5 魔を払う炎を灯しましょう
美月との一件があってから数日ほど経ち、私は変わらず剣の修行に励んでいる。
もっと強くなる。あの日、そう心に決めてからは素振りの時間を大幅に減らして、剣技の修練を増やしたり、他の国の騎士が扱うこの世界特有の剣術を取り入れようと日々尽力している。
こうして異世界の剣術を取り入れる事になったのには理由があり。
私の戦い方は常に受ける事を主体としており、自分から攻めていく剣技とはどうも相性が悪いようで、互いの良さを殺しあってるように感じたからだ。
実際問題、トリケラスシープとの実戦戦闘然り、騎士達との模擬戦然り、私は本番で剣技を全く活かせていないのだ。
私は騎士の方々に願い出る事にし、ここ数日は手解きを受けつつ、この世界の剣術を学んでいる。
本日も朝早くから訓練場で剣術、剣技の修練に励んでいると、アルバートから声をかけられる。
「勇者殿、そろそろ魔法についても学んでみないかい?」
「魔法?とはなんでしょうか?」
聞き慣れない単語に首を傾げるとアルバートとの勉強会が始まった。
「これは失礼、まず魔法について説明させていただくよ」
魔法とは、体内の魔力を媒介に名を呟く事で、炎や水などを具現化させる法術の一種。
魔力さえあれば子供ですら魔法は使え、魔力が少ない者でも、詠唱さえ唱えられれば、下級クラスの魔法までなら扱える。
魔法には分類と属性が存在する。
・攻撃に用いる 攻撃魔法
・生活に用いる 生活魔法
・身体を強化する 強化魔法
ここから更に 火・水・土・風・光・闇の6つの属性に別れる、人に向き不向きはあれど、基本全ての属性を扱う事が可能だと言う。
要は不思議現象をてずから起こせる力という事を理解し、同時に胸が躍る。
初めて学ぶという事は楽しい事で、魔法を学ぶ事もこのうちに入る、興味を持った恵は興味津々です!と言わんばかりに食いつく。
「魔法、習ってみたいです!」
「じゃあ今日は魔法の勉強をしてみようか」
「はい!ご指導よろしくお願い致します」
そうして魔法の修練が始まった。
まずは魔法の基礎についての座学からだ。
「始めに基礎部分となる、6つの生活魔法について覚えてもらいます」
「はい!」
「魔法名と活用法、実際に行使している所をみせます。では、手短に行きますよ」
そう言ったアルバートは生活魔法の説明を始めた。
・火の生活魔法 フィア
暖炉の火や衣服を乾かしたり、野営などで魔物を寄せ付けない火として用いられる。
・水の生活魔法 ティア
衣服を洗ったり、家の清掃、はたまた緊急時の飲み水としても使用する。
・土の生活魔法 アスド
土壁を作ったり、足場を作るのに使用する。
・風の生活魔法 ウェン
衣服や髪を乾燥させたり、小物などを動かす際に使用する。
・光の生活魔法 リュエ
暗がりを照らす際に使用する。
・闇の生活魔法 フォス
光を遮る際に使用する。
これら6種の魔法を実際に使ってみせるアルバート。
「これが生活魔法だ」
「……???」
初めて習う技術をただ見せられただけだと、やはり理解が難しい…どころか土台無理な話で、恵は乾いた笑を出しながらも、先程の言葉を振り返る。
魔力がなんなのか、それがわからないけれど、魔法名を唱えれば魔法は扱える、確かにそう言っていた。
周囲の騎士達も手を止めて、私に注目する中、緊張しつつも、ものは試しに唱えてみる事にする。
「フィア!」
恵の呟きは風と共に虚しく消えた。
「……………」
私だけでなく騎士達も言葉を失う。
アルバートはありえない光景を目の当たりにしたかの様に呟く。
「どうしてだ?まさか、魔力を持たない?そのような事はないはずなんだが……」
剣で躓き、剣技で躓き、そして魔法でも躓く、全ての訓練で躓いた恵はもう笑うしかなかった、他に見落としてる事がないか、魔法についての勉強を再度振り返る。
確か魔力が少ない者でも魔法を行使する方法があると言っていたような?確か詠唱と合わせる事で…。
あっ!と声をあげすぐさま願い出る。
「アルバートさん!魔法の詠唱分を教えてください!」
私の発言に、アルバートは面目なさそうな顔をする。
「すまない勇者殿、何せ詠唱を唱えて魔法を行使していたのは遥か昔の事でね、私達は知らないんだ」
「そう…ですか…」
魔法の行使は出来ず、希望と思い縋った詠唱分も皆知らない、せっかくの習う気力も、心から失せ始める。
出来ない事に縋ったって意味がない、来る壊獣との戦いに向けて、ひたすらに腕を磨かなければと、魔法の事を諦めようとしていた。
「あ、勇者殿、確証はないが城内の書庫になら魔法の詠唱について載っている本があるかもしれません、ここで少々お待ちを、探してくるよ」
「あ、はい」
突然何かを思い出したかのように、訓練場から走り去っていったアルバートに変な返事を返しつつも、恵は再び剣術の修練へと戻っていった。
そこから数時間ほど経過した頃、息を絶え絶えにしながらアルバートが訓練場へと戻ってくる。
「…っ…っ…!勇者殿!過去の魔導書を見つけたぞ…!」
「本当ですか!」
自分には言い聞かせたつもりでも、実はというところ魔法については完全に諦めきれておらず、魔導書が見つかったと言う言葉に、飛んで喜んでいた。
アルバートから書物を受け取り、修練へと戻る。
本当は今すぐにでも読み漁りたいが、ここで投げ出すのは付き合ってくださっている騎士の方々に申し訳が立たず、気持ちを抑えて誘惑を乗り切った。
剣術の修練が終わり、騎士の方々にお礼をいって解散したあと、アルバートから渡された書物を読み始めた。
先程アルバートから習った区分と6属性の他にも、魔物だけが扱える魔法がある事。
魔法の種類自体は一つだが、そこから派生させる事で、槍や矢見たいな形に変化させ放つ使い方や、一度に大量に生成してぶつけるなどの使い方。
魔法の扱いについて興味深い事が多く記されていたため、数十分、数時間と過ぎていく、途中本を読み終えた頃には夜が訪れていた。
アルバートを除いた騎士達は既に寮舎に戻っており、恵は慌てて本を閉じてアルバートに向き直り謝罪した。
「ご…ごめんなさい!また没頭してしまって…」
アルバートは小さく微笑む。
「いや、問題ないさ。それだけ魔法に興味があったのだろう?それに満足に教えられなかった私にも非があるからね、この本が君の力になるのなら幸いだ」
時々、私に対して憂いを含んだ目をするアルバートを不思議に思う、理由もわからず、踏み込むのもよくないと思い、気にしないようにしている。
アルバートも寮舎へと戻って行き、私一人となる。
周囲に誰もいない事を確認し、深呼吸。
両手を前へと突き出し、魔法の詠唱を紡ぐ。
「始まりは火種、暗闇を照らす小さな灯火、人々に温もりを与え、魔を払う力となれ。フィア!」
歌を紡ぎ、名を唱える、昼間名だけを唱えた時は何も起きなかったが、今回は違う。
そう、手先から小さな炎が形となって現れたのだ、下級よりもしたの生活魔法、詠唱だって必要だけど、魔法を扱える。
その事実が小さな火種となり確かな温もりを届け、恵を大いに喜ばせ、次に繋がる活力を与えた。
その興奮冷めやまぬまま他の生活魔法も試していく。
新しい技術の習得に思わず楽しくなってしまい、魔法を乱発してしまった結果、魔力枯渇となり気絶するように眠りに落ちた。
その後、訓練場で倒れ泥のように眠る恵を発見した美月と王女殿下によって、自室へと送られたのだった。
その間に浴場にて土まみれとなった身体を二人によって丸洗いされた事などは、今後恵が知る由もないだろう。




