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11.5 回想録

幕間 短め 


にしようとしました。


アルバートの回想話になります。


 私は壊獣が嫌いだ。

 私の妹を奪った壊獣が嫌いだ。


 私は帝国が嫌いだ。

 私の祖国をそして妹を踏み躙った帝国が嫌いだ。



 私の祖国はハインベルテという名の小さな国だった。

 小さくても活気があり、救済の女神を信奉し祈りを捧げる事を決まりとして定められたそんな国だ。


 私は国の為に戦う聖騎士隊の隊長を任されていた。

 主な仕事内容は軍の配備、戦場での指揮、雑務などその仕事内容は多岐にわたる。


 妹のセシリアは私の聖騎士としての姿に憧れ、弛まぬ努力の末に聖騎士隊へと入隊を果たした。


 誇りと信念の元、東大陸の全域を征覇しようと企むユーヴェルト帝国の侵略行為に抗うため、セシリアは仲間と共に出陣して行った。


 ユーヴェルトの軍事力は非常に高く、セシリア率いる聖騎士隊は破れ、妹は捕虜として捕えられてしまった。


 その報告を聞いた時、私の目の前は真っ暗になる。

 聖騎士隊に入った以上、妹の身に何か起こりうる事は覚悟はしていた。


 無論救い出そうとは考えた。

 しかし私たちの国の軍事力では到底太刀打ちできる物ではない。


 セシリアの安否を思うと気が気ではなく、満足に眠る事が出来なかった。


 刻一刻と迫るであろうセシリアの死に、絶望は募っていく。


 そんな私を救うかの様に、帝国からの打診を受ける。

 条件を呑めば捕虜を無傷で返還すると言うのだ。


 私は藁にもすがる思いで、その返還条件を聞いた。


 返還の条件として提示されたのは。

 1.国を無条件で明け渡し、王族含めた国民全員の処刑

 2.国は残すが、属国として扱われ毎日貢物を献上する

 3.捕虜の処刑と進軍


 はなから嘲笑うためだと分かる非情な選択肢を突きつけられた私は、帝国に対しての怒りを募らせた。


 それから、どうにかして帝国を崩さないか悩む毎日を過ごしていたところ転機が訪れる。


 ……そう、壊獣が東大陸に上陸したのだ。

 最初こそ軍を差し向ければ簡単に対象出来ると甘く見積もっていた帝国は、手痛い反撃により大軍を失ってしまった。


 これには帝国側も焦りを覚えたのか、大陸中の国に共同戦線を申し出てきたのだ…。


 あれだけ制覇だのなんだの言っていたのに虫が良すぎる話だと一蹴したくなった。


 そんな思いを読み取ったのか、帝国側はある条件を提示してきた。

 捕虜の返還と賠償をすると言う提案を…。


 国は条件を飲み、帝国の共同戦線に参列した。

 日は進んで壊獣討伐戦が始まった。




 妹を失ったあの日、私は国で指揮を取っていた。

 この戦いを切り抜ければ…セシリアを取り戻せる…

 そう思って。

 

 だが現実は非情だった。

 帝国の連中は捕虜となっていた聖騎士隊を戦場へ駆り出させ、あろう事か最前線に配置したのだ。


 ……ご丁寧に鎖で繋いで。

 腑が煮えくり返りそうになった。

 そんな事が許されていいのか、と。


 抗議したくなった、しかし相手は帝国の軍隊を返り討ちにした化け物だ、戦力となる奴は全て投入すべきと言われれば返す言葉もない。


 怒りと悔しさでどうにかなりそうだった。

 それでも抑えて祖国で指揮を取っていた。



 戦いが始まった。

 最初こそ一度敗北したとは思えないほど順調に壊獣へとダメージを与えられていた。


 しかし状況は一変。

 壊獣の反撃によって戦線は一気に崩壊した。

 帝国兵は逃げ惑い、勝ち目がない事は明白。

 そう判断したセシリア達は撤退を試みたらしい。


 その試みは上手くいって、あと少しで国まで辿り着く所まで来ていた。

 

 しかし突如として壊獣が怒りの咆哮を上げ何者かを追いかけ、進路上の全てを轢き殺し始めたのだ。


 不運にもその進路上に居たセシリア達は……。

 奇跡的に生き残った隊員に事の顛末を聞き、私は絶望した。


 

 現実を受け入れられず、壊獣が去ったその平原へと足を運ぶ。


 現場の状況は悲惨そのものだった。

 轢き殺した、報告に聞いていた通りで、奴の進路とも呼べる抉れた大地には大量の血痕が飛散していた。


 それは報告が事実だったと言う事を裏付けるのには十分すぎる確たる証拠となった。

 


 呆然として惨劇の場所となった平原を歩く。

 気分も足取りも重い。

 

 歩き続けて数分後、ある物を発見する。

 セシリアが身につけていた美しいペンダントを。

 傍らには人が潰されたと思わしき血痕がある。


 

 その血痕がセシリアの物であると考えればすぐにわかる事だ。


 脳が理解を拒む…。

 当たり前だ、誰だって肉親が挽肉にされた、だなんて思いたくもない。


 その現実を受け入れた時、私の中で何かが壊れた。

 ペンダントを胸に手繰り寄せて慟哭する。


 

 散々泣いて、泣いて、泣いて…泣き続けて…。

 涙が枯れた頃には日は傾き、オレンジ色の光が私を照らした。

 

 

 涙を出し切った私に、ふつふつと黒いナニかが込み上げてくる。


 ソレは、あまりにもドス黒い怒りにした感情。

 ソレは、誰に対しての怒りなのか?

 セシリアを殺した壊獣に対してなのか?

 それとも戦場に送り出した帝国に対してなのか?

 わからない、でも呑まれたらダメだとわかる。


 

 私は必死にそのドス黒い感情を抑えた。

 再び涙が込み上げてくる。

 その涙を拭い、惨劇の場となった平原で誓う。


 

「セシリア…お前の分まで…私は生きてみせるよ…」


 生きて、生きて、生き抜いて…そして今度こそ大切な人は守り抜いて見せる。

 天を仰ぎ見て心に誓った。


 その決意を後押しするかのような心地の良い風が、草原を吹き抜け、草音を鳴らす。



 ハインベルテへと戻った私に国王陛下からお召しがかかった。


 謁見の間へと赴く。

 要件は至ってシンプルだった。

 今後どうしたいか、そう問われる。


 私は迷わずに答える。


「叶うなら…外の大陸を見て周り、可能なら壊獣をこの手で討ち取る…もしくはその人材を育てたいと思います」

 

 聖騎士隊の隊長でありながら、今の時期に国を出たい、などと巫山戯た申し出をしたと思う。


 だけど国王陛下はその申し出を快諾した。

 私は今までの感謝を伝え、謁見の間を後にする。


 自宅へと戻り、国を出る準備をする。

 ご近所や聖騎士隊の部下への別れの挨拶。

 大陸を渡るための手立ての準備。

 セシリアや亡くなった部下の墓を作り…。


 身支度を終えた私は国を離れる。

 国を出る際、国民や部下に大手を振られた。


 やがて国が見えなくなる。

 私は気を引き締め、生まれ育った東大陸に別れを告げ、新たな大陸を目指した。



────────────



 中央大陸へと到着した私は、特に行く充ても無く各国を彷徨う。


 幸い、聖騎士隊の頃の貯金があるため、お金には困っていなかった。


 各地を転々とし、腕を磨く日々。

 そんな折、偶々滞在していた街で、エリュシオン王国の騎士団長と出会い、スカウトを受ける。


 目的も無く、日々生きる事しかしていなかった私は、その勧誘を承諾した。



 エリュシオン王国へと連れてこられた私は、国王夫妻に拝謁し、今までの事を話した。

 2、3やり取りをしたのちに解散となり、その場を後にした。


 特に何事もなく、騎士団へ入団する。

 しかし人材不足なのか、別の理由があるのかは謎だが、入団してすぐに副団長の地位を頂く。


 疑問に思った私は団長へと聞きて見る事に。

 理由としては私の経歴を高く評価したとの事。

 どうやら壊獣の脅威性は東大陸から伝わってきていたらしく、壊獣討伐戦の経験がある事と団体の隊長を務めていた事が、副団長採用の理由らしい。


 上層部が決めた事、私はその決定に従い、エリュシオン王国騎士団副団長として新たな生活を歩みだした。



 しかし余所者が上司になる事を面白く思わない者は多く、就任当初こそ私に不満をぶつける者が多かった。


 それでも真摯に振る舞い続けた。

 祖国の聖騎士隊にいた頃と同じように、部下の悩みを聞いたり、共に訓練に励んだり、杯を交わしたりと交流は積極的に行なっていった。


 私の行いは部下に好印象を与えたらしく。

 就任してから2ヶ月経つ頃には皆に認められていた。

 騎士団長とも仲を深め、ここ最近は2人で夜の街に繰り出して、酒を酌み交わすほどだった。


 しかし奴がこの世界にいる限り、永遠の平和などあるはずもない…。


 そう、壊獣の侵略だ。

 新しい職場にも慣れ始めた頃、あの忌々しい存在がこの中央大陸に上陸したとの報告を受ける。



 中央大陸の東側に位置するアユスナシャ共和国から救援要請を受けた事で軍事会議が開かれる。


 侵略を受けているアユスナシャは防衛戦のため未参加となるが、この中央大陸でも特に大きい、ユグラティア教国、クシャリカラ皇国、そして私が現在所属するエリュシオン王国の3ヶ国での合同会議となった。


 大きな取り決めとして、3ヶ国軍を派兵する事。

 生半可な連合軍では蹴散らされる、だからこそ精鋭部隊を惜しまず投入する事が決まった。


 ここで必ず討ち取る!方針がそうであるためか、各国から出される兵の数が凄まじく、大規模な連合軍となってしまった。


 そこで各国同士で諍いが起きないよう指揮官の上の立場として、国の代表もしくは近しい影響力を持ち軍を纏められる者が総合指揮官として参戦する事となった。


 エリュシオンからは国王夫妻と騎士団長が参戦し、ユグラティアからは聖女と称えられる少女が参加を表明、クシャリカラは竜王と呼ばれる半分竜の姿をした、第一皇子が竜騎士を大勢引き連れ参加した。


 無論私も参戦を選び、戦場へと赴いた。

 壊獣一匹に対してこちらは十数万規模の軍隊、過剰とも呼べるその戦力で、必ず勝つ!そう意気込んで挑んだ。


 アユスナシャ共和国の近郊にある砦が決戦の舞台となった。


 到着した頃にはアユスナシャの防衛は壊滅状態となっていて、即座に戦闘へと移る。


 不思議な力を持つユグラディアの聖女が、全体に特殊な魔法を施し、半竜の皇子が竜騎士達と共に空を征した、私や騎士団長と共に物量戦を仕掛ける──。



 ……まただ…またあの咆哮だ、奴は突如として暴走を始め、進路上のあらゆる生き物を──喰らい始めた(・・・・・・)!


 結果は酷い者だった、奴が暴走を初めてたった数分…砦は赤へと染まった。


 攻勢に出ていた兵士は殆ど喰らわれ。

 壊獣の猛攻に耐えきれず崩れた砦の成れの果て。

 崩落に巻き込まれ、潰れた兵士達。

 奴の攻撃に巻き込まれ、身体が損壊し息絶えた竜達。


 奇跡的に生き残っていた私はその現状を目の当たりにし、眩暈がする。


 蘇ってきたのはセシリア失ったあの日の光景。

 また失うのか?そんな自問が脳裏に浮かぶ。

 崩落の際し、はぐれてしまっていた騎士団長や国王夫妻を探すため、崩壊した砦を彷徨う…。

 

 

 私がその場にたどり着いた時、既に手遅れだった。

 瓦礫に脚を潰され、動かすのがやっとな騎士団長。

 崩落に巻き込まれ、瀕死の状態となった国王夫妻。

 国王夫妻に関しては、もはや生きているのが奇跡とも呼べるほどに、酷い状態だった。


 私は壊獣へと立ち向かい殿としてこの場に残る事を決心し、お三方に逃げるように願い出た。


 私の提案は受け入れられると思っていた。

 だけどそれはならず、騎士団長は首を横に振る。


 我々の身体で逃げるのは不可能だから、壊獣との交戦歴が二度ある君が逃げ延び、次に活かして欲しい、そして必ず我らの意思を繋いで欲しいと、願われた。

 横では、重篤でありながらも、頷く国王夫妻。



 次は守り抜いて見せる。

 そう誓いをたてたはずなのに、また何も出来なかった自分に嫌気が差す。


 ここで見捨てたら、ダメだと命令に背いて戦おうとしたが、騎士団長に叱責され敗走する事となった。


 涙を堪えて戦場から離れる。

 お前は生きろ、それと騎士団を頼む。

 そう騎士団長に願われ、私は1人エリュシオンへの帰路を駆ける。



 国王夫妻や騎士団長に逃がされ情けなくも生き延びた。


 何故、私は生きているのか。

 二度も奴に仲間を…友を蹂躙された。

 なのに何故、私は生きている。

 いくら考えても答えは出ない。



 勤めすらも満足に果たせず、国の要である国王夫妻や騎士団長を失った。

 惨めで不様な私は、エリュシオンへと帰還した。


 そこから2日ほど経った。

 失意に暮れ、騎士団の宿舎で呆然と空を眺める。

 空っぽ、そう評するほどに何も感じない。

 部屋の扉が音を立てる。


 団員の私を訪ねてきたのだろう。

 扉を開け、立っていた団員に要件は何か、と問う。

 帰ってきた返事は、王女殿下からのお召しだと言われた。


 要件聞いた私は即座に王城へと向かった。

 


 そこから数分と掛らずに王女殿下に拝謁する。

 王女殿下から問われた事は。


 壊獣は倒せたのか。

 両親の安否確認。

 どれほどの犠牲者が出たか。

 など質問は多岐に渡った。


 私はあの惨劇の現場で何が起こったのか、その全て話した。


 報告を聞いた第一王女殿下は少し涙を流した。

 しかし悲しみに暮れ、泣き叫ぶ事などはせず、すぐさま国の舵取りをなさる決意をされた。


 強いお方だな、と内心思う。

 私と違っていつまでも、肉親の死を引き摺らない。

 無礼を承知で、どうしてそんなに在り方が出来るのか、と問いかけた。


 王女殿下は嫌な顔せず、返してくれた。


「いつまでも私が暗い顔をしていては、民の不安を煽るだけですから、これからこの国を担う者として、民を不安にさせる事などあってはならなのです」


 引き締まった表情で私にそう告げた。


 その後、国王夫妻の戦死という情報が公開される。

 予報通り、民に大きな不安を抱かせた。

 一度国は暗く沈みかけるが、しかし献身的に王国を支えようとする王女殿下のその姿に、民は安堵し、国は一つとなった。


 王女殿下はその若さで代理とは言え、国の頂点に立ち。

 私は新たな騎士団長に任命された。

 国は新しくなろうと、依然として抱えてる問題は深刻であり、私は王女殿下達と共に再戦に向けての準備へと取り掛かった。


 しかし、考えども考えども、あれほどの戦力で敗退した現実が勝利への希望を遠ざける。


 もはや打つ手なしかと思われていた所に、禁書庫で過去の文献を漁っていた王女殿下から吉報が届いた。


 内容を要約すると。

 かつて、世界を大旱魃に陥り、あらゆる生命が絶滅の危機に瀕した事があったと言う。


 その大旱魃によって人と人が殺し合い互いに喰らい合う、そんな殺伐とした世界に救いを求めて祈りを捧げた。


 すると、天より光が舞い降りて1人の少女が現れたと言う。


 その少女が持ちうる知識と力で、大旱魃を乗り越えさせ、食事問題を解決したと…更に大旱魃も収まり、人々は暖かな食事を取り戻した。


 人はその少女が口にした勇者と言う単語で称え、その事を記録した、と記されていた。


 実際に見たわけでもない、そんな眉唾な伝承でも、私達は縋るしかなく、祈りの義を執り行う事となった。


 王女殿下は勇者の伝承を再現する事を民や諸国に宣言し、準備を始める。


 国中の民に日、時間を指定し、その時に必ず祈りわ捧げるように民に頭を下げてお願いした。

 そして私には別に召喚された勇者の訓練係を任せるとお願いされる。


 召喚の日となり、民、王族、騎士全員が祈りを捧げた。「どうか世界(・・)を救って欲しい」と



 私達の祈りが届いたのか、天から眩い光が降臨する。

 目を開けて、その光を見つめ勇者を待つ。


 光から現れたその姿を見て私は目を疑った。

 何せ亡き妹セシリアと瓜二つの容姿をしていたのだから…。



────────────



 今も駆け寄ってくるその顔に、今度は大切に思える人を守れたと安堵する。




「……、は……ぁ……、ゆうしゃ…ど…の、無事で、よか…た」



 初対面を装った自己紹介。

 緊張したな…、上手く挨拶できてただろうか。


 砕けた口調で話して欲しいと言われた時。

 嬉しかったな…妹ではないと分かっていても、そう言う気分にしてくれた。


 剣技や剣術を教えた時。

 楽しかったな…、セシリアに何かを教えている…そう思えて…。


 戦闘訓練は無茶させたかな…。

 怒ってなければいいんだけどな…。


 あの誓いは嬉しかったよ…。

 手料理美味しかった…また食べたかったな…。



「…は…ぁ…っ、…ふ……」


 思えば夢のような日々だったな、共に修行して、話して、戦って…。私は、君を守れていただろうか、君の役に立てただろうか、ペンダントは……。


 あぁ…セシリア…何も成せない情けない兄でごめんな…。


 


「セシ……リ…ぁ……」


 

なんか短編小説みたいな尺になっちゃった。


次からはまた本編です。


進路 出現南→東→北→北東海の孤島→中央大陸


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