その違いは、温かった。
今回は貞美が主役の日常回です!
派手な戦いや大きな事件はありませんが、貞美にとってはきっと、今までで一番心が動いた一日になりました。
「ありがとう」と言われること。
誰かと笑うこと。
そして、人の温かさに少しだけ触れること。
そんな何気ない日常だからこそ、貞美が少しずつ変わっていく姿を感じてもらえたら嬉しいです。
ぜひ最後の一言まで読んでいただけると嬉しいです!
ノクスの街は、朝から祭りの準備で賑わっていた。
街中には色とりどりの装飾が運ばれ、大人達が慌ただしく動き回っている。
そんな中、エナだけはいつも通りだった。
「お姉ちゃん!!今日はね、いっぱいやることあるんだよ!!」
嬉しそうに貞美に話しかけながら前を歩くエナ。
「祭りってね、すっごく楽しいんだから!!」
貞美はそんなエナを見ながら小さく頷く。
「うん」
すると後ろからリアナが笑う。
「あんまり貞美ちゃんに迷惑かけないのよ〜」
エナが慌てて振り返った。
「かけてないもーん!!お手伝いしてもらうだけだもん!!」
「そうねぇ〜ごめんね貞美ちゃん」
リアナは困ったように笑っているが、貞美もどこか嫌がることはなく、何気ないやり取りをしながら、三人は祭りの準備を始めた。
しばらくすると、広場の方から困った声が聞こえてくる。
「これ届かないわねぇ」
「もう一往復しましょうか」
高い場所へ飾りを取り付ける作業だったのだが、脚立の数も少なく、皆が何度も行き来している。
「あ!リアナさん!」
リアナを見つけると、作業中の女性達がわらわらと集まってくる。
「どうしたの?皆んなこんな集まって」
リアナが質問する。
「この間の樹蝕のせいで男達が皆んな脚立を全部持っていってしまってねぇ〜」
「だから高所の作業がすごい困ってるんです!」
「今年は祭りどころじゃないと思ってたけど、なんとかできそうだからいいけど」
皆が苦笑いを続け、リアナも顔を曇らせる。
「そっか〜、それなら往復してでも上に運んでを繰り返すしかなさそうなのね」
少し考えるリアナ。
「予定までまだ時間があるし、少し手伝うわ」
リアナはそういうと貞美とエナを見る。
「貞美ちゃんとエナ、二人とも少しだけ待っててくれるかな?」
そう言って作業に取り掛かろうとするリアナ、それを見ていた貞美が一歩前へ出る。
「それ、私がやろうか」
ボソッと呟く貞美に対して、周りの村人達が驚きの表情を隠せずいた。
「ん?誰、あなた」
「すごく綺麗ねこの子」
「よく見たらリアナさん!この綺麗な子は誰?」
「リアナ!あなたまさか隠し子!?」
ざわつき始めた皆んなにリアナが答える。
「この子は私の従兄弟で、名前は貞美ちゃん」
リアナは続ける。
「反対側に住んでたけど、この間の樹蝕の進行により、移住禁止エリアに指定されて家を越すことになったのよ」
皆は少し動揺するが、それを抑えるようにリアナは続けた。
「でも大丈夫、皆んなが少し動揺するのも分かるけど、貞美ちゃんはそんな子じゃないし、私の子みたいなものだから安心して」
その言葉を聞いて、皆に笑顔が戻る。
「リアナの従兄弟とは思えないほど綺麗な子ね」
「よろしくね!貞美ちゃん」
「若い人がいると助かるわぁ」
そんな温かい言葉が貞美を包むと、動揺を隠せない貞美に早速お願いが来る。
「なら貞美ちゃん、これを上まで運ぶの手伝ってもらっていいかしら?」
「わ...分かった」
貞美は返事をすると、少し前に出て手を前に伸ばして構える。
ブワッ
綺麗な黒髪が大きく広がり、生き物のように伸びていくと、高い場所にある柱へ飾りを運び、そのまま器用に取り付けてしまった。
その光景に一瞬空気が止まった、そんな中、一番最初に声を上げたのはエナだった。
「すごーーい!!やっぱお姉ちゃんすごーーい!!」
目をキラキラさせながら飛び跳ねているエナの姿を見ていた主婦達の表情も、次第に和らいでいった。
「すごいじゃない!!」
「これもお願いしていいかしら?」
「助かるわぁ〜!!」
「一体どうやったの?」
向けられたことのない、それに貞美は少し戸惑う。
「本当に...いいの?」
すると皆が笑う。
「何を言ってんのもちろんよ〜」
「こりゃ助かるわありがとうねぇ」
「私もうやらなくていいかしら、なんてね」
そんな言葉と笑い声が響いた。
『ありがとう』
そんな言葉を向けられた事があっただろうか。
不思議と胸に残る貞美は小さく頷く。
「うん」
◇◇◇
作業も終えてしばらくすると、リアナ達が大人同士で祭りについての大事な話し合いを初めた。
「二人共、そこの公園で待っていてくれるかしら?」
話し合いをしてる場所の横にある公園を指差して、案内された貞美とエナ。
「分かった」
「ならおねぇちゃん行こ!」
貞美の手を嬉しそうに引っ張って公園に走り出すエナを見て、後ろからリアナが声をかける。
「あんまり迷惑かけないのよ!エナ!」
そう言ってエナは公園のすぐ横で話し出すと、二人に少しだけ待ち時間が出来る。
公園に着くと、エナは早々に砂場に行き、地面へ座り込んだ。
「ねぇねぇお姉ちゃん」
「どうしたの」
「お絵描きしよ!」
エナは砂利の上へ指を走らせる。
「これはね、お母さん!!」
「これはノエルお兄ちゃん!!」
「これはお姉ちゃん!!」
少し歪だが、子供なりに下手くそな絵でも、一生懸命描いているのが伝わってくる。
一通り描き終えるとエナが笑った。
「ねぇお姉ちゃんも描いて!!」
貞美は少し手を伸ばした時、一瞬だけ、自分の指が違って見えた。
ボロボロの皮膚に爪のない指先、赤く染まる手、あの時壁にひたすら血で描いていた幼い頃の記憶。
冷たい部屋に分からなくなるほど、長い間一人ぼっちだった時間。
遠くから聞こえてくる父の声、それは今日聞いた温かい言葉ではなく、少し聞こえただけで、震えてしまうものだった。
そんな断片的な記憶達が一瞬だけ頭を過ぎた時、隣からエナの声が聞こえた。
「ねぇおねぇちゃん?大丈夫?」
その一言で意識が戻り、貞美はエナを見つめて少しだけ表情を緩める。
「うん」
そしてゆっくり指を動かしだす。
描いたのは、どこにでもいる普通の女の子、丸い瞳に、少し可愛らしい服を着た、ごく普通の女の子だった。
何を描いていいか分からず、昔からずっと大好きだった絵を描くと、それを見たエナが大喜びする。
「かわいーー!」
「おねぇちゃん絵、すごく上手なんだね!」
エナの新鮮な反応に、貞美は少しだけ驚く。
「また描いてあげよっか?」
「うん!もちろん!!」
「分かったよ」
「やったー!!」
すると話し合いを終えたリアナが戻ってきた。
「エナ〜、あんまり貞美ちゃんを独り占めしないの〜」
「えへへ〜」
エナはいつもの様に笑っていて、そんな二人を見ながら、リアナは貞美の隣へ腰を下ろす。
「どう?」
「どうって何が?」
「今は楽しい?」
貞美にとってそれはずっと昔に無縁になってしまった物だった。
だからこそ、ここ数日に起きた事、そして今日の皆んなの事、何より横で嬉しそうに指を走らせているエナの事、色々な事を思う。
「……わからない」
少し考えて出した貞美の答えに、リアナは優しく笑った。
「無理はしなくていいのよ、焦らなくていいわ」
リアナは優しく続ける、それはまるで母親の様に。
「楽しいっていうのはね、楽しいと思いたくて思うんじゃなくて、気付いたらそうなってるものなのよ」
リアナの言葉に、貞美は小さく頷いた。
「……うん」
◇◇◇
作業を終えて帰り道、エナは飽きることなくずっと喋っていた。
「あとね!!あとね!!祭りの日は夜も綺麗なんだよ!!」
「いっぱい灯りが付いてね、みんな楽しそうにしてね、それにそれに美味しいご飯も沢山あるの!」
そんなエナの嬉しそうに話す姿を見ていた貞美。
自然と貞美は微笑む。
「そっか」
するとその瞬間にエナが立ち止まった。
「えっ!?今笑った!!」
「お姉ちゃん初めて笑ったーー!!」
意識なく出たその行動に、貞美自身も動揺する。
「あ...いやこれはちが...」
するとリアナが笑う。
「ふふっ、本当ねぇ〜」
そんな話をしていると、エナが眠そうに目を擦り始めた。
「お姉ちゃ〜ん、眠たいからおんぶして〜」
「こらエナ!あんまり我儘ばっか言わない!」
貞美は少し戸惑いながらも、自然としゃがんでエナの高さに合わせて背中を向けた。
「いいよ…おいで」
「えへへ〜」
「ごめんね〜貞美ちゃん、この子貞美ちゃんの事すごい好きみたいで」
背中へ乗ったエナは数十秒もしないうちに眠ってしまう。
「すぅ……すぅ……」
すやすや眠る鼻息だけが聞こえると、貞美は少しだけ立ち止まる。
「楽しい...か」
今回も読んで頂きありがとうございます!!
貞美の感情の揺れを描いた今回ですが、二人が強くなる一方で、貞美は心を強くする。
そんな大事なピースがエナちゃんなのですが、この仲のいい二人に何もない事を祈りながら続きを読んでもらえたら嬉しいです!
今回もありがとうございました!
高評価、ブックマーク、感想等々沢山お待ちしております!!




