第3話 初めての依頼
いよいよ、傭兵としての任務開始です。
徐々にですが戦闘シーンとかも増やしてゆきます。
戸上とエミリアが傭兵ギルドで登録を終えて1週間後。
二人は、傭兵団『ブラオウォルフ』の地下にある射撃場で毎日射撃訓練を行っていた。
「どうしたエミリア。さっきから的の中心に一発もあたってないぞ」
「ハ、ハイッ!」
そういって、自分の愛用するヘッジマスターM2を構えるエミリア。
直後、引き金を引き射撃場には轟音と火薬の臭いが充満した。
「ど、どうですか」
「・・・・・・30点。的をよく見てみろ」
エミリアの前方にある、射撃練習用の的を見る戸上。
そこに、まばらに穴の開いた紙が吊り下げられていた。
「あうっ・・・・・・」
散々たる結果に、猫耳をしなっとさせうなだれるエミリア。
「ま、まあ、まだ、1週間だししゃあないな。(まさか、あの猫耳が本当にあんな動きをするとは!これは、そっちの趣味がなくてもくるものがあるな)」
言葉とは裏腹に、別のことに意識がいっている戸上。
「このライフルは扱いやすいと聞いたのに・・・・・・」
「ふむ、ちょっと借りるぞエミリア」
そういって、エミリアからヘッジマスターM2を借りコッキングレバーを引いて射撃姿勢を取る戸上。
直後、引き金を引き轟音が射撃場に響き渡った。
「さてと・・・・・・」
近くにあるレバーを引き、遠方にある的を引き寄せる。
的には、ほぼ中心に数発の弾痕が刻まれていた。
「す、すごい・・・・・・」
「確かにこれは扱いやすいな。となると、問題は別か・・・・・・。エミリア、もう一度射撃してみろ」
「了解」
再びヘッジマスターを構え、射撃を開始するエミリア。
戸上は、エミリアの背後から訓練を見守っていた。
直後、数発の射撃音がこだまし硝煙の匂いが立ち込めてきた。
「あ~、やっぱり中心にあたってない~。何がダメなんだろう」
射撃練習用の的を、手元に引き寄せその結果に嘆く。
「ふむ、今のでわかったぞエミリア」
「ほ、本当ですか。一体何が原因なんです?」
「ああ。お前さん、射撃姿勢の時点で体が若干右にシフトしている。横から見ているときは、ライフルを真っ直ぐに構えているが、後ろから見ると右に傾いている。的をよく見てみろ」
「あっ・・・・・・」
的をみてみると、確かに命中弾の多くが右に集中していた。
「本当だ。右側に着弾が集中してますね」
「だから、次からは少し体を左に傾けるようにしてみろ。あとは、微調整をしながら体で覚えていくしかない」
「わかりました。やってみます」
そういって、再びライフルを構えるエミリア。
(体を少し左側に傾けるように・・・・・・)
意識しつつ、わずかに左に体を傾けつつ射撃をする。
再び、轟音と硝煙の匂いが射撃場を包んだ。
「どうだエミリア?」
「はい、今度は中心に命中してます!やりましたよアキオ」
「ああ、あとはその姿勢が自然にできるようになるだけだ。今のを忘れるな」
「はい!」
「よし、あと2カートン分は射撃訓練を行うんだ。今日はそれで終わりにしよう」
「了解です!」
再び、射撃姿勢を取り射撃訓練に戻るエミリア。
「よう、精がでるな」
そこへアディが、前触れもなくやってきた。
「アディか。どうした?」
「なに、新兵を訓練している鬼軍曹殿を見学にきただけさ」
「誰が鬼軍曹だよ」
「ははっ、すまんすまん。っと冗談はさておき。アキオ、傭兵登録したのにまだ依頼を受託してないんだって。どうしてだ?」
「理由は簡単だ。エミリアは銃に慣れてない。ルーキーランクの依頼は簡易とはいえ、銃が使わないという保障はない。だから、せめて1週間は射撃訓練をさせて銃に慣れさせることに集中していたのさ」
「なるほどね。で、首尾は?」
「初心者にしては筋がいい。やはり、銀猫族の特性なのかな?」
「かもな。従軍経験のない銀猫族でも、実戦を数回経験させれば一人前の兵士になるといわれている。うわさじゃ、どこかの国には銀猫族だけの正規軍部隊もあるってきいたぜ」
「そいつは、願わくば戦場では会いたくないな」
肩をすくめ、やれやれといった表情を見せる戸上。
「それで、本題はなんだアディ」
「なんだ、気が付いていたのか。いや、まあ、うちの団長殿がちょいと気にしていてな。訓練も大事だが、そろろそ依頼を受託してもいいんじゃないかといっている」
真剣な表情で話すアディ。
「なるほどね・・・・・・。団長さんには心配をかけたな」
「そう、深刻に受け止める必要もないと思うが。まあ、茶飲み話の延長みたいなものだ。それにお前さん、ルーキーランクの依頼内容は確認したのか」
「いや、そういやしてないな。エミリアの訓練にかまけていたし、ヴァリアージュのおっさんからの依頼料もあったので当座の生活費は問題ないからな」
「そんなことだと思ったぜ。ま、ルーキーだがルーキーとは思えないからなアキオは。まあ、あれだ一度見てこいよ。ルーキーランクの『依頼』をさ」
「そうするか。おい、エミリア!訓練はこれまでだ!ライフルをケースに梱包して、ギルドにいくぞ」
「あっ、はい!すぐに!」
射撃を止め、ヘッジマスターM2からマガジンを引き抜きコッキングレバーをスライドさせ、薬室内にある残留したライフル弾を排莢する。
こうしないと、薬室内に残った弾薬が何かの拍子で暴発する危険性があるために必ず行うように戸上がエミリアに指示していた。
そして、ヘッジマスターM2本体と弾倉をケースにしまう。
「アキオ、準備完了です。装備はすべてあります」
「よし。じゃあ、ギルドにいくぞ」
「はい!」
そして、二人はアディに別れを告げ傭兵ギルドに向かった。
傭兵ギルドには、今日も多くの傭兵や傭兵を雇うための依頼人が数多く滞在していた。
「いつみても賑やかですねここは」
戸上と同じ戦闘服を纏い、頭にベレー帽をかぶっているエミリアが感想を述べた。
ちなみに、エミリアにこの格好をさせているのは戸上の発案である。
誰がどうみても、エミリアの外見はその銀色の髪の毛と猫耳が目立つためでカモフラージュも兼ねている。
傭兵達の暗黙の了解なのか、基本種族がどことかは余り問うことはない。
重要なのは種族よりも、傭兵として能力があるかどうかである。
そのため、傭兵の格好をしていれば少なくとも表面上は戦闘ができる人間だとアピールできるため無用なトラブルを回避できることになる。
「ああ、そうだな。ま、それだけ問題もそこいらにあるって証拠だがな」
「そうですね。あっ、アキオ。あれじゃないですか、ルーキー専用の依頼掲示板ってのは」
「あれか・・・・・・。さて、どんなのがあるのかな?」
ギルドには、傭兵に公開されている依頼掲示板は2種類ある。
ブロンズクラス以上の傭兵向けの掲示板と、ルーキー専用の掲示板である。
そして、戸上達がいま受けることができるのはルーキー専用の掲示板に掲示された依頼のみである。
「さてと、いま掲示されているのは3件か・・・・・・・。どれどれ・・・・・・」
まず、目に付いた依頼内容を確認する戸上。
依頼内容は、次のように書かれていた。
依頼番号:N009-01
依頼内容:荷物運搬護衛
依頼元 :マンスフェルト社 警備部門
詳 細:工場地帯での鉱石運搬業務における護衛任務です。護衛区間は、鉱石体積場から工場地区まで。
基本、襲撃などの危険性は少ないですが、強盗犯などが発生した場合は武力鎮圧をお願いします。
期 間:3日間
報 酬:200ゲルト/日
備 考:万が一、任務中に負傷の場合はマンスフェルト社の医療施設にて治療が可能です。(費用は総額の8割自己負担)
「まあ、悪くない内容だな。ほかはどんなのがあるんだ」
別の依頼用紙を見る戸上。
依頼番号:N009-02
依頼内容:書類配達
依頼元 :ストラウス
詳 細:書類の配達依頼。。
重要書類のため、備考条件を記載。
期 間:2日間
報 酬:150ゲルト/日
備 考:事前審査として、傭兵ギルドの事務員の面接を受けていただきます。経歴によっては、受託ができない場合もあります。
依頼番号:N009-03
依頼内容:イベントスタッフ
依頼元 :ウィンヒトラ行政庁 市民課
詳 細:来週開催の市民イベントにおける臨時スタッフの募集。
期 間:2日間
報 酬:100ゲルト/日
備 考:臨時雇用のため、期間終了後は契約解除となります。本依頼を受託しても、行政庁スタッフへの登用はありません。
「なぁ、最後の依頼の備考はなんだ?」
妙な文面が気になり、エミリアに訊ねる戸上。
「ああ、これは行政庁の依頼だからですね。基本、行政庁に就職するには試験採用と行政庁の依頼を受託して登用される二つの方法があるんですよね。尤も、後者のほうはまずないですけどね。だから、備考欄には受託者に誤解を招かないようにあんなことを書いているんですよ」
「ふーん。ということは、この世界でも公務員は人気なわけだ。っとまてよ、この鉱山都市ってどっかの国に所属しているのか?」
「ええ、一応はリューベック自由貿易連合領内の地方都市です。けど、中央から離れている上に元々は自治都市としてやっていましたからね。どっちかというと、半独立都市国家といったほうが正しいですね。まあ、最近は人口も増えているので単独での運営も厳しいようですが」
「なるほどね。とりあえず、依頼は3件あるが・・・・・・引き受けるはこの2番のやつにしようと思う」
「この警備任務のですか?それなら、同じような内容の1番のほうがいいのでは?報酬も高いですよ」
「いや、そこはあえて2番にする。ま、理由は1より楽だからだ」
「書類配達がですか?確かに楽ですが、傭兵の仕事ですかね?」
「まあ、そういうな。1は確かに、依頼料が高いが戦闘の可能性もある。正直、お前さんにはまだ銃撃戦はさせたくない。できれば、一度は模擬戦を経験してからだな」
「もう少し訓練が必要ってことですね」
「そういうことだ。傭兵も兵士だ。訓練を積んでこそ真価を発揮する」
すぐさま、依頼を受諾するためATを操作し申し込みをする。
直後、ATの液晶画面にメッセージが表示された。
『依頼受諾を確認しました。本依頼は依頼主の要望により、ギルドにて事前面接を行います。問題がなければ承諾に触れてください』
「一応確認するが問題ないか?」
「ええ」
「では」
承諾をタップする戸上。
次の瞬間、再び液晶画面にメッセージが流れた。
『承諾を確認しました。受諾者がギルド内部にいる場合は速やかに受付まで来訪してください。ギルド内にいない場合は速やかにギルドに向かってください』
メッセージを確認した二人は、特に言葉を交わすこともなくギルド受付に向かう。
「失礼、ルーキー依頼番号:N009-02を受諾したものだが」
「はい。ルーキー専用の依頼受託ですね。確認のため、代表者のATをこちらに」
ATを受付嬢の前に見せる戸上。
「では、失礼します・・・・・・。アキオ=トガミ様、ほか1名。依頼番号:N009-02の受諾を確認しました。では、このまま事前面談に移ります。なお、これからの質問は録音の上、ギルド登録情報と比較の上で判断されます。虚偽があれば相応のペナルティが課せられます」
「問題ない」
「まあ、すぐ終わりますので。では、はじめに。お二人はルーキークラスの傭兵で間違いありませんね」
うなずく二人。
「・・・・・・・確認しました。両名とも、間違いなくルーキークラスですね。では、次の質問です。過去になんらかの犯罪歴はございますか?」
「ない」
「ありません」
「・・・・・・・確認しました。両名とも、レッドビンゴブック(犯罪者懸賞金リスト)に記載はありません。依頼主の条件は満たしておりますので正式受諾となります。最後に確認ですが、本依頼を受諾することで間違いございませんか?」
「問題ない」
「確認しました。では、これで正式受諾です。このあとは、直接依頼人のところへ向かってください。依頼内容の詳細は、依頼人から説明があります」
受付嬢に一礼して、そのままギルドを後にし依頼人のところに向かう二人であった。
依頼主であるストラウスの邸宅は、ギルドから離れた高級住宅街の一画にあった。
鉱山都市『ウィンヒトラ』にあって、そこだけは緑が豊富であり石畳の道路にはゴミ一つ落ちていなかった。
また、高級住宅街ゆえなのか、街路の要所には武装した警備員が常駐していた。
「この辺は、ほかとは違うな」
「そうですね。本来であれば、住人以外は専属の警護契約を結んだ傭兵と出入りの商人以外は入れない地区ですから」
「しかし、随分と警戒厳重だな。何かあったのか?」
「いえ、むしろここはこれが標準です。なんせ、ここにはリューベック自由貿易連合にある大手企業の上級幹部が住んでいますからね」
「首都とかではなくここに?」
「ええ、理由はわかりませんが。大半の企業幹部の人はここに住んでいますね。まあ、噂では首都とかだといろいろ五月蝿い連中がいるのでこっちに避難しているとか」
「マスコミとかか?」
「そうですね。ほかには、いわゆる社会運動家とかそういった連中もいますね」
そういって、苦笑を浮かべるエミリア。
「どこの世界でもそういった連中はいるんだな。ある意味で、世界が違えどメンタリティに差はないことを痛感させられるよ。しかし、よくそんな情報を把握しているな」
「まあ、生きるためですかね。銀猫族は、なにせ差別を受ける種族ですから。逆にいえば、情報を把握していればそういったことからある程度は避けられますから」
「お前さん、以外にしたたかだな。案外、傭兵は天職かもしれんぞ」
「女の子相手に、傭兵が天職なんて言わないでください」
ムスッとした表情になるエミリア。
「むしろ俺的には評価したつもりだがな。っと、ここだな」
ATの液晶画面をみると、目的地であるストラウス低の近くにいることを示すメッセージが表示されていた。
「へぇ~。立派なお屋敷ですね」
二人の目の前にあったのは、ほかの邸宅よりもデザインが洗練されている建築物であった。
「何者だ!目的を言え!」
そのとき、突然二人の目の前に数名の黒いボディーアーマーを装着した武装兵がでてきた。
その動きは訓練されており、あっという間に戸上達を半包囲し銃口は正確に急所を狙っていた。
「ま、まってくれ。敵意はない。俺たちは傭兵ギルドから傭兵だ」
「傭兵?ああ、主の出した依頼を受けたものか。失礼した。私はこの屋敷の警備責任者のシュミットという」
そういって、黒いフルフェイスヘルメットをはずすシュミット。
中から出てきたのは、黒豹の顔をもつ男の獣人だった。
「黒豹族ですか。珍しいですね、この地方にいるなんて」
シュミットをみて驚くエミリア。
「うん、そうなのか?」
「ええ。非常に数の少ない種族ですから」
「それをいうなら、銀猫族である君も同じと思うがね」
「す、すみません、失礼なことをいって」
「気にするな。お互い、好奇の目で見られているしな。しかし、人属と一緒とはな。むしろ、私としてはそっちのほうが妙にみえるがね」
「そうなのか?」
「ああ。基本、傭兵にしろ生気の軍隊にしろ、その構成は同じ種族でやるのが通常だ。こいつは差別とかではなく、能力的な問題でな。異なる種族同士だと、それぞれの能力に差異があって逆に持ち味を殺してしまうのさ」
「軍隊の兵科と同じだな。混成部隊ほど機能しないのはどこも同じか」
「さて、立ち話もなんだ。中で依頼を説明しよう」
二人がシュミットに案内されたのは、邸宅には似つかわしくない会議室であった。
「個人邸宅なのに会議室があるのか」
と、妙な感想をいう戸上。
「まあ、シュミット様はとある企業の幹部なのでな」
「どこかは話してくれないのか?」
「私の口からは言えんよ。さて、少し席をはずす」
そういって、会議室を後にするシュミット。
「・・・・・・ただの配達の割には情報管理が徹底しているな。エミリア、何か飲み物を出されても絶対に口にするな」
「えっ、でも失礼になりません」
「いいから言うとおりにしろ」
「は、はぁ・・・・・・」
釈然としないものを感じつつも、戸上の指示に従うことにするエミリア。
しばらくして、シュミットと共にメイドが飲み物を載せたトレイを両手にもって会議室に入ってきた。
そして、二人の座る前にコーヒーカップを置き一礼して退出した。
「待たせたな。依頼主であるストラウス様は、事情によりここにはいない。代理として、私が依頼内容を説明させてもらう」
そこで一息つくシュミット。
「では、依頼内容だが、こちらの書類をここから北に30キロほど離れた丘陵地帯にある工場に届けてほしい。期限は二日以内だ。依頼達成の条件は工場ゲート前にある守衛室に書類を届けることで完了とする。届けた後は、こちらに戻って報告する必要はない。守衛室からギルド側に連絡がいく手はずになっている」
「工場の守衛室に届ける。それだけでいいのか?」
「そうだ。ま、付け加えるなら書類の開封はしないことだ」
「それは基本ですね。では、特に後はなさそうなのでこれから目的地に向かいます」
「ああ、気をつけてな」
そして、二人はシュミットの一礼をして邸宅を後にした。
高級住宅街区画を後にし、二人は目的地である丘陵地帯にある工場を目指して歩いていた。
周囲は、下草が生えた草原であり、丘陵地帯に続く道は土がむき出しのものであった。
ただ、往来がそれなりにあるのか、踏み固められており歩くには不便はなかった。
「しかし、ただの書類を届けるだけで傭兵雇うというのも変わった話ですね」
「だな。そういや、この世界には郵便事業や運送業はないのか?」
「ユウビンジギョウ?ウンソウギョウ?なんですかそれ?」
キョトンとした表情をみせるエミリア。
「えっ、この世界って物流はどうなっているんだ?」
「ブツリュウ?ああ、物を運ぶ仕事ですか?それって、たぶん傭兵の仕事の一環ですね。まあ、大規模な物になると企業お抱えの輸送部門がありますが」
「おいおい、この世界はいろんな意味で技術や制度の格差がでかいな。というか、食料とかの物流なんぞ統治の基本だろう」
軽い眩暈を覚える戸上。
「ええと、農産物とかの食料の場合は政府管轄の専門の輸送部隊がいます。一応、正規軍護衛部隊のほかには傭兵ギルドから依頼を受けた傭兵団もつきますね。鉱物資源の場合は、さっき話した企業抱えの輸送部門が担当しますね」
「つまり、物流を専門に行う企業や組織はないということか?しかし、これだけ国があり人もいる世界だ。流通は重要なシステムなのになぜ発展してない」
「ああ、それは多分、この世界の治安の悪さだと思いますよ。なんせ、物を運ぶのには人手がかかります上に、それを護衛する人員も必要ですからね。それ専属でやるには経費がかかって儲けがでないそうですよ」
「治安が悪いって、都市からでるとそんなに悪いのか」
「ええ。ですから傭兵なんて商売が成り立つのでは」
「それもそうか・・・・・・」
そういって、ふと立ち止まる戸上。
(まてよ・・・・・・エミリアの話から総合すると、都市部などの人口の多い地区では治安組織もあり問題ないが、そこから一歩離れれば治安は俺のいた世界のスラムですら真っ青な状態。落差が激しいな。そして郵便や物流を専門に行う業者はなく、傭兵がそれを肩代わりしている・・・・・・。マズイ!)
「エミリア!すぐに武装して、周囲を警戒。有効射程レンジは200mにセットしろ」
「えっ・・・・・・は、はい」
あわてて、肩にかけていたヘッジマスターM2を構え、コッキングレバーをスライドさせる。
戸上も、同じようにナハトイェーガーを装備して薬室に弾薬を送り込んだ。
「アキオ、どうしたんです。急に周囲警戒をしろなんて」
「郵便事業がないということでわかったよ。この世界は、俺が想像しているより物騒だってことがな」
「えっ、それはどういう・・・・・・」
そのとき、近くの茂みの中から二人の目の前に一人の男が突然現れた。
「ぎゃははははは~、おまいら傭兵だな。それもルーキーだろう!」
目の前に現れたのは、何故か上半身は裸のレザーボトムを着たモヒカン頭のマッチョだった。
「よぅ、ルーキー傭兵諸君!お勤めご苦労!さっそくだが、持ち物を俺に渡しやがれ!そうすれば命だけは助けてやる!」
右手に持った、大振りのナイフを舐めずさりながら話すモヒカン。
「・・・・・・なあエミリア、最近はああいいったのが流行りなのか?」
「いえ、違うと思いますが・・・・・・」
あまりの光景に、しばらく脳の処理が劣化する二人。
「ああん!あんだてめでら。ビビッて声もでもないのか?情けないヒヨコちゃんですねぇ~」
「安っぽい挑発だな。おい、一応聴くがお前は一般人じゃないよな」
「はぁ、お前は頭にハエでもわいているのか?それにこのナイフがみえねぇのか~」
ナイフをちらつかせ威嚇するモヒカン。
「ま、善良な一般人でないことは確かだな」
「ケケケケ。その通りだ。さあ、わかったら持っているもの全・・・・・・」
『パン』
すべてを言い終える前に、乾いた音が草原に響き渡った。
「・・・・・い、いてぇ~~~~~~!て、めてぇ何しやがった~」
8.77㎜弾に貫通された右肩を抑えつつ、地面に尻餅をつきつつもも悪態をたれるモヒカン。
「何って。依頼中にでてきた野盗に銃撃しただけだが。エミリア、周囲を警戒しろ。こいつが囮の可能性もある。敵と思ったら撃て」
愛用のナハトイェーガーの銃口からは、硝煙の匂いと共にゆっくりと煙が上がっていた
「は、はい」
「さてと・・・・・・おい、モヒカン野郎。一度しか、聞かないぞ。仲間はいるか?」
「だ、誰が答えるかこのゴミ・・・・・・」
『パン』
今度は、銃口をモヒカンの耳の近くにおき引き金を引く。
「ぎゃああああああ~。み、耳かぁ~!」
「安心しろ、近くで発砲しただけだ。耳は吹き飛んでいない。今はな」
だが、8.77m弾を至近距離での発砲衝撃は確実にモヒカンの鼓膜をぶち抜いていた。
「て、てめぇ正気か・・・・・・み、耳がきこえぇね」
「もう片方で聞こえるはずだ。で、質問に答えてもらおうか」
「な、仲間はいねぇよ!俺一人だ。文句あっか!」
「なるほど、ボッチ野盗か」
哀れみの表情で見下す戸上。
「く・・・・・この野郎・・・・・・」
「ま、いいや。エミリア、周囲に人の気配はあるか?ま、ここは草原だし隠れている可能性は低いが」
「たぶん、誰もいないと思います。ところどころに茂みがありますが、人が隠れるにはちょっと厳しい大きさですね」
そういいつつ、周囲の警戒は解かないエミリア。
「そうか。確か依頼中の襲撃犯って、傭兵ギルの規約ではどうなっていったけ?」
「一応、捕獲がメインです。ですが、それは可能な限りであって最悪射殺も許可されてます」
「だ、そうだ。さて、どうしたもんかね。なぁ、エミリア、これからウィンヒトラに戻るにはどれだけ時間がかかる?」
「えと、それはこの野盗を連れてですか?」
「そうだ」
「下手すれば往復で半日飛びますよ」
「そうか。じゃ、捕獲不可能なのでこの場で射殺だな」
そう言いつつ、銃口をモヒカンの頭部に向ける。
「ま、ままま、まってくれ~。た、助けてくれよ~」
涙と鼻水を流しながら、無様に命乞いをするモヒカン。
「悪いがこっちも初仕事なんでな。下手をうちたくないので。では、ごきげんよう」
そして引き金をひく戸上。
『カチッ』
だが、引き金を引く音のみで銃口から弾丸は出ず銃撃音も響かなかった。
「えっ、ジャムですかアキオ」
「いや、弾倉はヤツに気づかれないように少し外していたのさ。こいつで次弾は装填されない」
「いつの間に」
「ま、できるだけ人を殺さないためにな。もっとも、こいつに仲間がいれば話は違ったが。おい、まだ死んでないぞ」
だが、モヒカンから返事はなかった。
どうやら、戸上が本当に撃ったと思ったらしく気絶していた。
しかも、気絶する寸前に失禁したのか股のところは水分を含んだ色合いになっていた。
「ア、アキオ、こ、これって・・・・・・」
「エミリア、ここは武士の情けだ。見なかったことにしろ!とりあえず、この場を離れるぞ」
「えっ?ブ、ブシノナサケ?あっ、アキオまってくださいよ」
そそくさと、その場を後にする二人。
なお、その後のモヒカンだが、近くの川の中に入って涙ぐんでいる姿を近所の農民が見かけていた。
「ったく、あんなのがでてくるとはな。どこかの世紀末かよ」
「まあ、その、なんといいますか、この世界の治安の悪さにスイマセンとしかしか言えないです」
何故か戸上に謝るエミリア。
二人は、先ほどのモヒカンと遭遇した場所から少し離れた場所を目的地に向けて歩いていた。
相変わらず、周囲の光景は草原と所々に茂みがある変わり映えのしないものであった。
「いや、お前さんに謝られても」
「けど、放置でよかったんでしょうか?拘束しておいたほうがよかったのでは?」
「まあ、そこはあれだ・・・・・・いわゆる男の矜持ってやつだ。あれ以上の追撃は人の道に反する」
「は、はぁ・・・・・・」
いまいち、戸上の考えが理解できないエミリア。
「ともかく先に進もう。依頼を終わらせれば・・・・・・」
「ヒャッハー!てめぇらルーキーの傭兵だなぁ!」
突然、二人の目の前に男が現れた。
しかも、さっきのモヒカンと瓜二つの格好で武器まで同じナイフであった。
さっきと同じ内容に、しばし唖然とする二人。
「なぁ、エミリア。やっぱりこの世界の先端ファッションはあれなのか?」
「違います。アキオ、この世界の名誉のためにいいますが、あんなのは例外です!」
「だよな。さてと、次はお前一人でアイツを取り押さえてみろ」
「ええっ!私一人でですか?」
「そうだ。あと、とりあえず殺すな。そういうわけだ、これからうちの相棒がお前さんを制圧する。怪我をしたくなければ、とっとと武器を捨てて逃げることだな」
一応、モヒカンに警告する戸上。
「て、てめぇふざけるなよ。いくら獣人属だからって、女相手に負けるわけねぇだろうが。死ねやぁ!」
ナイフを腰だめに構え、突っ込んでくるモヒカン。
だが、エミリアもその動きを冷静にみてヘッジマスターM2を構えすばやく引き金を引いた。
弾丸は、狙いを外すことなく、モヒカンの膝を打ち抜いた。
「うぎゃぁ~。お、俺の膝がぁ・・・・・・!て、てめぇ。な、なにしやがる!」
涙目になりながらも、エミリアを睨みつけるモヒカン。
「アキオ、こんな感じでいいですか?」
「膝撃ちかよ・・・・・・。お前、顔に似合わずえげつないことするな」
「ひどいですよ。それに、殺さずに相手を無力化するに一番いいのは膝撃ちだって教えたのはアキオじゃないですか」
「まあ、そうだが・・・・・・。しかし、いきなりやるとは思わなかったわ」
「で、どうしますこいつ?」
「そうだな。とりあえず、さっきと同じだ。エミリア、周囲警戒を。尋問は俺がやる」
そういって、銃口をモヒカンに向けつつ、足元に転がったナイフを蹴飛ばしてから質問する戸上。
「さて、質問だが。お前さんに、お仲間はいるかね?」
「な、仲間・・・・・・?そ、そんなのはいません・・・・・・。そ、それより、た、助けてくれ!ち、血がとまんねぇよ」
エミリアによって撃ちぬかれた膝を押さえつつ、助けを懇願するモヒカン。
「そうか。エミリア、警戒解除。仲間はいない。それじゃモヒカン君、悪いが急いでいるのでこれで失礼」
そういって、その場を後にする戸上とエミリア。
「お、おい、まてよ!助けてくれないのかよ!」
「アホかお前。こっちは依頼遂行中だ。それに、5.87㎜スチールコア弾で膝をぶち抜かれているんだ。俺らがどうこうできるレベルの負傷じゃないぜ」
「そ、そんな・・・・・・」
「傭兵相手に喧嘩吹っかけたんだ。そのリスクも考えないとな。とりあえず、傷口を圧迫して出血を抑えろ。後は医者にでも見てもらえ。いくぞエミリア」
「は、はい」
そして、モヒカンには目もくれず先に進んでいった。
「ち、畜生・・・・・・。こ、このまま、死んでたまるかよ」
戸上達が立ち去った後、痛みをこらえつつも立ち上がり歩き出すモヒカン。
だが、一歩進むたびに膝からは大量の血溜まりが落ち、モヒカンの顔色は徐々に青くなっていった。
「お、俺はこんな・・・・・・こんなところで・・・・・・」
そこまでつぶやいて、突然草原に倒れこみそのまま動かなくなった。
しばらくして、彼の倒れた場所の上空にはどこからともなく飛来した鳥達の群れが旋回していた。
「全く、この世界にはさっきのようなやつがうじゃうじゃいるのか」
「アキオ、本当にこの世界の名誉にかけてあんなのはごく少数です!そこは誤解しないでください」
強い口調で否定するエミリア。
「ああ、わかっているよ。あんなのが跳梁跋扈する世界なんぞ俺もご免こうむる。それより、現在位置を確認するか」
自分のATを操作して、現在位置を確認する戸上。
少しして、ATの液晶画面に現在位置と目的地の距離とおおよその所要時間が表示された。
「ふむ。あと、1時間ほど歩いた距離か。しかし、辺鄙な場所にある工場だな」
「そうですね。たぶん、製薬メーカーかもしれませんね」
「なるほど。鉱山都市の近くだと、綺麗な水を入手するには不便だな。しかし、こんだけ歩いているのに工場に向かう輸送トラックとかを全くみないな」
「多分、この時間帯は輸送がないのでは?」
「昼間なのにか。夜間の輸送なんぞ、野盗の襲撃を受けやすいだろう」
「言われてみれば」
「ま、俺たちには関係ないことだ。とにかく先に進もう。とっとと、終わらせて次の依頼を受託しよう」
「はい」
目的地に歩みを進める二人。
しばらくすると、二人の視界に黒い煙が数本上っているのが見えてきた。
「なんだ、工場の排煙か?」
「どうなんでしょう。ちょっと、TAでこの辺一体の工場を確認しますね」
「頼む」
しばらくして、エミリアのTA液晶画面に付近一帯の工場マップが表示された。
「うーん、おかしいですねぇ。この辺一帯の工場は製薬関係ですね。排煙だすような工場はないようですが」
「間違いないか」
「ええ。間違いないですね」
「マズイな。エミリア、周囲を警戒しながら接近するぞ。ただし、目的地の1.5キロぐらいまで接近したら一度進むのをやめる。どうも嫌な予感がする」
「了解です」
そして、周囲を警戒しながら前進する二人。
だが、幸いにも立ち止まる予定地点まで誰とも遭遇することはなかった。
「アキオ、目的地1.5キロ手前です」
「よし。エミリア、双眼鏡はあるな。目は、お前さんがいい前方をみてくれ」
「はい」
そういって、双眼鏡を覗き込むエミリア。
左右に首を振り、ある方向を見たときにその表情が固まった。
「アキオ!戦闘です!輸送車列が襲われています」
「やはりか。数は?」
「輸送用の大型トラックが数台あり、損傷を受けているのがあります。周囲には数名の傭兵が展開しており、銃撃戦をおこなっています」
「敵の数は?」
「ちょっと待ってください・・・・・・。見えました。私達から見て、右方向にいます。数は・・・・・・10数名ほど。ほとんど、小銃装備ですね」
「この辺の地形だと、伏兵の可能性はないか。よし、連中の側面から攻撃を仕掛ける。ただし、基本は敵を混乱させるのが目的だ。極力、銃の最大射程で攻撃する」
「ということは、このヘッジマスターM2の最大射程で戦うってことですね」
「そういうことだ。うまくいけば、向うの傭兵連中と連携が取れる。じゃ、いくぞ」
そして、起伏をうまく利用して野盗達に近づく二人。
「エミリア、双眼鏡をかしてくれ」
「はい」
エミリアから双眼鏡を受け取る戸上。
この双眼鏡には、目標との距離を計測する機能も付いており攻撃を開始する前に相手との距離を把握することもできる。
「よし、距離は400m弱か。エミリアいけるか?」
「大丈夫です。銃に異常はありません」
「なら、問題ないな。じゃ、まずはこっちに一番近い集団に攻撃を仕掛ける」
「いけます。ターゲットも視認」
「オーケー、上出来だ。よし、撃てぇ!」
そして、タイミングを合わせセミオートで一斉射撃をする二人。
弾丸は、狙いを外れず二人の野盗に着弾し悲鳴を上げるまもなく全身を血に染め上げた。
突然のことに、一瞬動きが止まりうろたえだす野盗達。
「な、なんだ、どこから撃たれた」
「畜生!回り込まれたのか!」
明らかに野盗達の表情はあせっており、自分達が突然窮地に立たされたことに愕然としていた。
「うろたえるんじゃねぇ!おい、そこのお前ら!いま、撃ってきた方向に射撃を開始しろ。ただし、車両の陰に隠れてやれ。側面を正面の傭兵団にむけるんじゃねえぞ」
「へ、へい、お頭!」
リーダーと思わしき男が、部下に一喝したあと対処方法を指示した。
「頭。どうしやす。正面の傭兵共もまだ抵抗していやすが」
補佐役と思わしき男が、リーダーに指示を求めてきた。
「ああ、わかっている。ちょい、時間をかけすぎたな。おい、正面の傭兵団に攻撃を続けつつ徐々に後退しろ」
「引き上げるんですか?」
やや不満そうな補佐役の男。
「こっちのほうが数が多いが、それは相手と正面切って戦っている場合ならな。だが、側面や背後を取られるとこっちが不利だ。後退しつつ、ある程度の距離をとったらスモークを撃て」
「へい!」
そして補佐役の男は、リーダーの指示をメンバーに伝えると自身も傭兵団相手に射撃を開始した。
弾幕は、的確に傭兵団を捉えていたが徐々にその密度は薄くなっていった。
「頭、そろそろ頃合でっせ!」
「よし、スモークだ!側面に対応している連中もスモークを撃て!」
『ヘイ!』
数人の野盗が、ライフルに装備されているグレネード発射トリガーを引いた。
『ポンッ!ポンッ!ポンッ!』
おおよそ、戦場に似つかわしくない音が周囲に響き円筒状の金属物が戦場にばら撒かれた。
直後、濃い白煙が周囲を多い各人の視界を遮った。
「よし、野郎共ずらかれ」
そして、白煙にまぎれて野盗達はその場からすばやく立ち去っていった。
「アキオ、急に霧がでてきました」
一方、戸上とエミリアも戦場におきた異変にすぐさま気が付いた。
「霧じゃない。こいつはスモークだ。エミリア、後退するぞ。スモークにまぎれて敵がくるかもしれん。あと、向うの傭兵団の動きにも注意しろ」
「りょ、了解です!」
「オーケー。エミリア、先に後退しろ。ただし、50mほど後退したら俺のほうを向いて合図・警戒。そしたら、俺が同じように後退する。それを3回繰り返して匍匐待機。スモークが晴れるまでまつぞ」
「わかりました。では、先に後退します」
射撃姿勢を解き、そのまま後方に下がるエミリア。
50mほど移動した後、戸上のほうを向いて口笛で合図して射撃姿勢を取り周囲警戒をした。
戸上も、合図を聞いて射撃姿勢を解きそのまま後方に移動してエミリアの横を通り過ぎ、やはり50mほど移動してから同じような動きをした。
そして、それを正確に3回繰り返し二人は平原の起伏を利用して匍匐姿勢で待機した。
その間にも、野盗が放ったスモークは徐々に薄くなり視界は開けてきた。
「アキオ、向うの車列が見えます。どうやら、無事のようです」
双眼鏡をのぞき、車列の様子を伝えるエミリア。
「ほかに動きはあるか?」
「ええと・・・・・・あっ、負傷者の救助と輸送トラックの車体確認をしてますね。それと、こちらに2名接近してきます。両名とも武装してます」
「そうか。エミリア、そのまま接近する2名の動きを監視。こちらとの距離、200mを切ったら教えろ」
「はい」
その間にも、武装した2名は戸上たちのほうに歩みを進めていた。
「アキオ、200m切りました」
「よし。エミリア、威嚇射撃をするぞ」
そういって、ナハトイェーガーの引き金を引く。
『ダダダダッ』
直後、数発の銃撃音が草原に響き渡った。
突然の発砲音に、接近してきた2名はあわてて地面に匍匐した。
エミリアも突然のことに、唖然とした表情を浮かべていた。
「驚かせてすまない。だが、これもこちらの安全確保のためだ。確認するが、そちらは傭兵団のメンバーか?」
相手に向かって話しかける戸上。
「そ、そうだ。そっちも傭兵か?」
「ああ、そうだ。そっちとは別の依頼遂行中だ?悪いが、そっちは傭兵団か?傭兵団なら名前を聞かせてくれ」
「わかった。こっちは傭兵団『シュタイルランツ』のメンバーだ」
自分達の所属を名乗る傭兵。
「エミリア、今の名前を聞いたな。TAで検索して実在するか確認しろ」
「はい」
すばやくTAを操作し、該当の傭兵団がいるか確認するエミリア。
「・・・・・・検索結果でました。傭兵団『シュタイルランツ』は確かに実在してます」
「よし。おい、もう一つ質問だ。あんたらの副団長の名前を聞きたい」
「副団長の名前?ああ、かまわんぞ。副団長の名前は、ハイデッカーという」
戸上の質問の意図がわからず、困惑しつつも答える傭兵。
「エミリア、傭兵団の情報一覧に今の名前はあるか?」
「はい、あります。けど、なんで副団長の名前を?団長のほうがいいのでは?」
「その理由はあとで教えるさ。すまなかった、一方的に質問して」
「気にするな。それより、そっちにいってもいいか?」
「ああ」
そして、両者は距離をつめて話をすることにした。
「まずは礼をいわせてくれ。改めで自己紹介をしよう。俺は、傭兵団『シュタイルランツ』のクリーガーだ」
「同じくボネだ」
戸上に挨拶をした傭兵は、二人とも人属であった。
同じ傭兵団なのか、二人とも濃紺の野戦服を着ておりビッペルハウベ型のヘルメットをかぶっていた。
「俺の名前は、戸上彰男。アキオでいい。こっちは相棒のエミリアだ」
「エミリアです」
軽く一礼をするエミリア。
「しかし、こんなところに二人でとは。ああ、そうか依頼中だったんだよな。なんにせよ、本当に助かった。急に襲撃を受けて、こっちの仲間が3名やられてな。かなりやばかったよ」
よく見ると、二人の野戦服は所々が裂けており一部は出血した後もあり血痕が付着していた。
「おい、二人ともあちこち軽いが裂傷があるぞ。そのままはマズイ。手当てしないと」
そう言いつつ、背嚢を下ろして中から医薬品を取り出す戸上。
「おいおい、こんな程度は水洗いしておけば問題ない」
「いや。何箇所かの傷は軽いとはいえ、出血の後が大きい。ちゃんと手当てしないと、後で化膿して偉い目にあうぞ」
「そ、そうか。じゃあ、手当てを頼む。実をいうと、メディック役のやつが戦死してな。俺たちじゃ、簡単な手当て以外はできんのだよ」
「なら、そっちにいくとしよう。エミリア、手伝ってくれるか」
「は、はい」
そして、戸上達は襲撃を受けた車列の待機している場所に移動した。
遠めでは、車列の被害は確認できなかったが近くにいくと走行には問題ないものの、あちこちに弾痕のあとがあり一部の車両には血痕も付着していた。
「近くでみると結構ひどいな」
「そうですね」
状況をみて、そうつぶやく戸上とエミリア。
車両の陰には、負傷した傭兵がうずくまっており傷口には包帯が巻かれていた。
だが、止血が不十分なのか赤黒く染まっており、幾人かの傭兵の顔色はあまりすぐれていなかった。
「不味いな。エミリア、怪我の軽いのは任せた。っと、その前に・・・・・・クリーガーさん」
「うん?どうしたアキオ」
「手当てを始める前に確認したいことがある。俺の相棒のエミリアは、獣人属それも銀猫族だ。それでも問題ないか」
「銀猫族・・・・・・ああ、巷じゃ忌種とか言われているやつだな。バカバカしい話だ。そんな下らん話を信じるアホは、俺たちの傭兵団にはいない。かまわないから手当てをしてくれ。俺たちの医療知識じゃ手に負えない」
「わかった。エミリア、軽傷者は消毒と止血だ。重傷なのは俺がみる」
そして、負傷した傭兵の手当てを開始する二人。
幸いにも、重体になる負傷をした傭兵はいなかった。
だが、2名の傭兵は口径が小さいとはいえ、数発の弾丸を受けており今後の戦闘は無理と戸上が判断したため、トラック内部で安静にさせることとなった。
「どうだった。仲間は大丈夫か?」
手当ての結果を尋ねるクリーガー。
「とりあえず、2名は負傷度合いが大きい。命に別状はないが、あとでちゃんとした治療が必要だ。ほかに4名の負傷者がいたが、エミリアと俺で手当てはした。一応、襲撃があっても戦闘に参加できるが無理は禁物だ。重傷のほうは、とりあえずトラックの荷台に乗せておいた」
「そうか。こっちも戦死した仲間を埋葬したよ」
「やり切れんな。仕事とはいえ」
「まあ、それが傭兵だ。そうだボネ!車両は問題ないか?」
「ああ、問題はない。ちょいと穴は空いているがな」
ニヤリと笑みを浮かべ話すボネ。
「ところで、あんたらの行き先はどこなんだ?差し支えなければ教えてくれないか」
「俺たちは、この先にある工場への配達だ。あんたらは?」
「同じく配達さ。工場への生産資材の輸送護衛が俺たちの依頼だ。そうか、お前さんらはルーキーか」
そういってうなずくクリーガー。
「なら、どうだ。こいつに乗っていくか。というか、実をいうとこのまま同行してほしいのがこっちの本音だ。なんせ、仲間に負傷者が出たのでな。目的地までは、もうすぐの距離だが戦えるやつがいるにこしたことはない」
「ふむ・・・・・・エミリア、お前さんはどう思う」
「いいと思いますよ。それにトラックに乗って移動すれば、目的地まですぐつきますし」
「決まりだな。短い間だが、同行させてもらう。あと、目的地までの指揮命令はそちらにあることにしよう。二重系統は混乱になるからな」
「いいかの?」
「ああ、指揮権がどうのこうのでもめるのはご免こうむる」
「そうか。じゃあ、君らは一番後ろの車両荷台に乗ってくれ。後方警戒を頼む」
「了解であります。エミリアいくぞ」
そのまま、最後尾の車両荷台に乗り込む二人。
『シュタイルランツ』の傭兵たちも、負傷者を乗せ各員がそれぞれ警護する車両に乗り込み移動を開始した。
戸上とエミリア、そして傭兵団『シュタイルランツ』のメンバーを乗せた車列はその後なにごともなく無事に目的地の工場にたどり着いた。
トラックが止まると、二人は荷台から降りて負傷者の乗っているトラックに移動して、ほかの傭兵と共に負傷者をおろす手伝いをした。
その間に、リーダー格であるクリーガーは工場関係者と何か打ち合わせをしていた。
「アキオ、負傷者はボネさんの指示で『シュタイルランツ』の車両に移動させたわ」
「そうか。こっちも軽傷者の傷をもう一度確認しておいた。重傷者は俺の手に負えないな。現状を維持するのが精一杯だ。それより、ここの工場関係者に会わないとな」
「私達の依頼を完遂させないとね」
そして、二人は工場入り口にある守衛室に向かう。
「すいません、ストラウスさんの依頼を受託したものです」
「おっ、例の書類だな。早速、確認させてもらおう」
守衛室にいた、つなぎをきた中年の男に書類を渡す戸上。
「うむ。封印はきれてないな。よし、依頼は完了だ。ATをこちらに」
自分のATを、書類を受け取った男に向ける。
そして、ATの液晶画面をタッチすると『ピピッ』と電子音が鳴り響いた。
「これで、傭兵ギルドに君の依頼が完了したことが伝わった。ご苦労様」
「ではこれで」
一礼して、守衛室を後にする二人。
少し歩いたところで、近くからやや語気の荒い声が聞こえてきた。
「・・・・・・無茶を言わんでください!それに、輸送任務はこれで終了ですよ」
「そこはわかっています。ですので、別途の依頼としてお願いしたいのです」
話をしているのは、クリーガーと工場作業員のようであった。
「おや、クリーガーさん。どうしたんですか?」
何事か、少し気になりクリーガーに話しかける戸上。
「アキオか。いや、なに、こちらさんが急に追加依頼をだしてきたのさ。これから、ウィンヒトラに向けて輸送車両を出すので護衛してほしいと」
「なるほどな。で、何を揉めているんだ?」
「それが、護衛する車両の数だよ。さっきは、5台のトラックだったが今度はその倍の10台を護衛しろというんだよ。しかも、工場側からは援護の戦力はなしだ」
「えっ、護衛なしなんですか」
驚くエミリア。
「そ、それが、実は弊社工場にいる輸送部門所属の護衛チームは現在別の輸送ルート護衛中でして・・・・・・。ただ、この荷物もどうしても今日中にウィンヒトラに送らないといけないのです」
申し訳なさそうに話す工場作業員。
「だが、数が多すぎる。護衛するにも、こっちの兵員の数が足りない。各車両には、最低2名の傭兵をつけないと不測の事態に対処できん。こっちは今、12名のメンバーだが2名は戦闘不能で4名も負傷している。完全に稼動できるのは6名だ。仮に、各車両1名の配置でもまだ数が足りん」
「そこをまげてお願いします」
「気持ちはわかるが、この戦力でいくのは・・・・・・」
「あれ、クリーガーさん。待ってくださいよ。そこの二人は数に入ってないのでは?その二人を入れれば、8名です。負傷している人も合わせればなんとかなるのでは?」
「お、おい、彼らは違う。我々とは別の傭兵・・・・・・いや、待てよ・・・・・・」
少し考えた後、何かを決断したのか戸上に話しかけてきた。
「なぁ、アキオ、ちょいとランクアップをしてみないか?」
そして、戸上への提案内容を話すクリーガーだった。
なかなか、迫力ある銃撃戦を書くのは難しいです。
あと、遅筆なのもどうにかせんとなぁ。




