アイネミアウイルス〜さらばだ、風見と五十嵐
【時効まであと6年】
365日の中で美弥にとって最も都合の悪い日が今年もやってきた。
7月11日。
500兆円事件の日だ。
ーー今年の7月11日をもって、犯人逮捕の懸賞金が15億円となりました。
そうニュースで報じられた。
(いくら金額を増やしても、私を捕まえることはできない。)
しかし、その数日後に事件を忘れさせる大ニュースが。
7月15日、美弥が好きなバラエティ番組をつけたところ、そのチャンネルが緊急ニュースになっていた。
「都内で新種のウイルスである【アイミネアウイルス】の感染者が数百人確認されました。症状は普通の風邪の症状に加えて、必ず目が大きく腫れた状態になります。治療が遅れると、最悪死に至る場合があります。現在、専用の薬などは開発できていません。」
美弥はかなり動揺した。なぜなら、師走が描いた美弥の右目は流出してしまっている。もしも美弥が感染したら、、、
いや、腫れた右目を見られる分には大丈夫だ!
「そして、陽性が判明した場合は、目の腫れが完全に回復し、陰性が確認できるまで入院することになります。」
大丈夫じゃない‥
(いや、感染してはいけないのは私だけじゃない!顔がバレている五十嵐と風見も感染したらダメだ!)
美弥は次の日からマスクをして大学に行った。大学の近くのハンバーガーショップで食事をしていると、偶然奏太もやってきた。
「よう、美弥。」
奏太は美弥の隣に座った。
「ニュース見たよな。すごい大変なことになったよな。」
「うん。私たちにも関係してくるはず。」
「 犯人逮捕の懸賞金
アイネミアウイルス 」
2人は同時に言った。
「え?」
「あいしてるぜるす?」
「は!?奏太、今流行ってるアイネミアウイルス知らないの?」
「知らない。」
「命に関わる感染症だよ。」
「へー。」
奏太は感染症しない自信があったのか、アイネミアウイルスの話に無関心だった。
「ハッックシュン」
「ちょっと!」
美弥はかなり不愉快な顔をした。
「俺が感染してる訳ないだろ。」
何を根拠にそう言ったのかはわからない。
新型コロナウイルスの流行が終わってかなりの年月が経った。
また流行出して、あの時のように緊急事態宣言が出されるのかどうか国民の間では懸念が高まっていた。
やはり、急速に感染者が増えてきた。
アイネミアウイルスは原因が不明だが、日本発症ということは分かっていた。長谷川総理は10月に緊急事態宣言を出した。
金白学園大学でも感染者が複数名出ていたため、オンライン授業となった。
そして、美弥は五十嵐と風見のもとへ行き、絶対に外に出ないように忠告した。
お金が家にあると勝手に遊びに行きかねないと察した美弥は、盗んだ金を全て自分のマンションに持って行った。
数日後、美弥が家でオンライン授業を受けていると、五十嵐から電話がかかってきた。
まともな用件でないと思った美弥は一度電話を無視した。
しかし、もう一度かかってきた。
これはただ事でないと感じた美弥は五十嵐からの電話に出た。
「美弥、風見が大変なんだ!急いで来てくれ!」
「どうしたんですか!?」
「‥多分、日向がアイネミアウイルスに感染した。」
「はぁ!?あれだけ外に出るなと言いましたよね!?」
「事情は後で説明するから、早く来てくれ。頼んだぞ。」
五十嵐は電話を切った。
美弥は家を飛び出した。
(本当に外に出たから感染したのか。それとも、2人に日用品を届けている美弥からウイルスをもらったのか。いや、今考えても仕方ない。)
美弥は家に入ると、ベッドに横になる風見と寄り添う五十嵐の姿が。
「風見さん‥」
美弥は高熱で苦しそうな風見を責めることができなかった。
「とりあえず、風邪薬を買ってきます。治るまで、ゆっくり寝ていてください。」
「病院に行かせてくれ。」
五十嵐はうつむきながら、そう言った。
「何言っているんですか!?今病院に行けば、間違いなく捕まりますよ!」
「命だけは助けたいんだ。風邪薬だけでは、焼け石に水だから。」
「確かに風邪薬だけではあまり効果はないらしいですが、若い人の死亡率はかなり低いですよ。」
「お腹に‥赤ちゃんがいるの。」
風見がかなり力を振り絞って言った。
美弥は師走の最期のように思えた。
「えっ‥嘘、ですよね。」
美弥は言葉を失った。
「最近、体調に違和感があって、薬局に妊娠検査薬を買いに行ったら、陽性だった。」
「そう、ですか‥」
「そうだ。日向だけじゃなくて俺たちの子もいる。」
2人が捕まると、美弥も犯人をかくまった罪で逮捕される。
そして、500兆円事件への関与もバレる可能性が高い。
そう思っていると、五十嵐は
「美弥、お前には感謝をしている。時効まで逃げ切って幸せになってほしい。」
この言葉、赤坂先生からも言われた気がする。
「だから、取り調べでお前のことは一切口にしない。そう、約束する。」
美弥はこの言葉を信用した。
「分かりました。2人は身勝手な殺人などやってないことを信じてくれる人は絶対にいます。無罪を勝ち取れるよう、健闘を祈ります。お二人も、絶対に幸せになってください。」
2人は病院と警察署に行った。
入院して数日で風見の症状は回復した。
2人の逮捕はあっという間に日本国民に知れ渡った。
逮捕の報道の次の日、マンションのドアピンポンが連続してたくさん鳴った。
小学生の悪戯のように。
「はーい。」
「美弥!!数年前に俺たちを傷つけた奴らが逮捕された!!」
奏太が飛び出して入ってきた。
「知ってる。てか、一回鳴らせばちゃんと出るから。ピンポンピンポンマジでうるさい。寝てたんだけど。」
「悪かったなぁ。てか、俺はせいせいしてるぞ。美弥もそうだよな?」
「あ、うん。」
美弥は複雑な気持ちになった。




