同じ夜の中で
第8話です。
今回は少し落ち着いた回になります。
食事を通してのやり取りや、何気ない会話の中で、
二人の距離がほんの少しだけ変わります。
まだ分からないことばかりですが、
それでも進んでいく時間を書きました。
ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
崩れた建物の奥で、湯気が静かに立ち上っていた。
「よしっ!できた」
短くそう言って、ヨルが器を置くと、優実はすかさず身を乗り出した。
「え、ちょっと待って、これ……うどん?」
「そう見えるならそうだ」
「いや作れるんだ!?めっちゃ普通に!?」
驚いたまま覗き込むと、湯気の向こうに透き通った出汁と、手打ちらしい少し不揃いな麺、その上には肉と卵が乗っていて、香りがふわっと鼻に届いて、思わず喉が鳴った。
「食うのか 食わないのか どっちなんだい!!」
「食べる!!」
力強い優実の返事の後、三人で器を囲む。こんな場所なのに、不思議とその光景だけはどこか普通で、少しだけ現実に戻ったような感覚があった。
まずは優実が箸を取って、一口。
「……うま」
思わず漏れる心からの声。
優しい味だった。派手じゃないのに、じんわりと体に染みてくるような温かさがある。
「普通だ」
ヨルはそう言いながらも少し照れた顔を隠すと、淡々と食べ始める。
その隣で、貞美が静かに箸を持った。
すっと背筋が伸び、無駄のない動きで麺を持ち上げ、音も立てずに口へ運ぶ。
「え?」
優実は思わず手を止めた。
「ちょっと待って、なにその食べ方」
貞美は一瞬だけ視線を向ける。
「別に...普通」
「いや普通じゃないでしょ!?育ち良すぎでしょ!?」
ぴたり、と動きが止まる。
「うるさい」
それだけ言って、また箸を動かす。
――が。
次の瞬間、空気が変わった。
さっきまでの丁寧な所作のまま、速度だけが明らかにおかしく、二人を置き去りにするかのように、静かに、しかし異様な速さで食べ進めていく。
「え、ちょ」
優実が呆然とする間に、貞美は、すでに食べ終わっていた。
箸を揃え、器を持ち上げると、無言で、すっと差し出す。
「……」
「え?」
貞美の無言の訴えにポカンとする優実とヨル。
「おかわりってこと?」
ヨルが聞くと、食い気味に小さく、こくりと頷く。
「いや早すぎでしょ!?」
ぶつぶつ言いながらも、優実もまた箸を動かす。
しばらくの間、静かな時間が部屋の中に流れ、湯気と、かすかな食器の音だけが響く。
食べ終えたあと、軽く片付けを済ませる。水で流す音が小さく響き、やがてそれも止むと、空気は一気に静けさを取り戻した。
「ご飯食べたら、なんか眠くなってきちゃった」
「食ったらそうなるさ」
そう言いながら、優実はその場にごろんと寝転がる。
「なんかしたら許さないかんね!このブラッキンバード!」
「何もしねえよ!後変な名前で呼ぶな」
呆れたように返しながら、ヨルは壁にもたれる。
そしてそのまま、片足を軽く上げ、もう片方で立ったまま目を閉じた。
「ん?...え?」
優実は目を丸くする。
「いや何その寝方!?」
返事はなく、ヨルはもう寝ていた。
「早っ」
呆れたように笑いながら、視線を横に向けと、貞美は、まだ起きていた。
静かに座ったまま、こちらをどこか優しい目で見ている。
少しの間と共に、言葉を選ぶようにして、優実が重い口を開く。
「あのさ」
優実に返事はないが、それでも続ける。
「なんで、ああなったの」
静かな空間に、その声だけが落ちる。
「きっと沢山人、殺してたよね」
貞美の表情は変わらない。
「あのアプリって何?あの戦いの時に出てた井戸は?なんで……あんなこと」
少しだけ間があく。
「…わからない」
短く、それだけだった。
「は?」
思わず声が漏れる。
「いやいや、わからないって……」
「そうしていた」
それ以上は出てこない。
「なにそれ」
理解できないまま、言葉が詰まり一瞬の静けさの後
「……一度......こっちに来たことがある」
貞美が話し出す
「え?」
優実が顔を上げる。
「でも、わからないまま戻された」
「戻されたって誰に?どこから?」
「知らない」
それだけだった。
「ここは前にあなたといた場所とは、違う」
断片だけが落ちてくるが繋がらない、理解もできない。
それでも、確かに何かがある。
「そっか」
優実は小さく息を吐くと、少しだけ考えてから、もう一度口を開く。
「私正直さ、今何も分かんないのよ、この世界も、あんたのことも」
目を閉じて、言葉を探す。
「でもさ」
ゆっくりと視線を貞美に向ける。
「こんなわけわかんないとこでさ、一緒にいるってことはさ、多分、意味あると思うんだよね」
貞美は何も言わない。それでも、優実から視線は外さない。
「だからさ」
少しだけ笑う。
「もし貞美も何もなくて私と同様に本当にわからなくて、困ってるなら、一緒に来てよ!私なりの支えくらいにはなるからさ!」
言い切ったあと、少しだけ恥ずかしくなって目を逸らす。
静かな時間が流れる。
その時ほんのわずかに、貞美の瞳が、揺れた。
ほんの一瞬だけ、光を取り戻すように。
けれどすぐに、いつもの静けさへ戻る。
「……別に」
短く返して、少しだけ間を置く。
「……ついて行く」
それだけだった。でも、それでも、優実は少しだけ安心したように息を吐く。
「そっか」
それ以上は何も言わない、言わなくても、少しだけ分かった気がした。
やがて、ゆっくりと体を横にする。
「じゃ...おやすみ」
返事はない、それでも、もうそれでよかった。
目を閉じると、意識がゆっくり沈んでいく。
外は、やけに静かだった。
今回も読んでくださりありがとうございます!!
次回からもどんどん話が進んでいきます!!
少しでもキャラみんなを好きになってくれたら嬉しいな〜
なんて!笑
それでは次回で会いましょう!
感想等、評価、ブックマーク等お待ちしております!!




