盗まれた500億円①〜飛行船乗船編
【時効まで、あと4年】
悪霧に500億円を盗まれて数ヶ月が経った。
無論、500兆円1000分の1が無くなっても何も問題はなかった。
8月に入ってすぐのことだった。
湯瀬兄弟も入っている探偵チーム光のグループLINEからメッセージが来た。
優香からだった。
「来週の土曜日、大阪に旅行に行かない?パパが飛行船のチケットを6枚くれたの!」
「行きたい!」
「最高ー!」
すぐに返信が来た。
「私も行きたいな。」
美弥もそう返事をした。
幸い、6人全員その日は空いていた。
ネットに載っていた飛行船の写真を、美弥は何度も見返した。
広々とした船内に、大きな窓。まるで空飛ぶホテルのようだった。
「これ、結構楽しみかも。」
美弥はすぐに飛行船で旅行に行くことを五十嵐らに伝えた。
「俺ら3人も新婚旅行でその飛行船で大阪に行くんだ。」
「えぇ!?」
「美弥も一緒に回る?」
「一緒に行く訳ないじゃないですか!奏太たちに私の正体を言わないでくださいよ!」
「言う訳ないだろ。」
しかし美弥は、五十嵐ら家族と奏太らが鉢合わせするのは少し心配だった。
だって、5年前に彼らは戦っているから。
「奏太さん達も乗るのか。気まずいなぁ。」
五十嵐日向はあのときのトラウマがまだ残っていたらしい。
「大丈夫、俺らは強盗殺人犯ではないから。堂々としていればいい。」
五十嵐そらは自信げにそう言った。
「風見さん、いや、五十嵐日向さん。奏太らはニュースを見てお2人が無罪なことを知っていますよ。あの時、事情も聞かずに襲いかかったことを反省していました。」
五十嵐夫婦よりも奏太の方が気まずいと感じるような気がした。
ーー旅行の前日の土曜日のことだった。
美弥は朝起きると倦怠感がして、体温を測ると38.5度になっていた。
「うそ‥」
美弥は絶望的な気持ちになった。
急いで病院へ行った。
急ぎすぎて、病院が開く2時間前から並んだ。
インフルやコロナ、アイネミアウイルスの検査をしたが、どれも陰性だった。
風邪薬を飲んで一時的に熱は下がっても、数時間したらまた体温38度を超えた。
ーー寝たら治るかもしれない。
そう願って5時間くらい寝た。
しかし、夜の8時に目が覚めたが、まだ熱はあった。
(何で、旅行の前日に限って熱があるの‥)
中学生まで友達がいなかった美弥は、学校行事に風邪で参加できなくても痛くも痒くもなかった。
しかし、これは初めてできた友達との旅行。
行けなくなるとなればかなり苦しい。
美弥は泣きたい気持ちになったが、高熱で泣く気力さえなかった。
(明日には熱が下がるかもしれない。いやでも、熱がなくても咳がたくさん出るはずだ‥)
腹を決めて美弥はスマホを手に取り、グループLINEで旅行に行けなくなることを伝えた。
心配する声や悲しみの声を聞くと、逆に気が重くなると思い、送信して通知を切り、そのまま眠った。
ーー旅行当日、午前9時に金白学園高校の最寄駅に集合だった。
「奏太まだ?」
「もうすぐ着く!」
「もう10分も過ぎてるよ!」
「着いた!あれ?誰もいないよ。」
奏太は北口に行き、優香と恵都と湯瀬兄弟は南口にいたため、合流するためにグループLINEで通知がたくさんきていた。
その時美弥は夢の中だった。
奏太が遅刻したせいで、予定の電車より2本遅れて出発した。
それでも時間に余裕はあった。
「あれ!?美弥は?」
「美弥ちゃんは、風邪で行けないって。」
「えええぇ!?」
奏太は昨夜のグループLINEに気づいていなかった。
「うそだろ‥彼女がいないなんて‥」
奏太は電車でため息をついた。
電車に乗るまで美弥の存在を忘れていたくせに、かなり落ち込んでいた。
「まぁ、また旅行は行こ!」
優香はただ1人、一生懸命奏太を慰めていた。
飛行船の乗り場に着いた。
「私‥飛行船乗るの初めてなの。酔わないか心配。」
「大丈夫だよ!飛行船はゆっくり動くし、皆ついてるから!」
彩芽は入院ばかりしていたため、飛行船での旅行となると少しレベルが高いと感じたらしい。
搭乗前のトイレを済ませ、5人は早めに乗った。
大型飛行船に対し、客は数百人。だいぶ密度が低いので、広々と使える。
「まもなく離陸いたします。到着時刻は午後3時30分を予定しております。」
現在正午12時なので、飛行時間は3時間半だ。
「すげー!」
奏太は元気を取り戻し、小さな子どものように目を輝かせて飛行船内をうろうろした。
「ちょっと!奏太!はぐれるじゃない!」
優香はお母さんのようになっていた。
「いいじゃないか。奏太くんも初めての飛行船のようだし、テンションが上がるのは仕方ないよ。スマホがあるから、迷子になることはないよ。」
湯瀬刑事は笑顔でそう言った。
「優香ちゃんと恵都くんは先に行っていていいよ。妹は疲れやすいから、休憩しながらゆっくり回るよ。」
そして、優香と恵都は奏太を追いかけて行った。
優香と恵都は小走りで階段で2階へ上がろうとした。その時、優香は赤ちゃんを抱き抱えた女性と、恵都はその旦那らしき人とぶつかった。
ぶつかった衝撃で赤ちゃんは泣いてしまった。
「あっごめんなさい。」
「大丈夫よ。」
申し訳なさそうにする優香に対し、女性は笑顔でそう言った。
優香は一生懸命、赤ちゃんをあやそうとする。
しかし、気の強い優香の性格を感じ取ったのか、全く泣き止もうとしてくれない。
ちなみに、中学生の頃まで美弥も気の強く、少し意地悪だった優香が苦手だった。
恵都もその親子に何度も頭を下げて必死に謝っている。
「優香ー恵都ー湯瀬さんー」
そのとき、奏太が優香たちを探して階段を下ってきた。
奏太と親子の目があった瞬間、
「あ、、」
奏太と夫婦は何かに気づいた。
「会ったこと、ありますよね。」
奏太はかなり気まずそうにそう言った。
「俺らも今そう思いました、」
一瞬時間が止まった。
優香と恵都もついに思い出した。
「あのときは、本当にすいませんでした。」
奏太は土下座し出した。
優香と恵都も一緒に頭を下げた。
ーーそう、ぶつかった親子は五十嵐一家。
5年前に戦って以来の再会だ。
「あなたたちは悪くないのよ。謝らないで。」
「むしろ、怪我をさせちゃったこちらが謝らないといけないから。」
五十嵐夫婦は心の底からそう言った。
3人は五十嵐夫婦から自分らに対する恨みを感じ取らなかった。
「いいや、全て俺が悪いんです。何もお2人のこと知らずに、咄嗟に襲いかかってしまったから。」
奏太は顔を上げていないため、どんな表情をしているか分からないが、かなり真剣な声だった。
「本当に気にしないで!あれは仕方ないよ。」
「でも‥」
優香と恵都は何を言っていいのか分からなかった。
「私たちは強盗殺人犯じゃないという誤解が解けたから、それでいいんだよ!」
奏太は顔を少し上げた。そして、ゆっくりとそのまま立ち上がった。
「結婚したんですよね‥お子さんの名前、聞いてもいいですか?」
「心だよ。」
奏太は泣いている心をあやすと、泣き止んでくれた。
「ありがとう!」
(何で、私があやしたら泣き止まなかったのよ!)
優香が悔しそうにしているのが恵都には分かった。
「心くん可愛いですね。俺の彼女と同じくらい可愛い。」
「彼女、できたの?」
「はい。美弥っていうんですけど、今日は風邪で来れなくなったんです。」
そういえば、風邪で行けなくなることを五十嵐夫婦には伝えていなかった。
(だから今一緒にいないのか。)
(待てよ!?2人が付き合ってるなんて聞いてない!)
「美弥さんといつから付き合ってたの?」
「中学3年生のときからです。」
優香と恵都は呆れた顔で奏太を見ていた。
(美弥は俺らに付き合ってることを隠していたんだな。)
五十嵐夫婦は奏太の言葉を信じた。
「ちなみに、今日は湯瀬刑事とその妹さんも来てますよ!」
「そうか!湯瀬刑事によろしく伝えといて。」
「はい!」
優香たち3人は笑顔で二階へ上がって行った。
昼の12時30分頃になると、5人は合流して食堂で昼食を食べた。
高級なハンバーガー屋さんだった。
彩芽はハンバーガーは頼まず、ポテトとジュースだけなのに対し、湯瀬俊は特大サイズのハンバーガーを食べていた。
「そうだ!美弥ちゃんに写真送ってあげよう!」
優香は個人LINEで美弥にハンバーガーの写真を送った。
「美弥は今頃おかゆを食べてるだろうな。」
5人は食べ終わり、恵都以外は少しの間スマホを触っていた。
優香と奏太はSNSを、湯瀬俊はネットニュースを、彩芽は時効clearのホームページを見ていた。
「せっかく飛行船に乗ってるんだから、船内を散歩しようよ。」
真面目でスマホは最低限しか使わない恵都はそう言った。
「ちょっと待って!今いいとこだから。」
恵都は待つのが退屈になり、ついに1人で席を立った。
同じフロアを散歩し、窓の外を眺める。
それを繰り返していた。
その直後のことだった。
ーー突然、船内に大きな破裂音のような音が響いた。
乗客たちはパニックになった。
恵都もその音を聞いてすぐに4人のもとへ戻った。
「今の音何!?」
「銃声に聞こえたよね!?」
「ちょっと見てくる!」
湯瀬俊は一応警察官のため、音がした方に駆けつけようと立ち上がったその瞬間、
「動くな。」
銃を持った2人の男が食堂フロアにやってきた。
「くっ‥」
湯瀬刑事は立ち止まった。
「えっ‥これは何なの!?」
「ドッキリなのか!?」
優香たちは小声でそう話していた。彩芽は恐怖で倒れてしまった。
「彩芽、大丈夫か!?」
湯瀬俊が倒れる彩芽の方へ駆け寄った。
「お前ら動くな!」
男2人の銃が湯瀬刑事の方へ向いた。
「この飛行船は俺ら悪霧がハイジャックした。言うことを聞けば命は助けてやる。」
「操縦席、二階フロア、全てジャック完了。」
男の携帯からそう聞こえた。
「この飛行船はこれから4時間かけて大阪へ向かう。」




