呪われた弓
第三章、第16話『呪われた弓』です!
ついにヨルが、不気味な一本の弓へと手を伸ばします。
誰も近寄らず、“呪われた弓”と恐れられたその武器に隠された秘密とは。
今回も読んでいただきありがとうございます!
ぜひ最後までお楽しみください!
翌日になり、ヨルはガルドに呼ばれ、再び武器庫へ足を運んでいた。
高い天井まで届く棚には、剣や槍、斧など数え切れないほどの武器が並んでいる。
その奥にある一角だけは昨日と変わらず静まり返り、一本の巨大な弓だけがぽつんと佇んでいた。まるで朽ちた大樹の枝を、そのまま削り出したような異様な姿。
昨日見た時と何一つ変わっていないはずなのに、どこかこちらを見つめ返しているような不思議な気配を放っている。
ヨルは弓を見上げると、小さく息を吐いた。
“相変わらずでかい弓だな“
ヨルは弓を今一度見る。
「昨日言ってたその...これがおれの相棒ってどういうことだ?」
ガルドは腕を組み、静かに頷く。
「ノクス調律国では、武器はただ戦うための道具ではない」
ゆっくりと弓へ視線を向けるガルド。
「一生を共に歩む相棒だ、この国はその文化を”終生武装”と呼んでいる」
「終生武装?」
「持ち主が武器を選ぶんじゃない」
ガルドは少し頷き、腰に当てた自分の剣の鞘に手を乗せて続ける。
「武器が持ち主を選び、その選ばれた持ち主はその武器が命尽きるまで共に闘う」
ヨルは再び目の前の弓を見つめた。
“武器が人を選ぶか“
そんな話は初めて聞いた。
「じゃあ、この弓は?」
その問いに、ガルドは少しだけ表情を曇らせる。
「こいつは長い事、誰にも選ばれなかった武器だ」
「え?」
「昔から何百人、いやいろんな種族の兵士達がこの武器庫に来た」
「だが誰一人としてこの武器へ手を伸ばそうともせず、寧ろこの武器から溢れ出す不気味な雰囲気に、背を向けるどころか、視界にすら入れないようにしていた」
武器庫に静かな声だけが響く。
「それは言い方を変えれば、この武器が過去に現れた者達を選ばなかったということになる」
ガルドは苦笑するように鼻を鳴らした。
「いつしか弓自身がどんどん朽ちてきた様に誰も触れてないのに劣化を始めてな」
ヨルは思わず弓を見つめ直す。
「『呪われた弓』とまで名前を付けられたぐらいだ」
「そんな武器がずっとここに眠っていたのか」
ヨルはその弓を不思議そうに見つめながら話す。
「分かっている事は、昔の調律官がどこかで拾ってきた、それだけしか記録に残っていないんだ」
ガルドは肩をすくめた。
「だが、ある日突然外からやってきたお前はそんな武器を前に足を止めた」
そう言うと、一歩だけ後ろへ下がる。
「お前はこの武器に選ばれたのだと俺は思う、だからこそ、お前に触ってほしい」
ヨルは驚いたようにガルドを見る。
「おれはただ、こんな大きな木でできた不思議な弓に足を止めてしまっただけなんだがな」
「ああ、それでもお前は選ばれたんだ」
ガルドは真剣な眼差しでヨルに話した。
「だが、一つだけ忠告しておくぞ」
少しだけ間を置き、低く言う。
「――気をつけろ。持ってかれるなよ」
その意味を尋ねようとしたが、ガルドは何も説明しなかった。
武器庫は不気味なほど静まり返る。
ヨルは小さく息を吸い、ゆっくりと弓へ近付いた。
目の前まで来ると、その大きさがより際立つ。
その弓はまるで一本の樹木が、そこに根を張っているようだった。
「なら、行くぞ」
覚悟を決め、そっと持ち手へ手を伸ばすと、その瞬間だった。
ピシッ。
乾いた音とともに、朽ちた枝がゆっくりと動き始める。
「うわっ!なっ、なんだこれ!」
枝は生き物のようにヨルの腕へ絡みつき、逃がさないと言わんばかりにゆっくりと這い上がっていく。
振り払おうとしてももう離れない。
次の瞬間、ヨルの視界が真っ白に染まり、無数の光景が頭の中へ流れ込んでくる。
笑い合う二人の青年。
どこまでも続く深い森。
巨大な大聖堂。
一本の枝を大切そうに抱える一人の青年。
その枝を削り、一本の弓へと作り上げていく姿。
誰かを守るように戦う二人の背中。
映像は次々と切り替わり、意味を理解する暇もないほどの速さで映像は流れ続ける。
流れる映像は突然切れ、視界が真っ暗になる。
「ぐっ!」
胸が締め付けられるような強い痛みが走り、身体の奥から何かを無理やり引き抜かれていくような感覚に襲われる。
息が苦しくなり、膝の力が抜け、視界が大きく揺れ、意識まで奪われそうになる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」
ヨルは耐え切れず、その場へ膝をつくと、荒い呼吸だけが静かな武器庫に響く。
このまま倒れる――そう思った、その時だった。
『こんなんで限界かよ?』
突然、頭の中へ男の声が響いた。
どこか呆れたような、それでいて面白がっているような軽い口調。
『しょぺぇな鳥野郎!』
ヨルはハッと顔を上げる。
「ガルド……こんな時になんか言ったか?」
息を切らしながら声を絞り出すヨル。
ガルドは怪訝そうに眉をひそめる。
「それは俺じゃない」
その一言だけだった。
武器庫を見渡すヨル。
勿論武器庫には自分とガルドしかいないはずなのに、確かに聞こえたその声。
ヨルは震える手で、ゆっくりと弓へ視線を向ける。
信じがたいが、確かにこの弓から声が聞こえた気がした。
ゴクリと喉を鳴らす。
「まさか」
ヨルは目の前の朽ちた弓を見つめたまま、小さく呟く。
「この弓が喋ったのか!?」
静まり返った武器庫に、その言葉だけが静かに響いた。
久々の投稿になりすいません!
今回から本格的ヨルの修行が始まりました!
しかもその弓が喋り出した!?
ヨルの今後とこの弓がどうなるのか...
ぜひ次回を楽しみに読んでいただけると嬉しいです!




