2 歩は地道、されど確実に
翌日の早朝訓練所に集まり、まずは互いに自己紹介を行う。
「初めまして勇者殿、私の名前はアルバート・シュラステル、この国の騎士団長を務めている」
アルバートと名乗ったその人は、金髪のウルフカットと優しげな雰囲気を持つ蒼穹の瞳に身長かつ細身でありながら引き締まった身体を持った男性でした。
「お初にお目にかかります騎士団長様、私は白鳴 恵といいます、これからお世話になります」
自己紹介は終わり、本格的に指導が始まった。
まずは基礎剣術から、自己防衛のため様々な武術を嗜み、剣道も中に含まれていたため、基礎剣術は問題なかったが、別の事で問題が発生する。
「勇者殿、こちらが壊獣との戦い、それと一部の訓練で扱う剣になる、今のうちから重さには慣れておくといい」
と王女殿下に頼んでいた戦うための道具である鉄製の剣を手渡されるが、想定以上の重さにまともに持つ事は出来ず、剣を落としてしまった。
私は元々ただの一般人、同年代の他の子に比べ多少力はある方だけど、それも女性の中でという話。
純鉄で作られた剣を振るのはおろか持ち上げるのすら難しい、見かねたアルバートからの提案で、真剣よりも軽い木剣の刃先に砂袋を巻き付けた物で重さに慣れるところから始まった。
初日と二日目の訓練は素振りだけとし、時折アルバートから姿勢や振り方について意見を貰いながら、とにかく剣を振り続けた。
開始から3日目になり、鉄製の剣を持ち上げられるようになり、アルバートや他の騎士団員には驚かれつつも、本格的な指導が始まった。
「剣術に関しては、勇者殿が積み上げて来たもので問題はない、なので剣技の実習に移ろうか」
「お願いします」
「まず剣技についてだが…、一度見せてみようか。あそこに訓練用のカカシがあるのは見えるかな?あれに向かって剣技を放つ」
アルバートは「いくぞ」と剣を構え。
「オーラブレイド!」
掛け声と共に振り下ろした、すると振り下ろされた剣から衝撃波の様な物が発生し、気がつけばカカシを両断していた。
あまりの光景に私は息を呑む。
「すごい…」
本当にそれだけしか出てこなかった。
アルバートは「ふぅ」と一息つきながら、こちらに向き直る。
「これが剣技の一つ、オーラブレイドだ。剣に力を込め、叩きつけると同時に放出し、斬撃を飛ばす。剣術が剣を扱う上での基礎とするならば、剣技とはこの様に、剣を扱う上での切り札だと思ってくれたらいい、でも過信はしない事。ではこれを含めた、習得が比較的容易な剣技を習得してもらう」
「はい、わかりました」
力を込めるだけであのような斬撃を飛ばせるものなのか、瑣末な考えはさて置き、これなら壊獣にだって勝てるかもしれないと希望を見つけ、より一層励むと誓った。
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それから10日ほど経過し、順調に進めている…かと思いきや、剣技の習得は難航を極め、次へ進めずにいた。
主だった原因は、力を込めるを実践出来ていない事、気合いを入れても剣に力が集まったような感じがせず、当然振るっても透明な刃は飛ばない。
力を込めて剣を振るう、字面だけなら簡単に見えても、私には力を込めるの部分の理解が出来ず、現に剣技の訓練に入ってからそれなりに経つのに、何一つ進展していなかった。
イタズラに時間を消費している事に焦りを感じ、集中力が続かない、そうして脳裏をよぎるのは、あの殺人鬼の言葉。
「頭がいいと言っても所詮は学生」今になって胸に刺さり渋い顔をする。
「勇者殿、どうなさいましたか?」
アルバートは手が止まった私を心配する。
「いいえ、なんでもありません」
「その顔で何もないなんて事はないはずです、悩み事がでしたら私めが聞きしますよ」
「悩み、そうですね…私自身の上達の遅さに歯痒さを感じている事です。勇者として召喚されて、美月も分も頑張ると決めましたけど、実際は初歩で躓いてばかり、出陣まで2ヶ月しかないというのに…」
決意したのにすぐに折れそうになってしまっている自身の情けなさと、弱さなど今感じている事を吐露した。するとアルバートは少し困った顔をしつつ口にする。
「誰だって1日2日で上達はしません、ましてや勇者殿は戦いと無縁の環境で生きてきたと聞きます。そんなあなたが誰かのために戦う事を決意し、一日中剣を振り続け、最初は持ち上げる事すら難しかった鉄製の剣を振れるまで成長しているのです、勇者殿は筋がいい、期間が短く焦る気持ちはあると思いますが、一度冷静になりましょう、きっとすぐに物に出来ると思いますよ」
そう励まされ、胸の中にある入り混じった感情が少し晴れたように感じ、改めて気持ちを切り替える。
「そうだな…力を込めるという言い方が悪かったかな、気を流し込むで伝わるかな?」
「…剣に気を流し込む…。やってみます」
深呼吸をし、目を瞑って心を落ち着かせる。
深く、深く、潜る…。
何も考えるな、雑念を捨て、集中しろ…剣に気を流し込むように……。
暫くして、身体から剣に何かが流れていくのを感じとった。ようやく掴んだ感覚、剣技で言えば初歩の初歩だが、恵に取っては未知の領域、そこに踏み出せたという嬉しさは顔に出てたらしく、満面の笑みを浮かべる彼女を見て、訓練所の雰囲気が少し和んだ。
「どうやら、わかったみたいだね?」
「はい。これが、力を込めるという事だったのですね!」
「その感覚が残ってる間に技を完成させようか」
また集中し、同じ要領で気を流し込んでいく。
十分に流し込めた事を感覚で感じ取り、今!
「オーラブレイド!!」
技名を言い放ち剣を振り下ろすと、透明な刃が飛び出しカカシを両断する。
「………!やった!!」
嬉しさのあまりガッツポーズを繰り出す。
「お見事です!勇者殿!」
「アルバートさん!ありがとうございます!」
おお!やりましたな!など見守っていた団員の皆からも拍手を送られる。
「この調子で他の剣技も習得しましょう!」
「はい!」
最初でこそ躓き、挫けそうになったが、この剣技をきっかけとして、何かを掴んだのか他の剣技にも挑戦していくのであった。
まだ修行パートが続きます。
剣技を覚えて元気だね




