敵か味方か
【時効まで、あと5年】
美弥が大学2年生になる春にはアイネミアウイルスの流行は少しおさまっていた。
緊急事態宣言は解除され、少しずつ街が賑やかになってきた。
日本人の3分の1が感染したため、免疫力がついた人が多くなったからだ。
まもなく、アイネミアウイルスはコロナやインフルと同じ五類に移行されると予想される。
それと、今年で500兆円事件の時効の半分となる。5年前から進展があまりないことを政府は焦っていた。
既に、事件解決のために多くの国家予算をつぎ込んでいた。
様々な理由が重なって、消費税を上げたばかりだった。
それなのに、長谷川総理は反対意見を無視し、勢いで
「500兆円を取り戻した者には懸賞金20億円、犯人を見つけた者には30億円!」
と言ってしまった。
長谷川総理の支持率は急激に下がった。
その発言で日本国内だけでなく、海外も事件解決に励んだ。
イタチごっこに懲りずに。
またもや500兆円事件の話題が戻ってきた日本では、犯人Cherryのグッズやファンクラブまでできていた。
お祭りでCherryのお面が販売されたり、右目のストラップや時計、スマホケースなども町で見かけた。
美弥が一番不快になったのは、アイネミアウイルスに感染したというCherryの右目の商品だ。
Cherryのアンチが
「泥棒め!アイネミアウイルスに感染しちまえ!」
という思いで作ったらしい。
奏太はアイネミアウイルスに感染したCherryの右目のスマホケースを4つ買って美弥と優香と恵都にプレゼントした。Cherryのアンチである3人は喜んで使おうとしたが、美弥は喜ぶふりさえできなかった。
でも唯一、500兆円送金専用アプリAsのアイコンのトートバッグは気に入ったので買った。5年前に自分でデザインしたロゴなのに。
そして、ネットニュースによると、風見は無事に男の子を出産し、風見も五十嵐も殺人については正当防衛が認められて無罪となり、逃亡と窃盗の軽い罪懲役1年となった。
美弥は五十嵐と風見の裁判を傍聴したかったが、傍聴希望者が3000人を越えて、くじ引きに外れてしまった。
(早く弁護士になって、苦しんでいる犯罪者達を救いたい。弁護士に必要なのは法律の知識だけではなく、相手を信じる力。犯罪者を犯罪者として扱うのではなく、地球市民と同じ人間として見るべきだ。)
出所したらおそらく結婚するのだろう。来年に2人と再会したら、子供の名前を真っ先に聞こうと思った。
そういえば美弥は赤坂先生と卒業以来会っていない。五十嵐と風見という美弥の犯行を知っている仲間を失ったため、今は赤坂先生しか頼れない。現状を話そうと思い、高校の塔まで行ってみた。
「お久しぶりです。赤坂先生。」
美弥は五十嵐と風見のことを全て話した。
「そうか‥」
「それと、2人が交番に自首しに行ったときに対応した刑事さん、2人は強盗殺人をやっていないと信じていたんです。湯瀬俊刑事です。赤坂先生の亡くなったお姉さんと結婚していましたよね。」
「あいつが‥?」
「はい。千夏さんの死が受け入れられていないようで‥」
「いいや、俊は姉のことを一切考えていなかった。弁護士である姉を何回も騙して、その金を全部あいつの妹に費やしていたんだ。」
「湯瀬刑事がそんなことを‥?嘘ですよね。」
「いいや、本当だ。しかも、姉の葬式に行かずにあいつの妹と遊びに行っていた。莫大な姉の遺産をすぐに使い切って、妹の治療費が必要だとかで僕にもお金を借りようとしてきたこともある。」
美弥はまだ信じることができないが、真剣な顔の赤坂に言い返すことは出来なかった。
「とにかく、僕は湯瀬俊のことが大嫌いだ。」
「そうですか‥。」
「赤坂先生、時効まで、私の味方でいてくれますか?」
「あぁ。僕にできることは願うことだけだけど。」
美弥は立ち去ろうとした。
「最後に一つ言いたい。」
赤坂は美弥を呼び止めた。
美弥は後ろを向いたまま立ち止まった。
「知っているかもしれないが、湯瀬俊の妹の彩芽さんはすごくいい人だ。難病を抱えているが、彼女は俊よりも僕の姉のことを思ってくれていたんだ。彼女に何も罪はないから、是非仲良くしてやってくれ。」
「はい。」
湯瀬刑事や奏太達にこの話題は出してはいけないと思った。
湯瀬と赤坂は敵同士。
ーーもし、これがドラマであるならば、湯瀬と赤坂のどちらかが美弥の敵となることが多い。
湯瀬と赤坂。
この後どちらかが美弥のことを裏切るのだろうか。
どちらを信用すれば良いのか、美弥にはまだ分からない。




