4 想いに背いて、抱くは罪の意識
初めての実戦訓練は夕刻まで続き、そこそこ多くの魔物を倒した、初めて戦った羊型の魔物トリケラスシープを始めとして、大きな牙を持った猪型の魔物ラスタスクボアや、狼の顔に筋骨隆々の人間の様な身体を持つコボルトという魔物などと戦った。
コボルトとの戦いは、人型という所に躊躇いが生まれ、中々攻撃出来ずにいたが、コボルトがこちらに攻撃の意思なしと見るや否や、薄気味悪い笑みを浮かべながら攻撃してきたため、オーラブレイドを放ち一撃で倒してしまった。
その様な事がありつつも、順調に魔物を倒し続け、日が落ちる頃、アルバートが終了を告げた。
城へと帰還する前に、羊と猪の肉や皮などを回収してから、コボルトや残った不要な物は火魔法で完全に焼却し、完全な夜が訪れる前に撤収した。
「勇者殿、今日の実戦はどうでしたか?」
「そうですね…初めての事だらけで不安になったり、窮地に陥りそうな事が何度もありましたが、騎士の皆様いる事の安心感とアルバートさんの言葉のおかげで、切り抜けられました」
「そうでしたか、私たち騎士団一同勇者殿の力になれたの喜ばしい限りです」
すっかり訓練時の口調に慣れていたためか、アルバートの敬語に若干の疎外感を感じた。
「あの…、アルバートさん。お願い申し上げたい事がございます、よろしいでしょうか?」
意を決して伝えてみる、自分本位な事だとわかっていても、告げられずにはいられず、願い出た。
「勇者殿、どうしましたか?」
「私は教わる側の人間です、ですので訓練の際の様な口調で話して頂けませんか…?」
私のその言葉に、アルバートは眉間に皺を寄せ、口元を固く結んだ困り顔で、考え込む。
「わかりました、勇者殿がそう願うのでしたら、心がける様に致しましょう…」
深く考えた末、軽いため息を吐きつつも、私の願いを聞き入れてくれた。
その後は他愛のない話をしながら城へと戻る。
城下へと着くとアルバートは肉の一部や剥ぎ取った皮や毛、角、牙を卸すと行って離れ、残った騎士団員達と王城へと戻る。
「お疲れ様でした、めぐみ様」
「お気遣いありがとうございます、王女殿下」
初めての野外訓練から帰宅し、汗を流そうと浴場へ向かう最中、王女殿下と出会した。軽い挨拶を交わしたのち、野外訓練の事や順調に強くなれてる事など、2、3話した後、美月な事を聞く。
「美月は最近どう過ごしていますか?」
「みつき様はこの所心ここに在らずという事が多いです、お茶会にお誘いすると来てくださるのですが…。あっ!2日ほど前に魔法を学びたいと仰っていたので書庫への立ち入りと閲覧を許可致しました」
最近は書庫へ行っているという王女殿下の言葉に、まさかね…と思いつつも、美月を戦場に出さないためもっともっと強くならなきゃと心の中で決意を固める。
王女殿下との話は終わり、浴場へと入る。
「あっ…」
「美月…」
お互いに気まずく、何とも言えない空気が広がる。
会話は一切無いまま2人は自分の身体を洗い、汗を流してから湯船に浸かる。
沈黙が場を支配し、聞こえてくるのは湯口から水が流れ出している音だけ。
そんな空気を破るかのように美月が願い出てくる。
「恵…私も…に…あなたと一緒に戦いたい!」
私に気を使ってなのか、戦う事を誰よりも嫌うはずの彼女が、一緒にと申し出てくる。
そんな彼女の想いを私は…………断った。
「ダメ、あなたを危ない目には合わせたくない」
胸が痛む。彼女の好意を、無下にする事に。
しかしそれ以上に彼女を危険に晒したくないという想いが、私の心を鬼にする。
「それは…っ!!ううん…何でもない…」
私だって同じ!そう言いたかったのだろう、美月は口を噤み、手を微かに震わせ、肩を落とした。
その姿に断ってしまった事への罪悪感が芽生える。
それでも守りたいという気持ちは曲げられず、喉まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。
再び気まずい空気が広がる。
未だ顔を俯かせる美月に、精一杯の言葉をかける。
「美月、私は負けないから…、あなた一人を残して逝くような無茶は絶対にしない、必ず壊獣を倒して、あなたの元へ戻ってきます」
だから…!と言葉を繋げようとするものの、思いつかず言い淀んでしまう。
そんな私の下手な気遣いを察してか、見えないように涙を拭って立ち上がる。
「……。うん…、ありがとう…先戻るね…またね、恵」
泣き腫らしたかのような掠れた声で、そう言い残し浴場を後にする彼女を見送った。
「おやすみなさい美月」届かない言葉を送り、当初の目的通り疲れを癒すため、再度浴槽へと浸かる。
しかし身体の疲れは癒せても、罪悪感による心の疲れまでは癒せず、疲労感は拭えなかった。
重苦しい面立ちをしながら浴槽から上がる。
浴場を後にし、自室のベッドへと入り考え込む。
想いを断り、美月を悲しませた事による自責と後悔、想いを受け入れて友を失う事の恐怖が、ぐるぐると脳内を駆け巡り、眠りを妨げる。
結局この日は一睡も出来ずに朝日を迎えた。
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一晩中脳を駆け回った問答は、自責の念を増幅させる、強くならなきゃ…その一心が恵の身体を動かして訓練場へと足を運ばせる。
誰もいない静かな世界で木剣を握りしめる。
昨日のやり取りを思い出し、剣を振り始めた。
回数や時間などを決めずただひたすらに……。
「………」
ただ無心に剣を振り続ける、そうする事で心を鎮めさせて、罪悪感を消し去ろうとしていた。
時間も忘れて夢中にで剣を振るっていると、辺りが騒がしくなってくる。
何事だろう、と周囲を見渡すと、騎士団の皆が一様に剣を振るっていた。
その光景に今日も実戦訓練のはず…と思い出して、空を見上げる。
「あ…っ」
東から照らしているはずの太陽が、真上で燦然と輝いている事に気づき、顔を青ざめる。
「あああ…!!申し訳ありません!!」
慌てて近くにいたアルバートに謝罪の言葉を述べる。
「いや、いいんだ。」
少し微笑みながら、謝罪を軽く流しながら続けざまに感謝を言葉を伝えてくる。
「それに、私たち騎士団に取っても良い刺激を貰ったのでね、だから気に病む事はないさ、実戦訓練は明日に回そう」
「良い刺激…ですか?」
「ああ、君の剣を見て団員達に火がついたらしくてね、ほら、周りを見てみるといい、皆剣を降っているだろう?」
アルバートはそう言って周囲に目配せを行う。
「そう…ですね」
話を聞くに、城門へと向かう騎士が、訓練所で一心不乱に剣を振る私を見つけ、振り続ける度に洗練され、美しさと強さを増していくその剣に、感銘を受けて剣を振り始めたところ、後からやってきた騎士達も真似初め、結果全員でという事になったらしい。
何も考えずただひたすらに無心で振るっていただけにどんな感じだったかも覚えていないため、そんなに綺麗だったのかな?と首を傾げる。
「私自身も火をつけられましてね、共に剣を降らせていただいてた次第です」
騎士団長であるアルバートに太刀筋を褒められた恵は目元を和ませ、笑みを浮かべる。
「君の事を見ていると、故郷に置いてきた妹を思い出すよ」
アルバートが不意にどこか寂寥を帯びた声で呟く。
「妹さんですか?」
「ああ…セシリアって言う名前でね、君と同じように背追い込みがちで、優しい子さ…」
「……。いつか合わせてくださいね」
「壊獣との戦いが終わったら紹介しよう」
皆が再び剣を振り始めた中、アルバートは1人、影のある表情を浮かべて恵を見つめる。
「君ならセシリアと友達になれたかもしれないね…」
アルバートはペンダントを触りながら発した寂しそうな呟きは誰の耳にも届かず、風と共に消え去っていった。
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ちょっとした騒動が起きつつも、午後は剣技の実習へと移る、魔物との戦闘の代わりに本日は騎士との模擬戦を行った。
「………」
「始め!」
合図と共に騎士が剣を振りかぶる、恵は冷静に観察し、その攻撃に合わせ、昨日あの羊の角を往なしたように騎士の木剣と自分の木剣を軽くぶつけ、横にずらすように往なして、すかさずガラ空きの胴に一撃を叩き込んだ。
木剣とは言え、予想だにしていなかった反撃に騎士は対応全く対応出来ず気絶し倒れてしまった。
「そこまで!」
審判を勤めていた騎士が止め!の指示を出し、恵はふぅ…と一息つく。
騎士との模擬戦は夕刻まで続き、ほとんどの試合で白星を挙げられた事に、着々と強くなっているという実感を得られ、よしっと拳を握る。
壊獣との戦いまで残り1ヶ月と少し、まだまだ強くなれる、そんな感触に期待を膨らませ、悩みから始まった1日は過ぎ去っていくのであった。




