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崎本といえば、俺のことを影でボロクソに言ってきたやつだ。
わざと聞こえるように言ってくるのだから、
影で、というよりは表から、なのだが、嫌なやつであることに変わりない。
しかし、あの崎本が影世ではお城のお姫さまだって?
「ジョーカー、
影世は現世の本質を表すんだよな。
なら、崎本が影世で、お城のお姫さまになってるってことは」
「もちろん、
崎本自身にそういう強烈な願望があるから、ということなのだろうな」
と、ジョーカーが俺の言葉を引き取って言う。
強烈な、お姫さま願望。
崎本って、見かけによらず乙女だったのか。
にわかには信じがたい。
だが、お姫さまキャラと言われれば、
確かにそう思えるような節はあった。
正統派のお姫さまというより、
悪役の令嬢さま、とでも言った方がお似合いなのだが。
「約束通り、
デュースはしばらく純一に貸そう」
と、ジョーカーがおもむろに言う。
「デュースも俺といるより、
純一といる方が嬉しいだろうしな……」
その言葉を聞くと、
デュースは悲しげにジョーカーに擦り寄った。
顔をつけて、ぐりぐりとジョーカーの胸を押す。
「デュースもメスだからな。
丁重に扱ってやってくれ」
「あ、ああ。わかった」
どう見たって、ジョーカーの方に懐いているように思えるのだが……。
デュースは、本当に俺といて、嬉しいのだろうか。
「これから純一を、川辺が居るところまで連れて行くが、
そのあと、純一が何もかも自分でやってみたい、
と言うのなら、俺は何も口出ししないように、してやるよ。
来月、川辺を殺すまでの間は、俺も一人で自分の殺しをすることにする。
ただ、一つだけ条件をつけておこうか」
「条件?」
と聞くと、
ジョーカーは「歩きながら話そう」と言って、
城のある森の中に、歩き出す。
俺も後を追って一緒に歩いた。
デュースは森の入口に残している。
森の中を歩き、倒木に足をかけたりしながら、
「三人だな」
とジョーカーが切り出した。
「来月、川辺を殺すときまでに、
川辺を含めて、三人、堕とすことが出来れば、立派なものだと、俺は思う。
やり方は問わない。
誰を堕とすかも任せよう。
三人、純一の奴隷にしてみせてごらん」
「三人?
三人だけでいいのか?」
「ああ。
能力を習いたてで、
三人も堕とせれば十分だ。十分凄い。
それに俺は、人数よりも、
あと二人、誰を堕とすのかと、
どうやって堕とすのかを見させてもらうつもりだしな」
誰を堕とすのかと、
どうやって堕とすのか、……か。
「ちなみに」
とジョーカーは言う。
「もし出来なければ、
キツいお仕置きが待ってるから、
そのつもりでな」
俺は、思わず立ち止まって、
前を歩くジョーカーの背中を見た。
今のは、冗談だよな。
ジョーカーの言うキツいお仕置きって、
それが冗談で言ってるのだとしても、怖すぎて笑えない。
三人なら、なんとかなりそうだが、
もし失敗したら、いったい何をされると言うんだよ。