3 例え見えずとも、成果は着実に
あれから更に10日ほど経過し、今までの停滞が嘘のような速度で様々な剣技を習得していく、今日も新しく身につけた剣技の実習だ。
「では、この木剣に向かって打ち込み、私の守りを崩せたら合格だ」
「はい」
恵は息を整え、構える。
「疾風2段突き!」
地面を強く蹴り、瞬時にアルバートへと詰め寄り、高速で2回突いた。
最初の1回は直接武器へ攻撃し、相手の武器を弾いて体制を崩し、すかさずもう1回突く…!が今回は訓練なので寸止めする。
「そこまで!」
中断の合図により、止まり再び息を整える。
「もうこの剣技も扱えますか!流石だな勇者殿」
「ありがとうございます!」
訓練を初めて20日ほど、アルバートからの個別の指導のおかげもあり、この短期間で目覚ましい成長を遂げた、そんな私を見てアルバートは提案してきた。
「実戦訓練…ですか?」
「ああ、そろそろ実戦に移った方がいいと思ってね、どうだ?やってみるかい?」
「お願いします!」
ここ最近、剣技の実習も沙汰なくこなせるようになり、そろそろ新しい事に挑戦してみたいと刺激を求めていたので、この提案は有難い話だ。
「実戦訓練は明日の早朝から行う。集合場所は訓練所ではなく城門だ、遅れないように」
「…?団員さんとの模擬戦ではないのですか?」
「いや、違うな。壊獣は人間じゃなくて怪物だ、怪物との戦闘を想定するならば、近しい生き物である魔物との戦闘で経験を積んだほうが良いだろう」
「なるほど…確かにそうですね。では、明日はよろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む」
本日の訓練を終えて、汗を流して自室へと戻る際、美月と出会う。ここ最近は訓練に没頭していたため、ほとんど話せていなかった。
「あ…。その…最近はどう?」
「順調だよ、少しずつ強くなれてる気がする!このまま行けば、壊獣だってきっと…!」
「そう…なんだ…。ねえ恵、私も……」
「安心して美月、あなたを危険な目には合わせないから」
「……」
「どうしたの?」
「ううん…なんでもない…。訓練頑張ってね、おやすみなさい」
「おやすみなさい、美月」
美月は何か言いたげだったが、何も言わず、就寝の挨拶だけして部屋へ戻って行った。
美月の様子が気になりつつも、明日の実戦訓練が控えていたため、恵も自室へと戻り、倒れるようにベッドへとダイブしそのまま眠りへ着いた。
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翌日、私は予定通りの時間に城門へと辿り着いた。
「アルバートさん!おはようございます!」
「おはよう、勇者殿。」
他の騎士団員の方々にも挨拶を交わしていく。
「では、向かうとしようか」
そう言うとアルバートが城門に手を掛け、重々しい音を立てながら扉が開き、先から城下が見える。初めて見る城の外に胸が踊りつつも、気持ちを切り替えてアルバート達に着いていく。
歩き続けてからかれこれ30分ほど立ち、暖かな日差しが届く浅めの森へと来ていた。
「到着だ、ここは《アンティガーダの森》、危険な魔物が存在せず、実戦訓練には最適な場所だ。我々騎士団で魔物を手引きする、勇者殿はこの場で待機、魔物が来たらそのまま戦闘に移れ」
「はい!」
「今までの訓練が全て無駄というわけではないが、実戦はまた違ってくる、想定外な事が起きても冷静に対処するように」
「はい!」
「では、健闘を祈る、各員につぐ!魔物を手引きせよ、ただし複数匹を同時にぶつけるな!最初は1匹ずつに留めておけ!わかったな!」
ハッ! と言い騎士達は飛び出してゆく、各地に団員が散ったのを見届けてからアルバートも森の奥へと消えていった。
小鳥の囀りや木々の揺れる音に心地よさを感じつつも、集中しするため瞑想を始める。
何分経ったかも分からない頃、遠くから声がした。
「勇者様!魔物を連れて参りました!」
その言葉を聞き目を開け前を見ると、遠くから顔が真っ黒で3本の角が生えた羊の様な生き物が向かってくるのが見える。
そこから数分も立たないうちに、追い立てられた魔物は恵の目の前へと到達し佇む、羊型の魔物は騎士の追い立てにより、ストレスが溜まっているのか何やら興奮している様子、それに加え想像以上の大きさに恵は言いしれぬ圧を感じ、緊張で身体をこわばらせ、動けないでいた。
そうこうしているうちに興奮気味の羊が鳴き声をあげ突進してくる。
「っ!」
緊張のあまり、攻撃への反応が遅れ、角で腕を切られてしまう。
「…ぅ」
「勇者様!大丈夫ですか!」
周りで見守っていた騎士が声をかける。
初めて負った大きめ傷に、顔を歪ませそうになりながらも、頷き返す。
幸いにもこの怪我で死を感じ、緊張は解け覚悟のようなものが生まれていた。
そうこうしてる間にも羊は突進を繰り返す。
「ふっ!」
あれから数刻ほどの時が経ち、突進の避け方も慣れてきた、しかし唖然として状況は変わらず、攻撃を回避、反撃に転じようにも、体勢が悪く今扱える剣技に繋げる事が出来ない。
「やっ!」
また攻撃が空振り反撃に失敗し、苦しい表情をする。次こそは!と避けながらも攻撃の隙を伺い、剣技を放とうと構えるも中々上手くいかない。
オーラブレイドは気を流してる最中に突進が来るため間に合わず、疾風二段突きは当たりはするのだが、対象の魔物が持つもこもことした体毛がクッションとなり、大きなダメージを与えるには至らない。
似たような理由で今扱える剣技全てとの相性が悪く、単身での戦闘が如何に難しいかを実感した。
訓練で習った物が必ずしも通用する訳じゃない、でも無駄じゃない、焦りが生まれたら冷静にれと、アルバートはそう言っていた。
突進を避け、深呼吸を挟む。
今までに培ってきた事を思い出していこう。
剣技は切り札、でも過信はしない方がいい、じゃあ何に頼ればいい?基礎…。
そうだ、剣術だ、私が積み上げてきたものを出せばいいんだ!切り札はあくまで切り札、軸となっているのは基礎の部分、なら私のやる事は一つ!
思考が終わり、意識を固めて前に向き直る、羊型の魔物は角を突き出し突進してくる。
「やあああ!!」
剣で角を往なし、すぐさま顔に剣を撃ち込む。
メ“ェ“エ“!!
思わぬ反撃を受け、悲鳴を上げる。
確かな手応えを感じた恵はカウンターを主体に攻撃を重ねていく、突進を往なして反撃、往なして反撃、繰り返して行くうちに顔に傷が増え、滴る血も増えていく羊型の魔物、吐く息も荒くなっている。
このまま行けば倒すのも時間の問題、だけどこれだけじゃ壊獣相手には手札不足、他にも攻撃に繋げる動作が必要だと感じた恵は、挑戦を試みる。
それは突進を見続け動きを完全に覚えたからこそ挑戦できる動作。
…。深呼吸を挟み、意を決する。
大丈夫私なら出来る。
メェ“エ“エ“エ“ェェエ!!
決死を覚悟したかのような鳴き声をあげ突進をしてくる羊型の魔物。
私は落ち着き、相手を眺める。
「っ!ここ!」
脚を軸に最小限の動きで突進を避け、身体を半回転させながら、羊型の魔物の横っ腹を叩き切った。
メ“エ“ェ“エ“エ“エ“エ”
大きな断末魔を上げ倒れる羊型の魔物。
「やったの…?」
30分に及ぶ戦闘が終わり、剣に縋るような体制で肩で息をしながらも倒れて動かない魔物を見る、どうやら倒せたらしい。
数人ほど戻ってきていた騎士達に拍手を送られながら、初めて成し遂げた事に心の中で「よしっ!」とガッツポーズを決め、水を飲みしてから少し休憩を挟もうとする。
「勇者殿!魔物を連れてきましたよ!」
休憩しようと気が緩んでいたところにアルバートが次の魔物をけしかけてきた。
初めて魔物を倒せたという嬉しさのあまり、実戦訓練だと言う事が念頭から抜けていた恵は、慌てて剣を構え、次々とけしかけられる魔物を相手していくのであった。
修行パート、多分そこそこ長いと思います。
トリケラスシープ。角の生えた羊の魔物、羊は角生えてるから普通の羊か。




