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私を殺した怪異と、異世界にて親友を探してる ――  作者: ポルチーニアツオ
1章 起動

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邂逅

第2話「邂逅」。


“自分を殺した存在”との再会。


ここから物語が動き出します。

 ――ゆっくりと、優実の意識が浮かび上がる。


 深い水の底から、静かに引き上げられるような感覚で、苦しさはなく、ただ現実から少しだけ切り離されたような軽さが体に残っていた。


 まぶたを開く。


 そこに広がっていたのは、見たことのない景色だった。


 白でも黒でもない曖昧な色に満たされた空間で、霧のようなものが薄く漂い、遠くまで続いているはずなのにどこかで途切れているようにも見える。それなのに、不思議と暗さはなく、どこからともなく柔らかな光が差し込んでいた。


 「……ここ、どこ……」


 声は静かに溶けるように消え、反響すら返ってこない。


 ゆっくりと体を起こすと、地面に触れた感触は確かにあるのに重さがなく、冷たいはずなのに冷たくない。ただ“そこにある”という曖昧な実感だけが指先に残る。


 夢、というには意識がはっきりしすぎていて、現実、というには何もかもがずれている。


 「……なに、ここ……」


 呟いたその時、視界の端に人影が映った。


 少し離れた場所に、誰かが倒れている。


 息を呑みながら近づくと、長い黒髪が静かに広がり、白い肌がこの淡い空間の中でやけに際立って見えた。


 「……大丈夫、ですか……?」


 恐る恐る声をかけても反応はない。


 ほんの一瞬だけ迷ってから、優実はそっと手を伸ばした。


 指先が触れた、その瞬間。


 「……っ」


 微かに、その体が揺れる。


 ゆっくりと、まぶたが開き、黒い瞳が、こちらを捉えた。


 その瞬間、理由もなく心臓が強く跳ねた。


 目の前にいるのは、綺麗な人だった。


 胸元まで流れる艶やかな黒髪は、光を吸い込むように深く、自然と片側へ流れていて、そのせいで左目は隠れ、見えている右目だけが静かにこちらを見ている。


 整いすぎているほど整った顔立ちに、透き通るような肌。この世界の中で、その存在だけが妙に“現実”を持っているように感じられた。


 それなのに。


 見えているその片方の目は、どこか空っぽで、底の見えない静けさを湛えている。


 ぞくり、と背筋が震える。


 「……誰」


 小さく、女が呟く。


 抑揚のない声。


 けれどその直後、ほんの一瞬だけ言葉が途切れた。


 「……っ」


 優実を見たまま、わずかに目を見開く。


 それは驚いてるようですぐに消えて、何もなかったかのように、表情は戻った。


 「……なに」


 淡々とした声。


 けれど今、確かに“人間らしい反応”があった。


 「え、いや……それこっちのセリフなんだけど」


 思わず返してしまう。


 知らない場所で、知らない綺麗な人にそんなことを言われても、意味が分からない。


 「ここ、どこ……?」


 もう一度問いかけると、女はわずかに視線を逸らし、


 「……分からない」


 それだけを短く返す。


 間があって、


 「……でも、“ここ”は」


 言いかけて、止まる。


 何かを知っているのに、言わないようにしているような不自然な沈黙。


 優実はその様子に違和感を覚えながら、もう一度その顔を見る。


 綺麗すぎるその顔。


 でも、その奥にある“何か”が引っかかる。


 「……あんたさ」


 じっと見つめる。


 見覚えがある、なんてレベルじゃない。


 もっと、直接的な。


 もっと、嫌な感じの――


 「……あ」


 喉がひゅっと鳴る。


 心臓が一気に速くなる。


 思い出したくないのに、思い出してしまう。


 「……なんで」


 声が震える。


 「……なんで、あんたがいるの」


 女は答えない。ただ静かにこちらを見ているだけで、その視線から逃げるように優実は一歩だけ後ろに下がった。


 「……嘘、でしょ」


 口に出した瞬間、背筋がじわりと冷える。否定したいのに、もう分かってしまっている。


 目の前にいるのは――


 「……あんた、だよね」


 女の目が、ほんのわずかに細くなる。その一瞬だけで、確信に変わった。


 「……そういうの、どうでもいい」


 淡々と落ちる声は、肯定も否定もしないのに、それが逆に答えになっていた。


 「は……?」


 優実の眉が歪む。


 「どうでもいいって……なにそれ」


 喉の奥に言葉が詰まり、怖いのか怒っているのか分からないまま、感情だけがぐちゃぐちゃに混ざっていく。


 「……ここ、どこなの」


 少しだけ声を落として問いかけると、女はわずかに視線を逸らし、


 「……分からない」


 それだけを短く返す。


 間があって、


 「……でも、“ここ”は」


 言いかけて、止まる。


 何かを知っているのに言わないようにしている、その不自然さが逆に引っかかる。


 「……なにそれ」


 優実は一歩踏み出した。怖い、それでも止まれない。


 「分からないって、じゃあなんであんたそんな普通にいられるの」


 問い詰めるような声に、女はゆっくりと視線を戻し、その片目で静かに優実を捉える。


 「……普通じゃない」


 ぽつりと落ちたその一言だけで、それ以上は何も続かない。


 「……は?」


 息が詰まる。


 その言い方は、まるで――


 「……じゃあ何」


 少しだけ声が強くなる。


 「なんなの、ここも、あんたも」


 沈黙が落ちる。


 女は答えず、わずかに視線を下げるその仕草が、考えているようでいて、どこか遠くを見ているようにも見えた。


 「……別に」


 出てきたのは、やっぱりそれだけだった。


 「……っ」


 優実は歯を食いしばる。


 「別にって……!」


 声が荒くなる。怖い、それでも聞かずにはいられない。


 「人、殺してるんでしょ……」


 その一言で、空気が変わった。


 女の動きがぴたりと止まり、視線だけがゆっくりと持ち上がる。


 「……そういうものだから」


 淡々とした声。


 ほとんど感情は乗っていないのに、ほんのわずかに何かが引っかかった気がした。


 「……なに、それ」


 優実の声が揺れる。


 「そういうものって……なにそれ……!」


 理解できない、したくない、それでも聞かなきゃいけない気がして。


 「なんでそんなこと――」


 踏み込んだ、その瞬間。


 ゾワッと、頭の奥に何かが流れ込んできた。


 息が詰まり、視界が揺れる。


 知らない光景、知らない感情――怒り、憎しみ、痛みがぐちゃぐちゃに混ざって、一気に押し寄せる。


 「なに……これ……」


 思わず頭を押さえる。気持ち悪いのに、目を逸らせない。


 「……来る」


 低い声がすぐ近くで落ちた。


 顔を上げると、女の視線は自分ではなく、その奥を見ている。


 空間が歪み、霧がざわりと揺れ、何かがそこに“いる”。


 ゆっくりと形を持ち始めるそれは、人のようでいて――


 明らかに、人ではなかった。

今回も読んで頂きありがとうございます!!

まさかの自分を殺した怪異、貞美との思わぬ再会。

ですがそんなのも束の間、また新たな問題の匂いがしますね!

ぜひ読んで下さった方感想や評価ブクマ等々お待ちしております!!

次のお話で会いましょう!

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― 新着の感想 ―
そういうものだから なぜだか機会的に、ただ与えられた役割をこなしているような、少しの寂しさを感じました。
よく分からないものが迫ってくる感じがめちゃくちゃ怖いです。夜怖い……。
優実と謎の女性… いったい何が起こっているのか 謎の女性は何を知っているのか この世界の情景と女性の姿が目に浮かぶ描写で いいと思います
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