盗まれた500億円④〜悪霧編
【時効まで、あと4年】
悪霧は元々、【善光】だった。
困っている人を救うためにつくられた小規模の組織。
結成から時効clearの2人が脱退するまでは、8人だった。
8人は幼馴染だった。
善光の中で歩が最年長であり、兄弟と従兄弟、それから近所に住む梅林と蝉丸とよく遊んでいた。
結成されたのは500兆円事件よりも遥かに前。
水無瀬歩が中学生の頃だ。
ある日、住んでいた町が大地震の被害に遭った。
幸い、8人の家は無事だったが、崖崩れなどの被害を受けて避難を余儀なくされる人は多かった。
この町が誰よりも大好きだった水無瀬歩は、少しでも早く町を復旧させたい、避難生活をしている人を助けたいという強い気持ちが湧いてきた。
そこで、少し前から趣味で書いていた小説を出版してもらい、それがかなり人気になったから、売上金を全て災害復旧や食料の寄付に使った。
歩は暑い中、朝から晩まで避難所を回って日用品を届けていた。
それを見た航たちや梅林、蝉丸は歩を手伝うことにした。
結局は8人で毎日避難所を回った。
避難所にいるお年寄りや、子連れの母は8人に毎日心からお礼を言っていた。
8人全員、「ありがとう。」と言われることがとても嬉しかった。
数週間後、8人の存在を聞きつけた地域新聞の記者が取材に来た。
突然インタビューされた歩は少し驚いたが、善意でやっていることで有名になれたのが何よりも嬉しかった。
そして、咄嗟にこう答えた。
「僕たち8人は善光のメンバーです!困っている人を助けるのは当然です!」
新聞記事の見出しに大きく【善光】と載せられ、水無瀬ら8人の笑顔の写真もついていた。
町がだいぶ復旧してから学校に登校するようになり、8人はそれぞれのクラスで、記事を見た友達や先生から褒められた。
善光は困っている人を助ける組織だから、難しい宿題を頼まれたり、悩みを相談されたりした。
歩は咄嗟に言った善光が思った以上に頼られ、地域で有名になれたことが嬉しかった。
8人全員が同じ思いだった。それからというもの、善光のSNSを開設して、仕事の依頼を求めた。
数百人のフォロワーができ、月に一件くらいのペースで依頼が来た。
特に、迷子のお年寄りを探す依頼で善光がお年寄りを見つけ出したときは、警察から表彰されてテレビにも映った。
しかし、そんな日々も長くは続かなかった。
ある日突然、蝉丸が悪質な詐欺グループに入った。
蝉丸は受け子になり、その一部を報酬としてもらっていた。
しばらくはそのことを善光のメンバーに隠していた。
しばらくして、詐欺グループのリーダーが逮捕された。
リーダーは受け子である蝉丸の個人情報を掴んでいたため、警察が逮捕をしに家まで来た。
だが、警察が家に来ると察した蝉丸は事前に家出をした。
善光のメンバーに連絡を入れずに。
蝉丸が詐欺グループに入っていたことを知った水無瀬らはかなりショックを受けた。
幼馴染たちで人を助けるために結成した組織なのに、逆に人に迷惑をかける犯罪を行っていたからだ。
それでも、蝉丸のことが好きだったメンバーは、蝉丸が更生してからまた一緒に活動を続けたいと思い、蝉丸を探した。
しかし、日が暮れるまで必死に探したが、蝉丸を見つけることはできなかった。
善光のリーダーである歩は、蝉丸のことは諦めて7人で活動することを決意した。
蝉丸は当時まだ未成年であったこともあり、SNSでは蝉丸の不祥事を報告しないようにメンバーの間で約束をした。
蝉丸の不祥事を知らない500人近くのフォロワーは、その後も善光に頼り続けた。
「目標はフォロワー1,000人!一年以内に達成しよう!」
そう歩が言った。
でも、現実は甘くなかった。
フォロワーはなかなか増えず、依頼も少ないまま。
歩が高校2年生になる頃にはかなり暇になっていた。
ある日、善光としてではなく、友達として遊ぶために7人は歩の家に集まった。
ーーこのとき、梅林の様子が明らかにおかしかった。
顔色が悪く、少しふらついていた。
歩は心配して梅林に帰るよう勧めたが、彼女は否定した。
しばらくして梅林はトイレに行き、その帰りに床にゴキブリがいることに気づいた。
近くにあった殺虫剤を手に取り、ゴキブリに吹きかけた。
しかし、残りの量が少なく、ゴキブリは苦しそうにするだけでなかなか死なない。
このとき、梅林は冷静な判断ができなかった。
ただ、ゴキブリを殺すことだけを考えていた。
梅林はポケットからライターを取り出し、ゴキブリに引火した。
殺虫剤の成分が床に残っていたため、火はだんだんと広がってきた。
それににも気にせず梅林は燃えているゴキブリを眺め続けた。
煙の匂いに気づいた水無瀬らは、火を見てパニックになっていた。
すぐに消防に通報したが、到着まで少し時間がかかる。水無瀬らはすぐに家の外に避難した。
しかし、家の外に出てから梅林がいないことに気づいた。
歩と航は迷わず梅林を助けようとした。
梅林が火をつけたことが分かっていたのにも関わらず。
梅林は煙の中で倒れていた。
航は梅林をおんぶしてなんとか外に出られたが、足に火傷を負ってしまった。
梅林はすぐに意識を取り戻した。
そして、あることに気づいた。
「スマホは!?」
「スマホなんて誰も外に持ってきてないよ。」
自分が火をつけて、さらに助けてもらったにも関わらず、梅林は歩らに怒りをぶつけた。
自分の家が燃えたショックで、歩らは梅林と喧嘩する気力はなかった。
消防が火を消化するまで、水無瀬らは燃えている自分の家を眺めていた。
この火事はニュースにもなり、人を助けるはずの善光が逆に助けられているというSNSの書き込みが増えた。
悪い意味で有名になってしまったのだ。
ちなみに、家のことは金で解決したが、梅林は善光を脱退した。
さらに、梅林が脱退してすぐ、善光は無期限の活動休止をした。
ーーそう、このとき梅林は大麻を摂取していた。
部活の先輩に勧められて、断れずに一度だけと思い、摂取してみると、やめることができなくなった。
数ヶ月にこの先輩が交通事故で亡くなると、梅林は大麻を入手する経路がなくなってしまった。
大麻がないことにしばらくイライラしていたが、途中から別のことに気づいた。
ーー自分のしたことの重大さと責任。
失ったのはスマホよりも大切な友達。
梅林は部屋で泣いていた。
大麻を自分の力でやめるのはかなりすごい。
それでも、大麻を所持したことを警察に自首しに行く勇気は出なかった。
そのまま、蝉丸と梅林の時効が成立した。
ーー時効が成立したら、水無瀬らに謝ろう。
2人はそう思っていた。
梅林と蝉丸は水無瀬らに謝りに行った。
でも、そこにいたのは2人が知っている水無瀬じゃなかった。
彼は、もう人を助けようとしていない。
人を助けて褒められたいという気持ちが、ただ有名になればいいという気持ちに変わってしまっていた。
蝉丸と梅林の話はろくに聞いてもらえず、すぐに去ってしまった。
やはり、まだ許してもらえていない。そう思った。
窃盗や放火、暴行をする悪霧という組織に変わったのは後から知った。
有名になるなら手段を選ばない。
だから、Cherryの力も借りて大胆な犯罪をしたかった。
(あの火が‥私が‥歩たちを変えてしまった。)
梅林は今でも後悔している。蝉丸も同じ気持ちだ。
だから、2人で時効clearを結成した。
「航たちが今犯罪をしているのは、私のせい。だから、私が彼らを止めなければ。」
Cherryに全て話し終えた時効clearの2人の頬には涙が溢れていた。
「Cherry、あなたはこのことを全て知ってたの?」
「いいえ。お二人が悪霧の知り合いということだけです。」
仮面の下でCherryがどんな顔をしているか、2人はわからなかった。
「話を聞く限り、水無瀬が変わったのは梅林さんのせいではないと思いますよ。」
「いいや‥全部私のせいよ。」
「水無瀬は元から、人から目立ちたいという承認欲求が強かったと思いますよ。」
蝉丸もCherryの言葉に賛成していた。
「お願いします。一緒に悪霧を止めてください。」
2人は口を揃えて言った。
「もちろんです。もうすぐ飛行船との距離が近くなります。これから言う私の指示に絶対に従ってください。」




