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私を殺した怪異と、異世界にて親友を探してる ――  作者: ポルチーニアツオ
1章 起動

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3/6

侵蝕

壊れた“それ”との初めての戦い。

優実の力、そして貞美の本質が少しずつ明らかになります。


ぜひ楽しんで読んでください!

 歪んでいる。


 目の前の“それ”は人の形をしているはずなのに、どこかが決定的におかしかった。輪郭が揺れ、立っているのに地に足がついていないようで、顔があるのにどこを見ているのか分からない。


 胸の奥が、ざわつく。


 「……これ、なに……」


 優実の声はかすれていた。さっきまで“人”だったはずの何か。けれど、今はもう違う。


 “それ”はゆっくりと首を傾けると、ぎこちない動きで優実の方を向く。その瞬間、背筋に冷たいものが走った。見られているんじゃない、引き寄せられている。


 次の瞬間、地面を抉るような勢いで“それ”が飛び出した。


 速い、理解が追いつく前に目の前まで迫る。


 「――っ!」


 逃げなきゃいけないのに足が動かない、体が強張って言うことを聞かない。


 その横を黒い影がすり抜けた。


 「……下がって」


 低く静かな声、貞美だった。その一言と同時に空気がわずかに歪み、“それ”の動きが一瞬だけズレる。噛み合っていた距離が狂う。


 貞美は前に出ると迷いなく“それ”を見据えた。


 「……邪魔」


 ぽつりと落ちた言葉と同時に、空間がひび割れるように揺れる。“それ”の体が歪み、胸のあたりが不自然に膨らんだ。


 だが次の瞬間。


 「――ァァッ!!」


 叫びとも呻きともつかない音を上げて暴れ出す、抑えきれない何かが内側から溢れているようだった。


 「なんで……!」


 優実が思わず声を漏らすと、貞美は視線を逸らさずに呟く。


 「……壊れてる」


 その言葉と同時に、“それ”が再び優実へ向かう。迷いがない、まるで何かに引き寄せられるように。


 ――こっちを、狙ってる。


 理由は分からない、ただ確信だけがあった。


 「っ……!」


 避けようとして、間に合わない。


 その瞬間、無意識に手が伸び、触れた次の瞬間――


 「……っ……!」


 頭の奥に、何かが流れ込んでくる。


 暗い景色、揺れる炎、その奥にいくつもの人影が見える。ひとり、ふたりじゃない、大勢の人間がそこに立っていて、誰もが穏やかな顔で、まるで何事もないかのように笑っている中で、焼かれている――逃げ場もなく縛り付けられたまま、ただ燃えていく。


 「……なんで……」


 低い声が、心の奥で響く。


 「なんで、わからないんだ……」


 優しくされるほど、苦しくなる。


 笑われるほど、否定される。


 その中で一人だけ、取り残されていく。


 ――怖い。


 ――苦しい。


 ――助けて。


 それは優実の声じゃない。


 目の前の“それ”の、奥底に残った声。


 「……この、人……!」


 優実の視界が揺れる。


 見えた。


 胸の奥に、ひび割れた“核”。


 黒く濁り、溢れ出し、今にも砕け散りそうなそれが、確かにそこにあった。


 「……そこ……!」


 思わず叫ぶ、その瞬間“それ”の動きが止まる。


 ほんの一瞬、完全な隙。


 貞美の目が細くなる。


 次の瞬間、彼女の髪がするりと落ちた。


 隠れていた左目が露わになる。


 空気が変わる。


 冷たく、重く、底へ沈むように。


 長い黒髪がゆっくりと伸びていき、足元へ、地面へと影のように広がっていく。


 優実は息を呑んだ。


 ――違う。


 さっきまでと、明らかに違う。


 「……クル」


 小さな声。


 それだけで、空間が軋む。


 “それ”の体がびくりと震えた。理解しているわけじゃない、それでもその音に抗えないように反応している。


 貞美がゆっくりと、距離を詰める。


 「……こっち、見て」


 その声は逃げ道を奪う。


 視線が引き寄せられ、逸らせない、閉じられない。


 ただ、見せられる。


 「……来てるよ」


 囁きが落ちた瞬間、世界が崩れる。


 足元が沈み、光が消え、音が遠ざかる。


 底のない闇の中、ぽつりと井戸だけがそこにある。


 “それ”の体がゆっくりと引きずられていく。


 抗おうとする動きすら、もう意味を持たない。


 半分、沈む。


 あと少しで、完全に落ちる。


 その直前で、止まった。


 「……っ」


 貞美の肩がわずかに揺れる。


 胸の奥で、何かが軋む。


 空間が不安定に揺れ、井戸の輪郭が崩れかける。


 「……まだ、足りない」


 低く掠れた声。


 次の瞬間、世界が元に戻った。


 “それ”は地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。


 だが。


 優実には見えていた。


 胸の奥で、ひび割れた“核”が、かすかに脈打っているのが。


 まだ、終わっていない。


 「……これ……」


 優実の声が震える。


 「……人、だったんじゃないの……」


 貞美は答えない。


 ただ静かに髪を戻し、何もなかったかのように目を伏せていた。

第3話「侵蝕」を読んでいただき、本当にありがとうございます。


ここまで読んでくださった方、一人一人に感謝しています。

少しでも「続きが気になる」と思っていただけたら嬉しいです。


これから物語はさらに深く、そして大きく動いていきますので、ぜひ見届けていただけると嬉しいです。


もしよろしければ、評価・ブックマーク・感想などで応援していただけるととても励みになります!


これからもよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
井戸出たーー! と、つい興奮してしまいました。
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