ハッカー、時水美弥
〈時効まで、あと10年〉
ほとんどのJCなら1人くらい「おはよう」と言う相手がいると思うが、美弥にはいない。
今日もまた無口で教室に入っていく。
夏休み明け初回登校日なのに、授業があった。1時間目の国語は宿題の読書感想文を読み合う時間だった。先生が自由に立ち歩いていろんな人の作品を読めと言うが、美弥は見せてという相手がいなくて右往左往してた。すると、北野奏太が美弥に対して
「美弥、俺のを読んで!俺は美弥のを読んであげる」
と言ってきた。ほぼ話したことない奏太に話しかけられて少し驚いたが、咄嗟に
「じゃあお願い」
と言った。すぐに奏太は美弥の作品を手に取り、3枚の原稿を美弥が2枚目の前半を読んでいる途中に読み終えた。
「すごい上手だよ!まるでAIが書いたみたい!」
「ありがとう(あなた適当に読んだよね‥)」
「俺のはどうだった?」
「内容はいいと思うんだけど、一文一文が長くて読みずらいから、一文を短くした方がいいと思うよ。」
「え!?まじ!?内容が良かったって学年一の天才に言われて嬉し過ぎるんだけど!!まじ最高!」
奏太は自分の原稿を持ってうきうきしながら自分の席に戻っていった。
休み時間になると、美弥は一人で読書をし始めた。大好きな推理小説だ。しかし故意でなくても教室にいる人の会話が聞こえてきてしまう。500兆円事件の話も聞こえてきた。そして、偶然近くにいた奏太と箕輪優香の会話が聞こえてきた。
「奏太くん、今日の放課後、一緒にカラオケ行かない?」
「俺の歌ってる姿に惚れて高熱出しても知らないよ?」
「大丈夫!愛の力ですぐ治るから!」
美弥は小さく口角を上げた。受験生がカラオケ。
ライバルの勉強時間が減るなら歓迎だった。
そう思っていた直後、奏太が
「美弥も一緒に行こうよ!カラオケ!大丈夫だよー、美弥が俺に惚れて高熱出しても俺が家まで送ってあげるから」
美弥は無意識に起こる反応でこう言った
「は?そうやって遊びに誘って私の成績を落とそうとしている魂胆は分かってるから」
奏太は
「やだなー、俺のことが好きだからって塩対応するのはやめてくれよ。」と言い返す。
「だいたい、箕輪さんと2人で行けばいいじゃん」
そう美弥が言った直後に優香が
「そうだよ?奏太くん、2人で行こうよ!」
優香は美弥にしかめっつらをしていた。
「優香ちゃん。理解してくれ、クラスの女子はみーんな俺の可愛い彼女なんだ。俺というイケメンを独り占めするのはよしてくれ」
「その彼女リストから私を外しといてね」
「え、」
「いつどこで私はあなたの恋人になった?」
「あ、その、、お前以外のクラスの女子は全員俺に告白しに来たから、俺がモテるのは確定じゃん。で、お前は俺に告白する勇気がないだけと思って彼女にしといてあげたんだけど。。」
「私はそこら辺の女子とは違うから。てか、読書の邪魔をしないでくれる?」
奏太はそれでもしつこく美弥をカラオケに誘ったが、ついに優香が手を引っ張って離れさせた。その際、
「感じ悪‥」
という優香の小さな声が聞こえた。
奏太は机に戻っても笑っていたが、本当にクラスの女子全員が自分のことが好きと思っていたため、美弥の「私はそこら辺の女子とは違うから」が頭から離れなかった。
なんとか美弥を自分の虜にしたいと思い、その日から美弥に好かれる努力をし始める。
奏太は次の日から美弥にアピールし出した。
「美弥おはよう!」
美弥は本当に面倒くさいと思って無視をした。でも奏太は諦めない。
「好きな男性のタイプは?付き合った人数は?今好きな人はいる?志望校は?」
ひっきりなしの質問に無視するのも苦痛になってきたので、「金白学園高校」と答えて立ち去った。ちなみに金白学園高校は県内トップクラスの進学実績を持つ私立高校だ。美弥は余裕でA判定を取れている。
奏太は優香に美弥のことを相談し始めた。
「どうすれば美弥を彼女にできるのかな?」
「あんな奴を彼女にする必要ないよ!ていうか、奏太くん時水のこと好きなの?」
「クラスメイトの女の子は全員好きさ」
優香は美弥に嫉妬し出した。
数日後、くじ引きで席替えをし、偶然にも美弥と優香が隣になった。
優香は美弥に上から目線で話しかけた。
「時水さん友達いないの?」
「いない。人間の友達なんて必要ないから。だいたい、衣食住さえあれば生きていけるのに、なぜ人間は友達や恋人を欲しがるのかが分からない」
「そんなこと言ってるけど、本当は1人で寂しいんでしょ?私が友達になってあげてもいいよ。」
「結構」
「(何なの‥?)」
「時水さんって本当、協調性がないよね。そうそう、そういえば500兆円事件に使われたアプリAsの未送金者リストにあなたの名前があった気がする。」
動揺してしまい、美弥の視線が一瞬、優香の方にいった。
それと同時に、奏太がやってきて
「500兆円事件の犯人ってまじで卑怯だよなー。もし俺が捕まえてやったら世界中の女の子たちからキャーキャー言われるの間違いなしだ!」
「それは十中八九無理だね。あのアプリは完全匿名で作られているし、犯人は日本にいたという頼りない情報しか分かっていないからね。」
美弥はニヤリと笑ってそう言った。
「いいや、絶対にできる。俺が犯人を捕まえてヒーローになる!美弥、もし俺が犯人を捕まえたら彼女になってくれるか?」
「まぁ頑張ってみたら?」
美弥は自信満々にそう答えた。無論、バレない自信は十分あるが、仮にバレたとしても自分は刑務所から長期間出られなくなるから奏太の彼女になることは100%無いのだ。
秋になり、通知表が返された。美弥は社会をのぞいて全て5だった。今までで4以下を取ったことが一度も無かったので、かなりショックだった。
それから三者面談も終え、志望校の金白学園高校に向かって手を抜かずに勉強し続けた。
数日後、珍しく朝早く登校すると、担任の佐々木桃華から
「時水さん、お話したいことがあるから、昼休みに職員室に来て。」
美弥は頭の中が真っ白になった。
(500兆円事件のことがバレたのか、、?いやそんなはずはない。1000桁のかなり強いロックをかけていたから、破るのには数ヶ月では無理だ!)
理屈ではバレている可能性は極めて低いと分かっていても、0%ではないという点にどうしても引っかかっていまい、少し冷や汗もかいてきた。
万が一バレていたら、全速力で学校を飛び出し、例の場所で逃亡生活をしよう。
美弥は足には自信があった。職員室に入る前に逃走経路を確認し、靴紐をきつく結んだ。
腹を決めて職員室に入り、佐々木先生を呼ぶ。先生が真顔でこっちに向かって来る。先生との距離が5mくらいになり、美弥が後ろ足を下げて走る構えをした瞬間、
「時水さん、本当にごめんなさい。」
「はい、?」
「あなたの通知表にミスがあったの。社会は4だったでしょ?本当はね、5だったの。訂正して新しいのをあげるから、明日持ってきて。」
「そうだったんですね」
美弥は安堵の表情を浮かべた。
「でも間違ってたのはあなたのだけで、他の子は通知表上がらないから、このことは他の人には内緒ね。」
「分かりました」
15年の人生で一番安心した瞬間だったと思う。
12月になり、受験勉強に真っ只中な時期になった。
冬休みに入る前日、帰りのホームルームの途中に校内放送が流れた。
「今さっき、この学校に脅迫メールが届きました。北葛中の生徒を1人殺すという内容でした。悪戯だとは思いますが、万が一のことも考えて、生徒は全員保護者に迎えに来てもらうことになりました。」
「えー」
クラス中からその言葉が聞こえた。
「母さんが来るまで帰れないのかよ」「ウチの両親遅くまで仕事してるのに」
美弥は何も思わなかった。家に帰っても勉強する予定だったので、学校で勉強すれば良かったからだ。
しかし、学校では勉強に妨げとなるものが1つあった。
「美弥の親はどこで働いてるの?」
「個人情報だから言わない。」
(こいつの親早く迎えに来いや)
「俺の両親、今日旅行に行ってるんだよねー」
(最悪‥)
数学で分からない問題が1つあったので、先生に聞きに行こうと立ち上がると、
「どこ行くの?俺のそばから離れるときは声かけろ!」
「分からない問題を先生に聞きに行くんだよ。」
「どれどれ〜?」
奏太に教科書を取り上げられると、
「おっ!これは俺の得意分野だ!俺が教えてやるよ」
嫌だと言う前に奏太は解説をし始めた。
夏頃までは成績が中の上だった奏太が美弥でも解けない難問を解けていたことに驚いた。しかも、解説がとても分かりやすかった。
「ありがとう。解説してくれた事は感謝する。」
「また聞いてくれよな!」
「はいはい。(お前のような女たらしには2度と聞かないからバーカ)」
数時間後、ほとんどの生徒は迎えが来て帰っていた。
ついに、残りは美弥と奏太の2人になってしまった。
美弥は流石に勉強に疲れた。親が迎えに来ると思う時間はとっくに過ぎていた。すると佐々木先生が、
「時水さん、お母さんが急用で今日中には迎えに来れないって」
「はい」
奏太は早くスマホゲームがしたかったらしく、
「美弥ー、俺たちどうなっちゃうのかな?」
「あなたが犯人を特定して犯人が捕まったら、今日中に帰れるんじゃない?」
美弥はからかいの冗談でそう言った。
「よし!犯人を特定するぞ!」
奏太は本気になった様で、学校から普及されている自分のパソコンを触り始めた。
ちなみに、美弥はかなり凄腕のハッカーなので、美弥自身が犯人を特定することも可能だが、500兆円事件を疑われるのが心配でそれは出来なかった。
奏太はそれから数十分間無我夢中でパソコンと戦っていた。そしてついに、
「見つけた!発信場所が特定できた!」
「えぇ!?」
「位置情報がこの学校だ!しかも、この教室から近いぞ!」
美弥と奏太は自分たちの教室3年D組をまずは探した。しかし、パソコンは見つからないので、美弥は3年E組を奏太は3年 C組の教室を探した。美弥はE組から一台のパソコンを発見した。C組からは見つからなかったらしい。
「貸してみろ!」
奏太はそのパソコンを調べ始めると、すぐに発信元がその端末ということを突き止めた。
すぐに先生に事情を話し、先生がそのパソコンの持ち主に電話を掛けると、やはり持ち主が脅迫メールを送った犯人だったそうだ。動機は受験のストレスだったそうだ。
(素人には簡単に他人のパソコンを破ることは出来ない。奏太はパソコンの素人じゃない。これから注意が必要だ)
冬休みが明け、すぐに私立高校の入試があった。入試当日、美弥は問題をだいぶ早く解き終えた。2教科終わった時点で、合格を確信していた。合格発表は次の日だった。もちろん美弥は合格。すぐに佐々木先生に報告した。
「金白学園高校に合格しました。」
「私も受かりました。」
優香の声だ。優香は美弥よりほんの少し下の成績であり、それでも十分偏差値75の金白学園高校に届いていた。
「俺も受かりました!」
(ん?この声は、?)
振り向くと、なんと!奏太だった。
「、、、えぇ!?!?」
普段感情が浅い美弥も驚きを隠せなかった。なぜなら、奏太は夏頃まで偏差値55ほどだったからだ。
「北野くん、最後まで諦めずにがんばったね!おめでとう」
「美弥、お前が金白学園高校受験すると聞いたから、俺めちゃくちゃ勉強したんだぜっ」
「いや、何でだよ」
「俺がいないと、お前に優しくしてくれる男子がゼロになるだろ」
「いや別に欲しいと思ってないし。」
金白学園高校は中高大一貫の私立高校。中学から入る人が大半であり、高校のクラスは内部生と外部生がクラスは別になるのだ。しかも、外部生は1クラスしか無いので、必然的に奏太と優香と同じクラスになる。
まぁ、仕方ないと思っているうちにあっという間に卒業式が来た。
美弥は卒業式に一緒に写真を撮る相手がいないので、佐々木先生にお礼を行ってすぐに帰った。




