犯人はクラスメイトです
〈時効まで、あと9年八ヶ月〉
4月になった。500兆円事件の進展は全く無い。
入学式が始まった。担任の先生は誰だろうか。
「今年から1年1組の担任になる、赤坂光輝です。」今年で25歳らしい。
笑っているが、その目からは闇を感じ取れた。
この人は何か大きな闇を抱えている。美弥はすぐ分かった。
家に帰り、自分のパソコンを開くと、ホーム画面に
「システム1に不明のユーザーが侵入しました。」との表示が。アプリAsの製造元を特定するには、11の壁を突破しなければならない。無論、そのうちの1つを突破するのもかなり難しい。今さっき、そのうちの1つが突破されてしまった。でも大丈夫。壁を1つ侵入するだけで、厄介なコンピュータウイルスに感染させられる。
美弥はすぐに侵入してきたユーザーを調べた。奏太だった。
(あいつ、私をそこまでして彼女にしたいのか、?馬鹿みたい。)
次の日、
「美弥〜、俺のスマホがウイルスに感染したからゲームが出来ないよー。スマホが全然動かなくなったー。」
「ふふっ、500兆円事件の犯人はそう簡単に特定出来るように甘く設定している訳ないじゃん」
一瞬時間が止まる。美弥はしまったと思った。
「えっ」
「何で、俺が犯人を特定しようとしたことを知ってるの?」
「えっと、、、それは、、」
美弥は頭をフル回転させて言い訳を考える。あまり時間が空きすぎるとまずい。咄嗟に美弥は
「私も、昨日Asの発信源を調べようとしたの!で、私もシステムに侵入した瞬間に変なウイルスに感染させられちゃって、、同じことをあなたがしたのかなって思ったの、、」
(おいおい、そんなめちゃくちゃな言い訳を信じる訳ないだろ)
「そうだったんだね!」
(マジか!?こいつ信じた!)
「でも、俺は犯人特定を諦めていないんだ。美弥が事件解決に興味があるなら、一緒に協力してくれないか?」
美弥はピンチを乗り越えた嬉しさで判断力が衰え、咄嗟に
「いいよ。」
と言ってしまった。
「俺も仲間に入れて!」
後ろから声が聞こえたので振り返ると、後ろにはメガネをかけた背の高い男子がいた。
「俺は長谷川恵都。現総理、長谷川寛の息子さ。」
「えっ!長谷川総理!」
興味深々で奏太がそう言った。
「父は、国の責任者として多額を送金してしまったんだよ。おかげで私立高校に行くのも苦しくなってしまったんだ。」
「総理大臣の息子もいる!これは燃える!」
「私も入れて!」
優香だ。
優香は美弥と奏太が仲良くなるのに嫉妬していた。
「よし、4人で事件を早期解決しよう!探偵チーム光として!」
美弥は事件解決に熱心なふりをして、内心笑っていた。
(無理に決まってるのに。)
その会話を一部始終聞いていた赤坂先生が
「お前ら、さっそく仲良くなってるな!先生も事件に興味があるんだ、情報が入ったらどんどん教えてくれ。」と言って去っていった。
数日後、ニュースで
「500兆円事件の犯人を特定できた人には3億円が送られる。」という情報を知った。
(お金に釣られてシステムに侵入して来る者は増えるだろう。でも、もらえるのは3億円ではなく、コンピュータウイルスだから。)美弥はニヤリと笑った。
美弥の予測通り、システムに侵入してくる者は増えてきた。そのうち、1つ目の壁を突破できたのは奏太を含めて4人。想定内の人数だ。美弥は突破した4人を調べると、その中には赤坂先生もいた。
(赤坂先生、そこまでしてお金が欲しいのかな、?)
ユーザーから何通かメールが来ていた。
「お金返してください」
「お前を殺す」
「好きです」
様々な内容だ。美弥は面白くなってきた。
「お金返してください」→「嫌でーす」
「お前を殺す」→「やれるものならやってみろ」
「好きです」→「私はあなたが嫌いです」
挑発して返した。
次の日、授業がない4時間目にネットニュースを開いた。11時47分に新しく入ったニュースらしく、「犯人とメール会話をした者がいる」という情報を知れた。
美弥は昼休みに赤坂先生のもとへ行き、
「先生、犯人とメールで会話した人がいるらしいです。」
先生は少し時間をおいて、
「そうか。貴重な情報をありがとう。」
「先生は推理小説とか好きなんですよね?事件解決に熱心ということは。」
「いいや。本は全く読まない。事件を解決したい理由はね‥犯人が先生の姉の死について関係している可能性があると思って。姉は、5年前の秋にヒ素を飲んで死んだ。アプリ名のAsはヒ素の元素記号だから。」
このときの赤坂の声は揺れていた。
「犯人が殺人なんて犯す訳ないですよ!小説の世界でも、泥棒は命だけは大事にしている場合が多いですから!」
美弥は自分が殺人犯にされた様で少々不快になった。
「そうか。」
帰りのホームルームの際、
「時水さん、進路のことで話がしたいから、今日の夕方に家庭訪問に伺うね。」
「分かりました。」
美弥は警戒しなかった。昨年度の通知表が上がって呼び出された出来事の影響で。
赤坂先生が5時前に来た。あいにく、両親がどちらも居なかったが、それでも良いと言われた。
「時水、いいや。Cherryさん。お話は長くなると思いますが、どうぞよろしく。」
美弥は昨年度の出来事の10倍くらい頭が真っ白になった。状況が理解できていない。さすがに表情を変えずにキープできていなかった。頭の中には2つの選択肢が浮かんだ。
①すぐに逃げる。
②先生の冗談の可能性が高いので、誤解を解く。
美弥は②を選んだ。
「私は犯人のような天才ハッカーにはなれませんよ(笑)冗談はよしてください(笑)」
「残念ながら冗談じゃないんだ。」
「なぜ、私が犯人と思うんですか?」
「君は昼休みに犯人とメールで会話した人がいるという情報を僕に伝えに来た。その情報が世界に発表されたのは、4時間の授業中だ。どうして、君はその情報を知っていたのかな?世界に流される前にその情報を知っているのは、警察やメディア、犯人だけさ。」
「実は、昼休みにこっそりスマホを使っていました。校内で使用してはいけないという校則を破ってすいませんでした。」
美弥はまだ冷静だ。
「僕の予想通りの返事だ。君は数日前、システムに侵入してスマホがコンピュータウイルスに感染したと言っていなかったか?スマホが使えないんじゃないのか?」
「それは、、結構早く治りました!」
「北野は全く治っていないらしいぞ。」
「‥」
「あと、僕の姉を殺した犯人が500兆円事件の犯人かもしれないと言ったとき、君はやけに不快そうにしていたよな。」
美弥は言葉を失った。もう一つの逃げるという選択肢についてだが、先生がドアを塞いでいるので玄関からは出られない。しかもここは7階なので窓から逃げることは不可能だ。
美弥は膝をついた。
「ごめんなさい。大人しくしているので、どうぞ警察を呼んでください。でも、私は先生のお姉さんを殺した犯人ではないということだけ知っておいてください。」




