時間は非常に長くそして緩慢に感じられるのであった。



『ドドドドドドドドド!』

爆音とそれで生み出される熱波が、草原に生える雑草を焼き裂く。

3体のTSPは、クリーガーとバリスの潜んでいる起伏一帯に3方向から2丁の重機関銃で攻撃をしていた。

だが、今日いきなり使う兵器を碌な軍事訓練も受けてない野盗が使いこなせるわけはなく、ただ単に弾薬を消費するだけであった。

「ちくしょう!クソ傭兵が!さっきからちょこまかと動きやがって!」

「てめぇが下手クソだからだろうが!」

「ああん!あんだとてめぇ!」

戦闘中にしょうもない口論をする野盗二人。

「馬鹿野郎共が!口論している暇があったら作戦通りに動け。それと、もうあそこの窪地にはやつらはいねぇ!間隔を広げて連中を追い込むぞ!」

『へい!』

徐々に距離を開けつつも、クリーガー達を追い込むように進みだす野盗達。

そのとき、1機のTSPの死角になる場所からクリーガーが突然現れ、小銃で攻撃を仕掛けてきた。

「グガッ!くそっ、いつの間に!」

あわてて、両腕を交差させ銃弾から身を守る野盗。

TSPは、一応、装着者の主要部分には装甲が施されており小銃では威力のある徹甲弾でも表面に傷をつけるのがせいぜいである。

だが、それ以外の部分は可動関係もあり装甲はほとんど施されておらず、せいぜい拳銃などに使われる威力の低い弾丸を防ぐのが精一杯である。

そのため、そういった箇所に攻撃を受けた場合はTSPそのものは問題なくとも、操縦者が銃撃を受け最悪の場合は死にいたる場合もある。

それを防ぐため、野盗の頭は万が一に銃撃を受けた場合はまずは身を守ることを優先しろと指示を出していた。

「野郎!これでも喰らいやがれ!」

お返しといわんばかりに、左腕に装備された重機関銃を突き出し攻撃する。

だが、クリーガーはすでにその場所から移動しており、弾薬はむなしく地面を削るだけだった。

「ちょこまかうごきやがって」

「何やってんだよ!小銃程度で防御なんかすんじゃねぇよ」

「頭の命令だろうが!」

「けっ!まあ、いいさ。俺がやつらを倒す手本を見せてやるぜ!」

そして、無防備にも仲間のTSPと距離を開け前進する。

「オラオラ、どこに隠れて・・・・・・」

『ズドドドドドド!』

突然、何の前触れもなくTSPの側面から小銃弾が断続的にTSPに降り注いだ。

「どわわわわ!?」

なすすべもなく、うろたえ硬直する野盗。

直後、起伏の影からバリスが飛び出し、ライフル銃を乱射しつつTSPに接近してきた。

「や、やろう。いつの間に、こんなところに!クソ獣人風情が!」

さすがに、やられっぱなしのままにはならず、体勢を立て直し反撃に転じようとする野盗。

だが、バリスもそれを予見しており、ライフル銃を乱射しつつ、左手に持っていた手榴弾のピンを口で抜き取りTSPに向けて放り投げると、すぐさま脇にある起伏にもぐりこんだ。

「なっ!」

あわてて、手榴弾から距離を取ろうとする野盗。

しかし、彼らの搭乗している旧型のTSPは前進は機敏にできるが後退は苦手としていた。

距離を取ろうと、バックステップを踏もうとしたがバランスを崩し仰向けに倒れる有様であった。

そこへ、バリスの放り投げた手榴弾が放物線を描き倒れこんだTSPの胸あたりに落ちた。

直後、強烈な爆裂音が響き渡り胸部装甲に黒いスス跡と無数の傷を残すことになった。

「ぐぎゃ!」

爆発の衝撃をモロに受け悲鳴を上げる野盗。

「ち、ちくしょう。クソ傭兵め!卑怯な戦い方をしやがって!」

そう言って、よろめきつつもTSPを起こし再び重機関銃を構える。

「頭、やつらの動きがすばやいです。どうしやす?」

「やむえん。おい、お前らもっと距離を開けろ。ナパームを使うぞ」

「へい」

「了解です!」

そして、3機のTSPはさらにお互いの距離を開けるために行動を開始した。



「アキオ、連中さらに距離をあけています」

ペリスコープ越しに、外の様子を窺っているエミリアが状況を戸上に説明してきた。

「よし、頃合かな。エミリア、連中で一番俺達に近いのは?」

「距離は500。しかも、こっちに背中を向けています」

「好都合だな。よし、まずはそいつを叩く!いけるかエミリア」

「はい、いつでも」

そう言って、脇においてあった重機関銃を装備する。

『ガチャリ』とコッキングレバーをスライドさせ、薬室に弾薬を送り込む。

「なら、いくぞ!」

ハンヴィーの後方ハッチを蹴飛ばし、車外に飛び出す二人。

一方のTSPを操縦する野盗は戸上達の接近にはまったく気がつかず、ナパームを発射するための位置に移動中であった。

当然ながら、背後は無警戒のがら空きである。

そして、重機関銃を構え接近するのは獣人属でも屈指の身体能力を持つ銀猫族のエミリア。

あっという間に、TSPとの距離をつめていった。

『ビービービー!』

そのとき、TSPから警告音が流れてきた。

正確には、操縦席にいる野盗に向けてのものである。

「なっ、接近警報!?ど、どこだ」

あわてて、カメラワークを切り替え接近してきた存在を確認しようとする野盗。

だが、慣れていないせいか、操作がおぼつかないでいた。

そして、ようやく背後を確認できるカメラに切り替えたとき、そこには野盗の度肝を抜く光景が映し出されていた。

銀猫族の少女が、大の大人でも抱えるのに困難な重機関銃を両手とはいえ生身で構え自分の乗るTSPに狙いを定めていたのである。

「や、やばっ!」

度肝を抜かれつつも、あわてて自機に搭載されている対人近接防御用の火器をしようとする。

だが、野盗の搭乗しているTSPは初期に開発された旧式であり、武装は基本正面のみにしか装備されておらず、後方への攻撃は想定されていなかった。

これは、開発段階における設計ミスではなく、当初の運用目的がTSP単体での作戦行動ではなく歩兵などの他兵科と連携して行うためであった。

そのため、TSPの後方を防衛するのは歩兵や他の戦闘車両の役割であり、TSPそのものは正面の敵に持てる火力をフルに行使するのが求められていた。

また、初期型は動力が内燃型バッテリー動力式であるため、それが搭載されているボックスの装甲はせいぜい小口径の弾丸を防ぐのがせいぜいであった。

「く、クソが!やられるかよ」

無理やり体勢を反転させようとする野盗。

しかし、すべては遅かった。

既に狙いを定めたエミリアは、重機関銃の引き金を引いていた。

直後、銃口から弾丸が発射されTSPのボックスの装甲板は瞬時に穴だらけになり数回スパークを生じた後に駆動音が停止した。

TSP本体も、駆動音が停止すると同時に両膝から倒れるように地面に伏した。

「アキオ、一機撃破です」

「よし、次を狙う。リロードの必要はあるか?」

「大丈夫です。ガンベルトはまだ半分はあります」

「なら、一気にいくぞ」

そして、次のTSPに向けて駆け出す二人。



一方の野盗達は、仲間が撃破されてからようやく事態に気がつく有様であった。

「か、頭!ハングのTSPが」

「なにっ!?」

あわてて、仲間のTSPがある方向をみる野盗の頭。

目に映ったのは、背後から重機関銃の斉射を受けゆっくりと倒れてゆく光景であった。

「なっ、いつのまに!それに、重機関銃を一人でだと・・・・・・」

自分の常識を超える事態に、しばらく思考が停止する野盗の頭。

もっとも、それは無理のないことであった。

獣人とはいえ、反動が大きい重機関銃を両手持ちとはいえ正確に射撃をしていたからである。

そもそも、重機関銃は威力がある反面、非常に射軸がぶれやすい兵器である。

基本的な運用は、車両などに固定された状態もしくは二脚もしくは三脚などで安定性を保ちつつ、その衝撃を射手に伝わらないようにしながら使用するものである。

そのように使用しないと、仮に引き金を引いても銃身はぶれ射軸は安定せずたんに弾をばら撒くだけにしかならない。

まして、両手で構えて射撃する行為は命中性を完全に無視した方法であり、射手本人にも大きな負担となる。

だが、野盗の頭の目の前にいる獣人の少女ことエミリアはその非常識な行為を平然とやってのけていた。

「あ、ありえない・・・・・・いくら獣人でも反動の影響がまったくないなんて・・・・・・」

「ど、どうしやす頭!」

「とりあえず、あの獣人の女を倒すぞ。背後から攻撃されたらたまらん!それと、急いで合流しろ」

「へい」

そういって、全速力で頭の下に向かう部下の野盗。

そのとき、突然側面から衝撃が走った。

「ぐへぇ!」

何が起きたのか理解できず、野盗の乗るTSPは地面に倒れこんだ。

「な、何が・・・・・・」

衝撃で頭がくらくらしつつも、攻撃のあった方向にカメラを向ける。

そこには、使い捨ての対戦車グレネードランチャーを構えているクリーガーがいた。

既に発射されたランチャーからは、細い硝煙煙がうっすらと立ち上っていた。

「ク、クソガァ!バカにしやがって~!」

歩兵レベルで装備できる、グレネードランチャーの火力ではTSPの装甲にダメージを与えることはできない。

だが、TSPは機体そのものを支えるのは2本の足であり、強い衝撃を受ければ倒すことは可能である。

クリーガーが狙ったのは、まさにそれでグレネードの衝撃力を利用して地面に転倒させたのであった。

「なめんじゃねぇ~!」

機体を起こし、クリーガーのいる方向に重機関銃を向ける野盗。

そして、ろくに狙いも定めずに付近一帯に対して放射状に射撃を開始した。

「この!クソガ!クソガ!クソガ!クソガ!クソガ!クソガ!クソガ!クソガ!クソガ!クソガ!クソガァ~!」

転倒されたことがよほど気に障ったのか、冷静さを失いフルオートで引き金を引き続ける。

だが、クリーガーは既にグレネードを発射した位置から移動しており、野盗の攻撃は無人の草原にただ弾丸を撃ち込んでいるだけであった。

「バカヤロウ!冷静になれ、傭兵はもうそこには・・・・・・」

あわてて、部下に冷静になるようにいう野盗の頭。

「頭、あの野朗は俺が殺す!出てきやがれ、クソ傭兵がぁ!」

わき目もふらず、周囲に銃撃を続ける野盗。

そのとき、突然両腕に装備された重機関銃が『カカカカカ』と気の抜けた音をだした。

「なっ!?なんで弾がでねぇ!」

あわてて、モニターを確認する野盗。

そこには、両腕の弾薬残量を示すゲージが『残弾0。リロードせよ』と表示されていた。

「た、弾切れ・・・・・・く、クソが・・・・・・」

「このアホが。今、そっちにいくから弾薬を補給しろ。個別に戦うのは危険だ」

「す、すいやせん頭」

頭に諭され、少し冷静さを取り戻す野盗。

だが、すべては遅かった。

戦場において、単独行動で弾薬切れは致命的なミスである。

まして、敵との距離が実質ゼロの状況など論外である。

弾薬を再装填しようとしたとき、TSPに搭載されている接近警報レーダーが自分の機体に接近するものを感知した。

「えっ、もう頭がきたのか?」

しかし、モニターに移るのはややぎこちない動きをしながらこちらに向かってくる1機のTSPであった。

「あれ、頭のTSPとはまだ距離がある。じゃあ、接近したのはなんだ?」

先ほどの野盗とは違い、スムーズにカメラワークを切り替える。

そして、野盗の目に映ったのは重機関銃を構えるエミリアであった。

「なっ!」

自分の目に映るものが信じられず硬直する野盗。

そして、それは致命的な一瞬の隙であった。

直後、エミリアが引き金を引くと、銃口から無慈悲な破壊をするためだけに存在する弾丸が容赦なくTSPの最も脆い部分に降り注いだ。

放たれた徹甲弾の猛攻は、装甲の薄いボックスをあっさりと食い破り破壊の限りを尽くした。

そのまま、衝撃を受けTSPはゆっくりと地面に倒れた。

「バ、バカな!ええい、よくも手下を!」

歯軋りしながら、戸上とエミリアを睨む野盗の頭。

「てめぇら、このまま生かしてかえさねぇ!ぶっ殺してやる!」

そういって、両腕に装備された重機関銃を突き出し戸上とエミリアに向けて射撃を開始する。

だが、二人はその動きを予測しており、すばやく射線から離れ草原の起伏を利用して身を隠した。

「ちょこまかしやがって。なら、炙り出してやるぜ。覚悟しやがれ傭兵共!」

『ウィーン』という機械音と共に、TSPの両肩に装備されたグレネード発射装置が可動し発射口が上空に向けられた。

「こっちから探すなんてことはしねぇ。さあ、でてこいよ傭兵共。でないと、傭兵のロースト雑草包み焼きになるぜぇ!」

直後、両肩から猛烈な発射音と共に数発のナパームが同心円状にばら撒かれた。



一方、戸上とエミリアは、TSPの攻撃を避けた後、起伏の影に隠れつつ重機関銃の状態と弾薬補給を行っていた。

「どうですかアキオ?」

武器の状態を尋ねるエミリア。

「とりあえず、使用には問題はないな。ただ、2回の一斉射撃でバレルに焼き付きが出始めている。おそらく、あと1回の射撃が限界だな」

「そうですか」

「エミリア。次の攻撃で、もしTSPを撃破できなかった場合は無理して攻撃を継続するな。おそらく、ジャムる可能性が高い」

「やっぱり、この重機関銃に徹甲弾を使用するのは無理があったのでしょうか」

「ま、仕方ないさ。対人用の弾薬では、いくら装甲が薄いとはいえコンテナを貫通できるか不安があったしな。それに、武器は使って何ぼだ」

気休め程度だが、クリーニングロッドでバレル内部を清掃し弾薬ベルトを再装填する戸上。

「よし、とりあえずバレル内部も清掃した。さてと、あとは指揮官の乗るTSPだけか。あいつは、いままでのやつとは違う」

「では、どう攻めます?」

「そうだな。さっきと同じく、背後をとって・・・・・・」

『ヒュルルルルル~』

そのとき、前触れもなく何かが飛来してくる音がした。

「こ、この音は・・・・・・!やばい、エミリア!急いでここを離れるぞ!クリーガー、ナパームだ!とにかくTSPから距離を取れ」

あわてて骨伝導マイクで、クリーガーにも状況を知らせる戸上。

少し離れた位置で、身を隠していたクリーガーも戸上に返事をする余裕もなく、あわてて窪地から飛び出してTSPとの距離を取り出した。

直後、TSPから放たれたナパーム弾が容赦なくその高熱と破壊を草原に撒き散らした。

一瞬にして、草原は焼け焦げ、熱波により陽炎が立ち込める有様となる。

戸上たちも、かろうじて直撃は避けることができたが、余波である熱波を完全に防ぐことはできず、高温の熱風に晒されることとなった。

「あちちちち!ち、ちくしょうめ!」

「ああっ、髪の毛が焼けた~。枝毛になる~」

「枝毛よりも命を心配しろ!」

「髪は女の命です!それより、どうします?あれじゃ、下手に近づけば黒こげですよ」

「とりあえず、あれの性能を再確認だな」

そういって、再び骨伝導マイクを使ってクリーガーと連絡を取る戸上。

「クリーガー生きているか?」

『ああ、一応はな。だが、バリスと連絡が取れん』

「くそっ!だが、今は後回しか。クリーガー、TSPにはあんなのまで装備されているのか?」

『標準ではないが、追加武装で装備することは可能だ。最も、装填数は少ないはずだ。さっき、発射軌跡をみたが、おそらく全弾つかったと思う』

「予備弾の携行は?」

『初期使用型の拡張性は低いので、予備弾は両腕の重機関銃の弾薬が優先される。それに、予備弾を携行しても自分で装填ができん』

「となると、あとは重機関銃と近接防御兵器か」

『あのタイプに接近戦用の火器は搭載されててない。まあ、改造されていれば別だが』

「そう願いたいな。クリーガー、温度が下がったらこっちは攻撃を仕掛ける。そっちはやれるか?」

『残弾が少ないが、まあけん制はできる。相手がこっちを見てくれればいいがな』

「だな。それじゃ、再開だエミリア」

そう言って、起伏から身を乗り出しTSPに向けて銃撃をする戸上。

銃口から放たれる、5.87㎜弾が高速の刃となってTSPの装甲に突き刺さった。

だが、TSPの正面装甲は戦車砲にも耐えうる強度があるため、その弾丸はむなしく表面にわずかな傷をつけるだけだった。

「くはははは!重火器は弾切れか傭兵さんよ~。ほかに武器はねぇのかぁ~」

戸上の銃撃をみて、勝利を確信する野盗の頭。

「だが、お前らは普通には殺さねぇ!じっくり、ゆっくりなぶり殺しにしてやる!」

そして、重機関銃を戸上に向けて一斉射撃を開始する。

だが、戸上も相手の動きを予測しており攻撃が始まる前にすばやく身を隠していた。

「ちぃ。やっぱりあの正面装甲は厄介だな。エミリア、そっちはどうだ」

『いま移動中です。もう少しでやつの背後を取れます』

「クリーガー、そっちからけん制を頼む」

『ああ。ちょうど側面だ』

「なら頼む。こっちもあわせて攻撃する」

『じゃ、カウント5で攻撃するぞ。胸部装甲に集中砲火だ』

そして、ヘッジマスターM2のマガジンを取り替えつつタイミングを計る。

「クリーガーいけるか?」

『ああ』

「じゃ、いくぞ・・・・・5、4、3、2、1・・・ファイヤ!」

直後、戸上とクリーガーは一斉に飛び出しTSPに向けて集中砲火を開始した。

『ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!』

激しい銃弾の嵐が、TSPの胸部装甲を叩き続ける。

だが、二人のライフル銃の口径は5.87㎜弾であり、対人火器としては優秀であっても装甲を有する兵器の前には効果はなかった。

「ええい!うっとうしいぞ傭兵共が」

苛立ちつつも、両腕に装備された重機関銃を戸上とクリーガーのいるほうに向け反撃する野盗の頭。

「ちぃ!やっぱ効果ねぇか!」

身を潜める戸上。

直後、頭上には重機関銃の弾丸が空を切る音を響かせて通過していった。

「ったく。歩兵が装甲平兵器相手にライフルだけで戦うなんて正気じゃねぇよな。さてと。エミリア、そっちはどうだ?」

悪態をつきつつも、骨伝導マイクでエミリアと連絡を取る。

『はい、もう少しでやつの背後に回りこめます』

「おし、もう少しだけ引き付ける。あとは手はず通りに頼むぞ」

『了解です』

「クリーガー、聞いての通りだ。もう少しだけ頼むぜ」

『了解した。だが、さっきと同じ攻撃で大丈夫か?』

「下手に手榴弾なんか投げたって無意味だろう。それに、向こうにはこっちの武器がこれしかないと思わせたいんだよ」

『なるほどな。だが、うまくいくか』

「ま、ちょいと保険もあるさ」

『オーケー。じゃ、やるとするか!』

そして、特に示し合わせるでもなく、先ほどと同じように胸部装甲に集中砲火をする二人。

激しい銃撃の嵐が、TSPの胸部装甲に叩きつけられるが表面にわずかな傷をつけるだけであった。

「ええい!うっとうしいわ!」

いくら自分の身が安全とはいえ、こうも一方的に攻撃を受け気分を悪くする野盗の頭。

「今度こそ、ひき肉にしてやるぜ」

慎重に狙いを定め、重機関銃のトリガーを引く。

直後、重機関銃の銃口から轟音と共に銃弾が戸上とクリーガーに降り注いだ。

先ほどとは違い、十二分に引き付けた上での攻撃であったため狙いも正確であった。

そのため、戸上とクリーガーは形成射撃をするほかはただひたすら回避するのが精一杯の状態になった。

しかも、今度の攻撃は二人を徐々に追い詰めていくように射線を少しずつ狭めるように動かしていた。

そのため、二人は回避しつつ合流させられる形となった。

「ちぃ!やってくれるぜあの野盗!」

悪態をつくクリーガー。

二人が合流したのは、成人の男性がすっぽり隠れるぐらいの窪地であった。

ただし、TSPを正面として二人の背後はやや急斜面の傾斜地となっており、駆け上がるには少々骨の折れる地形であった。

「あの斜度だと、駆け上がっても重機関銃の射線からは逃れられんな」

「安心してくれクリーガー。そろそろ仕込みは済んだ頃合だ」

「ほう。なら、あと少し敵さんを引き付けるか」

「ああ。手はず通りに頼むぜ」

そういって、二人は最後のマガジンを装填しスライドレバーを引き薬室に弾薬を装填させた。

「オラァ!クソ傭兵共、聞こえるか!お前らに逃げ場はねぇ!あきらめて出て来い。投降するなら、命だけは助けてやるかもしれないぞ!ま、俺様の気まぐれだがなぁ~!ひゃははははははははは~!」

まるっきり、投降勧告になってない勧告をする野盗の頭。

「おーおー、涙が出そうになる勧告だねぇ」

「で、どうしますかクリーガー隊長殿」

「もちろん、返事はこれだ!」

そういって、窪地から身を乗り出し愛用のライフル銃で攻撃をするクリーガー。

戸上もそれに合わせて、ヘッジマスターM2で射撃を開始した。

2丁の半自動小銃が、激しい金切り声を上げ無数の弾丸をTSPの正面装甲に叩きつける。

だが、分厚い装甲の前にただ虚しく金属音を響かせるだけだった。

「俺様の慈悲が理解できないとはな!残念だぜ傭兵共!」

お返しとばかりに、両腕に装備された重機関銃で攻撃しようとする野盗の頭。

「かかった!エミリア、いまだ!」

「了解!」

突然、野盗の頭の乗るTSPの背後に重機関銃を構えたエミリアが飛び出してきた。

そして、TSPのコンテナボックスに狙いを定め引き金を引こうとする。

だが、突然エミリアの目の前で信じられない光景が描かれた。

何の前触れもなく、TSPが急反転しエミリアに向けて重機関銃の銃口を向けてきたのである。

「やはり、俺様の背後を取る算段だったか!ま、2機とも同じやり方で倒したのが間違いだったな!」

勝利を確信し、引き金を引こうとする野盗の頭。

しかし、彼は引き金を引くことができなかった。

死の淵にいるはずの相手が、笑みを浮かべていたからである。

「な、なんでこいつ笑っているんだ!?気でもふれたのか!」

自分の中に沸きあがった不安を、あわてて消し去るように叫ぶ。

「ええい!くたばりやがれ!クソ猫女がぁ!」

照準をあわせ引き金を引く。

しかし、その動きを予測していたエミリアはすばやく身を翻し射線から逃れていた。

「ちくしょう!どうなっていやがる!なんで、こうもこっちの動きが読まれている!」

完全にパニック状態になり、視線が泳ぎだし焦点も合わなくなる。

背中には、びっしりと汗が染み出ていたが、不快感を感じるよりも自分に絡みつく恐怖感のほうが大きかった。

そのとき、不意に自分の背後から殺気に似た気配を感じた。

あわてて、背後のカメラを起動させ状況を確認する。

そしてモニターに映し出されたのは、背後にいつの間にか接近していた戸上の姿であった。

「い、いつの間に・・・・・・!」

あわてて体勢を変えようとしたとき、何の前触れもなく視界が暗転した。

いや、正確にはTSPのコックピット内部すべての計器が停止したのである。

「ど、どうなっていやがる!」

状況が理解できず、野盗の頭はただ暗闇の中でうろたえるだけであった。



「ふう、作戦成功だな」

額に浮かんだ汗を手でぬぐい一安心する戸上。

すぐ隣には、両腕をだらんとした、いまや鉄の像と化したTSPが1機動くこともなく佇んでいた。

「ったく、無茶をするな。まさか、エミリアちゃんを囮にして自分が背後に接近してヘッジマスターM2でバッテリーコンテナと本体の隙間にある電源ケーブルを切断するとはな」

あきれた表情で話しかけるクリーガー。

「だが、うまくいったろう。あれの隙間に、これが入るのは話で聞いていたしな」

「事前にTSPの構造を聞いた理由はそれか・・・・・。まあ、確かにその方法もあるが・・・・・・。実際にやる奴はいないぜ」

「ま、ちょいと経験があってな」

苦笑する戸上。

「お前さん、どんな経験をしてきたんだ。TSPのような戦闘兵器を相手にしてきたのか?」

あきれた表情を浮かべるクリーガー。

「まあな」

「アキオ!無事ですか!

そこへ、重機関銃を肩に担いでエミリアが駆け寄ってきた。

「おう、囮担当ご苦労さん。俺も問題ないぜ。ま、お前さんのヘッジマスターM2がちょいいかれちまったがな」

「そんなのはどうでもいいです!アキオが無事なら」

やや涙目になりつつも、笑顔を浮かべるエミリア。

「とりあえず、こっちは終わったな。クリーガー、これからどうする?」

「まずは、ボネ達と合流だな。向こうも銃声が聞こえないところをみると終わったんだろう」

「だな。もし、連中が逆にボネさんたちを制圧していればこっちにきているはずだからな」

「所詮は野盗さ。3倍の差があっても、熟練の傭兵の前にはまともな戦闘なんぞできんよ。連中が強気に出れるのは、武器を持ってないやつか、経験の浅い傭兵ぐらいさ。だから数で押して来るんだがな」

「で、あれはどうする」

地面にひざをつき、力なくその場にたたずむTSPを指差す。

「俺たちじゃどうしようもないよ。ボネ達と合流したあとに、無線で傭兵ギルドに報告を上げる。あとは、ギルドのお抱え傭兵が回収にくるだろう」

「そうか。じゃ、ボネさんたちと合流した・・・・・・・」

そこまで言った時、とつぜん戸上達を強烈な衝撃と熱波が襲いかかってきた。

なすすべもなく、そのまま吹き飛ばされ地面に叩きつけられる三人。

そして、地面に叩きつけられつつも、なんとか衝撃のきた方向に目を向ける戸上。

その目に映ったのは、炎を吹き上げ燃え盛るTSPの残骸であった。

戦闘シーンって本当に難しいです。

次回からは、もう少し早く書き上げたい。

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