強さの形
レグルスとの戦いを経て、それぞれが自分の無力さと向き合うことになった今、
ヨルは守れなかった悔しさ。
優実は何も出来なかった焦り。
そして、貞美は初めて知った温かさ。
同じ時間を過ごしながらも、三人が求める“強さ”は少しずつ違っていく中で、、、
第三章中編開幕!!
今回は、それぞれが歩き始める最初の一歩を描いていきます!!
朝の空気は静かな始まりだった。
まだ薄暗い窓の外では、ノクス共和国を包む巨大樹の枝葉がゆっくり揺れている。
ガルド家の中には、暖炉の火と、焼けたパンの香りが広がっていた。
その静かな空気の中、ヨルはガルドの前へ真っ直ぐ立ち、強く拳を握りしめている。
「強くなりてぇ」
昨日よりも、ずっと真っ直ぐな声だった。
ガルドはそんなヨルを静かに見つめた後、小さく息を吐く。
「まずは飯を食うぞ、皆起きろ」
その言葉にヨルが少しだけ固まる。
「はぁ?」
「腹が減ってはまともに動けん」
「いや、でも俺」
「皆起きろ!」
ガルドは被せる様に、そう言いながら立ち上がり、奥の部屋へ向かっていく。
その後ろ姿を見ながら、ヨルは少しだけ肩の力を抜いた。
◇◇◇
しばらくして、食卓には全員が集まっていた。
眠そうに目を擦るエナ、静かに席へ座る貞美、優実は欠伸を噛み殺しながら、まだ少しぼんやりしている。
そんな中でも、ヨルだけは落ち着かない様子だった。
パンを口へ放り込みながらも、足先はそわそわ揺れている。
「そんな急いでも飯は逃げんぞ」
リアナが苦笑すると、ヨルは気まずそうに視線を逸らした。
「別に急いでねぇよ」
「いやいや絶対急いでるでしょ!」
優実が即座に突っ込むと、エナが小さく吹き出した。
だが、そんな温かい空気の中、ガルドだけは静かだった。
スープを一口飲んだ後、ヨルへ視線を向ける。
「それで」
空気が変わる。
「何故、お前はそんなに強くなりたいんだ」
ヨルの動きがピタリと止まる。
昨日の勢いだけなら、迷わずすぐ答えられたはずなのに、改めて聞かれると、言葉が少し詰まる。
レグルスの顔がヨルの脳裏へ浮かんだ。
圧倒的だった力、支配する様な恐怖と、それに対して、何も出来なかった自分。
ヨルはゆっくり拳を握った。
「次は」
小さな声だが、その後の言葉は真っ直ぐだった。
「次は、誰も置いて行きたくねぇ」
優実が少しだけ目を見開く。
昨日までのヨルなら、絶対“勝ちたい”と言っていた気がした。
でも今のヨルは明らかに違った。
ガルドは静かに頷き、
「なら飯を食い終えたら準備しろ」
「分かった!」
ヨルの表情が少しだけ明るくなる。
「すぐ始められるのか?」
「そのために聞いたんだ」
ガルドはそう言って立ち上がる。
ヨルは慌てて残りのパンを口へ突っ込み、スープを飲み干した。
「ご、ご馳走様です!リアナさん!」
急いで席を立ち、食事を後にしたガルドに続いて、そのまま奥へ走っていく。
その様子にリアナが呆れたように笑う。
「ほんと分かりやすい子ねぇ」
ヨルとガルドの後ろ姿を見ているリアナの目は、優しかった。
◇◇◇
しばらくすると、準備を終えたヨルとガルドが家を出ていく。
扉が閉まった後、部屋の中へ少し静かな空気が残った。
優実はその扉をぼんやり見つめる。
「行っちゃった」
「早かったわねぇ」
リアナも少し驚いた顔で返す。
「なんか、すごいね」
優実は少しだけ困ったように笑った。
「ちゃんと、やりたいことあるんだなって」
その言葉に、貞美が静かに視線を落とす。
やりたいこと、守りたいもの、強くなる理由。
ヨルが少しずつ前へ進んでいるのに、自分には何もない。
どこかそんな言葉にしづらい感情がその場を包んだ。
そんな空気を変えるように、リアナがパンっと手を叩いた。
「じゃあ私達も動こうかしら!」
「動く?」
優実が首を傾げる。
リアナは少し笑った。
「ノクスはね、祭りが近いのよ」
「祭り?」
「ノクスのお祭り、大勢が参加して、毎年結構準備から何から大変なの」
その時一人の可愛らしい声が参加する。
「私もー!!」
エナが元気よく手を上げる。
勢いよく椅子から立ち上がると、そのまま貞美の方へ駆け寄った。
「お姉ちゃんも手伝ってくれるよね!」
そう言って、何の迷いもなく貞美の手を掴む。
貞美の身体が少しだけ止まった。
触れられる、それだけのことなのに、妙に落ち着けず、貞美は握られた自分の手を見た後、小さなエナの手を見る。
少しだけ間が空いた後に、貞美は小さく頷いた。
「うん...わかった」
エナの顔がぱっと明るくなる。
「やったー!!」
その横でリアナも少し安心したように笑った。
「じゃあ貞美ちゃんにもお願いしようかな」
◇◇◇
食卓に残ったのは優実とノエルだった。
静かな空気が包む中、ノエルは少しだけ優実を見た後、面倒そうに口を開く。
「ならさ、あんた俺の稽古付き合ってくれ」
「だから名前、優実ね」
少しウザそうな顔をしてノエルが続ける。
「分かったよ...優実、頼むから俺の稽古に付き合ってくれ」
「付き合うも何も、私弱いよ?本当に手伝えるかも分かんないけど」
優実は心配そうに返す。
「とは言え一人で木を殴るより、よっぽど良いし、優実も少しは為になるかもしれないしさ」
優実が少し悩んだ顔をしていると、ノエルは少し嫌そうに顔をしかめた後、恥ずかしそうに口を開く。
「頼むよ...優実」
「んー分かった!その代わり痛いのはなしね!」
優実が少し得意げに笑い、ノエルは呆れたようにため息を吐いた。
「はぁ〜めんどくせ」
「今何か言った?」
二人は少し笑いながら準備を始めた。
◇◇◇
『ノクス軍事区画』
巨大な訓練場には、朝から怒号が響いていた。
木人を叩く音、武器がぶつかる音、空を飛び回る獣人達、傷だらけの兵士達が、互いを鼓舞し合いながら、訓練をしている。
そこはまるで、“戦う者達”だけが集まる場所だった。
ヨルは思わず周囲を見渡す。
「す...すげぇ」
そんなヨルへ、ガルドが一本の木刀を投げ渡すと、慌てて受け取ったヨルへ、ガルドは静かに言った。
「まず最初に、お前は弱い」
ヨルの眉がぴくりと動く。
「怒りだけで前へ出て戦う、それでは“何も守れん“」
ヨルはガルドの言葉を聞きながら、木刀を強く握りしめた。
“悔しい“
でも、言い返す言葉は無い。
レグルスとの戦いで、自分が何も出来なかったことを、一番知っているのは自分だったからこそ、その言葉は深く、強く刺さった。
◇◇◇
一方その頃、訓練場の別区画では...
「ちょ、速っ!?」
全身にプロテクターを付けて、ミットを持った優実の情けない声が響いていた。
ノエルの動きが速く、ついて行くどころか、倒れないのに必死だった。
気づけば背後へ回られ、慌てて避けた瞬間には足を払われ、そのまま床へ転がる。
「いっったぁ!!痛いのは無しって言ったじゃん!」
「避け方が遅いんだって!」
「いやいや無理でしょ今の!!私ただのJKだよ!?」
「JK?何だそれ?すごいのか?」
ノエルの返答に頭を悩ませる優実。
優実の涙目での抗議など聞く耳も持たず、ノエルは平然としている。
しかも、息一つ乱れていない。
優実は少し悔しそうにノエルを見る。
“強い“
実際に相手すると嫌というほど分かった実力の差。
悔しそうにする優実と、物足りなさが拭えないノエル。
そんな噛み合わない二人を、遠くから静かに見つめる視線があった。
◇◇◇
そして、祭りに向けて準備を始めた街へ向かう道。
「ねぇねぇ!祭りの日ね、灯りがいっぱいなの!」
エナはずっと貞美に喋っていた。
好きな屋台、好きな花、好きな場所。
楽しそうに話し続けるエナの横を、貞美は静かに歩いている。
そんな貞美は、エナに握られた手だけは、最後まで離さなかった。
今回も読んで頂きありがとうございます!!
これより三人の修行編がスタートします!!
これから三人が成長する姿を見ていただけると嬉しいです!!
今回も改めてありがとうございます!
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