危険な修学旅行
【時効まで、あと7年】
右目の絵が流出したせいで、世の中は500兆円事件の話題でいっぱいだった。
美術館にも、多くの人が押し寄せている。
美弥の正体がバレるのは時間の問題だ。
(整形はしたくないな‥)
ただし、自分の顔を変えることにはどうしても抵抗があった。
ーー高校3年生の5月。
修学旅行で京都を訪れていた。班はいつもの4人。美弥、奏太、優香、恵都。
「京都最高ー!」
「まずは清水寺行こう!」
このとき美弥は少し焦りの表情を浮かべた。
昼過ぎ。
観光地から少し離れた山道。
立入禁止の看板が立つ古い洞窟を見つけた。
【立入禁止 落盤の危険があります】
「すげー!入ってみようぜ!」
奏太が目を輝かせる。
「やめようよ。」
珍しく、美弥が強く止めた。
「危ないから。」
「怖いの?」
優香が笑う。
「そうじゃない。」
美弥は洞窟をじっと見つめていた。
(……ここか。)
その場所を、美弥は知っていた。
500兆円事件の時効後に発見させる予定だった場所。
ノート。古いパソコン。札束。
それらには事件の計画や心情など、今見つかった困る内容が書いてあった。
もし3人に見つかれば終わりだった。
「別の場所行こう。」
しかし、
「せっかくだし探検しようぜ!」
奏太が先頭になり、3人は入ってしまう。
「あっ待って!」
美弥も仕方なく後を追った。
洞窟の奥。
一本道だと思っていたが、枝道がいくつもある。
「迷った……。」
恵都が地図を見る。
「スマホ圏外だ。」
ところが数十分歩くと、古びた机が見えてきた。
その上には、
・ノート
・古いノートパソコン
・札束
「なんだこれ!?」
奏太が駆け寄る。
美弥の心臓が止まりそうになる。
(触るな……!!)
しかし、
奏太の手がパソコンへ伸びた瞬間――
「シューーーッ!!」
背後から白い煙が。
「え……?」
「なんだこれ……」
優香が倒れる。
恵都も意識を失う。
奏太も数秒で倒れた。
美弥も倒れたように演技をした。
数分後、ゆっくり立ち上がる。
洞窟には静寂だけが残る。
美弥はカバンから、黒い仮面を取り出し、ゆっくり装着する。
そして低い声になる変声機を起動した。
「……ごめん。」
3人を縄で縛る。
これ以上証拠を見られる訳にはいかなかった。
数十分後。奏太が目を覚ます。
「……う……。」
目の前には、黒いフード。
そして世界中で有名になった、500兆円事件の犯人”Cherry”の仮面。
「!!」
「お前……!」
「目が覚めたか。」
低い声が響く。
優香たちも目を覚ます。
「きゃあ!」
「Cherry……!」
「本当にCherryなのか!?」
恵都だけが黙って周囲を観察していた。
「ああ。私はCherryだ。私の情報が書いてある物を回収しに来た。」
「俺たちは500兆円事件解決のための探偵チーム光だ!」
「初耳だ。」
(有名人じゃないから誰も知らないだろ!)
「俺たちを捕まえて殺す気か!?」
「私がお前らを殺す必要はない。証拠さえ見られなければ、それでいい。」
その言葉を聞いて3人は少し気を緩めた。
「Cherryってさ、絶対恋人いないよね。」
「それな。てか、盗んだ金でホストクラブにでも行くんじゃないか?」
3人はCherryをからかい始めた。
「私は殺す必要はないと言ったが、殺さないとは言ってない。」
天才ハッカーとして顔に泥を塗られた気分になり、少し怖がらせてやろうと思った。
奏太は何かに気づき、叫ぶ。
「美弥はどこだ!!」
少し沈黙し、仮面の人物は洞窟の出口を見る。
「ああ、あの少女か。」
「お前たちが眠った瞬間、泣きながら逃げていった。」
「……。」
「今頃警察でも呼びに行ったんじゃないか?」
奏太は少し安心した。
「そうか……。」
「本当に無事なんだな。」
美弥は証拠になるノート、パソコン、札束を回収する。
「さらばだ。ポンコツ探偵チームさん。」
「うるさい!コソ泥に言われたくない!」
優香と恵都も反発した。
「おい待て!卑怯者!逃げるな!」
「あ?立ち入り禁止の洞窟に入った奴に言われたくないは。」
「俺たちがいつか絶対にお前を追い詰める!」
「やってみろ。できるものなら。」
そう言い放って洞窟を出る。
人気のない場所まで来ると、公衆電話から110番した。
「京都○○山の洞窟に監禁事件です。」
名前を告げることは無かった。
数十分後に警察が洞窟へ到着し、奏太たちは救助された。
しかし、犯人は逃走。
「逃げられたか……。」
修学旅行先のホテル。美弥は少し遅れて戻る。
「美弥!!」
優香が泣きながら抱きつく。
「無事だったんだ!」
「ごめん。」
「私……怖くて逃げちゃった。」
俯く美弥。奏太は首を振る。
「いいんだ。」
「あの状況じゃ誰でも逃げる。」
「むしろ警察を呼んでくれたから助かった。」
「ありがとう。」
美弥は笑顔を作る。
「うん。」
だが心の中では、
(ありがとうじゃない。)
(私は……あなたたちを騙した。)
恵都は何か考えだした。
「僕はCherryと話したのが今日で初めてな気がしない。」
「気のせいじゃない?」
奏太と優香は口を揃えて言った。
その夜、美弥は一人だけ眠れなかった。




