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第2話 銀の災厄種

第2話です。

仕事が忙しくて各時間がない~。



鉱山都市ウィンヒトラ。

この地方一帯で一番大きな都市であり、また産業の中核を担っている場所でもある。

主な産業は、鉄などの鉱石採掘と精錬に加工である。

また、少量であるが燃料になる石油資源のようなものも採掘できる。

わけもわからぬまま、異世界にきた戸上は成り行きでこの街に拠点を置く傭兵団『ブラオウォルフ』と彼らが護衛する一団と共にこの埃のまう鉱山都市に身を寄せることになった。



「やれやれ、やっと到着か・・・・・・」

ジープから降りるなり、体を伸ばして気分をほぐすアディ。

その後ろには、アディ達傭兵に護衛された一団もかろうじて動くバスから疲れた表情で降りてきた。

彼らがいるのは、都市の中心街を走るメインストリートの一画である。

「ここが、お前さんたちが拠点としている街か。完全に鉱山都市だな。すげぇ臭いだ」

鉱山独特の臭いにややうんざりする戸上。

まさに、金属と石油などの燃油系の臭いが混じった独特の空気である。

だが、それだけに活気があり、人々の顔には生気が満ちていた。

「ま、なれればどうってことないさ。っと、それよりアキオ。お前さんの服装はひどいな」

「ひどいってどういう・・・・・・」

そこまでいって絶句する戸上。

たまたま近くに、鏡になりそうなガラスがありそこに映った自分をみて愕然とした。

戸上の服装は、会社勤めのサラリーマンが着ているスーツである。

だが、ジャケットはあちこち綻びズボンには穴が開いていた。

はっきりいって、失業した浮浪者か交通事故被害者にしかみえない風体である。

「しまった。俺はスーツきていたんだよな」

「スーツ?そいつはアキオの世界での戦闘服なのか?」

「はっ?」

「いまスーツといったろう。それはアキオの世界の戦闘服(コンバットスーツ)なのか?」

「違うぞ。こいつは、ビジネススーツといってなぁ・・・・・・」

そこまでいって、言葉を止める戸上。

(そもそもこの世界にビジネススーツなんかあるのか?)

世界が違うだけに、戸上の常識が全く通じないのである。

「まあ、理解できんだろうが、こいつは俺の世界のでの標準的な仕事着でな。まあ、男性の多くのが着用している」

「ふーん。なんか、随分と動きにくそうな衣類だな。おまけに、防御力も期待できないな」

「うん、アディの今の説明でこの世界が結構危険だってことだけは理解できたよ」

微妙にかみ合っていない会話をする二人。

「しかし、その妙な格好は問題だな。アディ、傭兵団の倉庫にいって戦闘服を二・三着もってこい。あと、当座のレーションもだ」

「了解であります団長殿」

敬礼して、そのままどこかに向かうアディ。

「ああ、そうだ。このライフルは返す。あんたらの仲間の武器だ。俺が持つものじゃない」

「そういえばそうだったな。本当は謝礼に渡したいぐらいだが、何分事情があってそういったことは今の君にはちょっとできんのでな」

「で、俺はどうなるんだ」

「とりあえずは着替えてからだ。近くに、傭兵ギルドの事務所がある。まずはそこに移動しよう。ま、ここからは徒歩でだがな」

そういって、部下と共に移動を開始するベルンハルト。

戸上もその一団のあとについていくことになった。

「そういや、あの護衛対象はどうするんだ」

どういうわけか、ヴァリアージュとその一行もついてきていた。

「まあ、傭兵ギルドの事務所に一緒にきてもらうさ。事務所といっても、我々だけの専用じゃない。正確には、傭兵ギルドだな」

「傭兵ギルド?」

「うむ。まあ、詳しい話はそこでだ」

しばらく歩くと、コンクリート製と思わしき無骨な3階建ての建物が見えてきた。

建物の入り口には、戸上が見たことない文字が書かれていた。

「ここだ。ヴァリアージュさん、悪いが今回の顛末についてギルド長のところで話してもらうぞ」

「ああ。それより・・・・・・」

「わかっている。今回は『不幸な事故」だったと証言するさ」

「すまない。感謝する」

そして一同はギルドの建物内部に入った。

中には、数卓のテーブルとそれに見合った数のイスが置かれ、それぞれのテーブルに数名の傭兵が座っていた。

もっとも、仕事の話をしていれば、酒を飲んで騒いでいるものまで千差万別である。

(まるでどこかのRPGやそれっぽいアニメのワンシーンだなぁ)

ギルド内部の活況を眺めつつ、そんなことを考える戸上。

「団長。ただいま戻りました」

そこへ、背嚢を片手にアディがもどってきた。

「おおご苦労」

「ご命令どうり、戦闘服を二・三着用意しました。アキオ、余剰品ですまないが勘弁してくれ」

「あるだけマシさ」

「アディ、一応装備の説明をしてやれ。終わったら、彼を私のところに」

「はっ!じゃ、簡単に説明するぞアキオ。こいつは、俺ら傭兵達でもよく使われる戦闘服『SRK-7』だ」

背嚢から取り出したのは、まるで旧ドイツ国防軍を彷彿させるような野戦戦闘服であった。

(こ、こいつは・・・・・・!や、やばい、ちょっと格好いいぞ)

軍事的なものが好きな人間なら、この手のデザインがされた軍服は垂涎の的である。

「一見すると、ただの野戦戦闘服にしか見えん。だが、兵器メーカーアイゼンバウン社が開発した傑作中の傑作品だ」

何故か熱く語りだすアディ。

「ほう。で、具体的にはどんな性能があるんだ」

「ふふ。こいつの特徴は、素材が防弾繊維で出来ていることだ。しかも、防弾仕様なのに通気性がよく、長時間の着用でも不快感を感じにくい。さらに、防水性まであるので雨天時にも使用可能なやつだ」

「おいおい、いいことずくめじゃないか。いいかのそんな貴重な装備をもらっても」

「まあ、実をいうとこいつは今の時代じゃ旧式の戦闘服なのさ。近いうちに、うちの傭兵団に新型の戦闘服が納入される。ま、いってみれば在庫整理だ」

「ようは、処分品を放出したってわけか」

「そういうこった。さて、もう少し装備の説明をするぞ」

説明を続けるアディ。

要約すると以下の性能を有する戦闘服である。。


戦闘服  :SRK-7

製造元  :アイゼンバウン社

重量   :1.5Kg

素材   :硬化アイゼンファーザー

使用温度 :-5℃~+40℃


「かなり、汎用性が高い戦闘服だな」

性能の説明を聞いて関心する戸上。

「そうだろう。まあ、10年ぐらい前に開発・製造された旧式の戦闘服だが、かなり無茶な使い方をしても問題ない」

「防御面は?」

「うーん。さすがにちょっと心ともないかな。なんせ、10年ぐらい前の特殊繊維素材だしな。もっとも、最新の特殊繊維製の戦闘服は国軍レベルでないと入手できないからな。現状では、こいつのアップグレード版が徐々に主流になりつつあるよ。だが、そいつも値段が張るのであんまり普及してないな。防御面に関しては、まあ一世代前のライフル銃の弾丸で致命傷になるのを防ぐってのが限界だ」

「10年前の装備ならそれが限界か」

「ま、俺達が次に納入してもらう戦闘服だって最新のライフルの威力の前には気休め程度さ」

「けど、実際は役立つのだろう」

「ああ、直撃弾でなければ衝撃こそ受けるが致命傷にはならない。この戦闘服もそうだが、防弾のほかに跳弾性能もある」

これは、射角によっては貫通せず戦闘服の上で跳ねることになる。

「けど、跳弾はどんな弾でもでるわけじゃないだろう」

「アキオ。ここは、君のいた世界とは違うんだぜ。たぶん、君の世界と同じく跳弾するにはある種の加工を施した弾丸でないとだめだろう。けど、こいつはどんな弾丸でもある意味で強制的に跳弾させる繊維をつかっているのさ」

「マジかよ。すげぇなぁ。しかし、それなら、こいつが旧式だってのが納得いかないんだが」

「簡単な理由だよ。こいつに使われている戦闘服の繊維は、一定以上の衝撃を受けると跳弾機能が完全に沈黙するのさ」

「じゃあ最新型は違うのか」

「いや、開発コンセプトが違う。その辺は自分で調べてくれ。というか、俺もそこまでしか知らん。とりあえず、着替えてこいよ。よくいって浮浪者だぜ今のお前さん」

「おいおい・・・・・・ま、たしかにそうか」

ほつれたネクタイをみてそう思う戸上。

元の世界でこのような風体をしていれば、即通報でよくて職質下手をすれば留置所で一泊ってことになる格好である。

そして、ギルドの男性用トイレ個室に入り着替えを済ませもとの場所にもどる。

「待たせたな」

「さっきの服は?」

「とりあえずもっているが、こいつはもう使えないよな」

「いや、古着屋で買い取ってくれるぜ。なんせ、異世界の繊維は貴重なんでな。以外に売れるんだぜ」

「なるほど。しかし、このギルドでこんな格好をしていると俺も傭兵と思えるよ」

「違いない。それより、まだ渡すものがある」

再び背嚢から何かを取り出すアディ。

「こいつは?」

「ま、いわゆる非常食ってやつさ。味は保障しないけどな」

「軍用食でうまいのはまず聞かないからな」

苦笑する二人。

「まあな。けど、保存はきくしなにより栄養はある。そいつは保障するぜ。一応、10日分ある」

「すまんな」

「いや、こっちこそこの程度ですまない。お前さんが、傭兵ギルド所属の傭兵なら別に報酬をだせたんだがな」

「できないのか?」

「ああ。依頼を請けた案件で、現地で徴用兵を取るのはご法度でな。まあ、非常事態で協力してくれた場合でも金銭報酬は禁止されている。できるのは、損失補てんまでなんだ」

「気にするなよ。それより、説明はこれで終わりなのか。なら、お前さんの団長のところに・・・・・・・」

『ガシャーン!』

そのとき、突然室内にガラスが割れる音がした。

「ヴァリアージュ!てめぇ!どういうつもりだ!」

「ひ、ひぃぃ!お、お、落ち着いてくださいベルガンドさん」

戸上が音のした方に視線を移すと、そこにはアディ達の依頼主のヴァリアージュが腰を抜かして床に倒れこんでいた。

そして、その隣には一人の女性が頬を押さえながら涙目になり、やはり床に倒れこんでいた。

そして、その二人を睨みつけているのはヤギのような角を生やした男であった。

「あれ一体・・・・・・・」

「お、おい、あの女・・・・・・もしかして銀猫族じゃないのか?」

「ほ、本当だ・・・・・・・銀色の髪に猫耳。間違いない、銀猫族だ」

「なんで、あの疫病神の種族がここに・・・・・・」

「銀の災厄種め・・・・・・何しにきやがった」

口々に侮蔑や憎悪の混じった感情を発露する傭兵やギルド内にいる一般人達。

「アディ。こいつは一体。女が殴られているのになんで誰も助けない」

「アキオよせ。関わるな」

視線すら向けようとせず、戸上を止めるアディ。

「おい、一体なんなんだよあれは。一体、彼女が何をしたんだよ」

「とにかく関わるな」

「ったく!話にならん!」

そういって席を立ち、問題が起きているほうにいく戸上。

「ヴァリアージュ。てめぇ、なんで銀猫なんぞつれてきた!俺がこのクソいまいましいのを嫌っているのは知っているだろうが!」

「す、すまねぇベルガンド様。わ、わざとじゃないんだ。ゆ、ゆるしてくれ!」

「ああっ、てめぇ。このベルガント様に意見するのか。お前のような弱小口入屋が商売できるのは誰のおかげだ!」

「も、もちろん、ベルガント様のおかげです」

「ならてめぇ!なんで、銀猫がここにいる!」

床で膝をつき、腫れた頬を押さえる女性を指差すベルガント。

女性をよくみると、頭部には銀色の毛で覆われた猫耳がついていた。

服装は、動きやすい上下の作業服に近いようなものを着ており、その衣服越しからでも十二分にスタイルのよさが見えた。

(こいつはまた、ドストライクな獣人だな。スタイルも上物だ。そっちの趣味のヤツがいたら、狂喜乱舞しそうだな)

銀猫族の女性をみて、感想をそう心に浮かべる。

(ま、このまま、この状況を放って置くのも気分が悪い。さてと、怒り狂っているのはあの山羊角野郎か)

相手を観察しながら、ゆっくりと近づく。

「ヴァリアージュ!てめぇ、この落とし前はどうつけるつもりだ。商売にケチが・・・・・・」

「とりあえず、まずは落ち着きましょうや旦那」

ゆっくりと、嗜める様に話しかける戸上。

「ああっ、なんだてめぇは!」

「そこのヴァリアージュさんを護衛していた傭兵です。依頼主がなにか不手際でも(ま、雇われた傭兵ってのはウソだがな)」

笑みを浮かべつつ、相手の怒りを解いていく。

「けっ、あのアホに雇われた傭兵か。てめぇの雇い主が、災厄種である銀猫族をつれてきたんだよ!」

「ほう。それは大変失礼しました(災厄種?なんだかわからんが、話だけはあわせていくか)」

「てめぇだって、しっているだろうが!五百年前に発生した、銀の災厄戦役を」

「申し訳ございません。何ぶん、私は戦いには慣れていますが歴史は少々苦手でして・・・・・・(興味はあるが今はこいつの怒りを解くことに専念しよう)」

「へっ、所詮は傭兵か。まあいい。それより、てめぇの雇い主の不始末はどうつけるつもりだ!ああっ!」

血走った目で、戸上を睨みつけるベルガント。

「かしこまりました。では、少し雇い主とお話をさせてください。それと、そこの女性の方は一度当方で預からさせていただきます」

「好きにしろ!」

「感謝します(よし、これで彼女の身の安全はひとまず確保だ)」

そういって、ヴァリアージュを床から起こし耳打ちを始める戸上。

「おい、大丈夫か。とりあえず、俺の話にあわせろ」

「お、お前、一体何を・・・・・・」

「いま、お前は商売の危機だろう。なら、俺に任せろ。悪いようにはしない」

「だ、だが、本当に大丈夫なのか。あ、あいつは、商売人だが同時にこの都市の裏の顔役だ。下手をすれば・・・・・・」

「まあ、任せろ。で、情報がほしい。まず、あいつの名前と商売・嗜好が知りたい」

「名前はベルガント。商売は、仲介業だ。わしのような、口入屋の仲介者だ。あと、裏社会の顔役でもある。嗜好は酒だな。特に火酒(スピリッツ)などの強いのを好む」

「上等。では、この交渉がまとまった暁には相応の謝礼をいただこう」

「なっ!金をとるのか」

「商売を失う瀬戸際だぜ。安心しろ、ボッタくるつもりはない。こっちも当座の資金が必要だ」

「わ、わかった。条件を飲む」

「ディール(交渉成立)だな。じゃ、後は基本、俺の話を追認してくれ」

そういって、ベルガントに再び話しかける戸上。

相手の興奮を説くため、表情はややにこやかにかつ怒りを買わない表情にしていた。

「お待たせしましたベルガント様。まずは依頼主が、本件につきまして大変申し訳ないと述べております」

「ふん、当然だ!」

「つきましては、今回の商談でございますがベルガント様が私めの依頼主であるヴァリアージュ様に支払う金額の2割引で問題ないと申しております。さらに次回の商談の際には上物の火酒(スピリッツ)を御提供したいといのことです」

「左様。この者の申すように・・・・・・ええっ!お、おい、おま・・・・・・」

「おやおや、ヴァリアージュ様。ここで一人漫才などとは。ちょっと、場の空気が読めてませんね」

「全くだ。だが、ヴァリアージュ、てめぇの提案は気に入った。俺様にそういった侘びをいれるとはな!気に入ったぞ!」

途端に笑顔になるベルガント。

「よし、ヴァリアージュ。今回の件は、水に流す。それと、2割引はお前の商売にも差し支える。よって、1割引にしておこう。それと・・・・・・」

にやりと、笑みを浮かべ戸上を見る。

「お前、なかなか肝の据わったヤツだな。気に入ったぞ。何かあれば、サウスガルト地区にある『グスターボ』という店にこい」

「感謝しますベルガント様」

そういって一礼をする。

「かかかか!なかなか、礼儀も座っているやつじゃないか。よし、ヴァリアージュ。確かに、鉱山労働者は引き受けた。後はこっちの仕事だ。代金はいつものように支払う」

「あ、ありがとうございますベルガント様」

ほとんほ、ひれ伏すようにお辞儀をするヴァリアージュ。

「うんじゃ、またどこかで会おうぜ」

カカカと笑い声を残しながら、傭兵ギルドを後にするベルガント。

「た、助かった・・・・・・」

「おい、へたれている場合じゃないぞ。報酬を頂こうか」

「うぇ!このタイミングでか」

「当たり前だ」

「わ、わかった。だが、こっちも正直今回は赤字だ。そう多くはだせんぞ。で、報酬はいくらだ。っと、そういやお前、この世界の通貨価値をしっているのか?」

「いや、知らん」

「あきれたやつだなぁ。それでよく報酬の話をしたな」

「あんたもその辺を正直に話すとはな。いくらでも騙せるだろうに」

「こと、商売がらみに関しては義理は欠かんことにしている。目先の利益にくいついて、すべてを失ったやつを大勢見ている。それに、ここでお前さんを騙してそれが広まれば、おそらくワシは二度と商売ができん」

「以外にこの世界は情報が早いな」

「人の噂は、深遠の森にも響く。ワシの世界のことわざだ」

「あんたも転移者(ムーバー)なのか?」

「その子孫だ。正直、ワシの世界というのは不正確だな。さて、余談がすぎた。で、お前さんには何を払えばいい」

「とりあえず、二月はつつましく過ごせる金かな。あとは・・・・・・」

そういって、いまだに床に膝を付きうつむいた表情をしている銀猫族の女性を見る。

「あの女をもらおうか」

「ま、まて!」

「なんだ、不服なのか?」

「い、いや、そうじゃない。むしろ、お前さんを心配してだ。あいつは・・・・・・」

「災厄種ってやつか。でもよ。お前さんが、こいつをどこに労働者として売り込むんだ」

「む、むうっ」

苦虫を噛み砕いた表情になるヴァリアージュ。

「むしろ、お前さんにはいいことだろう。ちょっとした報酬を払うだけで厄介なのを処分できる。こっちは求めるものを入手できる。お互いにとっての利益だ」

「た、確かに。しかし、いいのか?」

「問題ない」

「そうか。じゃあ、報酬はそれでいいとして。その前に、この世界の通過価値を教えるが・・・・・・。お前さん、まだAT(Arm Terminal)をもってないな」

「AT?なんだそれ?」

「ふむ。なら、まずは傭兵ギルドの長と話をする必要があるな」

「傭兵ギルドの長と?なんでまた」

「その辺は、ベルンハルト団長が詳しい。ワシは、そのへんのことはさわり程度しかしらんのでな」

「よくわからんが、ギルド長と話さないと報酬ももらえないということか」

「そうじゃ。こっちが払いたくても払えんのだ。とりあえず、ワシもギルド長に今回の依頼の件で話をせんといかん。お互い、それが終わってからでいいか?」

「ああ」

「では、報酬を支払う意志として彼女はお前さんに引き渡そう。しかし、本当にいいのか?」

「構わん」

「そうか。おい嬢ちゃん。今後はこの旦那がお前さんの面倒を見てくれる」

その言葉に反応して、女性は少しだけ顔を上げ戸上を見つめた。

(ほう。なかなかの美人だな。歳は俺とそう大差ないか)

「あ、あの、助けていただいてありがとうございます」

「とりあえず、礼はいい。場所をかえよう」

そういって、三人はアディのいるところに移動した。



「やれやれ。お前さんは奇想天外な行動をするな」

戻ってくるなり、やれやれといった表情で戸上を迎えるアディ。

「悪かったな奇想天外で」

「いやいや、あのベルガント相手にあそこまでやりあうとはおそれいったぜ。ましてや気に入られるなんてな」

「そこまで影響力があるのか」

「まあ、鉱山労働者の元締めだしな。ほかにも、歓楽街の取締役だ。必然と富と権力があつまるさ」

「なるほど」

「で、そっちの嬢ちゃんはどうするんだい」

「とりあえず。何か冷すものを頼む」

「オーケー。バーテン、冷したタオルと水を頼む」

カウンターにいるバーデンに注文をし、すぐさまその二つが用意された。

「ああ。そうだ、ヴァリアージュさん、ギルド長があとでこいってさ」

「うん。あとで?すぐではないのか?」

「まずは、そこの色男さんが先だとさ」

「俺か?」

意外な展開に驚く戸上。

「ああ。ギルド長がお呼びだぜ。あと、ベルンハルト団長が同席してくれる」

「そいつはありがたいな」

そこへ、団長のベルンハルトがやってきた。

「よう。早々にやらかしてくれたな」

ニヤけた表情で語る。

「さて、なんのことですかな」

とぼける戸上。

「ま、いいさ。それより、疲れているところを悪いがギルド長のところに来てもらうぜ」

「ええ。アディから話は聞いてます」

そして、二人はギルド長の部屋に向かった。

「ギルド長失礼します。傭兵団『ブラオウォルフ』団長ベルンハルトです」

『入りたまえ』

中から野太い声がこだました。

ドアを開け、中に入る二人。

そして入るなり、視界に飛び込んできた相手を見て硬直する戸上。

そこにいたのは、全身が剛毛で覆われた人間であった。

いや、正確には人間ではない。

まさに、ファンタジーなどで出てくるトラが人間化した存在であった。

「うん、どうしたすわらんのか」

平然と話をする虎人間。

「ギルド長、彼はあなたをみて驚いているのですよ」

「うん?おおっ、そういや君は転移者(ムーバー)だったな。いやすまんすまん。驚かせたようだな」

ガハハハハと、豪快に笑うギルド長。

「いえ、こちらこそ失礼しました」

そのまま、ソファーに腰掛ける戸上。

隣には、ベルンハルトが着席した。

「さて、自己紹介が遅れたな。私は、白虎族のハーディガー。ここ鉱山都市『ウィンヒトラ』の傭兵ギルド長をしている」

「戸上彰男です。アキオで結構です」

「アキオか。いい名前だ。さてアキオ君。君はこの世界がどこか、おおよそ見当はついているな」

「ええ。自分の住んでいる世界とは違うということ。何気に物騒な世界だと」

「ガハハハ。物騒か。ま、確かに傭兵ギルドなんぞあるのだから物騒といえばそうだな」

「そして、どういうわけか世界の仕組みについてみんな言葉を濁すことですかな」

「ふむ。なかなかの賢察眼だな。まあ、それについてはこの世界の共通のルールというやつだ」

「ルール?

「うむ、この世界は基本、転移者(ムーバー)およびその子孫で成り立っている。で、いまだに転移者(ムーバー)がこの世界にやってくる。なんの前触れもなくな。当然、そういった連中はこの世界のことを何も知らん。となると、まずは何をしたい?」

「・・・・・・情報ですかね」

「左様。その通りだ。しかし、まあ、君の世界でもそうだろうが世の中は善人だけではない。当然、他人をだまして利益を得るやつは多い。そこで、この世界に来たばかりの人間を見つけた場合は、火急かつ速やかに傭兵ギルドに連れてくることがルールとなっている。これはどんな人間でも課せられたものだ」

「つまり、保護ということですか」

「ま、ありていにいえばそうだ。治安維持の観点からもな。詐欺師が跋扈する世界は平和じゃないだろう」

ニヤリと笑うハーディガー。

「では、この世界の説明はあなたがしてくれると?」

「そうだ。ま、長くなるがいいかね」

無言でうなずく戸上。

そして、ギルド長はこの世界について語りだした。



この世界がいつからあるのか。

それは誰にもわからない。

ただある時、数百人単位の人間が突然この世界に出現した。

人種も多種多様であり、当初はそのせいかかなりの険悪な関係だったらしい。

ときには、文化・風習の違いからいざこざに発展し、血の流れる事態も発生した。

そんな血生臭い事態があっても、絶えることなく転移者(ムーバー)は世界の各地に出現し、そのたびに新たな文化や技術が世界に注がれた。

そして、その分だけ世界に争いと欲望も引き起こしていた。

だがそんな世界にも転機が訪れた。

数人の科学者や技術者が集まり、ある画期的なアイテムを作り出した。

それが、言語リング(ラグンウェッジ・リング)である。

思考をもった生命体は、総じて言葉によるコミュニケーションをとる。

だが、言葉が通じず文化・風習や思想が異なり、そういった種族が混在すればどうなるか。

おのずと、そこには価値観の違いによる軋轢が生じ、そして争いが生まれる。

そういった不幸を少しでもなくすため、様々な技術を有する人たちが集まって作り上げられたのが言語リング(ラグンウェッジ・リング)である。

このアイテムの登場により、それまで言葉が通じなかったものたちが言葉を交わすようになり、徐々にであるが争いはなくなってきた。

しかし、それは新たな争いの始まりでもあった。

言葉を巧みに使い他者を扇動するもの。

甘言を弄し、他者を陥れるもの。

魂さえも振るわせる思想で、他者の思考を支配するもの。

そして、いつの間にか世界には国家や宗教が乱立し、世界は形作られつつも混沌としたものになりつつあった。



「と、まあ、今の世界の成り立ちはこんな感じだな。まあ、ちょっと神話っぽい内容だが実際は結構ドロドロした展開だったようだぜ」

「だろうな・・・・・・」

そういって、テーブルにあった飲み物を一口飲む戸上。

味は、元の世界にあったコーヒーにかなり似ていた。

(だが、色がニンジンジュースみたいななんだよなぁこれ)

やや、複雑な表情を浮かべつつも、飲みなれた味を楽しむ。

「で、まあ、今の世界についてもう少し詳しく話そう。まずは、種族について説明しよう」

そして、ギルド長がこの世界の種族について大まかな説明をしだした。

曰く、この世界には大きく分けて三つの種族が混在している。


人属・・・・・・いわゆる人間。身体的・精神的にスタンダードな能力を持ち、ある意味でオールマイティーもくしは器用貧乏ともいえる。

獣人属・・・・・・獣人。人間より身体的能力に秀でている。反面、技術的な分野を苦手とする。

亜人属・・・・・・人間に近い種族。身体的には、人間よりやや劣るが技能的な分野に秀でている。


「大きく分けると、この三属にわけることができる。まあ、ここから獣人属には俺のような白虎族や銀狼族などがいる。亜人属だと、地人族や森人族がいるな」

「いろんな人種がいるんだな。人属は分類があるのか?」

「いや、ない。そういった意味では単一の種族だが、この世界では一番の勢力を誇っている。数だけなら人属が圧倒的だな」

「なんか含みのある言い方だな」

「実際その通りだ。人属は能力的には可もなく不可もないが、逆に秀でた特徴もない。まあ、それゆえにどんな場面でも順応できる。ある意味では万能ともいえるし、特徴のない種族ともいえる」

「なんか、真っ先に死にそうな存在だな」

「傭兵の戦死率でダントツなのも人属だがな」

「ご丁寧な解説をありがとう」

「さて、次にこの世界の情勢ってやつを説明しよう。ま、こんな由来の不明な世界だが、それでも人類史はそれなりにあるので『国』なんてものもある。まあ、大まかに話すとこんな感じだ」

そして、地図を取り出しながら説明を開始した。



オルデンブルク大皇国・・・・・・東方に位置する専制政治国家。三属混成国家で、歴史も古い国だが近年はその国力に陰りが見える。主な産業は、農業と国土の2割を占める巨大な湖を利用した漁業。

リューベック自由貿易連合・・・・・・南東に位置する重商主義国家。元々は、商人ギルドが中心の寄り合い所帯であったが合議制の国家を建国。主な産業は、農業と物流業。

アンハルト軍事同盟連邦・・・・・・人類版図のほぼ中心に位置する連邦国家。いくつかの小国が連合し、現在は軍事優先の軍国主義国家として世界に轟かせている。主要産業等は情報統制ため不明。

ラインラント共和国・・・・・・北方に位置する共和制国家。ただし、共和制であるが人属中心の排他性が強い国家。地下資源が豊富。主な産業は、鉱業および重工業。

シュッツガルト王国・・・・・・西方に位置する立憲君主国家。王政だが、貴族や議会の力が強く王権は非常に弱い。近年、富国強兵政策による国力強化を目指している。主な産業は農業と軽工業。

バルハラント神聖教国・・・・・・南方に位置する宗教国家。他の国とは距離を置いている。国教のローディシア教を中心とした神権政治体性。個人の人権や権利は冷遇されている。主な産業は農業と牧畜。


※注:方角は、あくまでも人類が把握している版図を中心として東西南北としたものです。



「政治体制が混在しているな」

「そんだけ人種があるって証拠さ。ま、どの国も一定の力はあるが決定力はないな」

「にしても、主要産業で農業が多いな。すくなくとも、俺の世界以上の技術力があると思うが」

「人間、食わなきゃ生きて行けないってやつさ。さて、最後に傭兵ギルドについて説明しよう」

「ああ」

「まず、この組織だが、基本的な役割は各傭兵団と傭兵に依頼をしたい人との仲介だ。ほかには、各傭兵団の動向管理や新規傭兵希望者の受付だ」

「疑問があるんだが、なんで傭兵団なんて組織がある。さっきの話だと、この世界には国家が複数あり国軍も存在しているようだ。ならば、私兵組織である傭兵がここまで大規模な組織を有する理由がわからん」

「最もな疑問だな。まあ、その理由は簡単だ。お前さん、この世界の広さはどれだけだと思う?」

「世界の広さ?そんなの来たばかりの俺にわかるわけないだろう」

「そう。その通り。そして実はいまだに世界の広さは誰も知らないのだ。さっき話した国家の位置だが、あくまでも人類が把握している版図の中心から見てという意味だ。しかも、各国家間の国境は実は接してないのが多い。つまり、空白地がかなりあるんだよ」

「なるほどね。だが、それでも傭兵団がここまで活躍する理由がいまいちわからんが」

「それについては俺が少し説明しよう。いいかギルド長」

それまで、隣で沈黙していたベンルハルとが口を開いた。

「そうだな。お前さんに任せるか」

うなずくハーディガー。

「まず、ギルド長の話したように、お前さんの元いた世界と同じくこの世界も国家がある。だが、同時にこの世界はいろんな意味で無秩序なんだ。まず、国家はあるが国境が非常に曖昧だ。さっきの国家の中でで明確に国境がはっきりしていて、且つ問題がないのはアンハルト軍事同盟連邦の連邦加盟国ぐらいだ。あとは、国境線が曖昧な上に間に空白地もある」

地図を指差しながら情勢を説明する。

よく地図をみると、アンハルト軍事同盟連邦のある地域以外の国境は色が薄くなって描かれており、場所によってはどこにも属してない空白の地域も描かれていた。

「なるほど。曖昧な国境だ。しかも、国家間の間に空白地まであるとはな」

「もちろん、各国もこのままにしているわけではない。だが、どの国も国内治安が優先であり、正直なところ国境線画定のための戦争なんぞできる状態じゃないんだ」

「そんなに治安がよくないのか?」

「人口の多い地域に限れば、警察組織に正規軍などが駐留しておりまず問題はない。問題は地方の小都市や村落だ。基本、そういったところは自警団が治安維持にあたるが所詮は素人だ。そして、厄介なのがこの世界にはルールを無視する輩が多いことだ。お前さんも既にあっただろう」

「ああ」

「何分、ここは元の世界とは違う。そして、新たに存在する国家に元々属しているわけでもないので、そういった国が作った法律に従う理由もないと考える連中もいる。もちろん、国家が統治しているところにはあるが、所詮は自分とは異なる異世界だ。で、国家で手に負えない地域の治安維持などを行うのが我々ってわけだ」

「まさに傭兵ってわけだ。しかし、よく各国が私兵組織なんか認めたな」

「正直なところ、各国でも悩ましいことなんだろう。私兵は認めたくない。だが、地方都市を国家が見捨てるようなマネをすれば即離反される。予算も限られているしな。それに地方都市は、貴重な食料供給源だ。そういった、食料輸送護衛も我々の仕事だ」

「ということは、基本は護衛任務が中心ってことか」

「そうだな。まあ、護衛対象の規模は様々だがな」

「了解した」

「では、最後にギルドから君への提案がある」

「提案?」

「そうだ。ま、簡単に言えば傭兵ギルドに登録する気はないかということだ。というか、転移者(ムーバー)の大半は傭兵を生業としているがね」

「傭兵・・・・・・か。ちなみに、ほかにはどんな職業についている?」

「まあ、医療技術があれば医者なんかをしているものもいる。ごく稀にだがな」

「ふむ。薬剤師の需要はないのか?」

「お前さんは、薬剤師なのか?」

「まあ、本業ではないが、元の世界では資格を有している。あんまり活用してないがな」

苦笑する戸上。

「まあ、薬剤師の場合は傭兵団の衛生兵って役割が多いな。この世界は、医者と薬剤師は兼務が多い」

「そうか。とりあえず、少しだけ考えさせてくれ。即答できる案件じゃないしな」

「当然だな。それと、これは傭兵になるならないに関わらず渡しているものだ」

そういって、やや大きめの長方形の物体を取り出す。

「これは?」

「Allzweck tablet terminal(汎用タブレットPC)という。略して、我々はAT(アルゼック ターミナル)と呼んでいる」

「この世界にも電子機器はあるんだな」

「この世界では、基本はこのATを利用して取引などを行う。所属する国家に関わらず、こいつは利用できるのも利点だ。もし、傭兵としてギルドに登録されれば報酬はこいつを介して支払われる」

「電子マネーってやつか。となると、現物貨幣とかはないのか?」

「ない。この世界の通貨は共通で『ゲルト』と呼ばれている。まあ、参考になるかわからんが標準的な生活費は、一日100ゲルトだ」

「了解した。話は以上か?人を待たせているのでな」

「以上だ。傭兵登録の件はゆっくり考えてくれ」

うなずくハーディガー。

「私は、ギルド長と少し話があるのでまだここにいる。すまんがアディにそう伝えてくれ」

うなずき、戸上は立ち上がり一礼してギルド長の部屋をでた。



「おおっ、終わったようだな」

ギルドのホールにでると、アディ・ヴァリアージュに銀猫族の女性が駆け寄ってきた。

「待たせたな。とりあえず、どこか空いている席に座ろう」

そして四人は、近くに空いているテーブル席に座ることにした。

「アディ、団長さんはまだギルド長と話があるので待っていてくれだとさ」

「そうか。ま、この後は仕事もないし。のんびりできるかもな」

肩をすくめ、おどけるアディ。

「さて、待たせたなヴァリアージュさん。おおむね、この世界の話は聞いた。まだわからんこともあるがな」

「そうか。それにATも貰えたようだな。何分、そいつがないと支払いができんのだよ」

「すべての取引はこれを介在するのか」

ATを指差して話す。

「うむ。まあ、犯罪防止も兼ねている。誰がどこで支払いをしたかを管理すれば犯罪組織とかに資金は流れんからな。もっとも、そういった連中はレアメタルなんぞを取引の媒介にしている。むしろこっちのほうが私は価値があると踏んでいるがね」

「完璧に抑止する方法はないというわけか」

「そうなるな。さて、さっきの件の報酬だが、この世界の通貨価値は聞いたかね?」

「ああ」

「では、感謝も含め3000ゲルトを君に支払おう。これで問題ないかね?」

「正直、あの仕事の価値は俺にはわからん。その辺は任せる」

「ハッハッハッハッ!そうきたか。お前さん、商売人相手に少し正直すぎるぞ」

「あんたもな」

そういって、ニヤリと笑みを浮かべる二人。

傍からみれば、不気味な光景でもある。

「ではATをこちらに。これから報酬をそっちに転送する。無線転送なので、こっちからアクセス申請をするので許可をだしてくれ」

そう話つつ、自分のATの液晶パネルを操作するヴァリアージュ。

しばらくして、『ピピッ』と電子音が鳴り戸上のATの液晶画面にヴァリアージュからのアクセス申請があり許可のY/Nが表示された。

すぐさま、『Y』を選択しアクセスを許可する。

直後、パネルには『ヴァリアージュ様から3000ゲルトが支払われました』と表示された。

「そういや、一つ疑問なんだがアディ」

「どうしたアキオ」

「いや、このATに俺の世界の言語や文字が表示されるがなぜだ」

「ああ。そいつは簡単だ。すでにお前さんは、言語リングを装着しているだろう。そいつは個々人の言語情報を解析して、的確に翻訳してくれるのさ。ATも言語リングとデータリンクしているのでそういった解析もやってくれるのさ」

「なるほどね」

納得する戸上。

「さて、もう一つの報酬だが・・・・・・。お前さん、本当に銀猫族の娘を引き取るつもりか」

「ああ。あんただって、その娘さんをどっかに紹介できるわけじゃないだろう。それに、今後の面倒も見るつもりもない・・・・・・というか見れないほうが正しいのだろう」

「むぅ・・・・・・それはそうだな・・・・・・」

目を細め、苦虫を噛んだような表情をするヴァリアージュ。

「なら、俺がその娘さんを引き取っても問題ないだろう」

「そいつは確かにそうだが。だが、本当にいいのか」

「問題ない」

「そうか。ならこれ以上はなにも言わん。そういうわけだお嬢さん。今後はこの人が面倒をみてくれるようだ。悪いが、私では仕事の紹介はできん。勘弁してくれ」

「・・・・・・いえ、こういったことには慣れていますから。気にしないでください」

か細い声で話し銀猫族の女性。

「では私はここで失礼するよ。ギルドによって、次の仕事を請けてこないといけないのでな。ああ、そういやお前さんの名前をちゃんと聞いてなかったな」

「戸上彰男だ。アキオと呼んでくれればいい」

「そうか。ではアキオ。何かあればATに私のメッセージを送ってくれ。アドレスは、もうお前さんのATに記録されている」

そういって、傭兵ギルドを後にするヴァリアージュ。

「さて・・・・・・と」

一息ついて、銀猫族の女性に向き合う戸上。

「まずは自己紹介をしようか。といっても、君は俺の名前をもう知っているが、改めて自己紹介しよう。俺の名前は戸上彰男。呼ぶときはアキオでいい。で、君の名前は」

相手に不安感を与えないように、やややわらかい表情で話しかける。

「わ、私の名前は・・・・・・エミリア・シュミット。種族は、その獣人属の銀猫族です」

やや硬い表情であるが、戸上の顔をみて話しかけるエミリア。

「そうか、エミリアさんか。いい名前だ」

「あ、あの・・・・・・」

「うん、どうした?」

「あの、アキオさんは、どうして私を助けてくれたのですか?その、私の種族は・・・・・・その、忌み嫌われています。正直、自分でいうのもなんですが助ける価値もないと思います」

「・・・・・・助ける価値がない・・・・・・だと」

突然、険しい表情を浮かべる戸上。

「自分をそんな無価値な存在と思うな!今のお前は、アディのいる傭兵団の連中が命と引き換えに守ったんだ!それを無価値というのは、お前自身だけでなく戦死した傭兵達の命を穢す行為だ!」

「ひっ・・・・・・・」

突然の怒鳴り声に、軽く悲鳴を上げるエミリア。

周囲の傭兵や依頼人も、突然のことに戸上たちのいるテーブルに目線を移していた。

だが、大半の人はすぐさま目線を外し自分達のやるべきことに戻っていった。

「す、すみません。そ、そんなつもりでは・・・・・・」

「いや、こっちこそすまない。突然、怒鳴り声をあげて」

「全くだ・・・・・・。いきなり、怒鳴り声なんか上げるなよ。耳がおかしくなるじゃないか」

耳をふさいでいた両手を外すアディ。

「お前さんは大丈夫だろう。銃声を聞いているのだから」

「銃声と怒鳴り声を一緒にするな。それよりアキオ。お前さん、本当にこの娘を引き取るのか」

「ああ。助けた以上は、面倒を見る」

「そうか・・・・・・」

そこへ、団長のベルンハルトがやってきた。

「なにやら騒がしいな」

「あっ、団長!」

椅子から立ち上がり、団長を出迎えるアディ。

「待たせたな。で、何があった?」

「はい、実は・・・・・・」

事情をかいつまんで話すアディ。

「・・・・・・ふむ、そういうことか・・・・・・。アディ、ご苦労だった。あとは、私が彼と話す。お前は、一度傭兵団の事務所に戻っていろ。それと・・・・・・」

なにやらアディに耳打ちするベンルハルト。

「だ、団長。正気ですか?」

「問題ない。どうせこのあとの選択は決まっている。それより、すぐに準備しろ」

「了解しました」

そしてアディは、すぐさま立ち上がり傭兵ギルドを後にした。

「さてと・・・・・・アディから聞いた話は本当か?その娘さんの面倒をみるというのは?」

「ああ、そうだが。何か問題でも」

「ふむ。そこの娘さんには悪いが、彼女が銀猫族だというのを承知で面倒をみるかね」

「そのことだが、なぜ彼女の種族である銀猫族はそこまで忌み嫌われる。こういってはなんだが、銀髪って以外には特段俺達と外見は変わらんぞ」

「そうか、君は転移者だから知らないのも無理はないな。彼女ら銀猫族は・・・・・・」

「団長さん、そこから先は私が話します」

突然、エミリアが話しに割って入ってきた。

「いいのか。自分達の辛い過去を話すことになるのだぞ」

「かまいません。それに、アキオさんの言葉で私も考えを変えました。自分が無価値な存在と思わない。そのはじめに、自分達の過去を受け入れることにします」

「そうか」

「では、アキオさん。なぜ、私達銀猫族が忌み嫌われるかお話します。その前に、この世界のことはもう把握してますか?」

「概ねな」

「それでは、少し長いですがお話します」

そういって、銀猫族の忌まわしき歴史を語りだすエミリア。



人々が、この得体の知れない世界に呼ばれて数百年経過したころの話である。

世界は転移者およびその子孫によって、いくつかの小国家が建国された。

その中に、獣人属を中心に構成された『ディマイオス』という国があった。

人属・亜人属・獣人属が混在した、他民族国家であり科学技術も進んでいた。

そして、その国の中で中心的かつ高い地位を有するのが銀猫族であった。

銀猫族は、獣人属に属する種族でありながら、高い身体能力と亜人属さえも凌駕する技術力を有する稀有な種族であった。

だが、その高い能力におごることなく、その正確は謙虚かつ温厚な種族であり、彼らを忌み嫌うものは存在していなかった。

しかしながら、その銀猫族が故国である『ディマイオス』に対して反乱を起こした。

反乱は、瞬く間に国内全域に広がり、さらには『ディマイオス』と友好関係にある国にも銀猫族は戦火を広げていった。

『ディマイオス』をはじめ、戦火に包まれた国々は恐怖に包まれた。

なぜなら、銀猫族は他の獣人属と一線を画すほどの身体能力を有している種族でもあった。

普通の銀猫族の兵士一人は、通常武装をした兵士10名に相当するといわれている。

熟練した兵士の場合は、一人で一個中隊を文字どうり全滅させられるほどの戦闘能力を有するといわれている。

そのため、『ディマイオス』をはじめ各国の軍隊は銀猫族相手に多大な被害を出し、多くの兵士が血を流し大地を朱に染めた。

戦いは、10年以上続いたと言われ、『ディマイオス』をはじめ戦火に巻き込まれた国の多くは灰燼に帰した。

だが、銀猫族も10年に及ぶ戦争で多くが戦死し、戦争はなし崩しに終結した。

後に残ったのは、狂気に駆られた忌まわしき銀色の種族という言葉だけであった。

その後、銀猫族の生き残りは各地に分散し、ひっそりと暮らすようになり、他の種族も大戦を引き起こした種族を忌み嫌うようになったとされる。



「以上が、私達の種族が過去に起こしたことです・・・・・・」

話をおえ、俯むいた表情を浮かべるエミリア。

「なるほど。お前さんの種族は、かなり昔にどでかい大戦を引き起こしたわけだ」

「はい、多くの人が死んだと伝承にあります」

「で、そいつはいつの話だ?」

「え、ええと、今から1000年ぐらい前としか・・・・・・」

「・・・・・・はぁ、なるほどねぇ。この世界にも1000年たっても忘れないとか言うアホがいるんだな」

呆れた表情を浮かべる戸上。

「いや、そいつは違うぞ。問題はもっと別にある」

戸上の解釈の違いを指摘するベンルハルト。

「別?」

「ああ。話にでてきた『ディマイオス』国だが、確かに1000年前ほどの国家だが今以上に技術力があった国であることは事実だ。そして、そういった科学技術をすべて灰燼に帰したのが銀猫族なんだよ。そして、その大半がいまだに再現されてない」

「戦争そのものよりも科学技術の喪失をみんなが恨んでいると」

「そうだ。この世界は、何分争いが多い。おまけに、各国間の技術交流なんてやつも少ない。そのせいもあって、科学技術の進歩がいまいちなんだ。だが、『ディマイオス』があったときはその進歩が飛躍的だったようだ」

「科学技術の喪失か。複雑な事情や感情が絡んでいそうだな」

「それに銀猫族の能力も問題視されている。本来、獣人属は戦闘能力には長けているが、技能面では人属にも劣る。だが、銀猫族は戦闘能力だけでなく技術的な分野でも秀でている。最も、大戦の後はそういった技術も多くが散逸している上に、銀猫族には技術的な分野に触れさせないという法律を制定した国まである。そういった事情があって、この世界での立場はかなり厳しいものになっている」

「にしても、恨みや妬みがそこまで長続きするとは・・・・・・。ある意味では、尊敬の念を抱くよ」

言葉とは裏腹に、戸上の表情には呆れかえったものが浮かんでいた。

「きつい評価だな」

「おや、俺は賞賛したつもりなんだが」

「ま、そういうことにしておこう。それで、これからお前はどうするつもりだ」

「そうだな・・・・・・。ギルド長の話からすると、俺ができそうな仕事は傭兵以外はなさそうだな。となると、まずは傭兵ギルドに登録しようかと思う。もちろん、エミリアも一緒にだが」

「ええっ、私もですか!」

突然のことに、素っ頓狂な声を上げる。

「当たり前だろう。話を聞く限り、お前は兵士としての能力は俺以上だ。なら、その能力をいかすべきだ」

「ううう・・・・・・まさか、傭兵稼業に身を染めることになるなんて・・・・・・」

「頭を抱えなくていい。それよりベルンハルト団長。傭兵ギルドへの登録は、銀猫族でももんだいなくできるのか?」

「それは問題ない。まあ、一部の国では、銀猫族そのものの入国を認めてないので、そういった国では仕事を請け負うことができないがな。それにしも残念だ」

「なにがだ?」

「できれば、君をわが傭兵団に加えたかった。しかし、銀猫族の娘さんと一緒に行動するのであれは断念するしかないな」

「・・・・・・きつい事を聞くが、あんたも銀猫族に差別感情をもっているのか?」

鋭い目線を向ける戸上。

「いや、それはないよ。ただ、依頼人の中にはそういった感情をもつヤツも多い。傭兵団の団長としてリスクは避けないといけないのでな」

苦笑しつつ答えるベルンハルト。

「そうか、すまなかった」

「気にするな。むしろ、正常な反応だ。それでアキオ、傭兵登録をしたら、悪いが我々の傭兵団の事務所にきてほしい。場所は、そこのお嬢さん、この街の地理には詳しいかね」

「概ね理解してます」

「なら住所を、そのATに転送しておく」

「うん?ああ、いいが一体何だ?」

「それは現地についてから話そう。まずは、そこの娘さん・・・・・・エミリアさんだったな。彼女と一緒に傭兵登録をしてくるといい。私は事務所に向かうことにするよ」

「了解した。エミリア行くぞ」

「は、はいっ!」

そして、戸上とエミリアはギルドの登録受付窓口にきた。

「すまない。傭兵登録をしたいのだが」

受付には、人属の女性がいた。

「はい、傭兵登録ですね。失礼ですが、新規登録でよろしいでしょうか?以前、どこかの傭兵団に加盟していたことはございませんか?」

「いや、ない。ひとつ聞くが、傭兵登録できない種族とかはあるのか?」

「ございません。犯罪歴や各国からの指名手配犯でなければ、どなたでも登録は可能です。まあ、年齢が16歳未満の方はご遠慮いただきますが」

「そうか。なら、問題は・・・・っと、その、なんだエミリア」

エミリアをみて、バツの悪そうに話す戸上。

「はい?どうしましたアキオ」

「いや、そのなんだ。お前さんの・・・・・・その、年齢を聞いてなかったのでな」

「あっ、いえ、すみません私こそ。一応、年齢は18歳です」

「そ、そうか。じゃあ、問題はないな。というわけで、2名頼む」

「かしこまりました。では、こちらの書類を一読していただき、最後にサインをお願いします」

二人のやり取りをみても、何事もないように手続きを進める受付嬢。

書類には、次のような文章が書かれていた。



1:傭兵ギルド登録者は、以下のギルド規約に従うこと。

2:依頼は、原則ギルドを通じて行うこと。依頼人との直接交渉はこれを禁ずる。但し、緊急性の高い事態の場合は仮契約の形とし、依頼終了後に依頼人と共にギルドに報告すること。

3:各傭兵団および傭兵は、依頼中に使用する武器・弾薬の管理を徹底すること。傭兵でない、第3者に銃火器を供与することを禁ずる。但し、自衛ためにやむ得ない場合は一時所有を認める。

4:依頼については、各傭兵団および傭兵ギルドのランクにより制限がある。ランク更新については、ギルドの規定条件をクリアすること。

5:各傭兵団および傭兵は、ギルドの緊急招集がある場合は速やかに最寄のギルドに集合すること。但し、別途依頼遂行中の場合はその義務から解放される。虚偽の場合は処罰される。



「まあ、よくある契約文書だな。うん、そういや、俺はなんでこの世界の文字が俺の世界の文字に見えるんだ?」

「ああ、それは言語リングの性能です。視覚野に作用して、その人の理解できる言語に自動的に翻訳しているのです。実際の文字は別ですが」

理由を説明するエミリア。

「そこまでしてくれるのかこいつは。俺の世界にあれば、通訳関係の仕事はみんな失業だな」

「それではお二人とも、この文面に異議がなければサインをお願いします」

二人はうなずき、文書の下段にある署名欄にサインをした。

「はい。では、しばらくお待ちください。両名の名前で確認を行い、問題がなければ傭兵登録は完了となります」

署名された文書を、カウンターの下にあるスキャナーで読み込む受付嬢。

『ピピッ』という電子音がなり、作業が完了したことを知らせた。

「お待たせしました。両名とも問題ないため、これで傭兵登録は完了です。では、続きまして傭兵ランクについて簡単に説明させていただきます。時間がかかりますので、隣のブースに移動をお願いします」

そして、隣のブースに移動し説明の続きを聞く二人。

「それでは、傭兵ランクについて説明します。まず、ランク制の趣旨からお話します。まず、お二人は傭兵として登録されましたが、ギルドの公表する依頼をすべて受託することは出来ません。初登録の人は、いかなる身分・出身であっても全員ルーキーランクからスタートです」

「ルーキーランクってなんですか?」

キョトンとした表情でたずねるエミリア。

「簡単にいうと新人ですね。ちょっと言葉は悪いですが、このランクから三ヶ月たっても抜け出せないひとは傭兵をやめろと言われますね」

「そんなにひどい評価なんですか」

「まあ、ちょっとありえないってヤツですね。ああ、話が脱線しましたね。それでは、傭兵ランクの一覧を紹介します。こちらをどうぞ」

そういって、アクリル製の透明樹脂に覆われた一枚の紙を出す。

そこには、傭兵ギルド名前で作成された傭兵のランクが記載されていた。


                               『傭兵ギルド作成:傭兵ランク一覧』


序列1位:ミスリルクラス

序列2位:プラチナクラス

序列3位:ゴールドクラス

序列4位:シルバークラス

序列5位:スチールクラス

序列6位:アイアンクラス

序列7位:ブロンズクラス

序列外 :ルーキークラス


*序列規約*

なお、ルーキー・ブロンズを除く各クラス序列者は、依頼受託が半年以上ない場合はランクを下げる処置を行うものとする。

ギルド禁則規定に抵触した場合は、抵触内容に関わらずブロンズランクに降格処分の上、罰則金を課徴する。

ブロンズクラスの場合、課徴金に併せ傭兵ギルド資格三ヶ月停止処分とする。

ルーキークラスの場合、一年間の依頼受託がない場合は除名処分の上、5年間の再登録禁止とする。



「なるほど、これが傭兵ランクの詳細か。そういや、ブロンズだけ禁則規定抵触処分が重いな。これはなぜだ?」

疑問を投げかける戸上。

「ああ、実はですねぇ。お恥ずかしい話ですが、一番禁則行為を行うのがこのブロンズクラスの傭兵さんなんですよね。何分、ルーキーと比較して依頼金が大きくなりますので。一番多いのが、ギルドを通さずに受託するケースですね。緊急の場合は仕方ないのですが、原則はギルドを通じてでしか依頼をうけれませんからね」

「一応聞くが、ギルドを通じての依頼にする理由は?」

「依頼の確実な遂行を期すためですね。錬度の低い傭兵が、難易度の高い任務を受諾しても確実に失敗しますからね。そういったのが続けば、傭兵全体の信用に関わります。あと、任務後報酬支払いを確実にするためです。依頼人の中には、任務終了後に難癖をつけて報酬を値引く人もいますのでね。そこで、ギルド側で前もって仮払い金を頂いております。これだと、そういった難癖があっても最低限の報酬は確保できます。あと、悪質な依頼人の排除もかねてますね」

「なるほどね。どこの世界もそういったやつはいるんだな」

「ええ。まあ、個人的には自己責任で片付けてしまえってのもありますが。そうすると、傭兵が生活にあぶれて野盗になってしまいますからね。結構いるんですよ、傭兵崩れの野盗も」

苦笑いを浮かべる受付嬢。

「では、次に昇格について説明します。まず、ルーキーからブロンズへの昇格ですが、条件は単純で三ヶ月以内に依頼を10件こなすです。さっきも言いましたが、これがクリアできないのであれば傭兵を辞めるべきです」

「そんなに簡単なのか?」

驚いた表情を浮かべる戸上。

エミリアも、同じような表情をしていた。

「ええ。ルーキーやブロンズクラスが受託できる依頼の多くは、もう危険とは無縁の内容です。まあ、その分地味ですがね。それ以上のランクについては、依頼の数だけでなく難易度も加味されてギルドが判断します。まあ、普通の傭兵なら1年でスチールクラスまではいけると思います」

「なるほどね」

「最後に依頼の受託方法と報告についてです。依頼の受託は、基本ギルド内にあります、あちらの電光掲示板もしくは、その近くにあります専用端末から検索してください。これと思った依頼があれば、ATで依頼のQRコードを読み取ってください。基本、これが依頼を受ける方法です。例外としては、ギルドからの指名依頼があります。これは、ATに直接依頼が送られます。この場合は、原則受託をお願いしてますが拒絶も可能です。最も、これを拒絶する人はまずいませんが」

「えっ、どうしてですか?その、依頼の受託や拒否は傭兵各人の意志によると思いますが」

不思議に思うエミリア。

「簡単です。指名依頼は、通常の依頼より高額の報酬だからです。病気とか、よっぽどの状態でない限り拒否する人はいません。あと、別の依頼受諾中は配信されませんのでご安心を」

「なるほど。納得です」

「説明については以上になります。何か質問はございますか?」

「いや、おおむね理解した。後は依頼をこなしつつ、現場で習得していくよ」

「それでは最後に、ギルドからお二人に支給品があります。お手数ですが、ATを拝見させていただいてよろしいでしょうか」

「ああ」

「どうぞ」

そういって、ATを見せる二人。

「ありがとうございます。そのまま、しばらくお待ちください」

そういって、二人にATの液晶画面に電子ペンを走らせる受付嬢。

直後、『ピピッ』と電子音がなった。

「お疲れ様です。お二人のATに、ギルドから装備支度金が振り込まれました。お一人様、5000ゲルトです」

「こんなもんまで支給されるのか」

「まあ、これも犯罪抑止ですね。傭兵になりたいけど、装備を買うお金もない人って結構いるんですよ。で、傭兵稼業をするためにてっとり早く強盗なんかして装備資金を稼ぐ人も昔はいたらしいですよ。ま、本末転倒ですがね」

「だな。即ブラックリスト入りだ」

「なお、支度金は一度限りですので、装備以外で浪費しても補填されませんので。ほか、ギルド関係の福利厚生はATに転送されております文書で各自確認をお願いします」

「丁寧な説明、感謝するぜ。よし、エミリア『ブラオウォルフ』の事務所に向かうぞ。場所はどこだ」

「ええと、いま確認します」

ATを操作し、『ブラオウォルフ』の事務所所在地を確認する。

「あっ、すぐ近くですね。ここから3ブロック離れた倉庫街にありますね」

「そうか。ではすぐに向かうとしよう」

そして二人は、傭兵ギルドを後にした。



『ブラオウォルフ』の事務所のある倉庫街は、戸上たちの足でほんの10分程度の距離であった。

中心街の通りとは異なり、倉庫街の人通りはそれなりであったが大半は作業服をきた人で占められていた。

「ここか・・・・・・。いかにも倉庫街だな。にしても、この世界でもレンガ造りの倉庫はあるんだな」

「戸上の世界にもあるんですか?」

「ああ。まあ、古い倉庫が中心だがな。あとは、観光地の目玉としてあえてレンガ造りってものあるが。倉庫目的で作るケースはまずないと思う」

「そうなんですか。この世界では、結構レンガ造りの建築物は多いですよ」

「すくなくとも、俺の世界よりは科学技術が発達していそうなのに、妙なところで時代がかっているな」

「私はこの景色は見慣れているのですがね。以前もここで仕事をしていましたし」

「エミリアは、この街出身なのか」

「いえ。私の生まれは、この鉱山都市からもっと南の寒村です。わずかですが、銀猫族とほかの種族が共同で農業を中心に生活してます。もっとも、あまり豊かな土地ではないので、私も16歳になってからはよくこの街で日雇いの仕事をしてましたが」

「この世界は、何気に生活するだけでも大変なんだな」

「大都市やその近隣居住でなければ、かなり厳しいですね。まあ、大都市でも安心ってわけじゃないですが。あっ、アキオあそこが『ブラオウォルフ』の事務所ですよ」

灰色がかった倉庫を指差すエミリア。

「あれか・・・・・・。よし、急ごう」

やや早足で、『ブラオウォルフ』の事務所である倉庫に向かう二人。

「失礼。ここは傭兵団『ブラオウォルフ』の事務所で間違いないか」

倉庫前に立っている傭兵に話しかける戸上。

「ああ、そうだ。依頼か?なら傭兵ギルドに行け」

「いや、ここの団長であるベルンハルトさんに来るように言われた」

「うん。そうすると、あんたがアキオさんか?待っていたぜ!今回は仲間を助けてくれて感謝する。さ、こっちにきてくれ」

そういって、戸上達を中に案内する傭兵。

倉庫の中は、ほかに数名の傭兵がいて装備の点検や銃器の整備などを行っていた。

二人は、そのまま奥にある事務所の一室に通された。

「団長、お客様をお連れしました」

「おお、来たかアキオ。それに、銀猫族のお嬢さん。確か、エミリアさんだったな。ま、まずは座ってくれたまえ」

室内には、ベルンハルト書類整理を行っていた。

「いやすまんな。呼びつけておいて、このようなザマで」

書類にサインをしながら話をするベルンハルト。

「団長も大変だな。事務処理までするのか?」

「というか、どこの傭兵団も団長はこんな感じだよ。基本、団長イコール事務員みたいなものだ。さてと、君らをほうっておくわけにはいかんのでな。呼んだのはほかでもない。二人とも、傭兵登録はしたかね?」

うなずく二人。

「そうか。では、早速で悪いが私についてきてくれ」

そして、三人は事務室を出て倉庫内の別の区画に移動した。

そこには、数多くの銃器や弾薬が保管されていた。

「ここは、兵器庫か?」

「そうだ。我が傭兵団の心臓部だな」

「して、なんで俺達をここへ?」

「なに、簡単なことだ。お前さんへの謝礼として、我が傭兵団の銃器を提供しようと思ってな」

「おいおい、そんなことをしていいのか?確か、ギルドの規約では武器提供は禁止されているだろう」

「それは傭兵でない人への提供だ。傭兵登録された場合は、所有する武器はATを通じて傭兵ギルドで管理されている。最新モデルの場合は、グリップ部に個人認証装置が組み込まれているので、所有者以外は発砲できんシステムになっている。最も、流通量も少ないし高価なので我々も所持してないがね」

「結構、管理体制がしっかりしているんだな」

「そりゃあ武器だしな。だが、密造された銃なんかまでは管理できん。ギルドが管理しているのも、傭兵がらみの犯罪が発生した場合、早急に対処できるためのシステムを作っておきたいだけなのさ」

「ま、無分別に銃が氾濫する世界は嫌だしな」

「そういうことだ。おい、アディいるか?例のものは準備できているか?」

アディを呼びつけるベルンハルト。

「はっ団長!準備できてます」

兵器庫の奥から、一丁のライフルと共にアディが出てきた。

「こいつは?」

「アディから、君の戦闘について聞かせてもらった。その上で、私が判断してチョイスしたライフルだ。MSG96X、通称ナハトイェーガーだ」

戸上の目の前に置かれた、黒光りする銃の名前をいうベルンハルト。

「こいつは、狙撃用ライフルか?(というか、俺の世界にあるH&K MSG90にそっくりじゃないか)」

「いや、普通のアサルトライフルだ。最も、使用しているバレルが高性能なので狙撃用としても十分に使える」

「アキオ、こいつは最新モデルじゃないがなかなかのヤツだぜ。ま、ルーキーの支度金では買えない事だけは確かだ」

「支度金で買える武器はそんなにひどいのか?」

「そういうわけじゃない。まあ、戦闘服に背嚢ほか色々とそろえないといけない。だから必然的に武器にまわせる金も減るのさ」

「確かに・・・・・・」

うなずく戸上。

傭兵であれ、正規の兵士であれ、ライフルなどの銃火器だけで戦争はできない。

当然、予備の弾薬や戦闘中の負傷を想定した応急救急品に野営する道具。

その種類は多岐に渡る。

「ま、ルーキーが受ける依頼に危険は少ないから最初は銃と戦闘服さえあれば問題ないけどな」

「俺はそれでも応急救急セットは用意しておくよ」

「ほう、さすがだな・・・・・・」

関心するベルンハルト。

彼が関心するには理由がある。

古来、戦場で死亡する原因は、直接的な攻撃を除けばその多くが感染症を原因とした病没である。

特に多いのが破傷風である。

傷口から破傷風菌が感染した場合は、放置すれば死に至る。

そのため、経験のある兵士は負傷をそのまま放置せず即座に処置し、逆に若く血気盛んな兵士ほど傷は勲章だと放置する傾向がある。

だが、少しの傷とはいえ放置するのは致命傷である。

戦場は、銃弾が飛び交う場所であり、同時にその衛生環境は地上最悪である。

破傷風菌に限らず、数多くの病原体が蔓延する空間であり、熟練の兵士ほど可能な限り傷を早急に手当するのである。

「では、このライフルの緒元を説明しよう。アディ、説明してやれ」

「はっ、団長殿。じゃ、説明するぞアキオ」

「ああ。にしても、お前なんか今日は解説ばかりしてないか」

「うるせぇ!とにかく説明するぞ」


アサルトライフル  :MSG96X、通称ナハトイェーガー

製造元       :ローテボゥ社

重量        :3.2Kg

素材        :ウーツ鋼

射程        :200m~800m

使用環境      :-10℃~+50℃

弾種        :8.77㎜硬化テクタイト弾

装填数       :30発(ハーフボックスマガジン式)


「ま、こんな感じかな。射程と使用環境に弾種は概ねこの世界の標準だな」

「なぁ、硬化テクタイト弾ってのは?」

弾種について質問する戸上。

「うーん、そうだなぁ。アキオの世界で標準的な弾薬の素材ってはなんだ?」

「いきなりだな。まあ、この世界にあるかわからんが鉛だな。鉛弾っていうぐらいだし」

「おお、鉛なんか使っているのか。こっちの世界じゃあんまりとれないので、意外に希少金属なんだぜ。ま、テクタイトってのは比較的産出量の多い鉱物だ。ここの鉱山でもよく取れる。加工も容易なんでね」

「なるほどね。加工が容易ってのは、弾薬には適しているからな。つまりテクタイト鉱石は産出しやすい鉱石なんだな」

「ああ。ついでにいうと、傭兵が請け負う輸送護衛任務で一番多いのがこいつの輸送護衛だ。なんせ、弾薬素材なだけに、密造工場の所有者もほしがるからな」

「足の付かない素材ほどありがたいものはないからな」

「アキオ、これは我が傭兵団からの感謝の気持ちだ。このライフルと、当面の弾薬500発を君に供与しよう。それと・・・・・・」

そういって、エミリアを見るベルンハルト。

「アキオ、彼女も傭兵登録したのかね?」

「ああ、問題なくできた」

「そうか。では、そちらのお嬢さんにも武器が必要だな」

「ええっ、私にもですか!?」

驚くエミリア。

「まさか素手で傭兵するつもりかね?いくら身体能力の高い銀猫族でもそれは無謀だぞ」

「い、いえ、そんなつもりはないです。ってか、いくら身体能力の高い銀猫族でも銃器相手に格闘はしませんよ」

「そうなのか。やはり、伝承の素手で敵兵を屠る話は嘘か」

「どこの世紀末救世主ですか!」

「おいおい・・・・・・(てか、この世界にもあの漫画に似たのあるのか。メンタリティに差はなさそうだな)」

いろんなことに呆れる戸上。

「ま、冗談はさておき。エミリアさん、君は銃器を扱ったことはあるかね。もちろん、射撃をしたという意味でだ」

エミリアの銃器に関する経験をたずねるベルンハルト。

「ええと、せいぜい猟銃つかっての狩猟経験があるぐらいです。それだって数回程度ですが」

「結構。全く発砲経験がないというわけでないな。アディ、どう思う」

「そうですね・・・・・・。エミリアさんの場合は、命中性のいい銃がいいと思いますね。自分なら、このヘッジマスターM2を進めます」

そういって、近くにあったブルパック式アサルトライフルを持ち出すアディ。

「ふむ、確かにこれならいいかもな。反動も少ないので誤射する心配もない。慣熟するにもそう時間はかかるまい」

「ほう、こいつは・・・・・・」

「どうしたアキオ」

「いや、この世界も俺の世界と同じく銃開発思想は似ているなとおもってな」

「アキオの世界にも、これと同じようなライフルがあるのか」

「というか、同じといっても過言ではないかもな。もっとも、こっちのほうが性能はよさそうだな」

「ま、水につけてもすぐ使える。砂が入っても落とすだけで射撃できるしな。バレルの耐久性も悪くない」

「ナハトイェーガーよりもよさそうだな」

「確かに野戦で使うに限ればいいが、こいつにはちょいと欠点があってな。銃そのもの威力が、ほかの同世代のと比較すると弱いんだよ」

「うん、歩兵銃なんだし。そこまで威力はもとめてないだろう」

「対人戦闘なら問題ないが、俺らの仕事は対人だけでなく対戦車戦闘や大規模施設制圧戦もある。そうなると、こいつはちょいと使い勝手がよくないのさ。使う弾種も、8.77㎜硬化テクタイト弾じゃなく、5.87㎜スチールコア弾だ。ま、対人専用ライフルだしこれでいいんだけどね」

「ただ、様々な戦闘に参加する傭兵には物足りないというわけか」

「そういうこと。とりあえず、エミリアさんにもこいつの性能を説明するよ」

「お願いします」


アサルトライフル  :ヘッジマスターM2

製造元       :ローテボゥ社

重量        :2.2Kg

素材        :ウーツ鋼

射程        :200m~400m

使用環境      :-10℃~+50℃

弾種        :5.87㎜スチールコア弾

装填数       :50発(バナナマガジン式)


「歩兵銃にしては装填数が多いな。経口が小さいためか」

「ま、そうだな。あと、こいつは集弾性にすぐれたライフルだ。そういった意味ではルーキーには御用達の銃だと俺は思うんだがね」

「その様子ですと、あんまり人気なさそうですね」

自分の使う銃だけに、真剣に話をきくエミリア。

「ああ、その、なんだ・・・・・・進めた手前、かなりもうしわけないが確かにこいつは人気がないライフルだ。使っているのは、各国の武装警察隊のそれも強襲制圧部隊ぐらいだ」

「どうしてそこだけなんです?」

「まあ、ぶっちゃけいうとこいつは制圧用に開発されたライフルが原型なんだ。ただ、途中から野戦でも使えるようにって要件が変わったためにこうなった。結果、性能が中途半端になったのさ」

「なるほど」

「とりあえず、銃はそろったが問題は試射をどこでやるかだが」

「ああ、それなら我が傭兵団の地下に射撃場がある。そこを使いたまえ」

訓練場所を提供するベルンハルト。

「いいのか?」

「かまわんさ。ま、提供した弾以上の弾薬は自分で調達してもらうがな」

「そうか。よし、エミリア!明日からみっちりしごいてやるぜ!」

「は、はいっ!」

元気よくうなずき、笑顔を向けるエミリアであった。


リアが忙しくて、できるだけペースあげたいです。

月内に更新をがんばる予定です。

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