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私優実は、自分を殺した呪いの存在『貞美』となんでか異世界にて旅に出てます!!  作者: ポルチーニアツオ
3章 巨大樹の共和国

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ラプラスの悪魔

 ヨルの修行が一区切りし、今回は優実とノエルの修行が本格的に始まります。


 ……のはずが、最初から優実は大騒ぎです。


 笑えるやり取りの中で、この世界の「強さ」の考え方や、優実の力である『共鳴視』について少しずつ明かされていきます。


 そして今回のタイトルにもなっている『ラプラスの悪魔』。


 この世界の能力と、現実世界のある仮説が繋がる一話になっています。


 ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです!

 シエラが訓練場を後にしたあとも、優実はその背中をじっと見つめていた。


 「ねぇノエル」


 「ん?」


 「さっきさ、バルガスさん誰かと話してなかった?」


 ノエルも首を傾げる。


 「僕も聞こえた気がしたけど……誰もいなかったよね」


 二人が不思議そうに顔を見合わせていると、バルガスは穏やかに微笑んだ。


 「気のせいですよ」


 それだけ言うと、小さく手を叩く。


 「では!修行を始めましょう!」


 その一言で訓練場の空気が少しだけ引き締まり、ボルドが元気よく手を挙げた。


 「早速準備するべ!」


 そう言って訓練場の奥へ走っていくボルドを見て、優実は首を傾げた。


 「準備?」


 その問いの数十秒後。


 ドスンッ!!


 巨大な袋を肩に担いだボルドが戻ってきた。


 「持ってきたべ!」


 勢いよく袋を床へ置くと、中から何かを取り出す。


 優実とノエルは身を乗り出した。


 「これは防具ですか?」


 「鎧かな?」


 ボルドは満面の笑みで広げたその瞬間、優実の動きが止まった。


 「え?」


 そこにあったのは鎧ではなく、黒くて丸い体に、大きな耳とふさふさのしっぽ。


 まるで祭りに出てくる精霊の着ぐるみのような全身防具だった。


 数秒の沈黙の後、優実はゆっくりとバルガスを見る。


 「これってさ……誰が着るの?」


 「優実はんです」


 「絶対イヤァァァァ!!」


 訓練場いっぱいに悲鳴が響き渡り、優実は全力で走り出す。


 「待つべー!」


 「来ないでぇぇぇ!!」


 着ぐるみを抱えたまま追い掛けるボルドと、全力で逃げる優実。


 ノエルは笑いすぎてしゃがみ込み、バルガスは困ったように額へ手を当てる。


 グランもその様子に戸惑って立ち尽くしていた。


 「いいですか優実さん、逃げても修行は始まりません」


 「こんなの着るくらいなら修行しない!」


 抵抗も虚しく、数分後にはボルドに捕まり、グランに腕を押さえられ、バルガスに防具を着せられる。


 「いやぁぁぁ!!」


 そして——。


 「できたべ!」


 優実は精霊の着ぐるみ姿になっていた。


 しっぽまで揺れていて、不貞腐れた優実の顔を見てノエルは堪えきれず吹き出した。


 「ぷっあははは!」


 ボルドは満足そうに頷く。


 「似合ってるべ!」


 優実は涙目になる。


 「どこがよ!!」


 その姿に訓練場へ笑い声が広がった。


 空気が少し和らいだところで、バルガスが一歩前へ出る。


 「その防具は見た目こそ祭りの衣装ですが、修行用としても使われている正式な防具です」


 優実は耳をぴくぴく揺らしながら不満そうに聞く。


 「こんな格好で?」


 「昔、ノクスで祭りに使われていた精霊を模した防具なんです」


 優実の問いにバルガスが続ける。


 「中には魂への衝撃を和らげる素材と、身体への負荷を軽減する特殊な繊維が使われています」


 「これってそんな凄いもんなの?」


 優実の問いにバルガスは頷く。


 「まぁ見た目だけは恥ずかしいですが、れっきとした防具です」


 優実は膝から崩れ落ちる。


 「そこが一番大事なんだけど…」


 その様子を見てボルドとノエルだけが嬉しそうだった。


 「子どもに人気なんだべ!優実はん!」


 「知らないよそんな情報!」


 また笑いが起きる。


 バルガスはその空気を見届けると、静かに表情を変えた。


 「では、本題へ入りましょう」


 優実とノエルも自然と姿勢を正す。


 「これからお二人には、それぞれ違う修行を受けてもらいます」


 「まず優実さん」


 まっすぐ優実を見るバルガス。


 「はい!」


 「あなたが鍛えるものは共鳴視です」


 優実は昨日の戦いを思い出す。


 「共鳴視って昨日使った、あの力?」


 「はい」


 バルガスは頷く。


 「ですが、一つ訂正があります」


 「あなたはまだ共鳴視を使えたわけではありません」


 優実は目を丸くする。


 「え?でも昨日見えたよ?」


 「見えたそうですね、ですがそれは、使ったのではありません」


 少し間を置く。


 「あれは発動しただけです」


 「発動しただけ?」


 「はい」


 バルガスは訓練場の中央へ歩きながら話し始める。


 「昔、この世界へ来た漂着者が残した仮説があります」


 ふむふむと全員が頷く。


 『ラプラスの悪魔』


 「漂着者がそう呼んだ仮説です」


 バルガスは続ける。


 「もしこの世界中の全ての物質の動きを完璧な情報として知ることができれば、未来さえ予測できる——という考えです」


 優実は難しそうな顔になる。


 「未来を見る?」


 「そうです」


 強く頷くバルガス。


 「例えば優実さんが私をいきなり背後から殴ってきたとしましょう」


 「いや、例え怖!」


 「勿論何も知らない私は受けることしかできません」


 「そうなるよね」


 指を一本立てるバルガス。

 

 「ですがもし、私が後ろに流れる空気の流れを完璧に読めたら?」


 「優実さんが殴る時に僅かに踏み込んだ足先の重さを感じることができたら?」


 僅かな沈黙が皆を包んだ後、優実が口を開く。


 「かわすことができる…」


 「そういうことです」


 頷き答えるバルガス。


 「共鳴視は少しだけ、それに似ています」


 「相手の呼吸を読み、筋肉の動きを見て、体の重心を感じとり、視線の送る先から予測する」


 「そうして起こる、魂の揺れを無意識に読み取り、次の動きを感じ取る力」


 改めて優実を見つめるバルガス。


 「それが…共鳴視」


 優実の言葉が漏れ出す。


 「その通り、素晴らしい理解力です優実さん」


 ニッコリと笑顔で返すバルガス。


 優実は昨日シエラの拳が見えた瞬間を思い返す。


 「じゃ、昨日のあれは未来を見てたんじゃないんだ」


 「正確にいうと、見えた情報を魂が勝手に繋ぎ合わせただけです」


 優実は自分の手を見る。


 そんな様子を見て、バルガスは優しく続けた。


 「今回の修行の目的は、その共鳴視が何をきっかけに発動するのかを見つけ、それを使いこなすことです」


 「発動する条件が分かれば、鍛え方も分かり、鍛え方が分かればそれを磨くことができる」


 「そうして目指す場所は一つ、見えた瞬間に身体が動くことです」


 バルガスの熱い想いと激励に優実は大きく返事をする。


 「なるほど!」


 「景色を見るように共鳴視を見ること、それがこの修行の最終目標です」


 優実は小さく息を呑む。


 「そんなことできるの?」


 「できますが、もちろん代償があります」


 優実は嫌な予感がした。


 「共鳴視は魂を極限まで集中させる能力」


 「その分使い続ければ魂を激しく消耗します」


 「なら、体にも負担が起きるって事ですか?」


 そこにノエルが食い気味に質問する。


 「頭痛や視界の白濁、酷いと気絶や最悪の場合、魂そのものを傷付けます」


 優実は顔をしかめる。


 「全然便利じゃないじゃん」


 バルガスは静かに笑った。


 「強い力ほど、大きな代償があるものです」


 続いてノエルへ向き直る。


 「ノエル君」


 「あなたが鍛えるものは動きです」


 優実はきょとんとする。


 「動きって何のことですか?」


 その瞬間、吹き抜ける風がノエルの服を揺らすと、マントがめくれ、背中が露わになる。


 傷跡だらけの背中に、ボロボロの羽が見えた優実は、思わず息を呑む。


 「羽……?それにすごい怪我…」


 優実の視線が、思わずその羽に釘付けになる。


 ノエルは慌てて羽を隠そうとするが、バルガスが静かに止めた。


 「隠さなくて大丈夫です」


 少しだけ間が流れる。


 「理由は、今は話しません」


 ノエルは何も言わず頷いた。


 「この修行はその羽を治すためではありません、羽が傷付いていても戦える身体を作るための修行です」


 ノエルは少し強めに返す。


 「今でも僕は戦えます!」


 そんなノエルにバルガスは少し鋭い目で見つめる。


 「怪我を気にして戦っているのにですか?」


 見つめられたノエルは、下唇を噛むように堪えた。


 「それは確かにそうですけど」


 「だからこそ飛べなくてもより強く戦う、身体全体を使って失った羽を越えるようにより強く、それをボルドが教えます」


 ボルドは胸を叩く。


 「おでに任せるべ!」


 ノエルも頭を下げた。


 「よろしくお願いします」


 バルガスは訓練場の中央まで歩くと、広い訓練場を左右へ指差した。


 「説明も終わりましたし、では班に分かれましょう!」 


 左側には優実とグラン、右側にはノエルとボルドと指を差し、十分な距離を空けて向かい合うよう案内する。


 優実は周りを見回した。


 「あれ?バルガスさんは?」


 「私はここです」


 中央に立ったまま動かない。


 「私は二人を同時に見ます」


 優実は思わず笑う。


 「いやいや、この広さで?どうやって!」


 ノエルも困惑している。


 「そんなことができるんですか?」


 バルガスが静かに目を閉じると、訓練場が静まり返る。


 ボルドとグランはそんな兄の様子を見て、誇らしげに立っている。


 次の瞬間だった。


 【優実さん、右足に体重が乗りすぎています】


 突然、頭の中へ声が響く。


 「ひゃあっ!?」


 優実が飛び上がると、同時にノエルも肩を震わせた。


 【ノエル君、肩に力が入りすぎています】


 「えっ!?どこから!?」


 二人は辺りを見回すが、バルガスは中央から一歩も動いていない。


 「これが私の共鳴術です」


 『思念伝達』


 「離れていても魂へ直接言葉を届けることができます」


 優実は口を開けたまま固まっていた。


 「頭の中で喋るなんて……そんなのありなの?」


 ノエルも驚いたままバルガスを見つめている。


 バルガスは穏やかに微笑んだ。


 「これから皆さんにも、ネメシアの『強さ』を一つずつ知ってもらいますから」


 そう言って静かに目を閉じたバルガスだった。


 優実とノエルはまだ知らなかった。


 この修行が、自分たちの想像を遥かに超える始まりになることを。

 今回も読んでいただきありがとうございます。


 優実とノエルの修行の目標と、その中で見えたノエルの背中に生えていた羽とそれは傷ついたものでした。


 今後それがどう影響するのか、優実は修行をどう乗り越えるのか??


 可愛い着ぐるみを着てみてください!!


 今回も改めてありがとうございました!


 高評価、感想、ブックマーク等々お待ちしております!

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