残響
第4話「残響」。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
この回は、ただの戦いではなく“その奥にあるもの”を描きたくて書きました。
壊れてしまった感情と、それに触れてしまった優実の選択。
少しでも何か心に残るものがあれば嬉しいです。
そしてここから物語は、新しい世界へと動き出します。
「終わった?」
優実の声が、静まり返った空間に落ちる。
地面に倒れている“それ”はもう動かない、さっきまで暴れていたのが嘘みたいに、ただ転がっているだけの塊になっていた。
「ほんとに?」
自分で言っておきながら、優実は一歩も近づけない。
その時だった、
――ドクン。
空気を強く脈打つ音が、そこに響く。
倒れていた体が、まだ何かの無念を残したかの様に、ゆっくりと持ち上がる。
胸の奥から黒いものが溢れ出し、内側から押し上げるように膨れ上がっていく。
「何これ、嘘でしょ」
次の瞬間
「ァァァァァッ!!」
叫びと同時に地面を強く叩きつけると、大きなヒビが入り、衝撃が走る。
“それ“の叫び声は、優実の視界を揺らし、耳を塞ぐ。
強すぎるその声は、優実の脳に意図せず何かを流しこむ。
“なに、これ?“
ハッと気づいた時には景色が変わっていた。
「レイン」
女性の優しい声で名前を呼ぶ声が聞こえ前をよく見ると、
綺麗な女性に手を引かれている男が見える。
その男は右手で手を引かれていて、左手には少女が手を伸ばしながら、一生懸命に手を握ったいた。
暖かいはずの景色なのに、どこか歪んでいる。
その時、少女が何かを落とすところが見えると、場面が変わる。
「なんでそんなこと!」
レインの怒りの言葉が少女に向けられている途中で、言葉が止まる。
そんなレインと少女のやり取りを、囲うように見ている無数の人たち、その無数の人達は誰も責めず、誰も怒らない、ただ同じ顔で笑って見守っている。
「何よこいつら、気持ち悪い」
レインだけが浮いているのだけがみて伝わる。
また場面が切り替わる。
月明かり光る夜の池に、水面を見つめる様にレイン一人が座っていて、水面をずっと見ているがその顔に笑顔はない。
目が沈んでいる。
「なんでだ」
レインの戸惑いや、怒り、悲しみの混じった声が漏れる。
そんなレインの後ろからまたあの少女が現れる。
「パパ!何してるの!帰ろ!」
そう言って少女はレインの手を握り、走り出す。
娘に引かれる自信の手を、見つめるレイン。
けれど次の瞬間その手は離され、別の誰かへ渡される。
また場面が変わる。
「待ってくれ」
体を動かそうとしても動けないし、逃げられないのが分かる。
ジリジリと音を立てる炎の音が耳に響く。
縛られたまま見上げると、レインの娘が笑ってレインを見つめている。
その時優実は、レインの記憶に入り込んでいた事に気づく。
「だいじょうぶだよ」
レインの娘は笑顔で、炎が灯る木を持って近づいてくる。
近づく火は優実の肌を本当に焼く様に、近づくにつれて、熱さが伝わる。
目覚めようと必死に抗うが、何も変わらない。
少女は笑顔のままレインの体に火を近づける。
なんの躊躇いもなく、寧ろ父を、レインを救う様に火を付けた。
「やめてくれ、頼む、そんな事やめてくれ!!!」
「ダメ!!ダメェ!!」
レインと優実の心の声が響いた。
――
その時視界が戻ると、目の前にいるのは“レインだったもの”。
レインの体から燃え盛る様に炎がが滲み出し、火に包まれた右腕を優実に向ける。
「なんでぇ!なんでぇだぁぁぁ!」
火に包まれながらも、レインは叫びながら優実に向けた右腕を、振り下ろす。
振り下ろした右腕から、柱状の炎が飛んでくる。
「危なっ!」
優実は咄嗟に避けるが、避けたその炎は、地面を焼きながら広がっていき、何も物など無いはずの辺りをどんどんと燃やしていく。
逃げなきゃ、そう思うのに震える足が言う事を聞かない。
「来る」
その時、隣から突然聞こえる貞美の低い声。
次の瞬間には、貞美の体から放たれた影が炎の間に割り込むと、炎の軌道は影を避ける様に歪む。
「遅い」
貞美が影で炎に対抗をするが、炎は消えず優実の方に飛んでくる。
炎は優実の腕の横を僅かにかすると、腕をじわじわと焼いた。
「痛い」
痛みに悶える優実。
「なんでだよ!」
それでも叫び続けるレイン。
その言葉に呼応するように、炎はさらに膨れ上がる。
“怖い“
震える手、
“だけど、それでも“
火傷を負った右腕を強く握りしめて、痛みを堪える。
「まだ...終わってない」
自分でもなぜだか分からないが、その時“ある事を閃いた優実。
その作戦しかないと思った途端、一歩ずつ炎に包まれるレインの体へ、真っ直ぐ歩き出す。
「何してる!」
そんな様子を見て、貞美は慌てた声で優実に話す。
そんな声が聞こえるわけもなく、止まることなく近づく。
黒く澱んだ光に包まれたレインに必死に手を伸ばす。
近づくにつれて、全身が炎に包まれ、身体中を焼かれる思いの中で、レインの中の何かを手探りで探す。
“あと少し、あと少し“
その思いで、ひたすらに探したその時、
“掴んだ!“
焼ける熱さに、悍ましい感情の波に、悲鳴を上げ、暴れ回るレインだが、それでも核をつかみ離さない優実。
その瞬間、優実が先程見ていたレインの記憶が、今度はレインにも逆流する。
見せられていたものが“思い出”に変わる。
炎が揺らぎ、動きが少し止まると、その奥で、
「なんであの時」
レインの崩れかけの声が漏れる。
「なんで…なんで……」
怒りが、痛みに変わっていく。
「もういい」
静かな声と共に、貞美が前に出る。
「……クル」
俯きながら呟いた瞬間、空間は歪み、辺りは薄暗くなり、レインの横に井戸が現れる。
今度ははっきりと、そこにある。
レインの体が引きずられていく。
抵抗もなく、諦めているわけでもなく、ただ、沈んでいく。
炎が消える。
消えていくレインの歪んでいた形が一瞬だけ戻る。
手を伸ばしている。
届かないと分かっているのに、それでも掴もうとしている。
「……ありがとう」
かすかな声が聞こえると、井戸と共に消えた。
静寂が落ちる。
「終わった……」
優実が呟く。
ふと落ち着ちつくと頬に違和感、触れると濡れている。
「……あれ……」
涙だった。
気づかないうちに流れていたそれを、ただ見つめる。
少し離れた場所で、貞美がその様子を見ていた。
ほんの一瞬だけ向けた視線はすぐに外れる。
その時だった。
――バチンッと強い音と共に、足元の空間が裂ける。
「え、ちょ、なにこれ!?」
足場が消えて、落ちていく。
いや、落ちている感覚がない。
体が浮いていて、どこにも触れていない。
「なにこれ……!?」
横を見ると、貞美も流されている。
髪が揺れているのに風はない。
何もない空間を、どこかへ運ばれている。
その先に光、小さかったそれがどんどん大きくなる。
「――っ」
光がすべてを覆い、目を細める。
そして、次に目を開けた時には、見たことのない景色が広がっていた。
遠くに並ぶ建物、見慣れない構造。
静かで、それでいて確かに“人の気配”がある。
「……なに、ここ……」
知らないはずなのに、ここが“どこかへ繋がっている”と、直感だけが告げていた。
第4話まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
この回は特に感情を込めて書いた回なので、何か心に残るものがあれば嬉しいです。
ここから物語はさらに広がっていきます。
まだまだここからが本番です。
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これからも全力で書いていきますので、よろしくお願いします。




