12-隼人side
今回は、許嫁LOVEの隼人目線です。
事件発生から転院するまで、何故莉緒を溺愛する隼人が何も接触してこなかったのか。
文字数少ないですが、次の展開までの隼人目線を綴ってみました。
内容的に物足りなさがあったら、ごめんなさい。
「帰ってきた……!」
莉緒が転院していったその日、隼人は羽田空港に降り立った。
2週間ぶりに聞こえる日本語。
慣れ親しんだ日本語表記の案内。
ようやく莉緒に会えるという実感が隼人の心を逸らせる。
大和が莉緒の付添ができなかったあの日、突然祖父の言いつけでハワイに連行された。
ハワイで静養中の大叔母の容態が悪化したため、大きな取引を前に日本を離れられない祖父や父の代わりに内藤家を代表して見舞いに行くという名目だったが、オプションとしてハワイ経済界との交流や現地のビジネス視察がついてきた。分単位のスケジュールに学校から出された課題。ハワイ滞在中の隼人は、一息つく間もなかった。
そんな忙しい合間を縫って愛しい許嫁に連絡を取ってみるのだが、いつまでたってもLINEは既読にならず電話も留守電に切り替わるばかり。何も告げずに出国したので莉緒も気にしているだろうと思っていたのに、直接本人の声を聴くことも言葉を目にすることもできずにいた。
父親に連絡して莉緒の状況を尋ねても「悪い。俺も克之も繁忙期でバタバタしてて連絡取り合っていないんだ。莉緒ちゃんのこと、聞いておくよ」とかわされるし、母親に連絡しても「実家のお義姉さんの具合が悪くて、しばらく家を空けているのよ~。隼人が帰国する頃には私も帰るから~」と言われてしまえば隣家の様子を探ってほしいなどと言えるはずもなく、状況がわからないまま音信不通であることに苛立ちを募らせていた。
だが、それももうすぐ解消される。
莉緒に会って抱きしめることができれば、そんな苛立ちも霧散するのだから。
世の中そう甘くないと痛感したのは、それから1時間後のことだった。
国際線到着ロビーには、社長秘書の正木が迎えに来ていた。
正木は自他ともに認める「内藤社長に忠誠を捧げた忠実な僕」。本来なら、いくら社長の身内とはいえ隼人に接触してくるような人間ではない。今、隼人の目の前にいる理由はすべて祖父の指示の上に成り立っている。
待機していた運転手に荷物を預け車に乗り込むと、車は滑らかに走り出した。
「隼人さん。社長の名代、お疲れ様でした」
「……。いくらお祖父様の指示とはいえ、やること強引すぎやしませんか?」
正木は眼鏡のブリッジを神経質にずらしチラと一瞥すると、隼人の言葉をガン無視した挙句爆弾発言を投下した。
「このまま社長宅にお連れしますので、今晩はそちらでお休みください」
「えっ?!」
「明日の午前、社長はご在宅の予定です。ハワイでの報告をしていただいた後、俊輔さんが迎えにきてくださるそうです」
「はっ?!」
隼人は動揺した。一刻も早く帰宅して莉緒を抱きしめたかったのに、なんということだ。
これから自宅に向かったところで帰り着く頃には訪問するのも憚られる時間になってしまうことは十分承知している。しかし、今宵自宅に帰ることができれば、明朝の莉緒の登校に付き添うことができるではないか。
そう目論んでいたのに、それを阻止せんとばかりの正木の台詞。
愛しい許嫁に、会うことも抱きしめることも声を聴くこともできなかった、この2週間。
莉緒不足でストレスも極限に達していた隼人は、わずかな望みをかけて正木に抵抗した。
「正木さん! いい加減、自分のベッドで眠りたいのです。お祖父様の屋敷ではなく、自宅に向かってください!」
「それは無理ですね」
「どうして!」
正木は、やれやれといった様相で隼人の問いに答えた。
「ひとつ。隼人さんのご両親は、明日まで帰ってきません」
「そんな、小学生じゃあるまいし、両親が帰宅しないからって……」
反論する隼人を手で制すると、正木は淡々と続けた。
「ふたつ。隼人さんの不在中、ご自宅は補修工事を行っていました。その間一時的に水道を止めており、滞在するには不便な状態になっています。工事は明日午前に撤収予定になっているので、ご自分の部屋に戻れるのは明日の午後になるかと」
「だったら、木下家に泊めてもらう」
隼人は間髪入れずに代替案を提示するが、これもまた却下された。
「いくら身内同様の許嫁宅とはいえ、他人様にご迷惑をかけるぐらいなら身内宅に泊まるのが筋というものでは?」
正論すぎてぐうの音も出ない隼人。
この時点で、既に戦意は風前の灯火状態である。
「みっつ。すべては内藤社長のご指示です。背くことは許されません」
「くっ……!」
社長至上主義の正木から伝家の宝刀でとどめを刺され戦闘不能に陥った隼人は、結局何一つ要望を聞き入れられないまま本家に連行されていった。
翌日、正木の予告通り俊輔が迎えにきた。
読んでいただき、ありがとうございました。




