第九六話:世間話(後編)
「分かりました。桜花のことは叔母様と話して決めるとして、橘花については……やはり、玲哉さんのお祖父様に相談するべきなのでしょうか」
「……さあ、どうでしょうね」
玲哉が冷ややかな声をだす。
「八葉さんは、あなたを家から追い出したでしょう? 僕のお祖父様も、似たようなものです。土御門さんの仰ることも、分かりますが……。どのみち、僕らでは取り合ってもらえませんよ。彼らが気にするのは、神に見られているかどうか。それだけです」
「……それは、確かに」
土御門が目を伏せる。彼も両家の事情については、ある程度理解していた。
「玲哉さんが橘花の跡取りになられたのも、その身に宵闇様を降ろせるからですしね」
室内にいる全員が黙る。その中で、琴葉はお茶を飲みながら言った。
「……ということは、そこに神様がいらっしゃれば、それで良いということでしょうか」
彼女の視線は、机に座る狐に向けられている。その意図を察して、土御門が顔を上げた。
「……そうですね。ただの神使では見向きもされないでしょうが、分霊を授かっているのなら……彼らも無下には出来ないかと」
「なんだ、それでいいの?」
狐が気軽な声で言う。彼は佐藤の方を見た。
「琴ちゃんには及ばないけど、彼なら妥協してもいいかな。この中で1番、欲が少ないから」
「……私ですか」
佐藤は明らかに嫌そうにする。土御門が目を光らせた。
「いいじゃないか。俺としても、佐藤くんが引き受けてくれるなら文句はない」
彼は上機嫌で、話を進めようとする。そんな上司の姿を見て、佐藤は深々とため息をついた。
「……それが仕事なら引き受けます。神の使いに、どのように接すれば良いのかは分かりませんが」
「ああ、いいよ。気にしなくて」
狐が机の上で寝そべる。その姿が金色の光に包まれて、細長くなり、中央で切れた。2つの光の玉が浮き上がり、その両方が、机の上で狐の姿に変わっていく。
「どうせ普段は喋らないし、君に失望したときは、何も言わずに出ていくから。宵闇も、同じだろう?」
並んだ狐の片方に、水を向けられて。目だけを赤くした少年が、無言で首を縦に振る。彼は自分の右手を、机に置いて息を吐いた。銀色の光がその手を覆い、小指の部分が中指よりも長く伸びる。伸びた指は切り離され、ひとりでに動いた。光が収まり、白い蛇が狐と並ぶ。
「……そうだな。ただの人間が、俺たちの力を目の当たりにして、謙虚なままでいられるなら。それはそれで、構わない」
そう告げて、彼は再び内側に戻る。土御門が楽しそうにした。
「こんなに簡単に分霊を作れるなんて、流石は神だね。神祇省に神の代弁者が所属してくれるのもありがたい。良いことばかりだ」
「自分の意見は……いえ、いいです」
佐藤は諦めたように肩を落とした。焼津が気づかわしげに、彼を見る。




