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11 想いを胸に前へと進め


 雨でぬかるんだ大地を駆ける。

 その足取りには一切の迷いがない。


 瞳にははっきりとした覚悟を宿して。

 力強く…それでいてしっかりと大地を蹴る。



 

 心無しかいつもよりも身体が軽いように感じる。

 そう思えるくらいには前へ進む事へ躊躇いがない。


 あれほどの恐怖を私に植え付けた壊獣の所へと向かっているはずなのに、不思議と恐れは感じず、こみ上げるて来るのは戦うという闘志だけ。



"ヴァルヴェァァァァア───────



 耳を劈くほど大きな咆哮が轟き、風が吹き抜けた。

 凄まじい風圧に一瞬だけ足が止まる。

 私はより強く剣を握りしめて、再び目敵に向けて走り出した。




 決意を灯して駆け抜けて、目敵地へと辿り着いた。

 そこは今まさに壊獣が蹂躙を繰り広げる処刑場とも呼べる場所で、輩は狂乱し泣き喚き逃げ惑う。


 まさに阿鼻叫喚という言葉がふさわしい地獄だった。



────────────



「うわぁああぁあ!!!」


 ある者は泣き叫び逃げようとする。


「ひっ…ぁ…」


 ある者は恐怖のあまり腰を抜かしたのか、その場から動けないでいる。


「くるな…!くるなくるなくるなくるなくるな」


 またある者は幻影でも見えているのか、虚空に向かって武器を振っている。


 そんな人々を容赦なく喰らう壊獣。

 混沌…そう評するに値する光景を目の当たりにする。


 身体はすぐに動いた。


 少し前の自分と同じように、恐怖で表情を歪め逃げ惑う数少ない連合軍の人々…。


 そんな輩を守るため私は壊獣の前に立ち塞がった。



"グシャ(・・・)"ナニヲシニキタ"



 私に対しての興味を無くしたのか、鬱陶しそうに問うてきた。


 その問いには答えず無言で剣を構え、その切っ先を壊獣へと向ける。


 私の行動を見て何かを感じ取ったのか怒りをはらんだ低く冷徹な声が響く。



"ワレラ(ワタシタチ)ノバンサンヲジャマスルキカ"───



 壊獣が再び心を折ろうと咆哮をあげる。

 だけど、私の意思は揺るがす剣を向ける先は依然として変わらない。


 折れず、それどころかより強く睨み返した私に、驚いたのか壊獣の動きを止まる。



 互いに睨み合う妙な空気が流れ、隙が生じた。

 私はその隙を利用して、残っていた輩に声をかける。


「今のうちに逃げてください、あなた達が無事に国に帰るまで私が足止めしてみせます!」


 ペンダントをぎゅっと握りしめてそう言い放った。


 その言葉を聞き、輩達は様々な感情が入り混じった顔で蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく、私はそれらを見送り壊獣へと向き直った。


 幸いにも標的が私へと変わったのか、逃げた兵を追いかける様子はなく、こちらをじっと見つめている。


 1対1の状況が出来上がり、より一層強まった雨の中で両者は睨み合う。



 雨音が消えた、私がそう感じたと同時に両者は動きだした。



「……ふ…っ!」

"ヴェルァァァァァ─────!


 先に動き出したのは私だった。

 瞬時に詰め寄って2回突く…、が力を込め全力で刺したはずなのに、傷はおろかただ外皮が凹んだだけの事に驚愕しつつ、続けざまにオーラブレイドを放つ。


 しかし外皮を少し切った程度で血が出るほどの傷ですらない、まだまだ!と勢いそのまま攻撃を続けようとしたところで壊獣の反撃がきたため、一度その場から飛び退いて態勢を立て直した。



「………」


 言葉も悪態もなく、私が先程いた場所を見る。

 煙が晴れたその場所の地面は大きく抉れ、軽いクレーターのようなものが形成されていた。


 改めて壊獣の高い攻撃能力を目の当たりにし、冷たい汗が頬を伝う。


 

 こんな化け物をどう相手取ればいいのか…

 などとマイナス感情が浮かび上がってくる。


 私はそんな不安を振り払うため、恐れていても仕方がない!そう自身に発破をかけ、壊獣との戦闘へと戻る。



────────────



"ヴェァァア───!!


 大地を巻き込みながら何度も突撃してくる。

 私はその攻撃を避けながら様々な剣技を試していく。



 大きく飛び上がり落下の勢いを利用して叩き切る「スカイブレイカー」や、二段突きと同じように瞬時に詰め寄り下段から2回切りつける、「デュアルクロス」など、アルバート達騎士団の皆んなから教わった全ての技術を、惜しまずに全力で出し尽くす。



 ……がもちろんどれも擦り傷を負わせる程度が精一杯だった事実が絶望となって襲ってくる。


 更に悪い事は重なるもので、休みなく連続で剣技を使用した事による身体への負荷が症状となって現れる、強い吐き気や頭痛が私の身体を苦しめ始めた。


 それだけでなく雨は私の体温を奪い、低体温症を引き起こしているのか、意識が朦朧とし始めている。



「おえ…っ…はあ…っ…ぅぅ…」



 私の状態は刻一刻と悪化一途を辿れども、奴にそのような変化は見受けられず、優位性は完全に壊獣側へと傾いた。



"ヴェルァァァ"!!



 壊獣の猛攻が始る。

 数秒前の記憶と、これまでの研鑽もありギリギリのところで攻撃の回避には成功していた…。


 だけど、それもいつまでもつかわからない。

 そんな現状が私に焦りを感じさせる。


 どうしましょう…と朦朧としてまともな思考すら出来ない頭を酷使させ考えを巡らせるが、疲弊しきった脳が現状を打破できるほどの良い案を出せるはずもなく…。



 思い浮かんだのは、私が一番得意とする戦い方。

 攻撃を受けたり回避してから攻撃を叩きこむカウンター主体の戦法。


 本来剣技が通用しない時点で、この攻撃方法が意味をなさない事は考えるまでもないはずだが、頭が良く回っていなかったのもあって、何故か妙案だとあまり深く考えずにその案を採用する。



「…く…っは…ぁ…」


 ぼやけた視界で壊獣を見る。

 呼吸は整えられず、状態の悪さが集中力を散らす。

 今までにないほど最悪のコンディションで構えを取り、攻撃に備えた。


 私が動く気配を見せず右下で剣を構え、行動を起こして来ない事をチャンスだと感じたらしい壊獣は咆哮をあげ、土埃を巻き上げながら突進してくる。


「……っ」


 避ける事自体にはなんとか成功したものの、反撃へと行動を移せず、それどころか地に手を付いて胸を押さえたまま動けなくなってしまった。


「は…、ぁ…は…ぁ」


 肺が…苦しい…。

 身体の限界が近いのだろうか…吐く息は弱々しく、地に手を付いて以降胸を押さえたまま立ち上がれていない


 例え私が弱っていたとしても、それは壊獣にとって関係のない話で…。


 再度好機!と見たのか、未だ動けずにいる私を今度こそ屠ろうと、あの恐怖を煽るような放射状に裂ける口を大きく開き、こちらへと迫ってきていた。



 息を絶え絶えにしながらも、全力へ横っ飛びをする事でなんとか避けようと試みるも……。



 回避できていなかった!!


「…っああぁぁあああああ!!!!」

"ヴェァァァァアア────!?



 尋常ではないほどの痛みに意識が覚醒する。

 吐く息は荒くなり、身体は熱くなっていく。

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!


 今までに感じた事ないほどの猛烈な痛みが、返って霧がかかった思考をクリアにする。


 腕は千切れかかり、多量の血が流れ落ちている。

 状況だけみれば悪化しているはずなのだが……。


 激しい痛みか、なんらかの要因によって身体は熱を帯びており、低体温症による症状は緩和され意識はハッキリとして、視界は少しクリアになっている。


 だがしかし、痛みが消えるわけでは無い。

 私は涙が溢れてしまいそうなのをぐっと堪えた。

 今涙を流せば、せっかくクリアになった視界がまた歪んでしまう…そう思って…。

 歯を食いしばり、痛みを堪えながら次の攻撃へと備える。


「……?」


 しかしいくら待っても壊獣は攻めてくる様子もなくただ低い唸り声を上げ、何をしたと言いたげに私の様子を伺っていた。


「……どうして攻めてこないのでしょうか?」


 私は疑問を口にし訝しむ。

 ただ考えるだけではなにも進まないと判断した私は、壊獣を観察してみる。



 異変はすぐに見つかった。

 そう…、壊獣の身体の一部に火傷のような跡が出来ている事とその傷が再生していない事に気づいたのだ。


 更に注力すると、その傷跡は何らかで燃やされたように取れるが、私には身に覚えがあるようにも感じる。


 先程、火の魔法を放った際は全くもって効果がなかったのをはっきりと覚えていた私は、その火傷のような跡が一体何で負ったものなのか検討も付かなかった。



 何がなんだか分からなくても、相手が攻撃を躊躇している今はチャンスと呼べる他ない。


 その隙を使用して私は態勢を整え始めた。

 困らない範囲で服の一部を破き、千切れかかった左腕の接合部に巻きつけて結ぶ、固定と応急処置を行った。


 続けて、剣を両手で構えられるか試してみる。

 想定通り負傷した左手に力は入らなかったため、右手だけで持ち上げられるか試みる。


「片手で剣は…。持てはしますが、振り回すのは難しそうですね…」


 幸いにも持ち上げる事は出来た。

 しかし今までに扱ってきた剣技や剣術はどれも両手で扱うものだったため、手札の多くを失った事に変わりはない。


 私は今の状態でも出来る攻撃手段を模索する。

 片手で剣を扱う?魔法を使う?


 どちらも違う気がする…。

 壊獣の負っていた焼け跡を思い返す。

 

 剣で着くはずのない傷跡。

 となれば考えられるのは魔法くらいになるが…。

 私の魔法では全く効果がなかった。

 それに、この場には私以外誰もいないはずだ。


 あの焼け跡が出来たのはいつだった?最初から?それとも壊獣が私の左腕を裂いた時?


 よく思い返してみればあの瞬間に壊獣もまた悲鳴のようなものを挙げていた。


 現に今も少し後ろへ下がり低く唸り声をあげこちらを睨んでいるだけだ。


 一体何を警戒しているのか。

 私が攻撃を受けたあの瞬間に答えがあるはず。

 あの時、壊獣にとっても私にとっても初めてだった事……。



 そうでした、私に対して初めて壊獣が直接接触し、私が壊獣に対して初めて触れた瞬間でした。


 私の身体に触れて起こる現象と言えば……一つしかありませんね…。



「静電気……ですか」


 結論を出し終えた私はそう呟いた。

 ……ただ、有効な攻撃手段は見つけ出せはしたが、次はどうやって当たるかという問題に直面する。


 ただ触れるだけ、字面だけなら簡単そうに思えても、とうの壊獣は警戒態勢に入っており、私が近づくと後退りする、そんな状況だ。


 時間をかければ不利になるのはこちら側で、攻勢に打って出る必要があった。

 そのため自分の身体のあちこちを見て、他に異常がないか確認し始める。



「脚は……問題なく動きますね」


 最後に靴で地面を軽く2回叩き、左腕以外に差し迫るほどの問題がない事を確認し終えた。


 幸いにも脚は動く、剣技を扱うのは難しくても詰め寄る事は出来る…。

 そう結論付け二段突きの構えを取り…。



「アルバートさん、私に力を貸してください」


 そうペンダントへと願う、想いに反応したのか光ったように感じた…都合のいい妄想かもしれない。


 でもその光は私に勇気を与え─────



"ヴェルルル───…"


 両者が睨み合う。

 一歩も動かず、一瞬の隙を見逃さないように息を殺して……。


 いつの間にか雨は止んでいたらしく、雲間から陽の光が差し込む。


 私が持つ剣へと光が当たり反射を合図に…!



「っ!、はっ!」

"ヴァルァァアアア────!!



 両者は一斉に動き出した。

 私が詰め寄ると同時に壊獣から無数の"魔法"が放たれる。


 そんな一瞬の攻防を制したのは私だった。

 懐(ふところ)へと潜り込んでいた事もあり、魔法には一切被弾する事はなく、壊獣の身体に右手で直接触れて静電気を流し込んだ。



"ヴェアアアァァ─────!?"


 怯んで悲鳴を挙げた壊獣に確かな手応えを感じる。


「やあああああ!!!」


 私はすかさず、もう左手を右手に重ねて追加の静電気をお見舞いした。


 壊獣は今までに聞いたことないほどの大きな悲鳴を上げて、その場から飛び退きこちらを威嚇する。


 いける…っ!そう確信できるほどの大きく確かな手応えは、私に勝利への希望を与えた。


 その希望を現実へと変えるため、再度二段突きの構えを取る───



"オマエ"ゼッタイコロス"…コロスゥゥゥゥ!!



 怒りの籠った声と同時に、壊獣が夥しい数の魔法が展開される。



"ヴェルルアァァァァアアア────!!!



 今までで一番大きな咆哮と共に魔法が放たれた!

 追尾があるものや一定範囲に影響があるものと、種類は様々で…。

 私はその中を突っ切るのは流石に無謀だと判断し、回避に徹して隙を伺う事に専念する。



 先程の咆哮により、鼓膜がやられたのか…それとも一時的な不調なのか、魔法が接近した時に発する音が上手く聞き取れず、気づかずに背後に迫っていた追尾弾などを受けてしまい、着実に身体への傷は増えていた。


「厄介ですね…隙を見つけようにも全く見当たりません」


 凄まじい量の弾幕で物理的に接近を阻止を行う。

 そんなゴリ押しのような戦法が実際効果的で、突破手段がない事に思わず悪態をつく。


 その後も休む間もなくひたすら放たれ降り注ぐ魔法を、躱して往なしてまた躱して……付け入る隙を探す。



 壊獣がその場にとどまり砲台と化してから30分も経過していた、"殺す"まさにその言葉を体現するかのように魔法の雨は止まない、弾幕の薄い場所を狙い接近を試みるも、追尾魔法によって阻まれ、攻めあぐねていた。


 更に長い戦闘時間が奴に知恵を与えたのか、魔法の扱いが目に見えて変わり始めている。


 そう…追尾弾と範囲魔法を巧みに使いこなして、逃げる場所を的確に制限してくるのだ……。

 私が誘導に気づいた時には既に逃げ場を失っていた。


 攻勢に出ていたつもりが追い詰められている状況に背中に嫌な汗が滲む。


 私が逃げ場を失い、どう切り抜けようか考えを巡らせていると、壊獣が嗤い声のような雄叫びを上げた。



"ユウシャ"シネ!シネ!シネシネェェェ───!!

「っ!」



 怨嗟の籠ったようなその言葉と同時に、私に対して容赦なく魔法の雨は降り注いだ…。


 仕方なくその場での回避に専念してみるが土台無理な話で、幾多の魔法を受けた私は、身体中のあちこちから血を流し大地に横たわるのだった。




「…あ…ゴホッ、ゴホ…!」


 咳と同時に口から血を吐き出した。

 正直、生きているのが不思議なくらいの重症だと思う

 ぼやけた視界から得られる情報だけでもそう断ずるに値するほどの大怪我を負っていた。


 炎に燃やされ焼け爛れた皮膚、岩や水に貫かれ噴き出す血液、風に裂かれただろう場所からは血が溢れ出ている。


 身体という身体から血が溢れ出している。

 着ていた服も大部分が燃え滓となった。

 応急処置を施していた服の切れ端も炭となった。

 だけど腕は奇跡的に残っていた。


 戦う意思はある、こんな状態となっても。

 だけど、身体はそうはいかない。



 私はまだ、たたかえる


 たちあがろうとする

 あれ、ちからがはいらない

 かんがえ、もできない

 

 いきができない、でもくるしくない

 なんだか、さむい、な


 寒いと感じた身体は手を動かす…。

 真上へと昇っていた太陽へと自然と伸ばされて…。

 脱力し、伸ばした手が大地へと降ろされた。

 痛みは感じない。

 

 ねむ、くなって、きた 

 どうしてだろ、う?ま、ぶたがおもい、な


「み…つ、き…ごめん…ね……」


 そう呟き私はゆっくりと瞼を閉じる。

 瞼が完全に閉じる寸前光が見えた気がした。



"ヴェアアア────!?!?



 壊獣の叫び声が聞こえ、風が吹き荒れる───

 身体が浮いたような感覚を最後に私は意識を手放した。



壊獣戦は終了になります、長い戦闘にお付き合いいただきありがとうございました。



資料 

壊獣 ???????


戦闘時の見た目 現 巨大ミミズいわゆるワーム型

考察。

・姿を変えられる?

・意外と速く動く、小回りは利かない?

・魔法をノータイムで多量放射が可能?


一人称は〇〇ラ


腕が千切れるだけで済んだのは当たりどころがよかっただけ、ただ壊獣の突進にぶつかったので、ぶちぶちと逝きました


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