だからこそ強くなれ
いつも読んでくださりありがとうございます!
第三章中編、第8話です!
レグルスとの戦いで、自分の無力さを知ったヨル。
守れなかった悔しさ。
届かなかった強さ。
そして逃がされた屈辱。
今回はそんなヨルが、自分自身の弱さと向き合う回になります。
ガルドとの修行がいよいよ始まりますので、ぜひ最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです!
ノクス軍事区画。
そこは、ヨルが今まで見てきたどんな場所とも違っていた。
朝だというのに訓練場には大勢の兵士達が集まり、木刀のぶつかる音や怒号が絶え間なく響いている。
巨大な木人を叩く者、槍を振る者、空では獣人達が翼を広げ、信じられない速度で飛び回っていた。
傷だらけの兵士達が汗を流しながら互いを鼓舞する姿は、それだけで圧倒されるほどだった。
ヨルは思わず辺りを見渡す。
「すげぇ」
そんなヨルへ、ガルドは一本の木刀を放り投げると、慌てて受け取る。
まだ状況を理解しきれていないヨルへ、ガルドは静かに言った。
「一本取れ」
「は?」
「一本だ」
「いや、それだけでいいのか?」
「それだけでいい」
あまりにも簡単な言葉だが、ガルドの表情は真剣だった。
ヨルは木刀を握り直すと、次の瞬間には地面を蹴っていた。
「うおぉら!!」
一気に距離を詰め、ガルドに近接戦を仕掛けるが、気づいた時には空が見えていた。
「は?」
背中へ衝撃と痛みが走る。
“何だ今の、何が起きた“
ヨルが顔を見上げると、ガルドは元の位置に立ったまま、一歩も動いてなかった。
「それで、終わりか?」
少し血が上るヨル。
「もう一回!!」
ヨルは立ち上がり、少し距離を取ると、また突っ込むが、簡単に転がされて、次は別の角度から突っ込む。
それでも少し避けたと思ったら、転がされる。
何度やっても届く気配もなく、木刀が触れるどころか、かすることすらない。
全く相手になっていなかった。
額から汗が流れ始め、呼吸も荒くなってきても、ヨルは止まらなかった。
「まだだ!!」
結果は同じだと分かっていても、何度も何度も立ち向かう。
視界が回り、背中を打つ、気づけばまた地面へ転がっていた。
「くそっ!!」
立ち上がろうとしても、足が震え、体が重く、息も上がっていて、もう限界だった。
それでも強く握った木刀だけは離さなかった。
ガルドが静かに問う。
「まだやるか」
「当たり前だろ!!」
叫びながら飛び出すヨルだが、首根っこを掴まれると、地面へ叩きつけられた。
何度も。
何度も。
何度も。
どれ程までに思いを持ったとしても、届かない所か、勝負にすらならない。
この感覚は嫌というほど覚えていた。
『レグルス』
圧倒的だったその実力を前に、何も出来なかった自分。
優実達を守る事も出来ず、挙げ句の果てには逃がされた。
あの時と全く同じ光景を何度も、何度も繰り返した。
「もう終わりか」
ガルドの淡々とした問いに、ヨルは本気で地面を殴る。
「くそっ!!」
砂が舞い、握った拳が震える。
「俺だって分かってんだよ!!」
ヨルは吐き出すように続けると、ガルドは静かに聞き続けた。
「俺が弱いことも、足引っ張ってることも、あんたに頼んでる身なのも!!」
「全部分かってんだよ!!」
息は荒れ、胸が苦しい。
それでもその痛みは、直接的なものでなく、ヨルの心からの悲痛な叫びのようで、話す事を止めれなかった。
「でも、それでも強くならなきゃダメなんだよ!!」
声を荒げるヨルにガルドが聞く。
「何故だ」
ヨルは言葉を止め、思い出す。
迷っているのを助けたフリをして現れたが、本当はただ一人でいるのが寂しくて、辛くて、そんな時に現れた優実と貞美に、たったの数日しか居ないはずなのに、今まで村を逃げてきてからの何年かを忘れさせるほど、嬉しかった事。
優実の笑っていた顔。
泣いていた顔。
貞美の傷ついた姿。
それでも離れない姿。
全部が浮かんでくる。
「あいつらが」
ヨルは俯いたまま呟く。
「あいつらがまた傷つくかもしれねぇだろ!!」
少し沈黙が落ちると、ヨルは拳を強く握り締めた。
「怖ぇんだよ...もう失うのが」
その声は小さかった。
「次も何も出来なかったら、また誰かおれの前で傷ついたら、そしたら...俺…」
言葉が詰まる。
そして、ヨルは本音を吐き出した。
「それに...何より悔しいんだよ」
ガルドは黙って聞いていた。
「分かってるさ、あの時レグルスが逃がしたのにも意味があったのかもしれねぇ、俺達に何か伝えたかったのかもしれねぇ、そんなことくらい俺だって分かってんだ」
地面を強く殴る。
「でもそんなの関係ねぇだろ!!」
声が響いた。
「俺は負けたんだ、真正面から!!何も出来なくて、助けられたと思えば、今度は逃がされて、それで終わりなんて納得できるかよ!!」
ヨルは絞り出すように言った。
「俺だって男なんだよ……だったらいつかちゃんと、正面から勝ちてぇじゃねぇか……」
静寂が落ちる中、しばらくしてガルドが口を開いた。
「そうか」
否定もしない、笑いもしない、ただ受け止める、それだけだった。
ガルドは空を見上げる。
「守りたい...か、それも間違いじゃない」
ガルドは続ける。
「お前達が一体どこで出会い、何を乗り越えてきたか、俺は知らん」
少し間を置く。
「だが、今朝のお前達を見ていた」
ヨルが顔を上げる。
「笑っていたな、あの時死にかけて、門を叩いてきた連中とは思えんほどに」
優実の声、貞美の顔、エナの笑顔、ノエルの不貞腐れた態度。
それは今朝の食卓の何気ない時間だったが、それが自然と頭へ浮かんだ。
「守りたいと思うのは結構だ、そんな感情を持てるだけ幸せだと思え」
だが、そこでガルドの表情が少しだけ変わる。
「そんなことを考える暇もなく、突然戦いが起きたと思えば、目の前で大切なものを踏みにじられることもある、後悔する暇すらなく、友を置いて、家族を置いて、逃げることしか出来ん時もある」
ガルドは“なにか“を思い出したかのように語る。
「それが現実だ」
ヨルの脳裏に燃える村が浮かぶ、逃げることしか出来なかった夜、誰も助けられなかった自分。
ガルドは続けた。
「だがお前はまだ子供だ、世界を守る必要もなければ、誰かの人生を背負う必要もないんだ」
少しだけ笑うガルド。
「まずは、楽しいと思える場所を守れ!」
ヨルは黙って聞いていた。
「優実と笑っていた時間、貞美と喧嘩していた時間、エナやノエルあの子達といる時間でもいい、そういうものでいいんだ、守りたい理由なんてな、最初はその程度で十分なんだ」
そして、ガルドは真っ直ぐヨルを見る。
「勘違いするな!お前の強さなどまだその程度だ!」
ヨルは悔しそうに歯を噛んだ。
「お前が思っているほど、お前は強くないし、守ることはそんな簡単なことでもない」
ガルドの言葉は続く。
「だから、まずは隣にいる奴を守れ!それが出来るようになってから、もっと先を見ろ!」
「全部守ろうとするな」
そして最後に、ガルドは少しだけ笑いヨルに手を伸ばす。
「その代わり男なら、次戦う時は真正面から勝ってみろ!正々堂々な!」
「強くなれ、ヨル」
ヨルは何も言わない、だが胸の中にあった焦りが、ほんの少しだけ消えていた。
ガルドの手を握り、ヨルは立ち上がる。
「ついてこい」
ガルドに案内される。
「どこ行くんだ?」
「次のステージだ」
二人は訓練場を後にすると、向かった先は巨大な武器庫だった。
重い扉が開くと、中には剣、槍、斧、様々な武器が並んでいる。
その奥に、異様な存在感を放つ物があった。
巨大な弓。
人間では引けるとは思えないほど巨大な戦弓を前に、ヨルは思わず足を止める。
「なんだよこれ」
ガルドは静かに答えた。
「お前の次の相棒だ」
ヨルは目を見開き、巨大な戦弓を見上げたまま固まっていた。
今回も読んで下さりありがとうございました!
修行編が始まり、ヨルは己の弱さと共にまだ子供であることを知り、心の強さも学び始めた今、他の者達はどうなるのか、、、
是非次も楽しんで読んでください!!
高評価、感想、ブックマーク等々お待ちしております!




