500兆円事件
21世紀、中学3年生の少女が重大犯罪を犯す。ある日突然、日本住みのスマホ持ちの全員に【30日以内に、国民全員で協力して、専用アプリAsから合計500兆円を送金せよ!もし出来なかったら、日本のあらゆる場所にミサイルを落とす】という警告を一斉に出した!パニックになった国民は、27日間で500兆円の送金を完了した。国もアプリを阻止することができず、アプリのルートも完全匿名で犯人も不明だった。ニュースや少女の学校でもこの話題ばっかり。少女は、10年間の時効が成立するまで逃げ切れるか!逃げている間に、罪なき国民として過ごしながら、他の犯罪者達と出会う。
7月11日、午後0時14分。
日本中で、突然スマートフォンが鳴り響いた。
緊急地震速報。
誰もが反射的に身構えた。しかし――揺れは来ない。
電車の中でも、学校でも、オフィスでも、コンビニでも。
けたたましい警報音だけが、いつまでも鳴り続けていた。
そして、画面に表示されたのは、誰も予想していなかったメッセージだった。
【一ヶ月以内に、国民全員で協力して合計500兆円をアプリ「As」に送金せよ! もしも出来なかったら、日本のあらゆる場所にミサイルを落とす! Cherryより】
突然、見覚えのないアプリ「As」がスマートフォンにインストールされた。
削除しようとしても、できない。
アプリを開くと、そこにはカウントダウンが表示されていた。
さらに、送金した人の名前と金額、そして――まだ送金していない人の名前、年齢、住所まで表示されている。
消去は不可能。
アプリの作成ルートも完全に不明。
しかも、かなり強固なロックがかけられており、政府が総力を挙げても阻止することができなかった。
日本政府は当初、国民に対して「送金しないように」と呼びかけていた。
しかし、Asを止めることはできない。
刻一刻とカウントダウンが進んでいく。
そして次第に、国民の間にパニックが広がり始めた。
「本当にミサイルが落ちるのか?」
「誰かが止めてくれるんじゃないか?」
「いや……もし本当に落ちたら?」
ミサイルは本当は落とされないだろうと考え、送金しない人もいた。
海外へ逃げる人もいた。
しかし、そうした人々は、次第に非難の対象となっていった。
Asに表示された未送金者のリストがSNS上で拡散され、名前や住所を晒される人まで現れた。
晒された家に嫌がらせをする者もいた。
学校では、
「まだ送ってないの?」
そんな言葉が飛び交った。
誰もが、500兆円という途方もない金額を前に追い詰められていった。
そして、8月8日。
カウントダウン終了まで、残り3日。
午後8時48分――。
画面に表示されていた金額が、ついに500兆円へ到達した。
富裕層は億単位の金額を送り、学生たちも数万円を送金した。
スマートフォンを持っていない小さな子供や、極少数のガラケーを使っている人々は送金することができなかった。
それでも、500兆円は集まった。
その瞬間。
カウントダウンが停止した。
そして数分後――。
Asは、跡形もなく消滅した。
日本中が、静まり返った。
誰もが思った。
これで終わったのだ、と。
しかし――事件は、ここから始まった。
政府は当初、北朝鮮によるサイバー攻撃を疑っていた。
だが、ミサイル発射まで残り5日となった時点で、政府はある情報を掴んでいた。
犯行は――日本国内から行われている。
しかし、それ以上のことは分からなかった。
アプリが消滅した後も、「500兆円事件」は世界中の新聞やニュースで大きく報じられ続けた。
この年は夏のオリンピックが開催されていた。
しかし、そのオリンピックでさえ、「500兆円事件」に話題を奪われてしまった。
犯人について分かっているのは、ただ一つ。
犯人は、日本にいる。
そこから犯人を探し出すのは、釜いっぱいに入った米の中から、たった一粒の目的の米を探し出すようなものだった。
複数の罪が重なっていた。
しかし、前代未聞の事件だったため、特別法によって時効は10年間とされた。
犯人は誰なのか。
それは、誰もが知りたいことだった。
だが――犯人は、すでに罪なき国民の一人として、平然と日常を送っている。
ここからは、時効成立までの犯人の生活を覗いてみよう。
もしかすると――あなたの周りにも、時効成立を待っている犯罪者がいるかもしれない。
時は21世紀。
一人の少女が、歴史に残るような大事件を起こした。
少女の名前は、時水美弥。
セミロングの髪をお団子にまとめ、左右には細めの触角のような髪を垂らしている。
昔から無口で、友達はいない。
そもそも、友達を欲しいと思ったこともなかった。
彼女は、人間から愛情を感じることができない。
だって――愛情って、目に見えないじゃん。
そう思っているからだ。
中学に入学してすぐ、彼女はスマートフォンを持った。
そして、適当に操作していくうちに、ハッキングの方法やパスワードの破り方などを、独学で身につけていった。
無論、スマートフォンに関する知識なら、両親よりも詳しい。
事件を起こしたのは、美弥が中学3年生のときだった。
美弥は、日本にあるすべてのスマートフォンのハッキングに成功した。
そして、すべてのスマートフォンに、例のアプリ「As」を自動的にダウンロードさせるプログラムを仕込み、さらにアプリを消去できないようにした。
日本からの犯行だと判明することも、美弥にとっては想定内だった。
なぜなら――日本に住む1億人以上の人間の中から、犯人を一人見つけ出すことなど、ほぼ不可能だと考えていたからだ。
そして夏休みが明けた。
美弥は、いつものように学校へ向かう。
500兆円事件の犯人だとは誰にも知られないまま。
罪なき国民の一人として。
北葛中学校へ――。




