時効前に死ぬわけにはいかない
【時効まで、残り8年8ヶ月】
4月になり、美弥たちは高校2年生になった。金白学園高校は3年間クラス変えが無いので、あと2年間赤坂先生と奏太らと過ごさなければならない。
ちなみに、今年の4月から、500兆円事件の懸賞金は5億円にまで跳ね上がっていた。恵都からの情報によると、この事件を受けて法律が改正されたり、同じような手口の事件が再び発生することの防止が行われたらしい。
ホワイトハッカーが四六時中、アプリの形跡を辿ろうとしてくるが、美弥が学校に行っている時間帯などは五十嵐と風見がブロックしてくれている。
この学校は4月からクラス対抗の体育祭の練習や準備を行う。美弥は運動が得意なので、体育祭は嫌いではない。美弥はリレーに出場することになった。ちなみに、美弥は50mを6.5秒で走ることができる。女子高生の中ではかなり速い。奏太もリレーに出場するが、奏太でも7.0秒だ。
「私、一走目になるよ。」
「じゃあ俺2走目!彼女からのバトンを握りしめながら走れるからな!」
「500兆円の犯人を捕まえていないから、彼女になってないよ。」
美弥はニヤリと笑いながら言った。
「くそっ、Cherry早く出てこいよ!!俺の手で捕まえてやるから。」
奏太はパソコンを開き、壁を突破しようと頑張り始める。
第一の壁でさえ美弥が以前よりも強力なロックをかけたので、さすがの奏太でも突破できない。
「全然突破できてないじゃん!」
「絶対、前よりも難しくなってる。そんなこと言うなら、美弥が突破してみせろよ!」
このとき、美弥は調子に乗っていた。
(ふふふ、第一の壁だけ突破しても、42.195kmのフルマラソンを一歩だけ進んだようなものさ。だから、私がそれを突破しても、全然問題ない。)
「いいよ。やってみる。」
美弥は奏太のパソコンを奪い取り、少しだけ苦戦したふりをして、5分もかからずに第一の壁を突破してみせた。
「意外と簡単だったけど〜?」
無論、自分で作った壁なので、本人は突破の仕方を知っている。
奏太は悔しそうな顔をしていた。
「いつか、絶対俺の手で犯人を突き止めてみせるから!」
「まぁ頑張れ。」
(ふふふ、無理よ。)
美弥のクラスは緑色だった。体育祭は、恵都のように運動が苦手な人と優香のように楽しむ人で分かれる。
「ねぇ!クラスデザインの緑色のTシャツを作ろうよ!」
「いいね!私がデザインするよ。」
JKらしく、体育祭に向けて盛り上がっていた。
ちなみに、赤坂先生も体育祭にはあまり前向きではないらしく、クラスの勝ち負けを意識していなかった。
「お前ら、体育祭で盛り上がるのは構わないが、それが終わったらすぐに定期テストがあることも忘れるなよ。」
この一言で、クラスの様子が少し盛り下がった。
体育祭の前日、赤坂先生が
「美弥、だいぶクラスに馴染めてきて良かったな。俺がさっき言った一言は気にするな。クラスメイトと協力して、精一杯楽しむんだぞ!」
「はい。」
そして体育祭当日、緑組は優勢だった。リレーや綱引き、そして玉入れも1位になった。美弥がリレーで活躍し、クラスメイトから褒められたときは結構嬉しかった。
お昼休憩前の最後の種目は、ダンスパフォーマンスだった。
緑組の応援団が校庭の真ん中に立ち、スピーカーから流れる音楽に合わせて踊る。
「ねぇ、なんかスピーカーおかしくない?」
「えっ、気のせいじゃない?」
美弥はスピーカーに違和感を覚えた。
その違和感は正しかったようで、数分後に応援団だった奏太が気づいて
「伏せろ!スピーカーから離れろ!」
その声とほぼ同時に応援団たちは走って滑り転んだ。
その直後に凄まじい爆発音が聞こえた。
幸い怪我人はいなかったが、生徒たちは皆パニック状態になっていた。
赤坂先生がマイクで
「生徒は皆、校舎の中に避難しろ!早く!」
生徒はその指示に従って、校舎内の自分の教室に避難した。
「えっちょっと待って!この時計も爆弾じゃない!?」
美弥の教室も他のクラスにも爆弾が仕掛けられていた。皆が校舎から出ようとすると、さらに下駄箱にも爆弾が仕掛けられていることに気づいた。
美弥は下駄箱の爆弾を触り始める。爆発しないように、慎重に構造を確認しようとした。
「時水!何やっているんだ!」
「美弥ちゃん、爆発したらどうするのよ!」
生徒たちは皆、美弥を止めていた。それでも美弥はやめなかった。このまま何もしないと確実に爆発してしまうと思うので、何かしないと何も変わらないと思ったから。
(私はどうすればいいんだ‥?時効が来る前にここで死ぬのか、?それなら、500兆円事件の犯人ということを打ち明けてから死んだ方がよい気が‥)
そのようなことを考えていながら爆弾を触っていると、
「どいて!!」
中年の教師が美弥を押し退けて、爆弾を触り始めた。
「えぇ!?」
「その教師がペンチで爆弾を触り初めてまもなく、爆弾は止まった。」
「他に、どこにある?」
「1階から4階の教室のほぼ全てです!」
美弥はその教師を案内し、20分くらいで全ての爆弾を解除してもらった。
生徒たちは安心し、その教師に感謝をしていた。その教師の名前は田中誠。3年生の担任だ。美弥は田中と関わる機会がなかったため、挨拶しかしたことが無かった。
「田中先生の前職って、爆弾処理ですか?」
「いいや、ずっと教師だよ。テレビで爆弾処理を見たことがあったから、今回解除することができたんだよ。」
田中は、すっかり生徒の命の恩人となっていた。
はて、一体誰が爆弾を仕掛けたのだろうか。美弥はそのことを考えていたが、体育祭は再開された。
あいにく、電子機器は鍵付きロッカーの中に入っていて、その鍵は先生たちが持っているので調べることができなかった。
「箕輪さん、爆弾を仕掛けている人とか、不審な人物を見なかった?」
「見てないよ。てか、今は体育祭中なんだから、犯人探しは後でいいじゃん!」
犯人が気になっていたのは美弥だけだった。
その後の競技中も美弥はずっと考え込んでいた。
(素人が解除できるような簡単な爆弾を仕掛ける‥私も頑張れば解除できたのか‥?でも、複雑な線がたくさんあったし、簡単では無かったと思うんだよな‥犯人も間抜けではないと思うし、そう簡単に解除できるように作るのかな‥?)
「あっ!」
美弥は何かを閃いた。犯人の目星がついたのだ。
美弥は応援席を飛び出し、赤坂先生のもとへ行った。そして何かを伝えると、赤坂と一緒に校舎の中へ入って行った。
そして、屋上に辿り着いた。そこには屋上の隅に爆弾を仕掛けていた田中誠の姿が。
「田中先生、そこで何をしているんですか?」
田中は慌てふためいて、
「あっ!」
と、言って隅に仕掛けた爆弾に今気づいたふりをした。
「ここにも爆弾があった!止めないと!」
そう言って30秒もかからずに解除をした。
「すごいですね!素人なのに爆弾を解除できるなんて!」
「田中さん、僕からお願いしたいことがあって、これ、生徒が落として壊してしまったパソコンなんですけど、今すぐ修理お願いできます?」
「も、もちろんだよ。」
田中は赤坂からパソコンを奪うように取り、必死に分解して修理しようとした。
「す、すまない。これは直せなかった。」
「え〜、田中先生直せないの?」
美弥は煽るように言った。
「じゃあ、なぜ爆弾なら解除できるんでしょう?」
続けて赤坂が、
「う〜ん、爆弾処理ができる人って、本当のプロ。もしくは‥‥その爆弾を作った本人!しか考えられない気がする。」
(私も、自分が作ったセキュリティーの壁のロックを解除することは簡単。でも、他の人が突破するのはほぼ不可能。)
田中は冷や汗をかいたまま黙秘していた。その間にアナウンスで、
「ただいまより、2年生による、借り物競争が始まります。」
と聞こえた。
「失礼ですが、スマホを調べてもよいですか?」
美弥が田中のポケットに手を伸ばそうとすると、田中は屋上のフェンスに向かってる走り出した。
(まさか!?)
美弥は最悪の事態を想定した。しかし、赤坂が追いついて田中を取り押さえた。そのまま赤坂は田中を職員室まで連れて行き、警察を待った。
美弥はその頃、今日が体育祭ということを忘れて、屋上で1人で考え事をしていた。
(私はこのまま、あと8年8ヶ月逃げ切れるのかな‥。私を追い続けている人は世界中に数多くいる。いつか、私を追い詰める人が出てくるのか‥)
そう考えていると、
「美弥、やっと見つけた!」
「えっ、何?」
「借り物競走のお題で、美弥が必要なんだ!」
奏太は美弥の手を引っ張って校庭まで連れて行った。全校生徒が見ている中でお題の答え合わせがあった。アナウンスで
「緑組の北野奏太くんのお題の発表をお願いします!」
「俺が引いたお題は、【好きな人】です。」
校庭中が騒ぎ出した。
美弥は頭が真っ白になった。そうなったのは赤坂に500兆円事件の犯人と見破られたとき以来だ。さっさとこの場から逃げたくなった。幸い、赤坂先生はまだ職員室にいた。
美弥がした返事は、
「500兆円事件の犯人を捕まえられたらねっ!」
「任せろ、俺が絶対犯人を捕まえてやるから、もう少しだけ待ってろ!」
奏太は美弥に近づき、お姫様抱っこで応援席まで運んだ。
その際、優香や他の女子たちは羨ましそうな顔をしていた。
「ねぇ、借り物競走のことは赤坂先生に内緒にして。」
「お、おう。分かった。」
後から聞いた話だが、田中が爆弾を仕掛けた動機は、生徒の命の恩人になって人気者になりたかったからだそうだ。
田中は生徒から全く慕われていず、慕われたいという強い承認欲求があったらしい。
今日は第二の家に帰り、五十嵐と風見が料理を作ってくれていた。
「美弥お帰り!体育祭どうだった?」
「あぁ、優勝できたよ。」
「なんで恥ずかしそうな顔してるの?」
「えっ、してないよ!」
「もしかして、風見と俺を捕まえようとしたクソガキとキスでもしたか?」
「してないし!」
この出来事は赤坂先生だけでなく、なんとなく風見と五十嵐にも知られたくなかった。プロハッカーとしての名誉が傷つくような気がして。




