自首との葛藤
【時効まで、あと8年】
高校2年生の夏休み、探偵チームで湯瀬刑事に会いに行っていた。もはや、操作目的ではなく、友達に会いに行っているようなものだ。その日は、湯瀬刑事が5つ年下の妹を連れていた。
「はじめまして。湯瀬彩芽です。」
黒髪ロングの少し小柄な女性だった。
「えー!めっちゃ美人なんだけど!」
優香がそう言うとすぐに湯瀬が
「だろ!この世界で彩芽より可愛い女は存在しないからな。」
(こいつシスコンか。)
「今は一時的に退院しているんですが、来週にはまた入院しないといけないんです。」
彩芽は小さい頃から難病を抱えていて、入院と退院を繰り返していた。
次の週になり、再び彩芽が入院した。探偵チームと湯瀬刑事でお見舞いに行くことにした。美弥たちはお菓子などの差し入れを持って行った。
「わざわざありがとう。」
彩芽さんには喜んでもらえたようだ。
「お兄ちゃんは、500兆円事件の犯人を追っているんでしょ。私が生きているうちに捕まえてほしいな。」
「任せろ!お兄ちゃんが絶対犯人を捕まえてやるから。」
美弥は切ない気持ちになった。美弥が自首でもしない限り、自分は捕まらない自信があるので。
「その子たちは、彩芽さんたちのお友達かな?」
彩芽さんと同じ病室には、90歳くらいの女性がいた。
「うん。お兄ちゃんと協力して500兆円事件の犯人を捕まえようとしている子たち。」
「羨ましいねえ。私はあと3日も生きられるかわからないからねえ。」
「おばあさん、僕らが時効前に必ず犯人を捕まえる。そう約束します。」
その日の夜、美弥は病室に自分のイヤホンを落としたことに気づいた。もう、大人も寝る時間。しかし、イヤホンがないと色々と困るので、取りに行くことにした。
静かに病室に入った。彩芽さんは眠っている。彩芽さんのベッドの下にあったイヤホンを回収して出て行こうとしたところ、
「お嬢さん、今日来た子かな?」
「はい、」
「私は夜明けまで生きられるかわからないから、お願いしたいことがある。」
「はい、なんでしょう。」
「今逃走中の犯人に伝えてほしいことがある。メディアとかに伝えると、きっと犯人にも伝わるからねえ。」
「はい、」
「時効はあなたの味方ではないと。」
「どうしてそう言えるんですか?」
「私も若い頃に殺人を犯して、当時は殺人にも時効があったから、時効まで逃げていたの。でも、時効が成立してから気づいたの。時効は罪を取り消してくれる訳ではない、被害者やその遺族は私を恨み続けていると。そう、私は罪なき人間になった訳ではない。」
「そんなことないと思います。時効というのは、長時間古い争いをしないという趣旨もありますから。」
「いいや。言葉の定義とは違うよ。時効は、この世界で犯人が罪人というレッテルを剥がしてくれる訳ではないから。つまり、許してくれるのは法律だけ。」
美弥は何も言い返せなくなった。
「では、失礼します。」
これ以上何も聞きたくなかったから、急いでその場を離れた。
帰り道、美弥は自問自答をした。
(私は自首するべきなのか‥。)
美弥は警察署の前で少し立ち止まった。美弥は何かと葛藤をしていた。今までは自首をしたいという気持ちは微塵も無かったのに。その時、美弥の脳内にはチェリーの姿が現れた。チェリーが悲しそうな目で美弥に何かを伝えた。
「美弥ちゃん、幸せになって。」
そのセリフをテレパシーで伝えてすぐに去って行った。
自分自身でもこれは妄想と分かっていたのに、涙がにじみ出ていた。
でも、美弥は冷静でいられた。
(いいや。絶対に自首をしない。私はこの国に復讐をするために犯罪者になった。ここで捕まれば、復讐にならない。)
そう心の中で唱えながら立ち去った。
(誰が何と言おうが、時効は私の味方だ。)
「チェリー、ごめん。私はまだ止まれない。」
夜が明ける前には、この女性は亡くなっていたらしい。




