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感情が禁じられた世界で、私を殺した怪異となんだかんだで旅してます!  作者: ポルチーニアツオ
2章 静寂の楽園

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9/19

同じではない夜

同じ夜のはずなのに、

見えているものは、きっと違う。


その違いに気づけるかどうかで、

世界はまったく別のものになるんです。


第九話「同じではない夜」お楽しみください。

 静かな夜だった。


 崩れかけた建物の中、かすかな寝息だけがゆっくりと流れている。昼間の出来事が嘘みたいに、空気は穏やかで、どこか安心すら感じられるほどだった。


 ――そんなはずだった。


 炎が揺れている、焼けるような熱が肌を刺す。

 目の前には、あの時の光景。


 レイン。


 本来なら終わっていたはずの戦いが、違う形で続いていた。


 「やめっ」


 声が出ない優実。体は動かず、押される。

 避けられず、慌てて横を見ても貞美の姿が見えない。


 “間に合わない“


 その確信だけが、はっきりとあった。


 熱が迫るが、逃げられない。


 視界が赤く染まり、世界が歪む。


 腕を掴まれると伝わる、冷たい感触。


 あの時と同じ感触と共に、視界が暗く閉じていく。


 “終わる“


 そう思った瞬間だった!


 「はっ!!」


 優実は跳ねるように体を起こした。


 「はぁ……っ、はぁ……っ」


 荒い呼吸が喉を震わせる。


 胸の奥で心臓が乱暴に打ち続けている。


 辺りを見渡しても暗い室内、何も起きていない事がわかる。


 「……夢?」


 呟きながら、ゆっくりと視線を横へ向けると、すぐ隣で、貞美が静かに眠っていた。


 規則的な呼吸に合わせて、細く長い黒髪がわずかに揺れている。白い肌は夜の中でもはっきりと浮かび上がり、整いすぎた輪郭が影を落としていた。


 閉じられた瞼の下にある静けさは、まるで何もかもを遠ざけたようで、触れれば壊れてしまいそうなほどに儚い。


 長い睫毛が頬に影を作り、その奥に隠れているはずの視線を思い出して、優実はほんの少しだけ息を止めた。


 「なによそれ、ずる」


 小さく呟く優実。


 さっきまで命を奪い合っていた相手と、同じ場所でこうして眠っていることが、未だに現実味を持たない。


 けれど、その寝顔だけは妙に穏やかで


 「ほんと、わかんないやつ」


 そう言いながらも、胸の奥にあったざわつきが、ほんの少しだけ和らいでいた。


 その時だった。


 ――ヒュウ、と。


 どこからか、風に紛れるような音が聞こえた。


 口笛のような、鳥の鳴き声のような、不思議な音に、優実は顔を上げる。


 “外?“


 少し迷った後、そっと立ち上がる。貞美を起こさないように足音を抑え、崩れた入口へと向かう。


 外にパッと出た瞬間、空気が変わった。


 やけに澄んでいた、静かすぎる夜だった。


 風もないのに、どこか張りつめているような、そんな違和感。


 「なにこれ」


 呟きながら、音のした方へ歩く。


 やがて視界が開け、小さな水辺が現れると、その先に、人影がある。


 背を向け、水面を見ている。


 月明かりに照らされて、その姿はどこか現実から浮いているように見えた。


 「あ、あの〜」


 声をかけた瞬間、その人物がゆっくりと振り返る。


 静かにでも、力強く心臓を握られるように息が止まった。


 高い背、白い髪が夜の光を受けて淡く揺れていて、整いすぎた顔立ち、淡く光を宿した金色の瞳。


 そして、その背中には、折りたたまれているはずなのに存在感を隠しきれない、巨大な茶色の羽。


 「綺麗な瞳だ」


 ジッと優実を見つめると静かな声でそう言った。


 けれど、その一言だけで空気が変わったのがわかる。


 「は?」


 思わず間の抜けた声が出る。


 何を言われたのか理解が追いつかない。


 ただ、視線を向けられていることだけが妙に意識されて、胸の奥がわずかに跳ねた。


 男はわずかに目を細める。


 「どうしたんだい、こんな時間に」


 柔らかい口調で、どこにでもいそうな言葉を使う。それなのに、どこか違う違和感。


 「いや、ちょっと……眠れなくて」


 自分でもよく分からないまま答える。


 「そうか」


 男は小さく頷き、水面へと視線を戻した。


 「夜というのは、不思議なものだ」


 静かに男は続ける。


 「昼間は気にも留めなかったことが、妙に気にかかる、考えなくていいことまで、拾い上げてしまう」


 少し下を向くように、どこか不思議そうな顔で男は続ける。


 「……まあ、それが嫌いではないが」


 どこか余裕のある言い方の男に、優実は少しだけ眉をひそめる。


 「なにそれ、大人って感じ」


 思ったまま口にすると、男はわずかに笑う。


 「どうだろうね。ただ、時間の使い方が違うだけかもしれない」


 軽く受け流すような返し。


 けれど、その言葉の奥には、少しだけ重さがあった。


 優実はなんとなく視線を逸らす。


 「てか、あなたも、この村の人?」


 「そう見えるかい」


 問いを返されると、優実は少しだけ考える。


 「んーーいや、なんか違う」


 正直な感想だった。


 男は、優実の言葉を聞くとほんのわずかに目を細める。


 「なるほど」


 その一言で、何かを納得したように、ゆっくりと優実へと視線を戻す。


 「少し聞いてもいいかな」


 「え?」


 「君は――正しいとは、何だと思う?」


 優実は思わず唐突な質問に眉をひそめる。


 「なに急に」


 男は構わず続ける。


 『守るために、壊すことになったとして、それでも、それは正しいのか』


 静かに落ちる重たい言葉。


 優実は少しだけ考えて、肩をすくめる。


 「……嫌だよそんなの、誰かが泣くならさ、それってもうダメでしょ」


 優実は少し考えて続ける。


 「だって、だってさ、みんな笑ってる方がーーいいじゃん」


 間があく。


 「そうか」


 その声は、どこか遠くを見ているようだった。


 「君はまだ、この世界に馴染んでいないな」


 ぽつりと告げる。


 「は?」


 意味が分からないその言葉に、聞き返そうとしたその前に、男は軽く息を吐いた。


 「すまない。忘れてくれ」


 そして、


 「そろそろ戻った方がいい」


 そう続けて行った。


 「う…うん」


 流されるように頷くと共に、それ以上踏み込んではいけない気がした。


 「まぁ...じゃあ、おやすみ」


 少し迷って言うと、男はわずかに笑う。


 「ああ。いい夜を」


 優実は背を向け、歩き出す。


 その瞬間。


 ――バサァッ!!


 空気を裂くような強い音と共に、次の瞬間、凄まじい風が吹き荒れた。


 「うわっ!?」


 思わず身を低くする。


 何かが、上を通り過ぎた、そう思った。


 やがて、風が止むと辺りに、静寂が戻る。


 優実がゆっくりと顔を上げ、振り返ると、そこには、もう誰もいなかった。


 さっきまで確かにいたはずの男の姿は、影も形も残っていない。


 「ん?何だったの今の」


 理解が追いつかない、ただ、胸の奥にざわりとした感覚だけが残る。


 夜は、何も答えなかった。


 ただ静かに、すべてを包み込んでいた。

第九話いかがでしたでしょうか?

突如現れた謎の男レグルス。

すごく綺麗な容姿と共にどこかヨルのような鳥の容姿。

しかも何だか只者ではなさそう。

こやつが味方が敵かはたまたそのどちらでもないのか、、、


続きを楽しみに読んでいただけたら嬉しいです!!

それでは次回で会いましょう!!

この作品が面白いと思っていただけましたら、高評価、ブックマーク、感想等頂けたら凄く嬉しいです!

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