模倣犯、現れる
〈時効まで残り8年10ヶ月〉
10月になった。美弥の両親が飲酒運転のトラックに跳ねられて亡くなった。美弥は両親に恨みがあった訳ではないが、葬式で泣くことはなかった。しかも、期末テストが近かったので、葬式会場で英単語帳を読んでいた。九州にいる叔母から一緒に暮らすことを勧められたが、金白学園高校を離れたくなかったので、今の自分の家で1人で暮らすことにした。
定期テストは1位から最下位まで順位が出る。中学時代は1位が当たり前だったが、金白学園高校ではトップ10に入るのも困難だった。
学校帰りにニュースをつけると、
「500兆円事件の犯人 Cherryと名乗る者から、1000兆円の送金を強制する脅迫メールが国会に届きました。不可能ならば国民を大勢殺害すると脅しているそうです。」
美弥はこの模倣犯にかなり不快になった。しかし、ここは不快になるのではなく心配をしなくてはならない。もしも本当にこれが自分のせいにされたら、時効がかなり伸びてしまう。さらに、国民が殺されてしまうと時効はなくなってしまう。
美弥はすぐにパソコンを開くと、差出人不明で一通のメールが来ていた。
「初めてまして。あなたの技術に興味があり、協力してほしい仕事があります。
もちろん、報酬は払います。」
次の日、奏太は事件のことで騒いでいた。
「犯人が再び出てきた!俺たちの手で捕まえるチャンスだ!」
「奏太くん、この前犯人を捕まえようとしたら殺されかけたでしょ。さすがに危ないんじゃない?」
「今度は絶対大丈夫だよ!」
「でももしも本当に1000兆円を送金したら、国家予算が大打撃を受けてしまう。そしたら、僕らの生活にも影響はかなりあるよ。消費税が100%とかになったら困るだろ?」
「確かに〜」
(私は500兆円持ってるから消費税が上がるのは問題ない。)
その日に赤坂先生から呼び出された。最初は疑われたが、1000兆円の脅迫は美弥ではないことをすぐに信じてくれた。でも、差出人不明のメールの件は伏せておいた。
家に帰り、メールの返信をする。
「私にできることであれば何でもします。しかし、2つ条件があります。1つ目は、1000兆円の脅迫はCherryからという事を訂正すること。2つ目は、死者を絶対に出さないこと。」
すぐに返信が来た。
「分かりました。犯行後に犯行は我々【悪霧】からということにしておきます。我々の目的は人を殺すことではありません。あなたをスパイとして雇いたいです。10月17日の午後10時に指定した場所に来ていただきたい。」
500兆円事件の犯人ということがバレるのが嫌なので、警察に言うことはできなかった。
美弥はかなり警戒して、小型のカッターをポケットに入れておきながら、指定された場所に向かった。神奈川県にあるかなり人気のない公園だった。美弥は変声期付きの仮面を被った。相手は20代後半くらいの男性だ。
「初めてまして。悪霧の水無瀬歩です。これからする指示を10日間以内に完了させてください。」
少しの発音の違和感から日本語ペラペラの韓国人のように思えた。
「お力は尽くしますが、私はあなたの計画に保証はできません。」
美弥はブローカーのような声で喋った。
「まず、国にある全国民の情報を抜き取り、我々に送ってください。次に、国家専用1000兆円送金アプリを作成し、プロンプトを我々に送ってください。ただし、1000兆円はあくまでも脅しであり、本来の目的ではないので、絶対に送金できないように設定してください。最後に、おそらくホワイトハッカーがこちらに対抗してくると思うので、ホワイトハッカーを倒すためのAIを作成してください。」
「分かりました。」
「それから、国の膨大な情報を抜き取るとき、パソコンが重くなってしまうと思うので、この専用ケーブルを使ってください。」
「ありがとうございます。助かります。」
その日、家に帰ったのが午前1時を過ぎていた。寝たのは午前4時30分だった。眠くて次の日の授業は全く集中できなかった。
休み時間になると、
「美弥ちゃん大変!見て!」
優香がスマホを差し出してきた。
臨時ニュースで、長谷川総理が1000兆円を送金することを確定したと知った。
そのことを聞いて少し眠気が覚めた。
「俺らが送金を止めてCherryを捕まえたら、俺ら有名人になれるんだけどなー。」
「犯人はCherryじゃないし!」
無意識に起こる反応でそう言ってしまった。が、すぐに言い直した。
「500兆円あれば一生遊んで暮らせるから、Cherryはもうこれ以上必要ないと思うよ。」
10月27日。国民のスマホからけたたましい警報音が再び鳴り出した。驚いてスマホを覗くと、そこには【悪霧】の犯行計画が表示されていた!
10月27日午後3時45分、隕石墜落の警報を流し、地下に避難するように誘導する。
午後4時30分、銃を持った人間達で地下で大勢の人質がいる中で立てこもる。
午後5時00分、【悪霧】のボスの釈放を求める。
要求に応じなければ、容赦なく殺すこと。
人々はパニックになっていたが、地下で待機していた水無瀬らが一番焦っていた。
すぐに地下にSATや警察の大勢が来て、水無瀬らを取り囲む。しかし水無瀬は諦めない。
「我々は全国民の情報を掴んでいる。この情報を韓国にばら撒かれたくなければ、【悪霧】のボスを釈放しろ!ボタン一押しですぐにばら撒ける。」
そこにいた湯瀬刑事が
「すぐに、犯人のパソコンにロックをかけろ!」
「無駄だね。こっちにはホワイトハッカーをやっつけるソフトがついているから。」
「湯瀬刑事!ロック完了しました!」
「そんな馬鹿な!」
水無瀬のパソコンは凍結していた。袋のねずみ状態の水無瀬とその仲間は逮捕された。
美弥は逮捕直前にこのようなメールを送っていた。
「ホワイトハッカー排除AIはどうでした?あれは、私が素人である中1のときに初めて作ったものです。素人とはいえ頑張って作りましたが、かなり弱いかもしれません。しかし、私は言いました。お力は尽くしますが、保証は一切しません。」
後から分かったことだが、国民の情報は抜き取られていなかった。




