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500兆円事件〜時効まで、あと10年〜  作者: 名無し


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盗まれた500億円⑤〜最終決戦編

【時効まで、あと4年】


午後3時30分、飛行船の外を見張っていた水無瀬絢斗、哉太、大翔のスマホに一斉にメールが来た。


【食堂にて、人質数名が逃げ出した。まだ1階にいると思われるため、2階に行かせないように至急、3ヶ所の階段に付くように。 by航】


「了解。」


それを見た3人は、慌てて階段へ向かった。

2階の階段のそばには、脱出用の非常口がある。

パラシュートをつけて逃げられることは何としても避けなければならなかった。


すぐに3人は階段に着いた。

非常口を確認すると、まだ逃げた形跡は無かった。


「こちら絢斗、2階中央階段到着。異常なし。」


「こちら哉太、2階西階段到着。異常なし。」


「こちら大翔、2階東階段到着。異常なし。」


そう航に無線で連絡した。


「お前ら何言っているんだ?俺は何も指示していないぞ。」


航は困惑した口調でそう言った。

絢斗が念のため食堂に向かったが、そこにはちゃんと湯瀬刑事に捕まった水無瀬未来とその仲間が全員揃っていた。


「未来、食堂の人質は逃げ出したんだよな?」


湯瀬刑事がこちらに銃口を向けていたため、絢斗は食堂の入り口で大声で未来に話しかけた。


「何を言ってるの!?誰も逃げ出してないよ!」


状況を察した航も食堂に到着した。


「絢斗、お前は誰から階段に向かうよう言われたんだ?」


「このメール‥航からじゃないのか?」


違うと言われるのは内心分かっていても、恐る恐る聞いてしまった。


ーー「その通り。」


後ろから聞こえた、その聞き覚えのある低い声の方に食堂にいる全員の視線が集まった。


「Cherry‥お前の仕業か。」


予想通り、そこには仮面を被ったCherryの姿が。


「Cherry!?まさか‥助けに来たの!?」


優香がそう言った。


「勘違いしないでください。私は人質を助けに来た訳ではありません。」


(そうだよね‥Cherryだもの。泥棒が人を助ける訳ないよね。)


湯瀬刑事はCherryを逮捕したい衝動に駆られた。

だが、今は悪霧を止めなければならない。


(美弥!?風邪は大丈夫なの!?)


五十嵐夫婦はそう思った。


航と絢斗はCherryに銃を向けた。

少し遅れて哉太と大翔も食堂に到着した。


「パーティーには間に合ったようでよかったです。」


「お前、どうやってここに来た‥?」


「私はヘリコプター以外の手段を思いつきません。」


航は絢斗たちに怒りをぶつけた。


「おい!外の見張りはしてたのか!?」


絢斗らが言葉を失ったので、代わりにCherryが答えた。


「3人を責めないであげでください、この状況であのようなメールを送られると、誰しも冷静な判断ができなくなります。」


「やはり‥あれは罠だったのか。」


「だがしかし、ここに来れたとはいえいくらCherryでも俺たちから金を取り返すのは不可能だ。」


航は冷静な口調でそう言った。


「どうしてそう言い切れるのですか?」


Cherryがそう反論した。


「ふざけるな!元々あれは俺ら国民のものだ!絶対にCherryに渡すな!」


やはり金を取り返しに来たと思った奏太はそう叫んだ。


「いやでも、そしたら地上にばら撒かれる。結局は俺らの手元に返ってこない。」


恵都が言った。


「私があなたたちからお金を取り返すことは不可能ではありませんが、取り返すつもりはありません。」


その言葉に食堂が騒然とした。


「どういう意味だ?」


「私もかつて、日本を震撼させるド派手な事件を起こしました。上空から札束をばら撒くなんて、面白いと思いますよ。私は止めません。それで、お金に目が眩んだ人々のその愚かな姿を是非上空から見たいと思いまして。」


時計を見た航は銃を下ろした。


「ならいい。もうすぐ時間だ。」


現在3時55分。あと5分でお金をばら撒く時間だ。


「Cherry、お前は俺の大事な人を奪った。もうすぐお前が大事にしていた金を失う!これで引き分けだ!」


航はそう言い放った。

絢斗、哉太、大翔は手元に怪しげなボタンを持っている。


「それ、押したらお金が地上に落ちるんですよね。大阪ではお金に目が眩んだ大勢が待機していますよ。」


Cherryはスマホでニュースの中継画面を見せた。

学生から高齢者までの幅広い世代の人々が袋やリュックサックを開けて待機していた。

その他にも大阪市では、電車止まったり、警察が警備していたりした。

川や池はシートで覆われていた。


「お前、計画を全て知っているのか?」


「えぇ。もちろん。」


「どうして分かった。」


「私は500兆円事件の犯人です。電子機器のハッキングなど朝飯前です。」


Cherryは食堂の入り口で腕を組んで待機した。


「湯瀬刑事、何とかならないの?」


「もう、時間がない。僕たちにできることはない。」


ついに湯瀬刑事も止めることを諦めた。


(美弥には何か考えがあるはず。ここは美弥を信じよう。)


五十嵐夫婦は顔を合わせた。


「あぁ‥俺も地上に居たかったな。」


奏太はため息をついた。


食堂にいた人は全員窓の外を見た。


「もうすぐだよ。」


優香は4時までのカウントダウンをした。


「5」

「4」

「3」

「2」

「1」

「0!」


ーー「放出開始!」


航の声と同時に3人はボタンを押した。

午後4時00分、上空から500億円が放出された。


(ついに‥!ついに、夢が叶った。)


未来を除いた悪霧のメンバーは抱き合った。


「くっ‥阻止することができなかった‥」


湯瀬刑事は銃を持ったまま崩れ落ちた。湯瀬刑事は窓の外を見たくなかった。


「お兄ちゃん!」


彩芽は俊の元へ駆け寄った。

奏太たちは無我夢中で外を見ている。


「チャリン、チャリン、ジャララララッ!」


外から音が聞こえた。


「なんか、小銭っぽくない?」


「いや、札束って言っていたよ。」


「じゃあ‥やっぱり爆弾か何かを落としているのか?」


「何!?」


湯瀬刑事は慌てて外を見た。


「いや、小銭だ!500円玉!」


「ジャララララッ!」


窓の外には、前代未聞の光景が映っていた。

青空の中。

地上には、500円玉の雨が降っていた。


大阪市内では、大勢の人間が平たい石ころを取り合っていた。

ニュースの中継をしているアナウンサーも石ころを拾ってはポケットに入れていた。女性や子供は若い男性に押し除けられたり、袋を奪われたりしていた。警察もこの騒動を抑えきれなかった。


「そんな‥!馬鹿な!?」


未来も隙をついて逃げ出し、航たちのもとへ行った。


「おい‥!?どうなっているんだ!?」


悪霧は慌てふためいていた。

札束をばら撒くはずが、小銭にすり替えられていた。

このようなことをするのは1人しかいない。

航は銃をCherryに向けた。


「お前‥!俺たちをまた騙しやがって‥!」


「ただお金を両替しただけです。言いましたよね。私はお金を取り返してはいないと。お金をばら撒くというあなたたちの目的は達成したはずですよ。」


「とぼけるな!お前は俺らの計画を邪魔した。」


このときの航の声は震えてるいた。


「もういい。ここでお前をぶっ殺す。」


航は銃を発砲しようとした。


「もうやめて!」


その声に航たちは反応した。

そこには、息を切らした時効clearの蝉丸と梅林の姿が。


「こんなことをしてまで有名になりたかったの‥?」


「黙れ。お前らも殺すぞ。」


航たちは銃口の向きをCherryから蝉丸と梅林に変えた。


「殺してもいい。札束を小銭にすり替えたのは俺と梅林だから。」


「そういうことか。お前ら2人はCherryの仲間なのか!?」


「違う。航たちの仲間だよ。今でも、友達と思ってるから。」


梅林は優しい口調でそう言った。


「ふざけたこと言うな!」


航は怒りが爆発し、梅林に向かって発砲した。


「危ない!」


蝉丸は梅林を庇い、右肩に銃弾が当たってしまった。


「うぅ‥うぅ‥」


「蝉丸!」


苦しそうにする蝉丸の方に梅林は駆け寄った。


「何で‥私を庇うの‥?」


梅林は涙目になっていた。


「はぁ‥はぁ‥いいんだ‥元々言えば‥俺が‥詐欺グループに入ったから‥」


医学部の優香と恵都も蝉丸の方へ駆け寄り、止血をした。


「航も、絢斗も、哉太も、大翔も、未来も‥本当はこんなことしたくなかったんでしょ。本当はみんな優しいんだから。」


「優しい俺らはもういない。これは俺たちが新たに見つけた夢だ。やりたくないんじゃない。」


悪霧は蝉丸を庇っている梅林に銃口を向けた。


「違くない!私が航たちにこんなことをさせてしまった‥本当にごめんなさい。」


「友達に‥こんなこと‥させたくなかった‥だから‥止めに来た‥」


「お前ら2人は、友達じゃない!」


航は梅林の左足に発砲した。

友達じゃないはずなのに、急所を狙えなかった。


「そうだよね‥私があんな酷いことしたから‥許してくれるわけないよね‥」


悪霧は黙り込んだ。


「最後に‥一つだけ聞いてくれ‥俺は‥」


ーー「怪我人は喋るな。死ぬぞ。」


Cherryが口を挟んだ。


このときから、敬語を使うのをやめていた。


「蝉丸は、お金をたくさん稼いで善光の活動費にするつもりだった。だが、誤って闇バイトに応募してしまった。彼はすぐに辞めようとしたけど、家族はもちろん、友人だったお前らも殺すと脅されたんだ。だから、辞めることができなかった。」


「そう‥だったのか。」


悪霧は言葉を失った。


「梅林も、自分が火の中から助けてもらったから、次は自分がこの状況の航たちを助けたいと。」


航たちは思い出した。

自分たちの本当の目的はこうではないと。

本心では、人を助けるヒーローとして有名になりたかった。

「ありがとう」と言われたときの気持ちを思い出した。


「水無瀬航。一つだけ聞きたい。10年前、都内の倉庫で三毛猫を殺したのはお前らか。」


「何のことだ?」


「お前らは、札束にヒ素を塗って国民を大量に殺害するつもりだったのだろう。その三毛猫もヒ素で殺されたんだ。」


「俺ら悪霧は、動物に興味はない。興味があるのは人間だけだ。」


(違った‥今回こそ、Cherry殺害の犯人を見つけられると思ったのに‥)


ーーそう、悪霧は上空から毒を塗ってある札束をばら撒き、大量殺人をして世界的に有名になるつもりだった。

ただそれだけ。

人を助けて有名になりたいという気持ちが、いつのまにか、犯罪者になって有名になりたいという気持ちに変わってしまっていた。


「俺は、友達に発砲するなんて‥なんてことをしてしまったんだ‥」


航は泣き崩れた。

数秒前のことを後悔して。

絢斗らも同じ気持ちになり、涙を流していた。

そして航は、銃口を自分の頭に向けた。


「やめて‥」


「やめろ!」


苦しそうな声で蝉丸と梅林は言った。

絢斗たちも航を必死に止めていた。


「友達を‥失いたくないの‥」


「俺は‥罪を犯した‥もう、生きていてはいけない。」


「罪を犯したから何‥私たちは‥それ以上に‥航の優しい面を見てきたから‥」


「航たちと‥友達で本当によかった‥」


「お前らのことを、殺そうとしたのに‥友達と言ってくれるの‥?」


「殺そうとした‥何のこと‥?‥そんなこと‥忘れた‥」


「こんな傷‥すぐ治る‥」


2人はだいぶ止血できていた。

流れているのは、血ではなく涙だった。


「また‥7人で‥やり直したい‥時間は‥かかると思うけど‥航たちが‥更生したら‥一緒にバンドやろうよ。」


蝉丸と梅林は笑顔でそう言った。


「いいの‥?」


「もちろん‥歩も‥それが一番嬉しいと思う‥」


「新太、沙羅、助けてくれてありがとう。そして、本当にごめん。」


2人を下の名前で呼んだのは何年ぶりだろうか。


「よかった。」


優香と恵都は顔を見合わせた。


「Cherry、お前も一緒に警察へ‥」


「あれ?Cherryはどこ?」


数分前までそこに居たはずのCherryの姿が消えていた。


「そういえば、湯瀬ちゃんもいない。」


ーー中央階段付近の非常口のそばに、黒い影が。

隙をついて抜け出したCherryは、ハッキングしていた悪霧のスマホで、全て会話を聞いていた。


(友情って、目に見えないけどすごいなぁ。)


自分は小さい頃、友達なんていなかった。

友情も愛情も欲しくない。

当時はそう思っていたのに、今は少し違う。

悪霧いや、善光の強い絆を見て、なんだか羨ましくなった。


小さい頃も、本当は1人で寂しかったのかもしれない。

奏太たちは、初めてできた友達だ。


奏太は、うざいと思うときが多いが、本当はいい奴だと思う。

苦手だった優香も、話してみると意外と気があった。

恵都とも、真面目という共通点があった。


(奏太は‥あの日読書感想文を読み合ったとき、助けてくれたんだ‥)


そのとき奏太に塩対応したのは、友達が多くて明るい奏太が羨ましかったからかもしれない。

スマホをしまい、非常口のドアを開けた。


「逃げるな。」


後ろを振り返ると、湯瀬刑事が銃をこちらに向けていた。


「お前はこのまま自首するんだ。」


(あと一歩なのに‥)


「私は自首をするために来たのではない。事は済んだから、今日のところは退散する。」


「引き下がらないと、撃つ。」


(このままでは‥本当に撃たれる‥)


しかし、その直後に飛行船が大きく傾いた。

それによって湯瀬刑事はバランスを崩した。


「それでは。」


その隙を狙い、Cherryは素早く飛行船を飛び降りた。


「待て!」


湯瀬刑事はパラシュートで落ちてゆくCherryに向かって叫んだ。


「いつか、俺がお前を逮捕する!」


Cherryは無事、人気のない林の中に着地した。

その後、悪霧は全員逮捕された。

着陸したときには、地上の500円玉はほとんどなくなっていた。

こうして、事件は幕を下ろした。


美弥は、大阪で奏太たちと合流した。


「見て!500円玉大量にゲットしたよ!」


美弥は袋いっぱいの500円玉を見せつけた。


「本当だ!」

「いいな〜」

「俺にも少し分けて〜!」

「あげないよ〜!」


美弥はマスク越しの笑顔を見せた。

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