第九八話:決断
こうして本家に帰った2人は、佐藤たちと別れて部屋に籠もった。
「……神祇省の方々も、苦労をされているんですね」
玲哉と向き合って、畳に膝をついた状態で。琴葉は実感を込めながら呟いた。
「でも、良かった。暁明様と宵闇様が見ていてくださるのなら、悪いことにはならないでしょうし」
「……はは、確かに」
女は神々を信じている。けれど少年は別だった。自身の内側に宵闇を宿している彼は、神が優しいだけの存在でないと知っている。ただ、それは伝える必要のないことだというのも分かっていたから。彼は笑って、受け流した。
「土御門さんも、初めてお会いしましたが、優しい方でしたね。玲哉さんは、あの方のことを以前からご存知だったそうですが……?」
「ええ、まあ……。彼は役人というよりは、術者よりの考え方をする人ですね。土御門家は人ではないモノの血を継いでいると言われているのですが、その関係で、研究者気質の人間が多いんです」
玲哉は穏やかな表情で話す。その言葉を聞きながら、琴葉は頭の隅で、これからのことを考えていた。
(……どちらでも良いと、神様は仰ってくださったけれど。喜ばれるのは、きっと……私があちらに渡る方だ)
彼女は薄々、察していた。神々の望みを。
(……お父様も、お母様も。青葉も亡くしてしまった今、私に残る繋がりは。神様方と、玲哉さんだけ。それなら、私は)
女は心を決めていた。上目使いで少年を見上げて、彼女はゆっくりと口を開く。
「……あの、私。お父様とお母様の喪が明けたら、神域に渡りたいのですが」
その言葉を耳にして、玲哉が目を見開く。女の右肩にいた狐が、喜色満面で声を上げた。
「僕は別に、今からでもいいよ?」
「……それは流石に。私が気になるんです。死の穢れを、神域に持ち込むことになりますし」
困り顔で、琴葉が言う。その答えに、神は納得したようだった。
「そう? ……うーん、まあいいか。50日なんて、僕たちには誤差みたいなものだし。じゃあ、琴ちゃん。約束だよ。喪が明けたら、君は僕たちの世界に来る。それでいいね?」
上機嫌で、彼が告げる。彼女は迷わず、言葉を返した。
「……はい。よろしくお願いいたします」
女が深々と頭を下げる。その横で、少年は目を閉じていた。
(……ところで、どちらの神域に招くのですか?)
(新たに作るさ。俺とアキでな。それ以外は、奴が頷かないだろう)
頭の中に、宵闇の声が響く。決定事項であるかのように告げられて、玲哉は苦い顔をした。
(……初めから、こうなることが分かっていたような言い方ですね)
(そうだ。……琴葉が追い詰められていることは、俺たちにも伝わっていた。他に頼れる者がいなくなれば、必ず。俺たちの手を取るだろうと)
神の言葉には、少しの厳しさが混じっていた。彼らが意図してそうしたのではない。琴葉を突き放したのは、人の勝手な判断だと。そんな思いが込められた声に、少年は黙ることしかできなかった。




